綿とは

綿とは

 

名称(日本語/英語)

綿・陸地綿(わた・りくちめん) / cotton

カテゴリ

主資材

種類大カテゴリ(天然繊維)

概要

(日本語名:綿・陸地綿・・・・ わた・りくちめん/英語名・・・cotton )とは、アオイ科ワタ属の植物の総称で同じアオイ科植物のタチアオイやオクラによく似た花を咲かせます。

綿の花
綿の花

繊維としては天然繊維⇒植物繊維⇒種子毛繊維に分類され、種子を保護している綿毛を繊維として利用します。種子毛を利用する植物としては他にカポック(パンヤ)・ボンパックス(いずれもアオイ科)などがありますが、一般的な繊維として広く利用されているのが綿(ワタ)です。綿は熱帯~亜熱帯の乾燥地帯から半乾燥地帯にかけて世界に約50種が分布している中で、下記の「種類」で説明する4種類の系統が主な栽培品種です。その中でも陸地綿(アメリカ綿)と呼んでいる染色体数26の4倍体種G.hirsutum(ヒルスツム)が綿全体の作付けの90%以上を占め世界で広く栽培されています。次いで最も長い繊維長を持つG.barbadense(バルバデンセ)種の系統で海島綿・ピマ綿と呼ばれるブランド綿が5%前後のシェアを持つ。旧大陸綿(アジア綿・デシ綿)と呼ばれる2倍体(染色体数13)綿の系統は繊維が短く粗いために機械紡績には向かないが弾力性があり、ふとん綿や脱脂綿などに用いられることが多いです。日本に渡り江戸期を中心に盛んに栽培された和綿はこの系統のキダチワタG.arboreum(アレボレウム)であると言われています。シロバナワタと呼ばれる南アフリカ原産のG.herbaceum(ヘルバケウム)は現在では商用での利用はほとんど無いです。

成り立ち

綿織物の来歴(古代~前近代)

現存する最も古い綿布は紀元前5000年頃のものでメキシコのテワカン渓谷の洞窟から見つかっています。綿はかなり古くから繊維として利用されていたと思われますが紀元前ではアレクサンダー大王の東方遠征日記に「インドには羊毛の如き実を成らせる木が有る」と記され、1~2世紀頃にはアラビア商人によってイタリヤ・スペインに綿・綿織物がもたらされ地中海沿岸で栽培されていました。中国には10世紀頃に伝来し11世紀後半には重要な作物として華中、華南で栽培されるようになります。日本では室町時代中頃になると木綿への関心と需要が高まり戦国期には競って朝鮮から木綿を輸入するようになりました。九州地方から始まったと思われる国内の木綿栽培は江戸時代になると三河や河内などの温暖な地方で盛んになり江戸期後半には木綿は次第に庶民にも手のとどく繊維となって行きます。

日本の綿紡績(江戸期以降)

江戸期に盛んとなった国内の綿栽培と利用は明治に入ると産業革命から約1世紀遅れての海外との競争に晒されることで急速に近代化を求められ、政府の主導でイギリスのマンチェスターから輸入した綿紡績機を民間に払下げ全国に機械紡績工場を起こさせました。1883年(明治16年)には国内で初めての蒸気力による大規模な大阪紡績工場(今の東洋紡)が開業したのを端緒に相次いで大規模紡績工場が作られ製品の質・量ともに向上し、中国や朝鮮へ大量に輸出されるようになる一方、国内の綿花栽培は衰退します。明治30年には綿糸の輸出高が輸入高を上回り、その後も拡大を続けた日本の綿紡績は1930年代には綿布の輸出量が世界一となり、第二次世界大戦中には輸出が停止するが戦後再び世界一となりました。その後アジア産の安い綿布に押され生産量は減少を続け現在に至ります。また国内の綿花自給率(和綿の生産量)は統計上では0%となっていますが、地域や地場産業の復活、技術の伝承などの目的で和綿生産の復活に取り組む活動をしている団体が各地にあり、オーガニックやサステナビリティの観点からも注目して行きたい。

