ウールとは

ウールとは

名称(日本語/英語)

毛・羊毛・獣毛 ( け・ようもう・じゅうもう)/ hair・wool・animal hair)

カテゴリ

主資材

種類大カテゴリ(天然繊維)

概要

ウール(日本語名:毛/羊毛/獣毛・・・け/ようもう/じゅうもう/英語名・・・ hair/wool/animal hair)とは家庭用品品質表示法で「毛」と表示されるのは動物繊維の主に羊や山羊など哺乳動物の体毛を利用した繊維の事です。一般に羊の毛はウール(wool)、カシミヤ山羊の毛はカシミヤ(cashmere)、アンゴラ山羊の毛はモヘア(mohair)、アンゴラウサギの毛をアンゴラ(angola)と呼んでいます。他にもラクダ(camel)・アルパカ(alpaca)などが獣毛繊維として取り扱われ、ビキューナ・ヤク・ラクーン(アライグマ)・リャマなどの獣毛も取り扱いは少ないですが流通しています。

カシミア山羊
上毛(ヘアー)と下毛(ウール)

野生のヒツジ属やヤギの体には上毛(ヘアー)と呼ばれる外側の太く・長く・粗い毛と、細く短くて柔らかい下毛(ウール)が生えています。代表的な羊の品種であるメリノ種は細く長く柔らかいウールを利用するための改良が重ねられてきた品種でヘアーが無く、下毛(ウール)だけが高い密度で生えていて人の手によって刈り取らなければ自然に毛が抜け変わることが出来ません。一方であまり改良が進まなかった羊の品種やカシミヤ山羊などは両方の毛があり、季節のサイクルで抜け変わる毛から柔らかい下毛を漉き取って利用しています。上毛(ヘアー)は人の髪の毛のような毛で硬くチクチクする為、現在は衣料用途にはあまり使われません。逆に非常に細くて柔らかいカシミヤなどの獣毛は生産量が少ない上に手間がかかるためとても高価になります。

成り立ち

羊と人との歴史

1000万年~2000万年前の氷に覆われた中央アジアで進化した羊の祖先達は、西はヨーロッパ、東はシベリア、そして凍ったベーリング海峡を渡って北アメリカへと世界に広がって進化して行きました。その中で西方に移動したアジアムフロンと呼ばれる種が次第に飼いならされて家畜化し現在の羊の祖先になったと考えられています。

アジアムフロン

家畜化される以前の野生の羊の姿は大きな角とシャープな骨格を持ち、硬くて黒っぽい上毛(ヘアー)の下に柔らかい下毛(ウール)が生えていて、羊と言う言葉から私たちが思い浮かべる現在のメリノ種などのイメージとは大きな差があります。

メリノ種

狩猟の対象だった野生の羊を人間がどのように家畜化して行ったのかは推測するしかありませんが、はじめて羊が飼育されるようになった場所と言われているトルコ中部の村の遺跡からは約10500年から9500年前の1000年ほどの比較的短い期間に野生の羊を捕獲する生活から飼育する生活に変化したことが考古学的に解明されています。家畜化されることによって狩猟によって得た肉や毛皮を主に利用する生活から羊脂・羊乳・羊毛とすべてを利用するようになり、中世以降に羊毛の利用が拡大すると品種の改良も格段に進みます。羊毛を利用した最古の人工物が遺跡から見つかるのはシベリア南西部・カザフスタン・中華人民共和国・モンゴルなどの国々が境を接するアルタイ山脈のウコク高原の遺跡で発見された「アイス・プリンセス」(紀元前8世紀頃)が身に着けていたフェルト製の帽子や、パズリク人の墓(紀元前5世紀頃)から発見されたカーペットなどが知られています。

アルタイ山脈
パズリク人の墓から発見されたカーペット

麻や絹、綿などの天然繊維よりも遅れて人類史に登場した羊毛は、優れた保温力や相反する多くの機能を合わせ持ち、現在の技術でもトータルで羊毛を超えるような高機能な合成繊維の開発には未だ至っていません。西洋から始まった羊毛利用の拡大は中世以降、人類に快適さと様々な利便性を提供するとともに多くの争いや貧富の格差をも生み、中世から近代の歴史に大きな影響を与えます。イタリア農民の出身だったメディチ家が銀行業で大きな成功を収める背景にも羊毛の取引で蓄えた豊富な資金が元手になったと言われています。

用途

セーター・コート・マフラー・手袋の暖かい衣料はもちろんの事、吸湿性や防臭性を必要とするサマーニットやアンダーウェアなどにも使用されます。
また抗菌・防臭作用がある為カーペットなど長期間お手入れしないものにも適しています。

