糸の原料・種類・番手を徹底解説!

&CROP編集部の瀧澤です。

糸はテキスタイルを構成する主素材であると同時に縫製や意匠に欠かせない必須の素材です。用途によってさまざまな素材や太さの糸があり、意匠糸も加えるとその組み合わせは無限にあると言えます。また素材によって糸の太さを表す番手の表記方法が違うことで糸を理解するのが少し難しく感じる人も多いと思います。たとえば天然繊維の糸番手は数字が小さくなるほど糸が太くなるのに対して化合繊の糸では数字が大きくなるほど太くなります。私もはじめの頃は面倒なので拒否していました(笑)。でも、基本的な仕組みとルールを理解してしまえば意外と簡単?です。この記事では初心者の方にも分かりやすく主要な糸の種類や番手について解説しています。キャリアのある方にも、いまさら聞けない糸の基本的な内容をできるだけ体系的に書いていますので糸の基礎知識を身につける一助にしていただければうれしいです。

糸の種類

糸の種類は素材糸になる繊維の形状撚り合わせ方撚糸数などで分類されます。ここではそれぞれの糸の代表的な例を挙げて説明します。

糸になる素材の種類と特徴

天然繊維素材の糸には絹糸・毛糸・綿糸・麻糸(リネン/ラミー/その他の麻繊維)があり化学繊維の糸にはポリエステル・ナイロン・アクリル・レーヨン・キュプラ・アセテート等の糸があります。また異なる種類の短繊維(ステープル)を混合して紡績した混紡糸種類の違う長繊維(フィラメント)を混合して糸にした混繊糸があります 。(※表にある素材の種類の名称をクリックすると素材の詳細な解説記事が新しいタブで開きます。)

素材の種類繊維の形状繊維の分類特徴
絹(シルク)フィラメント・スパン天然繊維カイコ蛾の繭からとれる糸で、天然繊維で唯一フィラメント糸がとれる繊維
毛(獣毛・ウール)梳毛・紡毛天然繊維羊などの動物の体毛を紡績した糸で梳毛糸と紡毛糸がある
綿(コットン)スパン天然繊維綿花の種子のまわりの綿毛を紡績した糸で肌触りが良く吸水性がある
麻(リネン・ラミー)スパン天然繊維麻は植物の靭皮繊維の総称でリネン・ラミーをはじめ多くの種類がある
ポリエステルフィラメント・スパン合成繊維最も汎用性の高い合成繊維で吸水性が低く耐候性があり、様々な風合いに加工できる
ナイロンフィラメント・スパン合成繊維ポリエステルに次いで広く使われている合成繊維、しなやかで適度な伸縮性がある
アクリルフィラメント・スパン合成繊維耐光性、染色性に優れ退色しにくい、ふっくら柔らかい風合いで保温性がある
レーヨン・キュプラフィラメント・スパン再生繊維植物由来の化学繊維で吸保湿性・ドレープ性に優れ光沢がある繊維

    アセテート            トリアセテート

フィラメント・スパン半合成繊維自然由来の原料を化学的に処理しれ作られる独特の光沢があり発色性に優れる

繊維の形状による糸の種類

糸に加工する繊維形状の違いには長繊維を糸にしたフィラメント糸短繊維を糸にしたスパン糸があります。天然繊維では絹(シルク)糸だけがフィラメント糸を得ることが出来る唯一繊維でその他の天然繊維はすべて短繊維(スパン糸)と呼ばれる繊維長の短い繊維に撚りをかけて糸にします。化学繊維では紡出するときはすべてフィラメントで、短繊維にする場合にはこれを短くカットして撚り合わせてスパン糸を作ります。また獣毛やウールを原料とする毛糸では比較的繊維長の長い毛の方向性を均一に揃える(コーミング工程)を経て紡績した比較的細番手の糸を梳毛糸(そもうし)と呼んで、主に高級スーツ地などに用い、コーミングしていない繊維の方向や長さが不均一でふくらみのある比較的太番手の糸を紡毛糸(ぼうもうし)と呼びます。同様に綿糸(コットン)でもカーディングという余分な繊維を取り除く工程を行っただけの比較的毛羽が多くコストの安い糸をカード糸、コーミング工程によって繊維の方向を揃えて短い繊維を20%程度取り除いた毛羽の少ない光沢のある糸をコーマ糸と呼んでいます。

