&CROP 編集部の瀧澤です。
私たちが利用している繊維は天然繊維と化学繊維に大きく分けられます。天然繊維は自然の植物や動物の細く長い形状をしている部位を取り出して加工して利用し、化学繊維では繊維の形状を人工的に作り出して利用しています。そして私たちがいつも利用している化学繊維には再生繊維・合成繊維・半合成繊維があることは皆さん知っていると思います。ここでは再生繊維・合成繊維・半合成繊維の違いについて少し詳しく説明しています。この項目を読むと再生繊維・合成繊維・半合成繊維の違いが明確に理解できます。
天然繊維は全て天然のポリマーで出来ている
化学繊維のことを知る上で、モノマー(低分子・単分子:分子量が小さい)とポリマー(高分子:分子量が大きい)を理解すると化学繊維の成り立ちがとてもスッキリ理解できるので、まずモノマーとポリマーについて簡単に説明します。
綿や麻、シルクやウールなどの天然繊維は天然の高分子(分子量の大きい)化合物で出来ていてこれをポリマー(polymer)と呼びます。植物性の天然繊維であるコットン(綿)の約98%はセルロースですがセルロースは平均分子量が30万~50万の天然の高分子化合物(ポリマー)です。他にも身近な例では麻やデンプン、天然ゴム、動物繊維を構成しているタンパク質も天然の高分子化合物です。
高分子化合物(ポリマー)は低分子(モノマー)が鎖状に長く繋がって(重合して)出来ています。コットン(綿)の繊維を構成しているセルロースは低分子単糖類のβ-グルコース(ブドウ糖)が鎖状に連なった(重合した)ポリマーです。
合成繊維は人工合成されたポリマー
合成繊維は石油などから得られるエチレンのようなモノマーを人工的に重合させてポリマーを生産する技術ですが天然繊維がポリマーから出来ていることがわかってくるのは1920年~30年頃です。そして1935年に米国デュポン社が最初の合成繊維の合成に成功して以降ナイロンやポリエステル等の合成繊維の製造が始まるのですが、その合成繊維に先駆けて天然繊維のセルロースを硝酸と硫酸で処理して揮発性の有機溶媒で溶かしてフィラメント糸として紡出する方法で初めて作られたのがレーヨン(再生繊維)です。
最初に作られた再生繊維レーヨン
まだ合成繊維が作られる以前の1855年にフランスで特許が取得されて最初に人工的に作られた繊維がレーヨン。初期のレーヨンは天然のセルロースを硝酸と硫酸で処理した綿状の物質(ニトロセルロース)を有機溶媒で溶かして小さな孔から噴出させて得られる細くて光沢のある繊維です。当時はまだ低分子(モノマー)を重合して高分子である繊維を人工的に製造する技術が無かったので天然の高分子である綿などのセルロースを薬品で溶かして細くて長いフィラメント糸を紡出する方法で初めての化学繊維が作られました。溶かした天然の繊維を人工的に再構成して紡糸されることから再生繊維と呼ばれています。
しかし初期のレーヨンの原料であるニトロセルロースは火薬の原料になるほど燃焼性が高くレーヨンのドレスを着た人が火だるまになる事故が多発して生産が中止されました。後にセルロースを水酸化ナトリウムで処理して再生するビスコース法が開発されて繊維を自在の長さや形状に加工することが出来るようになったことでレーヨン繊維が広く普及しました。また、この再生セルロースを薄いシート状に整形して作られたフィルムがセロファンです。セロファンはプラスチック製品の様な印象がありますが天然セルロースを原料としているのですべてのセルロース繊維と同様に土中や水中で微生物によって分解され生分解性があり環境負荷の低い素材として再評価されています。再生繊維については別項の「化学繊維とは」の再生繊維の項目も合わせてご参照ください。https://media.cropozaki.com/custom/chemical-fiber/
合成繊維のはじまりは?