ウールの鱗(うろこ)の秘密と特徴

羊毛(ウール)が他の天然繊維や化学繊維と比較して群を抜いた機能性を兼ね備えているのはウールの表面を拡大して見たときに繊維を覆っているスケールと呼ばれる鱗構造によるところが大きいです。ウールはこの鱗構造によって親水性と疎水性・保温性と蒸れ難さのように相反する性質や防臭性・難燃性・吸湿発熱効果・汚れがつきにくくシワになり難いなど多くの機能性を併せ持ち私たちに快適さをもたらしてくれる繊維です。ここからはウールが持っている各々の特徴や性質について簡単に説明します。

スケールとフェルト化

羊毛の表面を覆っているスケールと呼ばれるたんぱく質のうろこ構造は水分を吸収すると膨らんで逆立ちます。その状態で繊維同士が擦れて互いに絡み合うことで起こるフェルト化という現象は羊毛の最も大きな特徴であると同時にウールが縮みやすいという欠点でもあります。このフェルト化する性質が織る・編むという技術よりも以前から人類が羊毛を利用することを可能にしてきたのではないかと考えられます。またウールのうろこ構造は以下で述べるウールの多面的な機能性とも深く関係しています。

クリンプ・伸縮性

表面をうろこ状のスケールで覆われている羊毛の中心部は微妙に性質の違う2種類の細胞(オルソコルテックスとパラコルテックス※ウール構造図参照)が張り合わされたような構造をしています。この2種類の細胞が外部環境の変化によって伸縮することで羊毛に「クリンプ」と呼ばれる螺旋状の縮れを生じさせます。この縮れは細い毛ほど細かく、繊維同士が絡み合うことで外気との間に空気の層を作りだして高い保温効果を生み出します。またクリンプがあることで伸縮性・弾力性・シワになり難い・型崩れしにくい等の性質を兼ね備えています。

ウールの構造

吸湿性と放湿性

一定の条件下で繊維がどのくらいの水分を含んでいるかを表す指標として公定水分率があります。綿の公定水分率は8.5%、ポリエステルは0.4%、レーヨンは13%、羊毛は15%でポリエステルの38倍、綿の約1.8倍、水分を含みやすいとされるレーヨンよりもさらに高い公定水分率です。これは羊毛が繊維の中でも飛びぬけて高い吸湿性を持っていることを表しています。繊維の中に含まれている水分は厳密には液体の状態で存在していてこの水分が気化して蒸発するときに気化熱を奪うことで夏にも涼しいという性質があます。一般的に防寒用の素材と思われているウールが昔からサマースーツなどの素材に用いられるのもウールの吸湿性と放湿性が快適さを保ってくれる性質によります。

疎水性・防汚性・蒸れにくい

ウールは③で述べた繊維内部に水分を含む性質を持ちながら、表面を覆っているうろこ状のエピキューティクルと言うケラチンタンパク質の膜には極めて小さな孔があり、空気や水蒸気は通しても水や油分をはじく性質を持っています。この性質によって汗などの水分を吸収しながら汚れや脂分をはじき濡れても肌に張りつかない、汚れにくい、汚れが落ちやすいそして蒸れにくい等の性質を兼ね備えています。特に梳毛糸を強撚にしたサマーウールは湿気を吸収しながれら肌離れが良く⑤で述べる抗菌・防臭性も併せ持った暑い季節も快適に着用できるアイテムです。

抗菌性と防臭性

もともと皮膚の一部で一番外側のバリアの役割もしている毛には汚れを防いで菌の繁殖を抑制する働きがあります。繊維の内部へ油や汚れが侵入しないので合成繊維や植物繊維のように菌が増殖して臭うことがありません。長期間洗わずに使用するカーペットなどにウールが適しているのもこのためです。近年は発汗を繰り返す登山などのアクティビティでもアンダーウェアーとしての機能が見直されて需要が高まっています。

⑥吸水発熱効果

ウール繊維の内部は吸湿性を持ちながら水分を弾いて水蒸気となった水分だけを繊維表面の膜にある微細孔から吸収。この時吸収された水分は繊維内部で液体になる時に発熱します。これは水分が蒸発する際に気化熱を奪うのとは逆の作用でこの働きによって汗や雨などによって濡れることによる冷えを防いでくれます。 

難燃性

羊毛は公定水分率が高く、発火温度が570℃~600℃。水分限界酸素指数も25.2と天然繊維の中では最も難燃性の繊維で消防士やキャビンアテンダントの制服にも使われて来ました。羊毛フェルトは難燃繊維であることから資材としての用途もとても巾が広く、また最近ではキャンピングやアウトドアの流行で焚火などのアクティビティが増える中で難燃性の素材としてもウールのウェアが見直されています。

