再生繊維とは

概要

名称(日本語/英語)

再生繊維(さいせいせんい) /  regenerated fiber

カテゴリ

主資材

種類大カテゴリ(化学繊維)

名称:日本語名:再生繊維 さいせいせんい/英語名・・・regenerated fiber  )  再生繊維は人工的に生み出された最初の化学繊維です。初めて合成繊維のナイロンが石油原料から合成されるよりも80年ほど遡る1855年にフランス人技術者で実業家のイレール・ド・シャルドネによって特許が取得されたレーヨンが最初の再生繊維で「シャルドネ シルク」とも呼ばれ、この初期のレーヨンは植物繊維の主成分であるセルロースを硝酸と硫酸の混酸で処理して得られるニトロセルロースを有機溶媒で溶解してノズルから噴出させる方法で紡糸して製造されました。しかしニトロセルロースは火薬の原料に使われるほど可燃性が高く事故が多発したことから生産が中止され、その後にセルロースを水酸化ナトリウムと二硫化炭素で処理してコロイド溶液にしたビスコース(viscousを濃度の低い硫酸溶液(希硫酸)の中でノズルから噴出させて湿式紡糸するビスコース法が開発されたことでレーヨン繊維が広く普及しました。このレーヨンをはじめ木材パルプやコットンリンターなど、そのままでは繊維として利用できないセルロース原料を化学的に溶解再生して造られる繊維(糸)を再生繊維と呼んでいます。再生繊維レーヨンの発明はそれまで絹(シルク)からしか得らることができなかったフィラメント糸(長繊維)を人工的に製造することを始めて可能にした技術でこの天然のポリマー(高分子)を再生紡糸する技術がのちの合成繊維開発の礎になったことは想像に難くないですし、合成プラスチックに先駆て広く普及したセルロイドやセロファンフィルムもセルロース原料を溶解再生する技術によって製造されました。セルロース系再生繊維としてはビスコースレーヨンをはじめ、ビスコースレーヨンを改質したポリノジックレーヨンモダールレーヨンリヨセル(テンセル)キュプラ(ベンベルグ)があり、また生産量は限られていますがタンパク質ポリマーの再生繊維として牛乳のカゼインを原料につくられるミルク繊維(プロミックス海藻(褐藻類)の多糖類を原料にしたアルギン酸繊維があります。

再生繊維の種類と製造方法

この項では代表的な再生繊維(ビスコースレーヨン・ポリノジックレーヨン・リヨセル・キュプラ)の特徴や製法について簡単に説明しています。

綿状のニトロセルロース画像
綿状のニトロセルロース 出典wikipedia

ビスコースレーヨン(viscose rayon)

ニトロセルロースを原料とする最初のレーヨンが高い可燃性の為に製造が中止された後に、ビスコース法によって量産されるようになったレーヨンがビスコースレーヨンです。木材パルプを原料にして安価に製造できることから最も多く生産されている再生繊維で一般的にレーヨンと呼んでいる場合はほとんどがビスコースレーヨンを指していると言って良いと思います。また次項で説明しているポリノジックレーヨンもビスコースレーヨンを改質したレーヨンでビスコースレーヨンの一つです。ビスコースレーヨンの製法は本来不溶性の木材パルプ等を原料にしたセルロース繊維を水酸化ナトリウム水溶液で処理したアルカリセルロースに二硫化炭素を混合して溶解して得られるコロイド溶液(ビスコース)を作り、このビスコースをノズルから希硫酸溶液中に噴出させることで再び分子が水素結合をしてセルロース繊維が再生されて糸になります。

ポリノジックレーヨン

ビスコースレーヨンの吸湿時の強度低下や寸法安定性の低さ、型崩れし易くシワになりやすいなど欠点を改質するために「高重合度人造繊維製造法」の特許に基づいて製造時のアルカリや酸の濃度を調整して繊維の構造再生をじっくりと進めることによって改質された重合度が高く、繊維の断面が円形で緻密で均一な構造持ったレーヨン繊維をポリノジックレーヨンと呼んでいました。ポリノジックレーヨンは濡れた時の強度低下が少なく寸法安定性に優れ、シルキーな光沢・ハリ・コシ・ドレープ性を兼ね備えたレーヨンです。かつて日本のポリノジックレーヨンは生産量・生産技術ともに世界のトップレベルでジュンロン(富士紡)やタフセル(東洋紡)が製造されていましたが現在日本では製造されていません。

