ウール・カシミヤ・アルパカ‐素材を選んだ理由を語れるブランドになる

&CROP編集部の瀧澤です

秋冬の企画でウールや獣毛素材を検討するたびに、見積もりを聞いて驚く!?いやもう慣れっこで驚かないけど… 一応は聞いてみて最終的には代替素材を検討。最近ではそんなことが当たり前になっています。再生ウール・アクリル混・ウールライクポリエステル・T/Rと代替素材は色々あります。でもメーカーの企画としては本当は本物のバージンウールを使いたい。そんな時代だからこそ素材背景も含めて素材ごとの特徴や適性、調達リスクまで知った上でMDやプレスを説得できて顧客にも伝わる説得力のある付加価値の高い商品提案が求められていると思います。この記事は、獣毛素材の特性と価格高騰の背景をできるだけ丁寧に整理しながら、 さらに『素材を選んだ理由を語れるブランド』が実際に何をしているのか、 そして自社はどこから始められるのかを考えるキッカケになればと思って書きました。 知識として、事例として、企画のヒントとして‐角度を変えて読んでもらえる記事を目指しました。是非最後まで読んでいただいて理論武装して秋冬企画に臨んでください。(笑)

第1章:獣毛素材の基礎ーどんな動物の毛なのか?

ご存知の方も多いと思いますが、まずそれぞれの獣毛がどんな動物の毛か?という基本を整理します。また、ウール(羊毛)は羊の毛ですが羊と一言に言っても雑種も含めて1000種類以上(分類の仕方によっては3000種と記述もある)と言われ品種によって羊毛の特徴も異なります。この記事では最も流通量が多く一般的なメリノ種について述べています。まずは下の表を見てください。

素材名動物の種類主産地繊維の太さ(ミクロン)特徴
羊毛(メリノウール)

メリノ種の羊

オーストラリア・南アフリカ

16〜24μm

最も多く流通している羊毛

上質で白くクリンプが多くバルキー性が高い

カシミヤ

カシミヤヤギ

中国(内モンゴル)・モンゴル

13.5〜16.5μm

繊維が細く、柔軟で、独特のぬめりがある
スケールがウールよりも小さい

アルパカ

アルパカ

ペルー・ボリビア

20〜30μm

滑らか、弾力と光沢があり、こげ茶、灰色、淡茶、白、黒、混色などの毛色がある

モヘヤ

アンゴラヤギ

南アフリカ・トルコ・米国

25〜45μm

滑らかで白く美しい光沢を持つ紳士服地の定番
アンゴラ

アンゴラウサギ

中国(約90%)

10〜15μm

カシミヤより細く、繊維の中央に空洞があるため軽く保温性に優れる

※繊維の太さの記述には出典によって幅があります。

※「モヘヤ」はアンゴラヤギの毛、「アンゴラ」はアンゴラウサギの毛です。名前が紛らわしいので混同しやすく注意が必要です。

それぞれの獣毛の特徴をもう少し詳しく解説

メリノウール(オーストラリア・メリノ)

メリノウールは、繊維の太さ(ミクロン数)によって 用途・肌触り・価格帯が違います。 同じ『メリノウール使用』という表示でも、何μmの繊維かによって 風合いや肌触りが変わり、素肌着・中間着・セーター・コートなど向いているアイテムも異なります。

繊維の太さ

分類主な用途

15〜18μm

スーパー(エクストラ)ファインメリノ

最も繊維が細く肌着・ベースレイヤー・Tシャツ・薄手靴下など

19〜21μm

ファインメリノ

薄手のニット・中間着・靴下・一般衣料に広く使われる

22〜25μm

ストロングメリノ

アウター・ブランケット・厚手靴下・セーターなど

※メリノウールの太さによる分類や呼び方にも出典により差があり、更に細かく分類している場合もあるのであくまでも目安と考えてください

メリノ種(Merino)は、羊毛の生産を目的として品種改良が繰り返されてきた羊で、毛の繊細さが特に優れ、毛色が白く、体質も頑健で群れる性質が強く放牧に適した品種です。メリノ羊の原種は中央アジアに生息する野生種のアジアムフロンで西アジアから北アフリカを経由してイベリア半島(現在のスペイン)に持ち込まれ1世紀の初めころから土着の羊やローマ・アジア・北アフリカ系の羊と交配を繰り返して作出されました。

羊が家畜化される過程については下記のリンクもあわせて参照してください

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&CROP編集部の瀧澤です。&CROPの前身のクロップオザキ‐スタッフブログで「羊をめぐる冒険」というタイトルのシリーズ(vol1~vol9)を書きました。これは、アジアムフロンという野生の羊が1万年かけてメリノ種と世界中で[…]

17世紀にはスペイン王室がスペインからの輸出を禁止して独占、スペイン・メリノとして知られるようになり、後にオーストラリアで交配を繰り返して作出されたオーストラリア・メリノはあらゆる羊の中で毛の色が最も白く、長く、しなやかで丈夫で繊維が細く、縮れが多くバルキー性が高いことから衣料用として最適な羊として世界に広まりました。こうした経緯でこの羊は世界各地で広く飼われている最も産出量の多い品種です。

