天然繊維は生物由来! (動物繊維編) textileコラム③

動物繊維編

カシミヤの毛の画像

CROP編集部の瀧澤です。

前回のコラム②では植物(セルロース)繊維について書いたので引き続き今回は、動物(タンパク質)繊維についてです。動物繊維には大きく分けて動物の体毛を利用する獣毛(じゅうもう)繊維昆虫の繭を利用する繭(まゆ)繊維があります。

獣毛繊維と繭繊維

アンゴラウサギ画像
イングリッシュアンゴラルビーアイドホワイト Clevername, Public domain, via Wikimedia Commons

獣毛でもっとも身近なのは羊の毛を利用する羊毛(ウール)ですが。それ以外にもカシミヤ(カシミヤヤギ)・モヘア(アンゴラヤギ)・キャメル(ラクダ)・アンゴラ(アンゴラウサギ)・アルパカ・リャマ・グアナコ・ビクーニャ…etc。また一般的ではないですがビーバーの毛やペットの犬・猫の毛まで動物の毛なら何でも獣毛ということになります。イエティの体毛で編んだ獣毛パーカーがあればまさに獣毛って感じ…(笑)。もう一つの繭繊維は通常は蚕(カイコ)の繭からえられる絹糸(シルク)のことです。古代中国が起源と言われる養蚕に利用されているのは良質で効率よく絹糸を採るために長い時間をかけて改良を重ねてきたカイコガ科の蛾で家蚕(カサン)とも呼ばれ、一頭の幼虫がつくる繭からはおよそ1300m(2.2g)前後の糸が採れます。一方、野生のヤママユガの仲間を野蚕(やさん)と呼んでいてこれらの繭から採れるシルクを野蚕シルク(ワイルドシルク)と呼んでいます。日本に生息している野蚕には天蚕(ヤママユガ)やジンジュサン・クスサン・ヨナグニサン(与那国島固有種)などがいますが世界にも中国のサクサンをはじめ東南アジア・インド・インドネシア・北米・中南米にも固有のヤママユガが分布して利用されています。中国南部~東南アジアに生息するテグスサンの絹糸腺からはかつてはテグスがつくられていたました。また一般的ではないですが蚕の原種のクワコミノガ(ミノムシ)蜘蛛の糸からも強靭なフィラメント糸が得られることからこれらの遺伝情報を利用した新素材の開発がすすめられ、蜘蛛の糸からヒントを得たブリュードプロテイン繊維は山形県のスパイバー株式会社によってすでに量産化が実現しています。

動物繊維の化学成分

カイコガ画像

 

植物繊維の成分は糖類が鎖状に長くつながったセルロースのような炭水化物なのに対して動物繊維はアミノ酸が結合したタンパク質の繊維です。獣毛繊維は人の毛髪と同様でケラチンというタンパク質が主成分、シルクの生糸はフィブロインセリシンという二種類のタンパク質で構成されていて70~80%がフィブロインです。生糸は左右2対の絹糸腺から吐出される2本のフィブロインを軸にしてセリシンでコーティングされて一本の生糸として生成されます。生糸からセリシンを取り除く工程を精練と言い精練度合いによって絹糸の仕上がり風合いが変わって来ます。セリシンがついている状態の生糸はゴワゴワした風合いでセリシンが完全に取り除かれたフィブロインだけの絹糸はとても滑らかな柔らかい風合いになります。それなので獣毛の主成分はケラチン、絹糸の主成分はフィブロインというタンパク質と考えても良いと思います。

 ケラチンとフィブロイン

毛の主成分ケラチンも生糸の主成分フィブロインもタンパク質の中では構造タンパク質と呼ばれるタンパク質で細胞骨格や体毛、爪。骨や皮膚を構成するコラーゲンも構造タンパク質に分類されます。ケラチンとフィブロインについてもう少し詳しく調べてみました。