綿と奴隷貿易の盛衰

18世紀には非常に高価だったインド更紗などのコットン製品は産業革命によって機械化されると生産に拍車がかかり価格も暴落します。1800年代、アメリカの綿花が最大の輸出産物になるにともなって黒人奴隷を底辺としたプランテーション農業が盛んになり、投資家や株主・銀行家を頂点とした搾取構造が完成されました。アメリカ南部では1855年には1800年当初のおよそ19倍の9億キロの綿を輸出していました。その後、新聞というメディアの登場によって取り上げられた奴隷制度反対の声がやがて南北戦争をひき起こしアメリカの奴隷制度は崩壊し、奴隷労働を必要としない機械化と農薬による綿花生産に切り替わって行きます。これを機に綿花の栽培はかつて綿花の栽培が行われていた地域や中国に広まって行きますが、労働者の貧困、農薬・殺虫剤・化学肥料の大量使用による環境破壊によって支えられる綿花栽培という大きな課題を現在にまで残すことになりました。

用途

綿は繊維の長さによって下記の3種類に分けられその用途も分かれます。

  1. 短繊維綿 繊維長2cm以下  ふとん綿・脱脂綿・ネル・キャンバス等
  2. 中繊維綿 繊維長2.2~2.8cm  綿全体の作付けの90%以上を占める、衣料品・タオル等
  3. 長繊維綿  繊維長2.8~6.0cm  高級シャツ地・ハイカウントの織物、繊維長3.5cm以上の物は超長綿と呼ばれるブランド綿(詳細は次項)

主なブランド綿と産地

超長綿(ブランド綿)は綿の4系統の中で最も繊維長が長いG.barbadense(バルバデンセ)種の系統で綿全体の5%を占めます。主なブランド綿と産地は下の表を参照して下さい。

ブランド綿の名称産地品質・特徴
海島綿
Sea-Island cotton 
西インド諸島
カリブ海周辺地域
大航海時代から貿易の高級品として取引されて
いたため品質の良い綿を栽培する環境が整っている。
しなやかな肌触りと上品な光沢が特徴。
ギザ綿
Giza cotton
ナイル川流域の一部で
採れるエジプト綿
ナイル川流域の採れる地域によって「GIZA45」「GIZA70」「GIZA76」等の品種の開発番号が
ついている。生産から納品まで厳重な生産管理が
行わている最高級綿。
スーピマ綿
Supima cotton
アメリカ南西部4州
テキサス・ニューメキシコ・アリゾナ
カリフォルニア
スーピマはsuperior pima(高級ピマ)の略で南米ペルー
のピマ種に品種改良をした高級ブランド綿でアメリカ
スーピマ協会の登録商標。柔軟性・耐久性・発色性に
優れ型崩れしにくいのが特徴。
新疆綿
西域綿
新疆ウイグル自治区超長綿の中でも繊維長が最も長く上品な白さと光沢、しなやかでソフトな風合いが特徴。北疆では機械摘み南疆では手摘みの割合が多い。統一した品質基準が無く取引が比較的自由で手に入りやすい最高級綿で多くのブランドが使用していたが強制労働問題で取り扱いを中止しているメーカーもある。この問題の真贋についてはここでは言及しない。
ピマ綿
Pima cotton
ペルーのピウラ地方ピマ綿はペルーの中でもピウラ地方の独自の環境
の中で育てられた綿を手摘みした最高級綿。
アルマーニやラルフローレンが好んで使っていることで有名。
オーストラリアコットンオーストラリア 
ジンバブエコットンジンバブエ 
マダガスカルコットンマダガスカル 
カメルーンコットンカメルーン 
ギリシャコットンギリシャ 

魅力

綿の大きな魅力はその柔らかい肌ざわりです。自然由来の原料素材を使用した天然繊維の魅力は素材独自の風合い・肌ざわり・質感に加えて吸湿性・通気性・保温性に優れ、化学繊維に比べて蒸れにくく、静電気の発生が少なくほこりがつきにくいなどの利点があります。また様々な加工や経年による風合いの変化を楽しむことが出来るのも大きな魅力です。

特徴 

上記でも述べましたが、綿の大きな魅力はその柔らかい肌ざわり、ウールや麻のようなチクチクする刺激がほとんどないことです。これは綿の繊維が靭皮繊維や獣毛とは異なり1本の繊維が1つの細胞から出来ていることによります。そして綿の繊維は中空構造になっているため通気性・吸湿性・保温性に優れ蒸れにくいので肌に直接触れる衣類や下着などにも最も多く使われています。また他の繊維に比べて電気抵抗が低く静電気が起きにくいことも綿を最も身近な繊維にしている大きな特徴です。