梳毛(ウーステッド)と紡毛(ウーレン)

羊毛の糸には大きくわけて梳毛糸と紡毛糸の2種類があります。梳毛糸は選別した長い繊維を梳き揃えて紡績して細くしなやかな糸を作り、紡毛は比較的短い繊維を紡いでふくらみのある太めの糸を作る古くから行われて来た手紡ぎから発展した紡績方法です。

  • 梳毛(ウーステッド:worsted

選別・洗毛した長めの原毛をローラーカード機でスライバー状にした後にさらに梳(くしけず)りながら引き伸ばした均質なスライバーを段階的に引き伸ばしてから精紡する。梳毛糸は薄くしなやかなスーツ地などの織物になり、2本をより合わせて双糸として用いられることが多い。

  • 紡毛(ウーレン:woolen

紡毛は比較的短くて粗い繊維をカード機にかけて篠状にして糸に紡ぐ方法で、紡績工程で発生するノイルや非ウールの繊維を混ぜて糸にすることもできる伝統的な手紡ぎの技術から工業化された方法。ツィードやフラノ、毛布等になる空気を含んだ太めの糸を紡毛糸と呼んでいる。

フェルト

フェルトは獣毛や羊毛の繊維どうしが絡まり合う性質(①スケールとフェルト化参照)を利用して作られる。紡績(糸にする)や製織・製編の工程を経ないため、羊毛が織物や編み物として利用される以前から用いられて来た方法と推測することができます。羊毛を用いた最古の人工物の帽子やカーペット(羊と人類の歴史の項参照)にもフェルトの技術が使われている。かつては北・西・中央アジアの遊牧民のゲル(テント)や敷物にもフェルトが使われていました。現在も羊毛フェルトは衣料・手芸用の資材の他にも断熱材・履物・緩衝材・吸音材など工業製品・建築など幅広い用途に使われています。

羊の品種

羊には3000種類以上の品種があると言われます。品種によって毛用品種・肉用品種・毛肉兼用種・乳用品種・繁殖用の品種などの特徴があります。日本国内で良く見かける羊は、肉用として戦後に導入されたサフォーク種と言う顔の黒い羊です。最も有名な品種のメリノ種は12世紀のスペイン帝国で改良・作出されたスペインメリノ種が元になり、毛質の素晴らしさから現在は世界最大の羊毛生産国オーストラリアの羊の7割がメリノ種。フランスメリノ・ニュージーランドメリノも知られていて、日本に輸入されている羊毛の8割がメリノウールと言われています。メリノ種の他に比較的よく耳にする品種としてはコリデール・チェビオット・ロムニー・シェットランド・サフォーク…等があります。代表的な羊の品種の詳細はついては下記の外部リンクも参照して下さい。

公益社団法人畜産技術協会 緬羊の品種

http://jlta.lin.gr.jp/sheepandgoat/sheep/hinsyu.html

畜産ZOO

http://zookan.lin.gr.jp/kototen/menyou/m423.htm

代表的なウール素材のテキスタイル

ウールはニット・カットソー・フェルト・織物と様々なテキスタイルに加工されて利用されています。代表的なウール織物にはギャバジン・サージ・トロピカル・シャークスキン・バラシア・カルゼ・アムンゼン・ジョーゼット・ドスキン・ヘリンボン・フラノ・サキソニー・ブッチャー・ツィード・バーズアイ・メルトン・モッサ・ビーバー・アストラカン等があります。

日本のウール産地~尾州産地~

明治期以降試みられてきた、緬羊の国内飼育は不振に終わりましたが、日本には産業革命によって培われた紡績技術が相次いで導入され、世界の紡績工場としての地位を確立してゆく中で、高級原料だった羊毛産業は奈良時代から木曽川流域の豊かな水資源を背景に繊維産業が発展し紡績・撚糸・製織・染色等の背景を持っていた愛知県北西部の尾張一宮を中心とする尾州地区で発展しました。尾州の毛織物は世界的に有名なイタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドと並ぶ毛織物の三大産地のひとつに数えられる技術とブランドを確立し、世界のファッション産業に高品質なテキスタイルを提供して来ました。現在の尾州の産地は国内の他の織物産地同様に技術者の高齢化・原料の高騰による加工所の廃業などが相次ぎ産地としての規模を縮小しながらも産地としての新しい在り方を模索し、高品質で豊かな表情のテキスタイルを創り続けています。 
尾州産地を支える産地企業については公益財団法人一宮地場ファッションデザインセンターが運営するBISYU JAPANホームページの企業一覧を参照して下さい。