またニュージーランドで飼われているメリノはニュージーランドメリノと呼ばれ、より白くクリンプが大きくバルキー性に富んでいます。また、メリノ種は羊毛の生産に特化した毛用種ですが、羊毛の需要減少と食肉需要の高まりに合わせて、品種改良で肉付きを良くしたものが毛肉兼用種のメリノも増えています。

繊維の太(細)さと着用感について

羊毛や獣毛がチクチク感じるのは毛の繊維の先端が肌を刺激するためです。繊維が細いほど柔軟になるので肌への刺激が減り、また細い程繊維表面のスケール(ウロコ)も小さくなるので肌触りも滑らかになります。逆に太い程、肌への刺激がありチクチク感じます。繊維の太(細)さが分類や用途価格の基準になるのはこうした理由によります。

メリノのアンダーウェアがアウトドア市場を中心に急速に広まった理由

ニュージーランドの「icebreaker(アイスブレーカー)」は、現代のアウトドア用メリノウール製アンダーウェア(ベースレイヤー)を世界で初めて本格的に手掛けたブランドとして広く知られています。またスマートウール(Smartwool)もメリノウールのアンダーウェアやソックスをいち早く手掛け、「チクチクしないウール」の常識を作った2大ブランドとして有名になりました。アイスブレーカーとスマートウールが切り拓いたメリノベースレイヤー市場は、その後急速に広がりましたが、それには明確な理由があります。

「チクチクしない」の科学的根拠

従来「ウール=チクチクする」という認識が広く定着していました。しかしオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)とモナシュ大学の研究によって、チクチク感の原因は繊維の「種類」ではなく「太さ(直径)」にあることが明らかになりました。繊維が皮膚の神経終末を刺激するかどうかは、繊維が皮膚に触れたときにどれだけたわむかで決まり、細い繊維ほど曲がりやすく刺激しにくい。スーパーファインメリノ(17〜19μm)はこの点でヒトの毛髪(約50μm)と比べても格段に細く、素肌に直接触れても不快感がない理由がここにあります。

5つの機能が化繊ベースレイヤーにはない差別化になった

アウトドアウェアとして広まった背景には、単なる「柔らかさ」だけでなく、以下の5つの機能が化繊では代替できなかったことがあります。

ニュージーランド・オタゴ大学での研究では、100%メリノ、50/50%メリノ/ポリエステル、100%ポリエステルの3種を夏・冬の両条件でエクササイズ比較した結果、いずれの条件でもメリノを着用した被験者の心拍数・体熱量・発汗量が低く、快適性が高かったことが確認されています。

機能内容
温度調節体温と環境に応じて熱を保持または放出。「自分専用のエアコン」とも表現される
吸湿・速乾ジメジメ感を感じる前に繊維重量の最大35%の水分を吸収し、外に逃がす
消臭臭いの発生を他の繊維より大幅に抑制。靴下・ベースレイヤーでの研究で実証済み
防シワ・耐久性伸ばしても素早く元に戻る弾性。洗濯を繰り返しても型崩れ・色落ちしにくい
素肌への柔らかさスーパーファイン(17〜19μm)はカシミヤに匹敵する肌触り

特に「汗をかいてもにおわない」という点は化繊ベースレイヤーには実現できない特性で、複数日の縦走登山や旅行での連続着用という使い方を可能にし、「洗濯の手間が少ない」という実用的な価値も生まれました。

メリノベースレイヤーの個人的な着用感

著者もスマートウールのベースレイヤーを長年愛用しています。とは言ってもオジサンの小遣いでは買い替えられないのでツギハギして着つづけているのですが盛夏以外は手放せません。薄手メリノの5本指ソックスも、とくに夏場は死ぬほど履いて穴だらけで、何時も嫁に怒られますがそれでもやめられません。最近は背に腹は替えられずワークマンのメリノアンダーも着用する機会が増えました。穴が開こうが嫁に怒られようが一度着たらやめられない快適さという個人的な感想です…

 

その他の羊毛

先述の通りメリノ以外にも羊には多くの品種の羊があります。繊維長が比較的短い中毛種のハンプシャー・サウスダウン繊維が長く光沢のある長毛種のリンカーン・ボーダーレスターなど多くの種類の羊がいます。メリノ種にイギリス系の長毛種を交配して作られたコリデールは上質な羊毛と肉質を併せ持つ毛肉兼用種として世界中で広く飼われています。

カシミヤ(グレードと産地と偽装問題)

カシミヤという言葉はもともと「カシミール地方」に由来しています。カシミヤの使用が記録に残るのは紀元前3世紀のマウリヤ帝国にまで遡り、14世紀頃にカシミール地方の職人たちがその紡績・織物技術を完成させました。16世紀のムガル帝国ではアクバル皇帝の庇護のもとで、カシミールの職人たちが皇帝や貴族のために何ヶ月もかけて精緻なショールを織り上げ、最高の贈り物として扱われていました。

