テキスタイルのデザインに必要なこと

&CROP編集部の瀧澤です

今回はテキスタイルデザインについてです。テキスタイル(TEXTILE)って何なのか?あまり興味のない人にとってはテキスタイル?…なに?って 感じかもしれません。textileはgoogle翻訳  →  繊維 fiber ・織物fabric   deepl翻訳    → テキスタイル・織物・繊維    あまり釈然としないのでもう少し調べてみました。textileを分解するとtext と ileに分けられます。ileは形容詞につく語尾で ~しやすい、~できる、~に適した、というような状態や性質を表しています。ではtextはと言うと、ご存じのようにテキスト・文章をあらわす名詞なのですがtextの語源はラテン語のtexere(織る・編む・組織する)と言う言葉に由来していて「編纂されたもの」と言う意味があります。織られるもの・編まれるもの・構築されるもの…繊維を用いて織ったり、編んだりして組織を作って構築されたものがテキスタイル!どうです?テキスタイルのイメージが湧いて来るでしょう。えっ!ますます分からなくなった って(笑)… ?    

テキスタイルとは(ファブリックとの違いは?)

テキスタイルという言葉はもともと広く織物を指していました。現在では繊維を用いた織物・編み物から不織布まで様々な方法で作られた布や生地を広くテキスタイルと呼んでいます。テキスタイルと並んで繊維製品はファブリック(fabric)と呼ばれることも多いのですがあえてテキスタイルとファブリックの違いを言うと、服やインテリア等の布製品をファブリックと呼び、素材となる生地や布をテキスタイルと呼ぶことが多いようです。

テキスタイルのデザイン

テキスタイルデザインとは何でしょうか? 一般に良く知られているのは生地素材にプリントなどで表現する図案を考案することがテキスタイルデザインで、センスの良い柄や図案をデザインできる人が優れたテキスタイルデザイナーだと多くの人が思っていると思います。もちろん図案や柄は人の視覚に直接訴えることが出来るテキスタイルの重要な一要素です。しかし図案のデザインはテキスタイルを構成する非常に沢山の要素の一つに過ぎません。優れたテキスタイルのデザインとは原料から仕上げまでのすべての要素を把握しながら目的に応じたテキスタイルの表現を構築することです。そのためは素材や組織・染色・仕上げ等に関する巾広い知識や経験が必要になります。そして個人の染織家であれば材料を集め、糸にして、染めて、織って…と全ての工程を自分自身で行いたいと思うかもしれません。しかし商業ベースのテキスタイルでは原料・糸・織り・編み・染色・仕上げなどの工程に多くの人の手が関わって商品になることを理解して、顧客や現場で関わる人たちとコミュニケーションをしながら意匠を現実化していく工程がとても重要になります。

テキスタイルを構成する要素

素材

テキスタイルを構成している主な素材は繊維です。繊維をメチャクチャ簡単に言うと細くて長い個体の総称です。細くて長いことで撚り合わせて糸にして織りや編みの組織を作ったり、絡みあわせてシート状にしたりして布状にすることでテキスタイルが作られます。そして私たちが利用できる繊維には有史以前から人類が利用してきた天然繊維 ※1) と19世紀以降に人工的につくられるようになった化学繊維(合成繊維)※2)があります。天然繊維や化学繊維については脚注のコラムも合わせて参考にしてください。

テクスチャー

テクスチャー(texture)はテキスタイルの表現でとても良く使われる言葉です。食品では口当たり、歯ごたえ、のど越しなどをテクスチャーと言ったりします。テキスタイルでは織物の織り方や組織※3)をテクスチャーとそのまま呼ぶこともありますが日本語では質感と言う言葉が個人的には最も近い気がします。テクスチャーにはテキスタイルの色や光沢感の様な見た目の質感と触れたときに感じる硬い、柔らかい、ザラザラする、ツルツルするなどの肌触り(風合)や落ち感と呼ばれるテキスタイル独特の表現も含まれます。そしてテクスチャーは素材の特性や組み合わせ・撚糸や糸使い・組織・染色方法や様々な加工方法・仕上げ方法…と言った様に多くの要素が組み合わさることによって決まり、その組み合わせは無限にあると言えます。

染色

染色はテキスタイルの見た目のイメージを決める重要な要素です。素材や染料の種類、染色方法によって素材のイメージを変えることが出来ます。※4) また染色する素材の状態(原着・スライバー・糸・布・)によっても表現や風合いが変化します。

柄はテキスタイルデザインではビジュアルに訴えて個性を表現できる最も注目される要素です。テキスタイルの柄の表現には先染めによるチェック・ストライプを始め、柄を織り(編み)出すジャカード(紋織物)手法や捺染(プリント)よる方法があります。またプリントにも染料プリント・顔料プリント・マシンプリント・インクジェット・手捺染など表現や生産条件によってさまざまな技法があります。プリント以外にも引き染め、絣、手描き友禅、型染、絞り染め、ろうけつ染め、注染のような伝統的な技法も数多くあります。また世界の各地にはジャカード機が発明されるよりも遥かに古くからカーペットなどの織物に用いられて来た綴れ織りなどの表現方法もあります。これらの技法の詳細について触れると膨大になるのでいずれ機会があれば個別に紹介したいと思います。