尾州japanロゴ

BISYU JAPAN(尾州ジャパン) 企業一覧

https://bishu-japan.com/company/

取り扱い上の注意点

洗濯による縮み

ウールはフェルト化する性質があるため家庭洗濯等で縮むことがある。ウールの洗濯はウールやカシミヤに使用できる洗剤で洗濯表示に従って手洗いするか、クリーニング店に依頼します。ただしクリーニング店によって使用する溶剤やクリーニング方法が違う為にウールの油分が失われ風合いが変わってしまう場合もあり注意が必要です。大切な衣類をクリーニングに出す場合には事前に相談してから判断することをお勧めします。ウールのフェルト化は濡れた状態で繊維が擦れることで起こるので家庭洗濯でも専用の洗剤を使い洗いや乾燥の工程で充分注意することで縮みを防ぐことが出来ます。またすすぎの工程でラノリンオイル等の油分を補うことでしっとりとした風合いや撥水機能を保つことも可能です。

毛玉が出来やすい

フェルト化し易く縮みやすい性質から繊維が擦れることで毛玉が発生する場合があります。ウール100%の製品は合繊との混紡の素材に比べて毛玉になり難く毛玉になっても自然に脱落しますが、気になる場合は手でむしり取ったりせずにハサミでカットします。あまり頻繁に毛玉を取ると生地自体が薄くなってしまうので素材やアイテムによっては毛玉を防ぐブラッシング等のケアーを行います。

虫害(虫食い)

お気に入りのウール製品の虫食いはかなりショッキングです。獣毛の中でもカシミヤやアンゴラ、ウールの中でも高級で柔らかく良いウールほど食害に合いやすいので保管前のケアーや保管時の防虫には充分な注意が必要です。余談ですが虫食いウールの補修にはダーニングと言う補修方法があります。ダーニングには目立たないように補修する方法とあえて色糸等を使ってデザインする方法もあり、オリジナルのアレンジでお気に入りの一着をよみがえらせることが出来るので、もしもの時には是非試してみて欲しいです。

発注時の注意とポイント

・ウールは縮みやすい性質から商品によっては染色加工時のロットによる風合いや生地の仕上がり巾、色目のバラつきが生じ易いため、発注する際にはロット毎の振り落ちを確認するなどの注意が必要です。

・白い生地の場合は紡績工程で混入する異原糸や繊維等の飛び込みが目立つ場合があります。白を使用する場合は製品での飛び込み補修の可否を事前に確認することお勧めします。商品によっては補修費用を見込んで白だけ価格が高い場合もあるので確認が必要です。

縫製工場へデリバリーする際のポイント

ウール素材で起こりやすい品質のトラブルには中希/ちゅうき(反内の色ムラ)・ロット差(反による色差)・異原糸飛び込み織キズネップなどがあります。問題がある場合には既定の範囲内なのか、生地や製品での修正が可能なのか、返品・交換が必要なのかを生地メーカー側に確認後に裁断・縫製を進めるのかを判断します。同じ色を複数反使用する場合には使用する原反が同じ加工ロットであるのかも予め確認します。また同じ加工(染色)ロットであっても反による染色差が起こる場合があるので縫製工場には反取り裁断・縫製をするように予め依頼しておくことをお勧めします。

まとめ

狩猟によって肉や毛皮を利用していた野生の羊が家畜化されて約1万年の間に3000種類とも言われる品種が生み出されてきた中で、現在は良質なウールが得られ、食肉用にも利用できるメリノ種の生産が世界中で飼育される羊の大半を占めています。今でもごく一部の山岳地帯の羊飼いが羊と山羊の群れを世話しながら牧草地を移動する昔ながらの生活を守っていますが、ほとんどの羊は安価な肉や手頃な価格のウール製品の需要を満たすために大規模で集約的な工業生産農業の対象となっています。持続可能性が私たちの生活のあらゆる場面で必須条件となりつつある現在、家畜の工業的生産は動物福祉・森林破壊・温室効果ガスの排出・土壌流出・水質汚染・生物多様性の喪失など多くの課題をはらんでいます。一方で羊毛繊維から人類が受けて来た恩恵は計り知れず、現代の技術でも羊毛を超える様な多機能で快適な繊維を生み出すことは出来ていません。人と羊のあたらしい関係を模索することは地球環境・農業・衣食住を含めた人類の未来のあり方を創造してゆく為のひとつの重要な指針になるのではないかと思います。

ヒマラヤの羊飼い

参考文献

  • 「図解染色技術辞典」 理工学社

  • 「羊の人類史」 サリークルサード著

参考URL

その他