19世紀初頭、ナポレオンのエジプト遠征から持ち帰られたカシミヤショールがジョゼフィーヌ皇后の目に触れたことで、ヨーロッパの上流社会に一気に広まりました。カシミヤが「皇帝から女帝へ、そして世界へ」という経路で広がった素材であることは、その「高級感の根拠」が単なる風合いではなく長い歴史に裏打ちされていることを示しています。

なぜカシミヤはこれほど柔らかいのか

カシミヤの柔らかさには構造的な理由があります。顕微鏡で見ると、羊毛の表面が屋根瓦のように高く突出したスケール(うろこ状の構造)を持つのに対し、カシミヤの表面スケールは低く滑らかで、まるで竹筒を少し曲げたような形状をしています。このスケールの低さが、繊維が皮膚に触れたときの「ぬめり感」と「柔らかさ」の正体です。繊維同士が滑らかに滑り合うため、光の反射もウールとは異なる独特の上品な艶が生まれます。

繊維径は14〜16μmと細く(人の毛髪は約50〜70μm)、その細さゆえに皮膚の神経終末を刺激せず、ウールのようなチクチク感がほとんどありません。

カシミヤヤギ1頭が年間に生産できる使用可能な繊維量は150〜250グラム。加工後の純繊維は原料の半分以下になることが多く、セーター1枚を作るのに4〜6頭分の繊維が必要です。コートになると30〜40頭分の繊維が必要です。

グレードの差が「同じカシミヤ100%」を別物にする

実務上最も重要なのが、グレードによる品質の差です。

中国・モンゴル産のカシミヤヤギから得られる繊維径は14.5〜16.5μm、イラン産は17.5〜19.5μmと、産地によって繊維の太さが異なります。繊維が細いほど柔らかく軽く、当然価格も上がります。

さらに同じ産地内でも「どの部位の毛か」によってグレードが変わります。最上グレードは繊維径12〜14.5μmで、内モンゴルのアラシャン産やラダック地方のチャンタンギーヤギが特に細く、繊維長34〜42mmという高品質素材を生産しています。

イタリアンラグジュアリーブランドの頂点と言われるブルネロクチネリ(Brunello Cucinelli)がアラシャンのカシミヤにこだわり、世界最高品質カシミヤの約30%を一社で抑えていると言われる理由はここにあります。

偽カシミヤ・品質表示偽装問題

カシミヤは高価であるがゆえに、偽装・混入問題が繰り返し起きています。

混入に使われる素材としては、スーパーファインメリノウールやアクリル、ウール、さらには化学処理で柔らかく見せたヤク毛などが知られています。アルパカにクロリン処理、羊毛にシリコンコーティング、ラクダ毛に化学軟化剤、これらの処理によって素材をカシミヤのように見せる手口は、専門家でも肉眼では判別が難しい場合もあります。

「カシミヤ100%」と表示された製品の中に、実際のカシミヤ混率が5%にも満たないものもあり、問題の根本には「カシミヤという名前のブランド力」と「本物の希少性による価格」のギャップがあります。市場がカシミヤに高い価格を払う意欲を持ち続ける限り、低品質・偽装品が入り込む余地はなくならないと言えます。

仕入れる側・企画する側にとっても「このカシミヤは何μmか、どこの産地か、脱毛率はどの水準か」を問える関係性と知識を持っているかどうかが大切になってきます。

モヘヤ(モヘア)

モヘヤはトルコ原産のアンゴラヤギの獣毛繊維です。もともとはチベットやヒマラヤの山岳地帯に生息していたアンゴラ山羊が遊牧民によってトルコに運ばれて家畜化・改良され後に世界に広がりました。現在は南アフリカと米国のテキサス州が主要な産地となっています。羊毛やカシミヤに較べてスケールが少なく繊維表面が平滑なため光を反射しやすいことで独特の光沢があります。高級紳士服地の素材としても良く知られている獣毛繊維です。子ヤギの毛(キッドモヘヤ)はとくに繊維径が細くとても柔らかいので高級素材として人気があります。後述するアンゴラウサギとアンゴラヤギは名称が同じでよく混同されますがアンゴラヤギ=モヘヤ・アンゴラウサギ=アンゴラと覚えておきましょう。

アルパカ(なめらかでチクチクしない)

アルパカはペルー南部・ボリビア・アルゼンチン北部の湿潤高原地帯で放牧されて来た、南アメリカ大陸原産のラクダ科の家畜です。主にその獣毛を利用するためにインカ帝国時代から飼育されてきたとされています。スケール(繊維表面の鱗状構造)が少なくない毛は滑らかで皮膚への刺激が少なく弾力と光沢があります。またラノリン(羊毛脂)を含まないのでアレルギーが起こりにくい獣毛繊維です。こげ茶、灰色、淡茶、白、黒、混色など色々な毛の色があり、ふわふわでもこもこしている「ワカイヤ(Huacaya)」絹のような光沢があり希少な「スリ(Suri)」の2種類の毛があります。ただし市場に出回るほとんどは「ワカイヤ」で羊毛と混紡して使われることも多い素材です。また生後初めて刈り取った毛は「ベビーアルパカ」と呼ばれ、さらにそのベビーアルパカの毛を、専門の職人が選別した最高級の毛は「ロイヤルベビーアルパカ」という全体の1%ほどしかない希少価値の高い繊維素材です。

