植物繊維編
&CROP編集部の瀧澤です
前回のコラム①で石綿以外の天然繊維はすべて生物由来の有機高分子化合物だと書きました。そして植物繊維を構成しているセルロース・ヘミセルロース、リグニンは単糖類が鎖状に長く繫がったポリマーなのでセルロース繊維と呼ばれ、動物繊維はアミノ酸が長く繋がった構造タンパク質(シルクはフィブロインとセリシン・ウールの主成分はケラチン)で出来ているのでタンパク質繊維と呼んでいると説明しました。私たちが古くから利用して来た天然の繊維が糖質(炭水化物)とタンパク質の違いこそあれ生物の構造をつくっている原料から出来ているのは興味深いです。今回は植物繊維を構成しているセルロース・ヘミセルロース・リグニンについてもう少し詳しく調べてみました。
植物繊維の化学成分
木材についての林産試験場のHPの「キッズ☆りんさんし」(子供向け)の説明が分かりやすかったので以下引用します。(平仮名が多すぎて読みにくいので漢字に変えています。)原文URL https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/kids/kinokoto/ki-manabu/arekore5.html
木材は、おもにセルロース、ヘミセルロース、リグニンという3つの成分で出来ています。
木材を鉄筋コンクリートにたとえると、セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリート、ヘミセルロースはそれらをつなぐ針金(はりがね)の役割をしています。
リグニンには体を支えるほかにも、木材を腐りにくくする役割もあり、リグニンのおかげで木は長生きすることができます。リグニンを取りのぞくと木材は分解しやすくなります。木材の主なせいぶんであるセルロース、ヘミセルロース、リグニンは、どれも炭素・水素・酸素を組み合わせてできたもの。(中略)木にはセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つの成分以外に、かおりや色を出す成分がふくまれています。
↓ここからは植物繊維を構成しているセルロース・ヘミセルロース・リグニンについてもう少し詳しくまとめました。
セルロース (cellulose)
セルロースはヘミセルロース・リグニンと共に植物の細胞壁をつくっている主成分で、繊維素とも呼ばれます。セルロース (C6H10O5)n は植物の細胞壁を構成する炭水化物(多糖類)で1938(1934?)年にフランスの科学者アンセルム・ペイヤン(Anselme Payen)によって植物の細胞壁から単離されました。セルロースという名称はcell(細胞)を構成している多糖(語尾にoseがつく)といった意味で、植物を構成している糖類(炭水化物)にはグルコース(ブドウ糖)・フルクトース(果糖)・マルトース(麦芽糖)のような名称のものが多くあります。
ヘミセルロース(hemicelllose)
ヘミセルロースはセルロースと共に植物の細胞壁をつくっている水に溶けないセルロース以外の多糖類の総称です。ヘミセルロースにはキシラン・マンナン・グルコマンナン・グルクロノキシラン…などの種類があって、キシランはキシリトールの原料、グルコマンナンは蒟蒻芋に多く含まれる成分、グルクロノキシランは広葉樹に多く含まれる成分として知られ、難消化性の食物繊維の成分でもあります。
リグニン(lignin)
リグニンは植物を木質化させる高分子化合物です。進化の過程でリグニンを合成する植物が現れたことによって地上で直立する植物が登場しました。リグニンを有する植物が現れた当初はリグニンを分解できる微生物がいなかった為にこれらの植物は腐らずに化石化して蓄えられ石炭となりました。古生代のこの時期は石炭紀と呼ばれて大気中の炭素を大量に地上に固定する役目をはたしました。リグニンはとても強固に結合した有機物で木材腐朽菌という菌類によってのみ分解されます。現在では植物を有効に産業利用するために植物体のリグニンの量をコントロールするような植物工学的な研究も行われています。
植物は地球上で最も多いバイオマス
最近は地球環境の視点からバイオやバイオマスという言葉を聞く機会が増えました。バイオマスと言う言葉は大まかにいうと地球上の生物(バイオ)の物質量(マス)と言った意味で使われ、地球上のバイオマスを表す総炭素量は550ギガトン(5,500億トン)と言われています。そのうちの陸上の植物が占める割合はおよそ450ギガトン、細菌・ウイルス類が77ギガトン、動物の合計がおよそ2ギガトンと推計されていて、陸上植物が占める割合が圧倒的に多いです。つまり地球上で生産されるバイオマスは植物が生成するセルロースをはじめとした炭水化物が大半を占めていると言えます。
セルロースの利用と環境
古くから服地や資材の原料として利用されてきたセルロース繊維は、現在では廃棄物や未利用のバイオマス資源も含めてバイオマス発電・バイオマスプラスチック・バイオガス・バイオエタノールなど様々な分野で再生可能な資源として注目されて利用方法の開発が行われています。地球上で最も多い生物資源であるセルロースを環境負荷の低い方法で有効に利用することは環境保護の観点からも大切であると同時に、現代の化学薬品や肥料に頼った農業が環境にもたらす付加はプラスチック汚染問題よりも大きく、バイオ=環境にやさしいと言った安易な図式ではないことを理解して賢明な選択をしてゆくことが大切だと思います。
CNFと発酵ナノセルロース
セルロースナノファイバー(CNF)は植物セルロースをナノサイズまで微細化して再生成させることで軽くて強い(鋼鉄1/5の軽さで5倍の強度)・大きな比表面積(250㎡/g以上)・温度による膨張率の低さ(ガラスの1/50程度)などの特徴を有した再生可能な環境負荷の低い次世代素材として研究と実用化が進んでいます。また均質で緻密な構造のセルロースナノファイバーを微生物による発酵によって生産する技術も事業化されていて医療・健康・介護・環境/エネルギー・航空/宇宙・自動車・農業・産業機械・食品・建築・エレクトロニクス…などの分野での利用が期待されています。将来、発酵セルロース原料のファッション素材が普通になる日が来るかもしれません。
まとめ
- 天然繊維には植物由来のセルロース繊維と動物由来のタンパク質繊維がある。
- 植物繊維の成分はセルロース・ヘミセルロース・リグニンが主成分です。
- セルロースもヘミセルロースもリグニンも糖が鎖状に長く繫がった多糖類(炭水化物)です。
- 地球上のバイオマス(総炭素量)のおよそ82%は植物が生成するセルロース等の炭水化物です。
- セルロース繊維はバイオマス資源として注目されて利用が広まっています。
- CNF(セルロースナノファイバー)は注目される次世代のセルロース素材です。
参考書籍・URL
酪酸菌によるセルロース合成と発酵ナノセルロースに大量生産(農畜産振興機構)
繊維素材の記事リンク