※2021年時点でのビスコース/ポリノジックを含めたレーヨン繊維の世界での生産量は1位中国・2位インド・3位インドネシアとなっています。

モダールレーヨン

モダール Modal(テンセル™モダール繊維)はオーストリアのレンチング・ファイバーズ(Lenzing Fibers)が製造販売する登録商標です。先述したポリノジックレーヨン同様にビスコースレーヨンの欠点を独自の製法で改質して、原料にはブナ材から抽出したパルプを使い環境に配慮したプロセスで生産されているレーヨン繊維です。

リヨセル

リヨセル Lyocell(テンセル™リヨセル)は現在レンチング・ファイバーズ(Lenzing Fibers)が製造販売する登録商標のレーヨン繊維です。ユーカリの木材パルプを原料としてN-メチルモルホリン N-オキシド水溶液に溶解させて紡糸する。使用済み溶剤を回収・再利用する環境負荷を最小限に抑えたクローズドループシステムで生産され、持続可能な方法で育てられたセルロース原料を使用した低環境負荷繊維として認知されている。

キュプラ

キュプラ Cupraは正式名称を銅アンモニアレーヨンと言い、現在は日本の旭化成が世界唯一の製造メーカーとなりベンベルグ®(Benberg)の登録商標で販売している。コットンリンターと呼ばれる綿の種子の表面に付着している短い繊維を銅アンモニア溶液で溶解して酸性の溶液中で再生成させてつくられるので銅アンモニアレーヨンまたは銅シルクとも呼ばれる。元々はドイツで白熱電球のフィラメントとして発明されたが後にベンベルグ社が特許を取得し各国で服地として製造販売されるようになった。しかし製造工程での銅やアンモニアの処理に問題があったために次第に製造メーカーが撤退する中で、日本の旭化成がこれらの再利用技術を確立して製造を続けている。キュプラは一般のビスコースレーヨンと較べて耐久性・耐摩擦性に優れています。本来は廃棄されるセルロース原料を用いて生分解性があり銅やアンモニアの再利用技術も確立していることから日本製の持続可能な高級再生繊維として表地・裏地・不織布など用途で広く使われています。

旭化成ベンベルグ 素材サイト

キュプラ繊維「ベンベルグ」「bemberg」サイト|旭化成株式会社 繊維事業

旭化成のベンベルグ(素材名キュプラ)は天然由来の再生セルロース繊維 キュプラ(Cupro)のブランドです。ベンベルグの製…

再生繊維の化学・物理性質と特徴

一般的なビスコースレーヨンに比べポリノジック・リヨセル・キュプラでは吸湿時の強度低下や洗濯での縮などの欠点が改良されています。それでも再生繊維の性質として全般的には一般的なレーヨンと同様の傾向があります。(下表の乾燥時の引っ張り強度・乾湿強力比・水分率では参考として一般的なレーヨンとキュプラの数値を「被服材料への招待」日下部信幸著から抜粋して記載しています)

  • 比重:1.5
  • 水分率: レーヨン12~14%    キュプラ10.5~14%
  • 引っ張り強度 (乾燥時耐久性): レーヨン1.7~3.1   キュプラ1.8~3.4
  • 乾湿強力比(耐洗濯性): レーヨン45~65  キュプラ55~75
  • 耐候性は低く強度低下や黄変が起こりやすい
  • 酸には強く、アルカリや塩素系漂白剤にはやや強い
  • 反応染料・直接染料・バット染料等の各種染料で常圧で染められる
  • 独特の光沢があり染色性・発色性に優れる
  • ドレープ性がある
  • 吸湿性があり制電性が良いのでまとわりつきが少ない
  • 濡れると強度が低下する
  • 洗濯により縮みやすい
  • 濡れると型崩れやシワになりやすい