ケラチン

毛の主成分ケラチンは爪、角、鱗、嘴などと同様に上皮細胞が硬化した硬質ケラチン(ハードケラチン)と呼ばれる構造タンパク質です。水などの中性の液体に不溶でタンパク質分解酵素の作用も受けにくいことや、その形状と共に生体を保護するための様々な機能を有していることで繊維としての利用にもとても適していたと考えられます。またケラチンにはシスチンというアミノ酸が多く(人の頭髪で10~14%)含まれ、タンパク質構造の維持の役割を果たしています。髪の毛やウールを焼いたときの独特の硫黄臭はシスチンに含まれる活性硫黄分子によるもので生体での抗酸化力を担っていると言われています。羊毛(ウール)については下部の記事リンクも参照して下さい。

フィブロイン

フィブロインは絹糸をはじめ昆虫類がつくる繭の糸の主要な成分の繊維状の構造タンパク質です。フィブロインはさらに微細なミクロフィブリルの集まりで出来ていて、構成している分子が多種類の化学的結合によって収束していることによっておなじ太さの鋼鉄に匹敵する引張強度があります。またフィブロインは分子が緻密で規則正しく並んだ部分と不規則で緩い部分があることで伸縮性があり、吸水性や染色性にも優れています。さらにフィブロインの多孔質の異形断面構造が光を乱反射してシルク独特の光沢を生んでいます。絹(シルク)については下部の記事リンクも参照して下さい。

新しいタンパク質繊維の生成技術

蜘蛛の巣の画像

2023年の秋冬からいよいよ、ゴールドウインがSpiber株式会社と共同開発に取り組んできた構造タンパク質「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン™)繊維」の量産体制が整って初の量産販売は開始されます。この秋冬から販売されるのはゴールドウィンの5ブランドからそれぞれ1アイテムでTHE NORTH FACE「Nuptse jACKET」・Goldwin「Cross-Field 3L Jacket」・nanamica「Balmacaan Coat」・THE NORTH FACE PURPLE LABEL「Sierra Parka」・WOOLRICH「Future Arctic Parkaです。ゴールドウィンでは2030年までに新規開発商品の10%をブリュード・プロテインを使用した製品にシフトする目標を掲げています。ブリュード・プロテイン繊維開発の経緯は下記の記事にまとめていますので興味のある方はこちらの記事も参照して下さい。

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まとめ

 植物体を構成する 炭水化物と動物の体をつくっているタンパク質の違いこそあってもどちらも地球上で生物の体を支えている物質を太古から人類が利用して来た多様さがとても興味深いと個人的には思っています。そして人工的に合成されて私たちの生活に欠かせない素材となった有機高分子化合物のポリエステルやナイロンも天然の植物や動物繊維のような高分子を人工的に合成する方法を発明することで発展しました。ここへ来て自然の循環サイクルに馴染まない化学繊維の欠点にしばられない新しい繊維が開発され実用化されてきています。古来より利用されて来た天然由来の繊維も、最新のタンパク質やセルロースを微生物の力を借りて人工的に生成する技術も全て他の生物の力によって可能なことを再認識させられます。

参考にさせていただいたWEBのリンク

フィブロイン-Wikipedeia

シスチン-Wikipedeia

ケラチン-Wikipedeia

絹糸の構造

2014年度生物化学1 タンパク質とアミノ酸の構造

カイコの繭から糸を繰ってみよう!

フィブロイン Fibroin (Chem-Station)

繊維素材の記事リンク

天然繊維とは  https://media.cropozaki.com/custom/about_naturalfiber/

綿とは  https://media.cropozaki.com/custom/about_cotton/

麻とは  https://media.cropozaki.com/custom/about_linen/

 ウールとは  https://media.cropozaki.com/custom/about_wool/

絹・シルクとは  https://media.cropozaki.com/custom/about_silk/

化学繊維とは   https://media.cropozaki.com/custom/chemical-fiber/

 再生繊維とは  https://media.cropozaki.com/custom/regenerated-fiber02/

 ポリエステルとは  https://media.cropozaki.com/custom/polyester/

 ナイロンとは  https://media.cropozaki.com/custom/nylon/

 再生繊維・合成繊維・半合成繊維の違いと成り立ちを知る  https://media.cropozaki.com/solution/regenerated-fiber/

 次世代タンパク質繊維とセルロース繊維の未来  https://media.cropozaki.com/solution/brewed-protein/

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