アンゴラ

アンゴラウサギはカイウサギの品種のひとつで全身を長い被毛で被われた長毛種。採毛を目的とした毛用種として改良が重ねられ、世界各国で独自の品種が作られました。起源と原産地については諸説があり定かではありません。アンゴラウサギの毛は非常に細く(10〜15μm)、軽さと保温性に優れた非常に手触りの柔らかい素材です。タテ糸にウールを使い緯糸にアンゴラ糸を使ったコート生地は、以前は冬物の企画では必ず登場する必須アイテムでしたが、2010年代に中国で生きたウサギを拘束して毛をむしり取る実態が明らかになり。Hugo Boss・Gap・Calvin Klein・Tommy Hilfiger・H&MInditexなど複数の大手アパレルメーカーが取り扱いを停止・制限したことから現在は「使わない選択をするブランドが多い素材」として認識され、代替としてモヘヤやアルパカへの移行が進みました。本来は換毛期を見極めてひっぱってみて抜ける毛から抜いてゆき、それを1週間くらい間隔を空けて数回に分けて繰り返す方法で行われてきたために手間がかかり生産性が悪く高価な獣毛素材でした。現在は世界のアンゴラウールの90%が中国で生産されているとますが、最近ではアンゴラを使った素材の提案そのものがほとんどなくなった印象があります。

その他の獣毛

これまで紹介してきた獣毛以外にもキャメル(ラクダ)やアルパカと同属で南米産のリャマ・ビキューナペルー原産でアルゼンチンに野生の状態で棲息し毛の長さが250mmにも達するグァナコなども知られています。さらに余談ですが飼っている猫の毛を集めて糸を紡いでいる人もいるので自分でアンゴラウサギを飼育して毛を集めて素材を作るのも趣味としては面白いかも知れません。

第2章:なぜ、こんなに高くなっているのか?

 

需要側:需要拡大と供給制約

現在の素材価格の高騰は「景気が悪くなれば価格が下がる」という単純な話ではなくなっています。需要が3方向から同時に拡大し、供給はそれぞれ別の理由で絞られているという構造が、価格を下がりにくくしています。

3つの市場が同時に拡大

① アジア富裕層・中間層の拡大

中国・韓国・日本を中心に、高級カシミヤ消費量は2023年に前年比15%増加。かつて欧米が独占していた高級獣毛素材の需要がアジア全体で急拡大しており、世界の需給バランスに影響を与えています。

② スーパーファインメリノのアクティブ・アウトドア市場での台頭

従来「秋冬フォーマル・ドレス向け」だったメリノウールが、アウトドアウェア・ベースレイヤー市場で急速に採用が広がっています。IcebreakerやSmartWoolが先導し、15.5〜18.5μmのスーパーファインメリノが「天然素材の機能ウェア」として確立されました。

吸湿・速乾・抗菌・消臭・温度調節という特性は、化繊ベースレイヤーにはない「汗をかいてもにおわない」という機能で、最近ではアウトドアだけでなくトラベルウェア・日常着などのアパレル製品にも広がってさらに需要が増える傾向にあります。

ここで、同じ「メリノウール100%」という表示で、まったく異なる二つの事例について見ておきたいと思います。

ワークマンは1,900円前後のメリノウールインナーを展開しています。作業服市場で培った大量発注力と広告費をほぼかけない店舗モデルが背景にありますが、メリノ100%でこの価格帯は採算上の疑問が残ります。集客のための戦略的な価格設定である可能性も高く、一般のアパレルブランドが参考にできるコスト構造ではないと思います。

一方、アイスブレーカーは農場の選定から始まってZQ認証を取得したニュージーランドの牧場と直接契約し、動物福祉・土地管理・繊維品質を農場レベルで担保した上で素材を調達しています。1.5~2万円前後という価格は、その調達コストを積み上げた結果と言えます。

同じ「メリノ100%」でも、何に対して価格をつけているかがまったく違い、ワークマンの価格は需要の裾野の広がりを示す一方でメリノという言葉が希薄化するリスクも映しています。アパレルが素材を選定する際にはスペックの数字だけではなく、その素材をどこから、どのような文脈で調達しているかも重要です。

③ サステナブル素材としての再評価

合成繊維からの脱却・天然素材回帰の流れのなかで、ウール・カシミヤ・アルパカは「環境配慮素材」として改めて評価されています。高級ブランドではLoro Pianaのトレーサブルカシミヤのように、産地・調達の透明性を競う動きも広がっています。

供給側:産地(素材)ごとの異なる制約

①ウール(メリノ)の供給構造

オーストラリアのウール市場の東部指標価格(EMI)は2023〜24年シーズンに約11%下落し2014〜15年以来の低水準となりました。ただし問題は中長期の供給構造にあります。食肉需要の高まりを受け、生産者がメリノ種から食肉向け品種へシフトする動きが続いており、ウール専用の生産基盤が縮小傾向です。