フィラメント糸とスパン糸

ここで基本的となるフィラメント・ファイバー(長繊維)スパン(ステープル・ファイバー:短繊維)についてもう少し詳しく説明します。長繊維(フィラメント)と短繊維(ステープル)の違いは繊維の長さです。もともと長繊維は繭からとれるシルクの生糸だけでした、生糸は繊維長が1000m~1500mと長いので長繊維(フィラメント・ファイバー)と呼ばれます。シルクの生糸以外の天然繊維は繊維長が数ミリから長いものでも1メートル程度と短いので短繊維(ステープル・ファイバー)と呼ばれます。19世紀後半になって初めて綿(コットン)を化学的に処理してレーヨンが造られて以後、ナイロン・ポリエステルなどの合成繊維が登場します。これらは溶かした原料樹脂をノズルから噴出させて造ることで自在な長さの長繊維(フィラメント)を得ることが可能になりました。生糸では数個~十数個の繭の糸を抱合させて1本の糸にします、この時に抱合する本数によって15中・21中・31中…等の太さの糸ができます。同様に合成繊維のフィラメント糸も複数の長繊維を束ねて撚り合わせて作られ、マルチフィラメントと呼んでいます。この時の撚り合わせる長繊維の太さと数をフィラメントカウントと言って75D/36F(75デニール/36フィラメント)のように表記します。これは75デニールの太さの長繊維を36本たばねて一本の糸にしているという意味です。 また釣り糸のように一本の繊維で作られた糸をモノフィラメントと呼びます。一方、合成繊維のスパン糸はフィラメントを目的に応じた長さにカットして撚り合わせることで様々な短繊維の風合いや表情を表現することが可能です。

製糸・紡績・紡糸の違い

富岡製糸場の繰糸場の画像
富岡製糸場の繰糸場 yellow bird woodstock from JAPAN, CC BY-SA 2.0 <https://creativecommons.org

フィラメントの生糸を製造する工程を製糸(製糸業)、綿・羊毛・麻・合繊の糸を製造する工程を紡績(紡績業)と言います。ちなみに絹糸(シルク)の場合でも解した繭綿(短繊維)を糸にする工程は紡績です。また化合繊の原料を液体状にしてノズル(口金)から押し出してフィラメント糸を作る工程を紡糸(ぼうし)と言い原料素材や用途によって溶融紡糸乾式紡糸・湿式紡糸・ゲル紡糸・液晶紡糸などの製法があります。

撚り方による糸の種類

繊維は撚りをかけることで繊維と繊維の間に摩擦が生じて糸としての強度が増します。糸には撚りをかける方向でS撚りとZ撚りがあります。また撚りの強さによって無撚り糸・甘撚り糸・並撚り糸・強撚糸があり、撚糸回数は生地にした時の表情や手触りに影響します。複数の糸を撚り合わせる方法にも引き揃えた糸に撚りをかける片撚り糸、片撚りした糸を2本以上引き揃えて反対方向に撚りをかける諸撚り糸、異種類の糸を撚り合わせた交撚糸壁撚りなどのさまざまな飾撚糸があります。

単糸・双糸・三子撚り

紡績によって製造された糸は一定方向に撚りがかかっていて、これを単糸(たんし)と言います。同方向に撚糸された単糸を2本引き揃えて単糸の撚り方向とは逆に撚りをかけた糸が双糸(そうし)です。撚り合わせる本数によって3本なら三子(みこ)、4本なら(よっこ)…となりますがもっとも多く使われているのは単糸と双糸です。

撚糸回数の違いによる糸の種類

糸に撚りをかけることを撚糸と言い糸の撚り回数は1M当たりの撚り回数をT/mという単位で表します。たとえば1000T/mは1メーター当たり1000回転の撚りをかけているという意味です。糸の撚り回数によって織・編物の強度、風合い、肌触り、光沢、機能性などに変化を与えることができます。