性質

綿繊維の性質は下記の表をご覧ください。

繊維の性質繊維製品に
関する性能
綿
比重重さ・かさばり1.54
水分率(%)吸湿性・乾きの速さ7.0
引張強度
(乾燥時)g/d
丈夫さ・耐久性3.0~4.9
乾湿強力比
(%)
耐洗濯性102~110
伸び率(%)剛軟性・伸縮性3~7
ヤング率(%)剛軟性・ドレープ性950~1300
伸長弾性率(%)
(3%伸長時)
防しわ性・伸縮性74
(2)
熱の影響アイロン温度の適温高温に耐える
アルカリの影響洗剤の選択強い
染色性直接・バット・塩基性・媒染
などの各種染料で染められる
燃焼性燃えやすくパッと燃える
紙を焼く臭い
灰色の柔らかい灰を残す
燃焼
日光
カビ
虫害やや強
比      重:4℃の水の密度を1としたときの比重。
水    分    率:温度20℃、湿度65%(標準状態)において繊維が吸湿する割合。
引 張 強 度 :繊維を引っ張って切断したときの強力を1デニール当たりの強力に換算した値。
乾湿強力比:水にぬらしたときの強度と乾燥時(標準状態)の強度の割合。
伸    び    率:繊維を引張って切断したときの伸びの割合。
ヤ  ン  グ率:初期の引張に対する抵抗力。
伸長弾性率:一定の伸び率(3%またはかっこ内の%)に対して回復する割合。

代表的な綿の種類

世界で栽培されている主な綿(ワタ)の4系統(旧大陸綿-2系統・新大陸綿-2系統)を下表にまとめました。

①  学名系統原産地・分布
G.herbaceum
(ヘルバケウム)
旧大陸綿
アジア綿
南アフリカのサバンナ地帯原産でシナイ半島を経てアジアに渡ったと推足される。野生化した系統がアフリカに分布。
和名・俗称倍数性特徴
シロバナワタ2倍
(染色体数13)
小型の品種で繊維は短く太い
現在商業生産はほとんど無い
②  学名系統原産地・分布
G.arboreum
(アレボレウム)
旧大陸綿
アジア綿
インド原産種でアジア地域に自生する。このキダチワタ(木立綿)が中国で改良されて日本に伝わった和綿の原種。
和名・俗称倍数性特徴
キダチワタ2倍体
(染色体数13)
小型の品種で繊維は短く太い
③  学名系統原産地・分布
G.barbadense
(バルバデンセ)
新大陸綿南米北西部原産、ペルー・エクアドル・ブラジル・カリブ海沿岸及びアメリカ南部に自生。
和名・俗称倍数性特徴

ベニバナワタ
海島綿・ピマ綿
4倍体
(染色体数26)
ワタの中で最も繊維長が長く長いものは60mmに達する。シルクの様な光沢があり、高級ブランド綿として扱われているのはこの品種の系統である
④  学名系統原産地・分布
G.hirsutum
(ヒルスツム)
新大陸綿旧大陸綿と新大陸綿の交雑種と考えられ中南米原産で世界に広く自生している。この品種がアメリカで改良されアメリカ綿と呼ばれ世界中で最も多く(全綿の作付けの90%以上)栽培されている品種である。
和名・俗称倍数性特徴

リクチメン
アメリカ綿
4倍体
(染色体数26)
繊維の長い部分で繊維長が20~30㎜、短い部位で2~7㎜で現在米国で生産されているアメリカ綿だけでも50種類に及ぶ品種があり品種によって品質にも特徴がある。最も用途が広く生産量・品質共に安定している為、世界中で生産されている。

代表的な綿素材のテキスタイル

ブロード・ローン・ボイル・シーチング・キャンブリック・金巾・キャラコ・ダブルガーゼ・サテン・ツイル・ギャバ・バーバリー・ラチネ・カツラギ・ウエポン・ウェザー・別珍・コーデュロイ・オックスフォード・タイプライター・帆布・キャンバス・天竺・フライス・テレコ・カノコ・裏毛・スムース・ポンチ…等

代表的な繊維メーカー

  • ダイワボウホールディングス株式会社
         -大和紡績株式会社
  • 日清紡ホールディングス株式会社(NISSINBO)
  • 東洋紡株式会社(TOYOBO)
  • 倉敷紡績株式会社(クラボウ)
  • 日本毛織株式会社(ニッケ)
  • 日東紡績株式会社(Nittobo)
  • シキボウ株式会社(shikibo)
  • 富士紡ホールディングス株式会社(FUJIBO)