加えて円安による輸入コスト上昇が日本国内での体感価格を押し上げており、指標価格の動きとは別に現場での調達コストは高止まりしています。

②カシミヤの供給構造

原料カシミヤの価格はコロナ禍で一時急落(2019年の約38USD/kgから2020年に24〜27USD/kgへ)した後、2022〜23年シーズンには内モンゴルの厳冬による春の毛刈り遅延で約28%急騰しました。2022年には中国が国内価格安定のため一時輸出制限を行い、3か月で世界価格が12%上昇する局面もありました。

そして根本的な問題はカシミヤヤギの過放牧による産地環境の悪化です。需要増でヤギの頭数が急増した結果、モンゴル・内モンゴルの草原で砂漠化が進んでいます。ヤギは草の根まで食べるため植生が回復しにくく、供給の不安定化が続く悪循環になっています。

③アルパカの供給構造

ペルー・ボリビアにほぼ産地が固定されており、急増産が難しい素材です。品質の高いロイヤルアルパカ(繊維径18μm以下)はさらに希少で世界全体の流通量が限られています。

景気の変動だけが原因ではない

これまで見てきた需要と供給の変化は、どちらも景気の変動とは別の要因です。

需要側では、アジア富裕層の台頭、アウトドア・アクティブ市場の通年化、サステナブル調達への要求という3つの要因。これらは景気後退で一時的に縮小することはあっても、方向が逆転するとは考えにくいでしょう。

供給側ではカシミヤの過放牧による砂漠化、ウール生産基盤の食肉転換による縮小、アルパカの産地が固定していること。これらは需要が落ちても解消しません。むしろ生産基盤が縮小した状態で需要が回復すれば、価格は急激に跳ね上がります。

つまり現在の価格高騰は、「景気が落ち着けばそのうち下がる」という単純な話ではありません。獣毛素材の価格は、今後も高止まりもしくは上昇を前提に企画を組む必要があります。

このことはアパレルの企画にとってどんな影響があるのでしょうか。素材コストが下がることはもうあまり期待できません。下がらない前提で、素材の価値をどう伝え、どう価格に転嫁してゆくのか?あるいは素材の選択そのものをどう組み替えるかえてゆくのかを第3章以降で考えて行きたいと思います。

第3章:素材を知ることで企画の解像度を上げる

第2章で見てきたように、獣毛素材の価格は構造的に高止まりすると考えられます。そうした状況でアパレル企画としてはどうしたら良いのか?一つは、素材についての知識を深めることです。素材を知ることはコスト交渉の武器になるだけでなく、商品を企画する際の根拠になり、売り場での言葉になります。

 カシミヤのグレードは表示や価格だけでは見えない

「カシミヤ」という表示が製品の価値を保証している訳ではありません。

第1章で触れたように、カシミヤには繊維径(繊維の太さ)によって明確にグレードの差があります。内モンゴル・アラシャン産の12〜14.5μmと、イラン産の17.5〜19.5μmでは、肌触りも保温性も異なりますが、製品表示はどちらも「カシミヤ100%」です。

さらに混用率の問題もあります。カシミヤの含有率が数%であっても「カシミヤブレンド」「カシミヤ混」と表示することができるので、カシミヤが何パーセント入っているかを表示する義務はありません。おそらく、カシミヤの混用率が10%以上の場合は、メーカー側でも混用率をウール90%カシミヤ10%のように表示していると思われます。ただ、表記が無く「カシミヤブレンド」「カシミヤ混」となっている場合はいわゆる「カシミヤちょび混」商品の可能性も高く、それを知った上であえて選ぶのと知らずに選ぶのとではだいぶ意味合いが違って来ると思います。

カシミヤを使うなら、産地・繊維径・混率を自社で把握し、その情報を自社ブランドの言葉に変換できるかどうかが問われます。「カシミヤを使っている」ではなく、「どのカシミヤを、なぜ使っているか」を語れることが、価格の説得力になります。


メリノのミクロン数は「スペック」ではなく「企画の根拠」になる

メリノウールの繊維径(ミクロン数)は、単なる技術仕様ではなく、企画の方向性を決める軸になります。

17.5μm以下のエクストラファインは素肌着・インナー向け。18.5μm前後のスーパーファインはベースレイヤーや軽量ニット向け。20μm台になるとアウター寄りのウールとしての要素が強くなります。同じ「メリノ100%」でも、ミクロン数が違えば着用シーンやターゲット・価格帯などが変わってきます。

ワークマンとアイスブレーカーやスマートウールのようなメーカーの価格差は、ミクロン数や調達背景の差でもあります。素材背景や繊維径を把握した上で、「なぜこの価格なのか」「なぜこの素材を使うのか」を社内でも取引先にも明確に説明できるかが問われます。逆に把握していなければ、根拠を持って説得することは難しく顧客への訴求力も無くなります。


混用率が持つ意味

「ウール30%」と「ウール70%」では、風合いも機能も価格も違います。しかし混用率の数字は、それだけで素材の価値を伝えている訳ではありません。ポリエステルとの混紡には耐久性やコストのバランスをとる意味がありますがウール本来の吸湿性や温度調節機能・消臭機能は多少犠牲になります。ナイロンとの混紡は強度を補い、アクティブウェアには有効な選択です。カシミヤとシルクとの混紡はカシミヤの柔らかさと温かさ、上質な光沢とドレープ性を併せ持ったラグジュアリーの素材表現を可能にします。