撚りのない糸無撚糸ふっくらとした柔らかい糸で保温性や吸水性が高くタオルやロービングの編物などに使われる
500T/m以下甘撚糸手編み糸やニット・タオルなどに使われ柔らかい風合いで空気を含み保温性がある
500~1000T/m並撚糸・中撚糸バランスが良く汎用性が高いのでさまざまな用途に広く使われます
1000~2500T/m強撚糸硬めの手触りで強度がありキャンバスやサマーウール、クレープ梨地などのハリ・コシのある生地になる。甘撚りに比べ発色が良く光沢が出る
2500T/m以上超強撚糸強撚糸の特徴がより顕著に表れる、縮緬(ちりめん)などのようなザラッとした肌触りで盛夏向けの衣料などに向いている

加工糸(加工による糸の種類)

原糸に化学的、機械的な加工を施したり、種類の違う糸を組み合わせることによって機能性を向上させたり、付け加えたりした糸を加工糸と言います。前項で述べた糸に撚りをかける工程も撚糸加工という一つの加工なので撚糸をした糸を撚糸加工糸とも言います。ここでは代表的な加工糸について簡単に説明します。

仮撚加工糸(テクスチャードヤーン)

ポリエステルやナイロンなどの熱可塑性のあるフィラメント繊維に撚りをかけた状態で加熱・冷却してクリンプ形状を持たせることで、嵩(かさ)高性や伸縮性を与えた加工糸でウーリー糸とも呼ばれます。

カバリング糸

芯になる糸に鞘となるフィラメント糸や紡績糸をコイル状に巻きつけた糸。ポリウレタン弾性糸の芯にコットン・ウール・ポリエステル・ナイロンなどの糸を巻き付けたストレッチヤーンは代表的なカバリング糸で、構造によってSCY(シングルカバードヤーン)・DCY(ダブルカバードヤーン)・コアスパンヤーンなどがあります。

混織糸・混紡糸・複合糸

性質の異なる2種類以上のフィラメントファイバーを合わせて一本のフィラメント糸にしたものを混繊糸と言います。例えば熱収縮性の異なる混繊糸に熱処理をすることで外観や風合いを変化させたり機能を付加したりすることもできます。また種類の異なる原料液を区切られたノズルから同時に紡糸して貼り合わさった構造や芯・鞘構造にしたフィラメントをコンジュケート糸(複合繊維)と言います。混紡糸は種類の違う短繊維を混合して紡績することで単一の繊維とは異なる風合・機能・外観を付与し、コストを抑える目的でも使われます。ポリエステルと綿の混紡素材は汎用性が高くユニフォームなどに広く使われています。複合糸は合繊フィラメントを芯にして綿や羊毛などの短繊維を撚り合わせた糸でコアヤーンと呼ばれ化合繊と天然繊維の有用な特性を兼ね備えた糸として様々なコアヤーンが開発されています。

番手表示(糸の太さの表し方)

糸の太さを表す基準を番手(糸番手)と言います。天然繊維の糸番手は素材によって伝統的に使われて来た番手表示方法が違うために初めての人にとっては分かり難く感じるかもしれません。1956年にはISO(世界標準化機構)によってTEX(テックス)番手を世界共通の番手としての推奨が満場一致で決められて日本においても工業技術院標準部繊維部会において審議され賛成していますが、現在に至ってもテックス表示の普及は限定的で従来の表示方法が主流となっているのでそれぞれの表示方式について解説します。

恒長式と恒重式

現在一般的に使われている番手表示方法では、単位長当たりの糸のグラム数で表す恒長式が長繊維に用いられ、単位重量の当たりの長さ(メートル)で表す恒重式が短繊維に用いられています。恒長式にはデニール表示と先に述べたテックス表示があり、恒重式には繊維の種類によってウール番手・綿番手・麻番手があります。また絹糸には糸の種類によって独自の番手表示方法があります。

デニール(denier):恒長式

デニールは化合繊のフィラメント糸に広く用いられている恒長式の表示方法です。9000mの長さで1g(450mを基準に0.05g)重さの糸を1d(1デニール)と定めています。9000mの糸の重さが100gであれば100d(100デニール)で数字が大きくなるほど糸は太くなります。

テックス(tex) :恒長式

テックスはISOが定めた全ての繊維に共通のSI単位(※)です。1000mの長さで1gの糸を1t(1テックス)と表示します。1000ⅿで10gであれば10t(10テックス)でメートル法を基準にした国際単位なのでとてもわかりやすく全ての繊維に適用されますがフィンランドなど一部の国を除いて天然繊維にはあまり普及しておらず、国内では合繊の糸にデニール表示と併記しているメーカーもあります。デニールと同じで数字が大きくなるほど太い糸になり、1/10のデシテックスで表記する場合もあります。1テックス=10デシテックス=9デニールで綿番手に換算すると590.54となります。