ダイワボウホールディングス株式会社ー大和紡績株式会社

大和紡績株式会社HP
大和紡績株式会社HP

メーカー名

大和紡績株式会社

URLhttps://www.daiwabo.co.jp/

日清紡ホールディングス株式会社(NISSINBO)

日清紡株式会社HP
日清紡ホールディングス株式会社HP

メーカー名

日清紡ホールディングス株式会社

URLhttps://www.nisshinbo.co.jp/index.html

東洋紡株式会社(TOYOBO)

東洋紡株式会社HP
東洋紡株式会社UP

メーカー名

東洋紡株式会社

URLhttps://www.toyobo.co.jp/

倉敷紡績株式会社(クラボウ)

倉敷紡績株式会社P
倉敷紡績株式会社HP

メーカー名

倉敷紡績株式会社

URLhttps://www.kurabo.co.jp/

日本毛織株式会社(ニッケ)

日本毛織株式会社HP
日本毛織株式会社HP

メーカー名

日本毛織株式会社

URLhttps://www.nikke.co.jp/

日東紡績株式会社(Nittobo)

日東紡績株式会社HP
日東紡績株式会社HP

メーカー名

日東紡績株式会社

URLhttps://www.nittobo.co.jp/index.html

シキボウ株式会社(shikibo)

シキボウ株式会社HP
シキボウ株式会社HP

メーカー名

シキボウ株式会社

URLhttp://www.shikibo.co.jp/

取り扱い上の注意点

綿は他の天然素材と比べて扱いやすい素材ですが、以下の点にご注意下さい。

  • 吸水性があり乾燥するときに縮む場合があります
  • 長時間、日光や紫外線にあたると黄ばみ・強度低下・劣化の原因になります

発注時の注意とポイント

天然繊維である綿は染色堅牢度及び物理的性質において特に下記の点に注意が必要です。公的機関による生地試験データ等を参考にして用途に応じてアテンションをつけるなどの対応を検討してください。()内は検査項目

  • 摩擦による色落ち(乾摩擦及び湿摩擦堅牢度)
  • 日光や蛍光灯による変色(耐光堅牢度)
  • 洗濯による色落ち(洗濯堅牢度)
  • ドライクリーニングによる色落ち、変色(ドライクリーニング堅牢度)
  • 汗による色落ち、変色(汗堅牢度)
  • 洗濯による縮み、伸び(洗濯寸法変化率)
  • プレスによる縮み、伸び(プレス収縮率)
  • ドライクリーニングによる縮み、伸び(ドライ寸法変化率)
  • 生地の強度(引張り強さ・引裂強さ・破裂強さ・滑脱抵抗力等)

縫製工場へデリバリーする際のポイント

綿素材で起こりやすい品質のトラブルには中希/ちゅうき(反内の色ムラ)・ロット差(反による色差)・異原糸飛び込み・織キズ・ネップ・ムラ糸などがあります。縫製工場での放反段階で工場にチェックしてもらい、問題がある場合には既定の範囲内なのか、生地や製品での修正が可能なのか、返品・交換が必要なのかを生地メーカー側に確認後に裁断・縫製を進めるのかを判断します。同じ色を複数反使用する場合には使用する原反が同じ加工ロットであるのかも予め確認します。また同じ加工(染色)ロットであっても反による染色差が起こる場合があるので縫製工場には反取り裁断・縫製をするように予め依頼しておくことをお勧めします。

まとめ

綿(ワタ)は私たちの生活に最も身近な欠かせない天然繊維です。綿花は世界各地で大量に生産され消費される栽培品種でありその生い立ちや繊維としての歴史も広範です。また栽培時に大量に使用される農薬や殺虫剤・化学肥料による環境破壊や遺伝子組み換えの問題、生産者の過重労働や健康被害等々その栽培と生産の過程に多くの問題を抱えています。多くの人が最も身近な繊維である綿について知ってより良い選択が出来るようになることは環境問題を考える上でもとても大切なことだと感じます。

参考文献

  • 「世界史を変えた50の植物」ビル・ローズ著

  • 「木綿リサイクルの衰退と復活」前田啓一著

  • 「被服材料への招待」日下部信幸著

参考URL