企画段階で何のために混紡や交織の素材を使用しているのかを明確にしておくことは、素材の選定とマーケティングの一貫性を保つ上でも欠かせません。


 再生ウールという選択肢

価格高騰と環境負荷への関心が重なる中で、再生ウール(リサイクルウール)が改めて注目されています。「改めて」というのは、日本にはすでに長い再生ウールの歴史があるからです。

尾州では明治25年(1892年)頃から輸入羊毛を使った毛織物生産が始まりましたが、日露戦争や第一次世界大戦の勃発で海外からの羊毛輸入が途絶えると、毛織物はいっそう貴重なものとなり、一度使った毛織物からもう一度糸を再生する技術が発展しました。こうして生まれた再生羊毛は「毛七(けしち)」と呼ばれて来ました。ウール70%・その他繊維30%の混紡比率からその名がつき、尾州産地では反毛(はんもう)と呼ばれる繊維再生のサイクルが確立されていきました。「サステナブル」という言葉が生まれる以前から、繊維素材を無駄なく使い切るための循環の仕組みが産地の中に内在して来たのです。

この技術を現代のファッション素材に再定義したのが、瀧定名古屋が企画開発した「RE:NEWOOL®(リニュール)」です。不要になった衣類や裁断クズを反毛加工した原料を使用し、仕分け・反毛・紡績・織・編・仕上げまでのすべての工程を尾州産地で行うウール混紡素材で、廃棄衣料の色を活かして新しい色糸を作るため、生産途中でほとんど染色を必要としない利点もあります。また三陽商会の国内工場から出る年間5トン超のウール端材をリニュール向けに供給する取り組みも始まっていて、産地と大手アパレルが連携した循環も具体的になっています。また国際的にも、Stella McCartneyがバージンカシミヤを全廃、イタリア・プラート産のRe.Verso™リサイクルカシミヤに切り替えた事例が知られています。

素材としては、「再生ウールでどこまでの望んでいる品質が出せるか」も重要です。繊維長が短くなるため強度や風合いに限界はありますが、バージンウールや他の繊維素材と組み合わせることで様々な用途へ利用が広まっています。そして「再生素材を使っている」ことがブランドの姿勢を示す時代になっています。バージン素材の価格高騰が続く中、足元にある技術と産地をもう一度見直すことで、企画の選択肢が広がるかもしれません。

 素材の知識は、ブランドの言葉になる

素材を深く知ることは、仕入れ先との交渉や素材の選定だけでなく商品に新しい価値を与え、価格設定の根拠の根拠にもなります。「このカシミヤは産地と繊維径が違う」「バージンウールではなく再生ウールを使うコスト以外の理由」「なぜ合成繊維との混紡素材を使うのか」そうした内容をブランドの言葉で語れるかどうかで商品の見え方も、売り場での説得力も全く違ってきます。素材の知識は、スペックの確認作業ではなく、ブランドの姿勢を言葉にするための土台になります。

次の第4章では、こうした素材の特性や知識を実際にブランドの優位性に変えている8つの事例を見ていきます。それぞれのアプローチは異なりますが「素材について、自分たちの言葉で語れる」という共通点を読み取ることが出来ます。

第4章:素材で語るブランド(8つのパターン)

なぜ彼らの選択は「説得力」を持つのか

最近では素材の特徴やメリット・デメリットを顧客に伝えているブランドは多いですが、その伝え方は様々です。なぜその素材を使っているのかを自分たちの言葉で説明できるブランドは、顧客への届き方がまるで違います。

以下で紹介する8つのブランドは、業態も規模も国も違いますが、素材の選択に明確な「理由」があって、その理由が企業やブランドの姿勢と一致しています。そのことがこれらのブランドに共通する「説得力」につながっています。

ものづくりの哲学×産地の技術——無印良品

無印良品が素材にこだわるのは、サステナブルが流行したからではありません。「わけあって、安い」という創業からの価値観が出発点にあります。素材の品質を落とさずにコストを下げるには、産地と直接向き合うしかない。その姿勢が、愛知県一宮・大阪府泉大津といった国内産地との長期的な関係につながっています。

素材の良さを「シンプルに、正直に伝える」というブランドの言語と、産地の技術が一致したとき、商品は説得力を持ちます。

データで測定→論理的に切り替え——Stella McCartney

Stella McCartneyはバージンカシミヤの環境負荷を数値で測定し、その結果をもとにRe.Verso™リサイクルカシミヤへの全面切り替えを決めました。感情や印象ではなく、データを根拠にした意思決定です。

「環境に良いから使う」ではなく「数値で確認したから切り替えた」という説明は、ラグジュアリー市場の顧客にも通じる論理です。素材の切り替えを、ブランドの知性として見せることに成功しています。 