日本のレーヨン産業

レーヨンベルベットカーテンの画像

 

日本の繊維メーカーはかつてレーヨンを主力商品として製造していたので現在の大手繊維メーカーの社名にも前身となった企業名の名残があります。(旧社名→現社名:三菱レイヨン→三菱ケミカル、東洋レーヨン→東レ、倉敷レイヨン→クラレ、帝国人造絹絲→帝人)日本国内のレーヨン繊維製造の歴史についてはユニチカ株式会社のユニチカ百年史 日本レイヨン編に詳しいので興味があれば下記のリンクからPDFで閲覧できます。ユニチカ百年史 https://www.unitika.co.jp/company/archive/history/

現在の国内のレーヨン生産

木材チップ画像

日本国内のレーヨン繊維製造は2020年にオーミケンシがレーヨン繊維の生産を含む繊維事業から撤退して以降、ダイワボウレーヨン株式会社一社となっています。ダイワボウレーヨンは国内唯一のレーヨン繊維生産メーカーとして紡績用レーヨン・不織布用レーヨン・製紙用レーヨンの製造販売と高度な混紡技術による機能糸の開発・生産・販売に特化した事業を展開しています。代表的なレーヨン素材としては繊維内部に難燃剤を練り込んだ難燃レーヨンDFG®撥水レーヨン Eco Repellas®海洋生分解性レーヨン繊維 e:CORONA®があります。ダイワボウレーヨン株式会社の詳細は下記HPのリンクを参照してください。

ダイワボウレーヨン株式会社HP

ダイワボウレーヨン株式会社 -

レーヨン繊維の生産・販売会社として、日本国内でレーヨンを作る唯一の会社です。“我々は、「人にやさしく、地球にやさしい」企…

テンセルとリヨセルについて

テンセルロゴマーク画像

先述したレンチング・ファイバーズが現在、製造・販売している再生繊維のリヨセル繊維をテンセルと呼んだり、リヨセルと呼んだりしていて知らない人にとってはまるで別々の繊維であるように感じて混乱することがあるので説明をします。テンセルとリヨセルは元々はイギリスのコートルズ社が開発した繊維を同社が「テンセル」という商標で、オーストリアのレンチング社が「リヨセル」と言う商標で販売していました。日本では1990年代にテンセルデニムブームが起こり多くのメーカーがテンセルデニムを商品化したので当時を知っている人にはテンセルと言う呼び方に馴染があります。飽和状態となったテンセルブームが沈静化するとしばらくはメーカーも消費者もテンセルに見向きもしなくなり、その後2004年にコートルズ社とレンチング社が合併してレンチング・ファイバーズ社となり、テンセル(リヨセル)繊維テンセル™商標のリヨセルという名称で販売されるようになりました。従ってテンセルとリヨセルは同じ繊維ということになりますが。現在テンセル™商標ではテンセル™リヨセル・テンセル™モダール・テンセル™リヨセルフィラメント(リュクス)のラインナップで商品を展開しています。各商品の詳細はレンチング・ファイバーズの素材サイトをご確認下さい。

まとめ

繊維の画像

人類が初めて発明した化学繊維のレーヨン(再生繊維)の生成は、以降相次いで開発される化学繊維加工のもとになって行く技術です。レーヨンが発明された時点では植物や動物から得ている天然の繊維がモノマー(低分子)が鎖のようにつながって出来たポリマー(高分子)であるということは知られていなかったので高級な絹のような繊維を人工的につくることが出来ないかと直感と試行錯誤によって植物原料繊維を溶解して再生させる技術を発見したのだと想像されます。その後繊維がポリマーであることが分かってくると石油原料のモノマーを重合させて繊維を化学的に合成する技術の開発につながって行きます。はじめは絹のような繊維を人工的に生成しようとして開発された再生繊維の技術はのちにナイロンやポリエステルの様な化学繊維(合成繊維)を生み出します。一方現在では再生繊維は持続可能な天然由来原料を使用したクローズドシステムによって生成できるサスティナブルな繊維としても注目されています。

再生繊維・合成繊維については下記のリンクの記事も合わせて参考にしてください。

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参考文献とURL