仕上げ加工

テキスタイルは仕上げ加工によって大きく表情が変わる場合があります。工業的に生産されたテキスタイルは整理加工と言う工程を経てから検品されて納品されます。大手の染色・プリント工場のように染色から仕上げまで一貫で行う場合と整理仕上げ工程を専門に行う整理仕上げ工場に仕上げ工程を依頼する場合があり。整理仕上げ工程ではテキスタイルの巾を揃えてテンションを整えたり求められる風合いに仕上げるために柔軟剤などの樹脂を施して仕上げをしたり、起毛加工・撥水加工や防汚加工の様な機能性を付加することもあります。また洗いざらしの雰囲気を出すためにシワをつけたり天日乾燥などで仕上げをすることもあり、仕上げ方法によってテキスタイルの表現が決まることもある重要な工程です。仕上げ加工についてもいずれ別項で紹介出来ればと思います。

天然繊維 ※1) については下記の記事も参考にしてください

天然繊維とは

化学繊維※2)については下記の記事も参考にしてください

化学繊維とは

織物の組織※3)については下記の記事も参考にしてください

布帛・織物とは

染色※4)については下記の記事も参考にしてください 

【テキスタイル初心者必見】染色の仕組みと代表的な染料9種類を分かりやすく解説

 

日本の代表的なテキスタイルデザイナーの紹介

粟辻 博(あわつじ ひろし)

 1929生 京都府出身 京都市立芸術大学  カネボウ勤務の傍らテキスタイルや油絵の制作を行う。1955~フリーランス、 1966フジエテキスタイルデザイン主任、  1988~多摩美術大学教授。

粟辻 博google検索

新井 淳一(あらい じゅんいち)

1932-2017 桐生出身 2004年にニューヨークのファッション工科大学の講演でジャック・レノア・ラーセンによって「今日のテキスタイルデザインに最も大きな影響を与えた人物」と評された。新井のテキスタイル作品はニューヨーク近代美術館をはじめ多くの博物館・美術館に永久所蔵されている。

新井淳一google検索

皆川魔鬼子(みながわ まきこ)

京都府出身 京都市立芸術大学  1971年から三宅デザイン事務所でテキスタイル・ディレクターを務める。2002~多摩美術大学教授・客員教授、2013~京都市立芸術大学客員教授。ファッションデザインの世界にテキスタイルの新たな存在を確立するきっかけをつくって来た。受賞歴多数、著書「テクスチャー」講談社1987。

皆川魔鬼子さん

 

石本藤雄 (いしもと ふじお)

1941生 愛媛県出身 東京藝術大学 1964市田㈱入社 デイッセンブレ社を経て1974よりマリメッコのデザイナーとして採用される。2006マリメッコを定年退職、在職中の32年間に400点に及ぶ作品を手がける。2020~愛媛県松山市にてギャラリー・ショップ・オフィスを兼ねた「ムスタキビ・コルメ」をオープン。

fujio-ishimoto.com

脇坂 克二(わきさか かつじ)

1944 生 京都府出身 1968~マリメッコデザイナー 1976~1976ニューヨーク・ラーセン社でテキスタイルデザイナー。2005~2008京都造形芸術大学客員教授。SOUSOUテキスタイルデザイナー。

テキスタイルデザイナー脇坂克二

須藤 玲子(すどう れいこ)

1953 生 茨城県出身 武蔵野美術大学短期大学 同大学の工芸工業デザイン学科助手を経て株式会社「NUNO」設立に参加、同社取締役デザインディレクター。東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン領域名誉教授。2016~無印良品のデザインアドバイザリーボード。毎日デザイン賞・JID部門賞・他受賞歴多数、ニューヨーク近代美術館・メトロポリタン美術館・ボストン美術館・東京国立近代美術館を始め博物館・美術館の所蔵作品多数。

nuno.com

皆川 明(みながわ あきら)

1967 生 東京都出身 文化服装学院  1989「P・J・C」(大西和子)入社。1995ブランド「ミナ(minä)」 を立ち上げ、2003「ミナ・ペルホネン(minä perhonen)」に名称を変更。

2004~パリ・コレクション参加。2008~多摩美術大学客員教授、2022~同大学教授。

mina-perhonen

鈴木 マサル(すずき まさる)

1968 生  千葉県出身 多摩美術大学 粟辻博デザイン室勤務後 2002年に(有)ウンピアット設立。2005~ファブリックブランド「オッタイピイヌ」主宰マリメッコをはじめ国内外の様々なメーカー・ブランドのプロジェクトに参画、東京造形大学テキスタイルデザイン専攻領域教授。

masaru_suzuki_textile

氷室 有里(ひむろ ゆり)

1989 生 東京都出身 多摩美術大学 2016 HIMURO DESIGN STUDIO設立、2018 ㈱HIMURO DESIGN STUDIO設立、2019~東京造形大学 非常勤講師。

instagram.com/himuroyuri

まとめ

一般的には生地の柄を考案するのがテキスタイルデザイン。その柄をデザインするのがテキスタイルデザイナーだと思われている人が多いのではないかと思います。テキスタイルのデザインには素材(原料)の選定から糸づくり、染色、織り、編み、柄の意匠、仕上げまで全ての要素を検討して構築される無限の可能性があります。人類が誕生して以来、途方もない試行錯誤の繰り返しによって数多の優れたテキスタイルが生まれて使われて来ました。古い時代のテキスタイルには天然繊維の性質からすでに失われてしまってもう二度と目にすることも触れることの出来ないものも無限に存在していたのだいう気持ちと、化学繊維全盛の時代を経て今新たに生まれつつある新しい素材によるテキスタイルデザインには無限の可能性があると思う気持ちが合わさってとても不思議な感じがします。なんだか全然まとめになっていなくて恐縮です(笑)最後まで読んでいただきありがとうございました。

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