1920年代になって天然繊維が数百~数千の低分子のモノマーが鎖のように繋がって出来ている高分子化合物(ポリマー)であることが判ってくると人工的なポリマーの合成が試みられるようになります。アメリカの化学者ウオーレス・カローザスが中心となってデュポン社の研究所で重合体の研究を行い1935年に初めての合成繊維であるナイロンの合成に成功しました。次いで1941年に英国のキャリコプリンターズ社がポリエステル繊維「テレリン:Terylene」を発表、1953年に米国デュポン社が特許を取得して工業化して「ダクロン:Dacron」と言う商標で発売されました。日本では1958年から帝人と東レが「テトロン:Tetoron」と言うブランド名で生産を開始し、以降ポリエステルは最も身近な繊維として世界中で幅広く衣料に用いられるようになり、繊維以外の用途ににもプラスチック製品が広く浸透して行きます。
身近にラップフィルムやスーパーの袋に使われている合成樹脂であるポリエチレンを例にして説明するとポリエチレン(PE)はエチレン(C2H4)が重合(ポリマー化:沢山つながる)した高分子(ポリマー)と言う意味です。一般的にナイロンと呼んでいるポリアミドはモノマーがアミド結合したポリマーと言う意味です。繊維に使われている樹脂には沢山の種類がありますがポリエステル・ポリプロピレン・ポリウレタン等の名称は高分子(ポリマー)を表していると覚えておくと分かり易いと思います。合成繊維として最も多く使われているポリエステルにも多くの種類があり、中でも需要が多いのがペットボトルの原料でもあるポリエチレンテレフタラート(PET)です。ちなみに先述したポリエチレンとポリエチレンテレフタラートは名前が似ていますが性質の異なる別の樹脂でポリエチレンは衣料向けの繊維素材には向いていません。合成繊維については別項の「化学繊維とは」の合成繊維の項目も合わせて参照して下さいhttps://media.cropozaki.com/custom/chemical-fiber/
半合成繊維とは
半合成繊維とは天然の高分子化合物であるセルロースやタンパク質に化学的な処理をして繊維にしたものを言います。おもな半合成繊維には木材パルプ(セルロース)を原料にして酢酸を反応させたアセチルセルロースを原料にして作るアセテート・トリアセテートや牛乳のタンパク質(ミルクカゼイン)にアクリル繊維の原料である有機化合物アクリロニトリルを結合して作られたプロミックスがあります。
アセテートの生産開始
アセテートは合繊繊維の開発に先立つ1920年代に英国のブリティッシュ・セラニーズ社によって生産が始められました。天然原料であるセルロースに化学的な処理を施した半合成繊維は天然原料の風合いと合成繊維の安定性や難燃性を合わせもった繊維です。天然原料由来であることから生分解性を有していますが化学的処理によって安定性を高めていることで自然環境の中で分解するには相応の時間が必要な素材でもあります。アセテートにはシルクの様な風合いと光沢があり服地や裏地、インテリア向けに複合素材としての用途やタバコのフィルターとしても使われています。
トリアセテートは高級婦人向けに
またアセテートよりも安定性の高いトリアセテートは高級婦人服向けに現在三菱ケミカル㈱が製造販売を行っています。一方でプロミックス繊維はシルクに似た風合いと光沢があり東洋紡㈱が製造していましたがコストが高く、熱と摩擦に弱い等のデメリットが改良できなかったことから2004年に製造が中止されました。半合成繊維については別項の「化学繊維とは」の合成繊維の項目も合わせて参照して下さい。https://media.cropozaki.com/custom/chemical-fiber/
まとめ
人類は自然界にある様々な素材を採取しその中から繊維として使える部位を取り出して撚り合わせることで強度を持たせて糸にして利用した来ました。そして天然の素材の中で唯一、長繊維(フィラメント糸)を得ることが出来るのがシルク(絹)でしたがその生産には多くの手間と熟練した技術を必要としました。より手に入りやすい天然の植物から得られる短繊維を原料にしてシルクに似たフィラメント繊維を得る目的から生まれた最初の化学繊維が再生繊維のレーヨンでした。天然原料のセルロースを溶解してノズルから紡出することで人工的にフィラメント糸が作れるようになったことは革新的な出来事でした。そして再生繊維のデメリットを改善する方法として原料に化学的処理をした半合成繊維が開発されました。半合成繊維の開発と同時期に天然の繊維が高分子(ポリマー)と言う分子量の小さな物質が鎖状に長く繋がったものであることが判ってくると当時利用が拡大していた石油を原料にしてナイロン・ポリエステル等の合成繊維が相次いで研究開発され製造されるようになります。
かつてはカイコ育てその繭からしか得ることに出来なかったフィラメント糸を自在に作り出す技術を手にしたことで天然素材よりも安定性があって、取り扱いも容易で安価に製造できる合成繊維は様々な形状に加工したり機能を付加することも可能な魅力的な素材であった為にわずか100年程の間に私たちの暮らしに欠かせない素材になります。そして反面ではプラスチックによる環境汚染など多くの問題も提示され脱プラスチックの動きも起きています。化学繊維の成り立ちを理解することが様々な問題を解決できる製品を生み出して行く為の何かのヒントになれば幸いです。最近では新しい微生物による発酵と遺伝子工学を組み合わせた技術でタンパク質やセルロース素材を生産する試みも具体化して来ています。下記のリンクから関連記事もご覧いただけますので興味のある方はあわせてご一読下さい。
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今回参考にさせていただいた記事のURL
参考書籍
繊維の種類と加工が一番わかる 日本繊維技術士センター著
化学せんい 日本化学繊維協会著