回収→再生のループをビジネスに——Eileen Fisher

Eileen Fisherは2009年から自社製品の買い取りプログラム「Renew」を運営しています。累計200万点以上を回収・再生してきた実績は、「サステナブルを謳う」ブランドと「サステナブルを実装する」ブランドの差を示しています。

重要なのは、これがCSR活動ではなくビジネスとして成立している点です。回収した衣類を再生・再販することで収益を上げる仕組みを作ったことで、継続性が生まれました。

 農場トレーサビリティを競争優位に——Icebreaker・Smartwool・Allbirds

この3ブランドに共通するのは、素材の調達を「農場レベル」まで遡って開示していることです。ZQやZQRXといった認証制度を通じて、どの農場で育てられた羊のウールかを消費者が確認できる仕組みを持っています。

「どこで作られたか」から「誰が、どのように育てたか」まで情報を開示することで、価格の根拠が明確になります。高価格帯で戦うブランドにとって、トレーサビリティは差別化の武器になります。

課題も正直に語りながら取り組む——Patagonia

Patagoniaが信頼を得てきた理由の一つは、できていないことも開示することです。環境負荷の高い素材を使っている製品については、その理由と改善への取り組みを同時に説明します。

「完璧ではないが、正直に向き合っている」という姿勢は、消費者との長期的な信頼関係を作ります。素材について語るとき、強みだけでなく課題も語れるブランドは強い。

希少素材の品質競争を物語にする——Brunello Cucinelli

Brunello Cucinelliは内モンゴル・アラシャン産の最高グレードカシミヤを使い、その産地との長期契約を公言しています。加えて、創業者が再生させたイタリア・ソロメオの村の物語が、ブランドの世界観を補強しています。

素材の品質を「スペック」として伝えるのではなく、「誰が、どこで、どのように作ったか」という物語として語ること。それがラグジュアリー市場での価格設定を支えています。

ブロックチェーンで信頼を証明する——Loro Piana

Loro PianaはQRコードを使って、製品から農場まで完全にトレースできる仕組みを導入しています。「信頼してください」と言うのではなく、「確認してください」と言える状態を作ることが、ラグジュアリー市場での差別化になっています。

余剰ニットを解体・再生した「LORO」コレクションは、最高級素材のブランドが再生素材にも取り組むという、新しいメッセージにもなっています。


 カーボン見える化で業界標準を変える——Allbirds

Allbirdsは全製品にカーボンフットプリントを表示し、さらにその算出方法をオープンソースとして公開しました。自社の競争優位を業界全体の標準にしようとする発想は、素材の透明性を「個社の取り組み」から「業界の規範」へ引き上げようとするものです。

数値を開示することは、自社への厳しい目線を受け入れることでもあります。その覚悟が、ブランドへの信頼につながっています。

 8つのパターンを貫く共通点

業態も規模も異なる8つのブランドですが、一つだけ共通していることがあります。それは、素材の選択を「コストの問題」として扱っていないという点です。

なぜその素材を選ぶのか。どこから調達するのか。何を犠牲にして、何を守るのか。その問いに向き合い、自分たちの言葉で答えを持っているブランドには素材を語る言葉に「説得力」があります。

第5章では、この問いを自社に置き換えるための考え方を整理してみました。

第5章:自社のパターンを創る問いからはじめる

第4章で見た8つのブランドも、はじめから明確な戦略を持っていたわけではないはずです。おそらくは「自分たちは何のためにこの素材を使うのか」という問いに向き合い続けた結果として、それぞれのパターンが生まれてきたのだと思います。

この章では、その問いを自社に置き換えるための5つの視点を整理します。

自社はどのポジションで素材を語るのか

まず確認すべきは、自社のブランドポジションと素材の関係です。高価格帯で品質を訴求するブランドなのか、コストパフォーマンスを強みにするブランドなのか、サステナブルな調達を差別化軸にするブランドなのか。素材の語り方は、ポジションによって変わります。

同じメリノウールでも、トレーサビリティを前面に出すブランドと、価格の手頃さを訴求するブランドでは、伝えるべき内容が全く異なります。「良い素材を使っている」という曖昧な言葉ではなく、自社のポジションに合った素材の語り方を持つことが出発点です。

 今使っている素材を、本当に説明できますか

最近ではあまりしなくなりましたが、素材を本当に知っているデザイナーたちは、産地や加工所に頻繁に足を運んでいました。原料を糸を実際の加工工程を見て、可能なら現場で手も動かして生地が仕上がる瞬間にも立ち会っていた。そうして初めて、素材が「スペックや数値」ではなく自分のものになる体験をしていました。

第4章で紹介した8つのブランドに共通しているのも、おそらくその感覚です。Brunello Cucinelliがアラシャン産カシミヤを語るとき、Icebreakerがニュージーランドの農場を語るとき、その言葉の背後には産地との長年の深い関係があります。スペックは、それを証明してくれる証です。

では、その確信はどこから生まれるのか。

素材の現場には、数値に変換されない情報がたくさんあります。その産地の気候が繊維の品質にどう影響しているか。職人がどんな判断基準で素材を選んでいるか。どの工程に時間と手間がかかっていて、それがなぜ必要なのか。そうした文脈を知っているかどうかが、単なる素材の説明と「素材を語れる」ことを分ける気がします。