ウール番手:恒重式

ウールの糸番手は1000g(1kg)の糸が1000mの長さのときが1番手で、言い換えると1gの糸が1mのときが1番手です。恒重式の糸番手では恒長式の番手表示とは逆に数字が大きくなる程糸は細くなります。ウールの10番手の単糸であれば1/10、60番手の双糸であれば2/60のように合糸数/番手数で番手を表記します。

綿番手:恒重式

綿の糸番手は英国式のため1ポンドを基準にした番手表記で英国式番手と呼ばれます。1ポンド(453.6g)の糸の長さが840ヤード(768.1m木綿の1綛(かせ)※の長さ)のときの番手を1番手として番手数/合糸数で表記します。40番手の双糸であれば40/2、20番手の単糸であれば20/1または20Sと表わします。1ポンドの重さの長さが1680ヤードの糸は2番手(2S)、16800ヤードの長さの糸は20番手(20S)となります。

麻番手:恒重式

一般的に使われる麻の番手はリネン・ラミーに使われる英国式麻番手です。重さ1ポンドで長さが300ヤード(274.3m)の糸が1番手、18000ヤード(300×60)の長さでは60番手となります。表記は綿番手と同じ番手数/合糸数で表します。

絹糸の種類と番手

絹糸は天然繊維の中で唯一フィラメント糸を得ることが出来る繊維です。用途によって生糸・綴糸・絹紡糸・ 玉糸・紬糸…などの種類があり、大別すると生糸・綴糸のようなフィラメント糸と絹紡糸・玉糸・紬糸などの紡績糸に分かれます。化学繊維のフィラメント糸の番手は先に述べたようにデニール表記されますが絹のフィラメント糸は化学繊維のように均一でない為に「21中8本片(にじゅういち なか はっぽん かた)」のような特殊な表記が使われています。普通の繭からとれる繭糸の太さはおよそ3デニールで7個の繭から糸を繰るとおよそ21デニールの太さの生糸が得られます。21中の「中」は平均値、片は片撚りという意味なので「21中8本片」はおよそ21デニールの太さの生糸を8本片撚りにした糸という意味です。また諸撚り糸の場合は「21中8本諸」と表記します。この生糸の太さは(21d×8本で)168デニールですが、精練工程を行って生糸の表面のセリシンを除去すると重量は25%程度減、糸の太さも128デニール前後になります。繭糸は2本のフィブロインというタンパク質繊維をセリシンという糊状の物質でコーティングして作られますがセリシンが取り除かれることで絹独特の美しい光沢と柔らかい風合いが得られます。「21中8本」の糸は7本の繭糸×撚り合わせ本数8=56本の繭糸で構成されていますが精練後の絹糸はセリシンが除かれたことで56×2=112本のフィブロインで構成されていることになります。またセリシンをどの程度残すかで必要とする糸の風合いを得ることが出来ます。完全にセリシンを落とした糸を本練りと言い精練の度合いによって7分練り・半練り・3分練りなどがあります。一方、繭の繊維を綿状にしてから糸にするのが紡績糸です。糸にする前の綿や繭の状態、糸の引き方などで色々な種類の糸があり番手表示もデニール・号・太・中・細で表す場合など糸によって違います。。

まとめ

タイトルは‟徹底解説!”なのに、徹底解説になっていないじゃないか!‟初心者にもわかりやすく”と書いてあるのに全然分かりやすくないではないか!とお𠮟りを受けそうですが…糸ってやっぱり、分かりにくいですよね~(笑)。繊維・糸・テキスタイルはどれも様々な原料から作られていて、それらの原料には異なる来歴や性質があり、繊維を取り出して糸にして織物や編物にして行く工程も千差万別です。だから分かりやすく無いのです(開き直りではなく分かりやすく書けない言い訳です)。ここで説明している内容は糸についての基礎的な知識です。できるだけ体系的に書いているので分からないことがあれば読み返してみて、さらに判らないところを調べていただければ糸やテキスタイルの基本的なことがより理解しやすくなると思います。

参考にした書籍・URL

 

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