今は産地に足を運ばなくても情報が手に入る時代です。でもだから、誰もが同じスペックを同じ言葉で語っています。「産地はモンゴル、繊維径は14μm、グレードはA」でも、その情報は競合も持っています。

自社の言葉で素材を語れるブランドとそうでないブランドの差は、つまるところ「その素材について、自分たちにしか言えないことがあるかどうか」だと思います。スペックを把握することは必要、でもそれは出発点です。素材のストーリーは、その素材が生み出される現場と素材をデザインに落とし込むあなたの接点からしか生まれない。産地を訪ねる、作り手と継続的な関係を持つ素材に触れる機会を意識的に作ることは最も重要なことだと思います。

 価格高騰にどう向き合うか——3つの選択肢

バージン素材の価格が高止まりする中、大きく3つの選択肢があります。

一つ目は、価格上昇を受け入れて価格に転嫁することです。素材の価値をきちんと説明できれば、値上げはブランドの信頼を損なうどころか、品質への姿勢を示す機会になります。

二つ目は、素材の構成を見直すことです。混率の調整、再生素材の導入、産地の変更——コストを下げながら品質と訴求力を維持する方法は複数あります。ただし、変更の理由を正直に伝えることが前提です。

三つ目は、素材そのものを競争優位の軸に据えることです。価格競争から距離を置き、「なぜこの素材か」を語れるブランドになる。第4章の8ブランドが示したのは、この方向性です。どの選択肢も、「素材について自分たちの言葉を持つ」ことなしには機能しません。

 取引先・消費者・社内、誰に向けて語るのか

素材の語り方は、相手によって変わります。

生地商社や仕入先との交渉では、繊維径・混率・認証といった具体的な数値と根拠が求められます。消費者に向けては、数値よりも「なぜこの素材なのか」という文脈とストーリーが有効です。社内の承認プロセスでは、コストと品質のバランスを示すデータが説得材料になります。

同じ素材の知識を持ちながら、相手に応じて言葉を変えて語れるスキルが求められます。

小さく始めて、続けられる形にする

素材戦略を一度に大きく変える必要はありません。まず一つのアイテムで試してみることが、現実的な始め方です。

たとえば定番のウールニットを一型だけ、産地と繊維径を明記した形で販売してみる。再生ウールを一素材だけ試験的に導入してみる。その反応を見ながら、自社のパターンを少しずつ育てていく。

重要なのは、始めた取り組みを継続し、言葉にして発信し続けることです。素材の信頼は一度の告知では作れません。同じ姿勢を持ち続けることで、じわじわとブランドの輪郭が定まっていきます。

自社の素材戦略を点検するチェックリスト

調達・仕入れについて

  • 仕入れているウール・カシミヤ・アルパカの産地・繊維径・混率を把握しているか
  • 仕入先に「なぜこの産地か」「なぜこのグレードか」を説明してもらえる関係があるか
  • 素材価格が変動している理由を、自分の言葉で社内に説明できるか

企画・設計について

  • 素材の選択に「コスト以外の理由」があるか
  • 混率や素材構成を変更する際、その理由を顧客に率直に伝えられるか
  • 再生素材・代替素材を検討した場合に最終的に使う素材を選んだ理由は

伝える力について

  • 「なぜこの素材か」を、社内・取引先・顧客それぞれに向けて語れるか
  • 素材の強みだけでなく、限界や課題も語れるか
  • 自社にしか言えない素材の言葉を、一つでも持っているか

戦略の方向性について

  • 素材コストが下がることを前提にした企画になっていないか
  • 自社のポジションに合った素材の語り方を、チームで共有できているか

そして最後の重要な問い

この記事を読んで、自分の目で産地や生産現場を確認したいと思った素材がありましたか?

まとめ

秋冬の企画シーズンになるたびに獣毛素材の見積もりに驚く。この記事はそんな現場の実感から書き始めました。でも読み進めていただいた方にはわかっていただけたと思いますが、需要は3方向から拡大し、供給は産地ごとに別の理由で絞られている。その構造は景気の波とは別のところで動いて、加えて円安がデフォルトになり。素材コストが下がるのを待っていたらもう何も作れません。だから必要なのは、価格に対してどう守るかではなく、素材のストーリーをどう語り、どう企画に落とし込むかです。

第4章で紹介した8つのブランドは、規模も業態も異なります。しかし共通しているのは、素材の選択に「自分たちの理由」を持っていること、それを自分たちの言葉で語れるということでした。その言葉は、産地との長い関係から生まれていたり、データによる意思決定から生まれていたり、現場に足を運んだ体験から生まれていたりします。獣毛素材は、知れば知るほど語れることが増える素材でもあります。繊維の構造、産地の気候、職人の判断、再生の技術…そのどれもが、商品の価値を伝える言葉になり得ますが、それは一朝一夕に得られるものではないと思っています。まずはぜひ一番気になる素材の産地に足を運んでみることから始めて見てください。さて、産地への出張を申請するための理論武装は完璧ですか?

 

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