コットンって、ホントにナチュラル?—慣行農法からリジェネラティブ(土壌再生農法)へ

コットン(天然繊維)=環境にやさしいという思い込み

&CROP編集部の瀧澤です。

コットン(綿)は、私たちの暮らしにもっとも身近な天然繊維です。その用途は幅広く、とくに肌着やタオル、Tシャツなど素肌に直接触れるアイテムに多く使われているのは、コットン特有の繊維構造と吸湿性がもたらす肌触りの良さが際立っているからです。「天然素材」「肌にやさしい」「ナチュラル」そんな表現で語られることの多いコットンですが、現代のコットン生産の実態は、そのイメージとはかなりかけ離れています。

近年、春先になるとホームセンターの入り口付近に除草剤(ラウンドアップ)が山積みで販売されています。家庭用として、ごく当たり前に…そのこと自体も驚きですが、その同じ成分が世界中の綿花畑でも大量に使われているという事実を、どれだけの人が意識しているでしょうか。

かつて農薬も化学肥料も存在しなかった時代、すべての農業はいわば「オーガニック」でした。では、なぜ現在のコットンはこれほど農薬に依存した作物になってしまったのか。そして「オーガニックコットン」は、何を解決できて、何を解決できないのか。

この記事では、コットン生産の現状を整理しながら、認証の複雑さや移行期の農家を支える仕組み、土壌を積極的に再生しようとする農業の試みまで、繊維業界で素材に関わる人として知っておきたいことを順番に見ていきます。

コットン(綿)についての基礎知識は下記のリンクもあわせて参照してください。

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コットン生産4つの課題

綿花の栽培は、農薬使用量が突出して多い作物のひとつとして知られています。世界の耕作可能地に占めるコットンの割合は約2.4%にすぎませんが、世界で消費される殺虫剤の約16%がコットン栽培に使われているとも報告されています。「ナチュラル」なイメージとはかけ離れた現実がそこにあります。では、なぜコットンはこれほど農薬に依存するようになってしまったのか。そしてその影響は、農場の外にいる私たちとどうつながっているのか。4つの問題を順番に見ていきます。

※ 報告値には出典により数値に幅があります(農薬全体:4〜11%、殺虫剤:10〜16%)

  出典リンク

  Environmental Justice Foundation / Pesticide Action Network UK報告 https://www.pan-uk.org/cottons_chemical_addiction_updated/

  BCI(ベターコットン・イニシアチブ)の公式ページが引用  https://bettercotton.org/field-level-results-impact/key-sustainability-issues/pesticides-and-crop-protection-in-cotton-farming/

 インドの綿花農家への農薬暴露調査(FAO共同プログラム) https://www.researchgate.net/publication/7629912

① 農薬・化学肥料の問題—「効率化」がつくった依存の構造

 

農薬や化学肥料が普及する以前、すべての農業はいわゆる「オーガニック」でした。農薬が農業に本格的に導入されたのは20世紀半ば以降のこと。収量を最大化し、コストを下げるために、除草剤・殺虫剤・化学肥料がセットで普及していきました。

問題は、農薬を使い続けるうちに害虫や雑草が耐性を持ち始め、より強い農薬をより多く使わざるを得なくなるという悪循環が生まれることです。さらに注目すべきは、農薬・種子・肥料を一体で提供する巨大バイオ化学メーカーの存在です。特定の除草剤に耐性を持つよう遺伝子を操作した種子(GMO種子)を使うと、必然的に同じメーカーの除草剤を購入し続けなければなりません。農家が農薬から離れにくい構造は、農業の現場だけでなく、市場の仕組みによっても作られているといえます。

また農薬暴露による農家への健康被害も深刻です。インドではコットン農家が農薬コストによる借金と不作のサイクルに追い込まれ、深刻な社会問題となっています。ある調査では農家の約42%が農薬中毒の症状を経験しているとも報告されており、「遠い国の農業問題」では済まされない話です。

② 水資源の問題—Tシャツ1枚に2,700リットル

コットンは、農産物の中でも多くの水を必要とする作物のひとつです。WWF(世界自然保護基金)の報告によれば、コットンTシャツ1枚の栽培に使われる水の量は約2,700リットル。バスタブ約30杯分に相当します。

またコットンがもともと水資源の乏しい地域——インド、中央アジア、パキスタンなどで盛んに栽培されていることから過剰な灌漑用水の取水が、川や湖の水位を下げ、地域の生態系や人の暮らしに深刻な影響を与えています。

その象徴的な事例が、中央アジアのアラル海です。かつて世界第4位の広さを誇っていたこの湖は、旧ソビエト連邦時代からの綿花栽培のための灌漑用水としてシルダリア川・アムダリア川から大量に水が引かれた結果、湖の面積が激減し湖底が露出して「アラルクム砂漠」となり農薬や塩分が飛散。呼吸器疾患やがんの発症率が高まり、漁業が崩壊するなど、コットン生産と環境破壊の関係を世界に知らしめる事例として今も語り継がれています。

③ GMO種子の問題—農家から「種を選ぶ自由」が奪われる

現在、世界のコットン生産の大半(米国で約96%、世界全体では約80%とも、出典:USDA / Organic Center 2024年報告)でGMO(遺伝子組み換え)種子が使われています。GMO種子の多くは次世代に同じ性質が引き継がれないよう設計されているため、農家は毎年種子を購入しなければなりません。自家採種という伝統的な農業の知恵が失われ、農家がメーカーへの依存を余儀なくされる構造になっています。

「農薬を買い、種を買い、肥料を買う」この一連のコストを負担できない小規模農家が、借金の連鎖に陥るリスクは特に深刻です。収量が増えても手元に残る利益が少ない、という構造的な問題が世界各地のコットン産地で繰り返されています。

④ 農家の経済・労働環境の問題—誰がこの価格を支払っているのか

農薬・GMO種子・化学肥料の購入コストは、資金の乏しい小規模農家にとってはとても大きな負担です。天候不順で不作になれば借金が積み上がり、翌年の種代も払えないという状況に追い込まれる農家は少なくありません。

私たちが手にする安価なコットン製品供給の多くは、こうした農家によって生産されています。「安い素材を選ぶ」ことで、遠い産地の農家の労働環境や生活に影響を与えている。この事実は素材調達に関わるすべての人に知っておいて欲しいと思います。

 

ここで取り上げた4つの問題点は、それぞれ独立しているようで深く絡み合っています。農薬依存がGMO種子の普及を促し、GMO種子が農家の経済的自立を奪い、水資源の過剰消費が地域の環境を破壊する。コットン生産の現状は、ひとつの問題を解決するだけでは追いつかない、複合的な課題をかかえています。だからこそ、『どんな農法で栽培されたコットンを選ぶか』が重要なのです。

「オーガニックコットン」は何を解決し、何を解決しないのか?

ここまで見てきたコットン生産の問題点を考えたときに、「ではオーガニックコットンを使えばいいのでは?」と考えるのは自然です。実際、近年は多くのブランドやメーカーがオーガニックコットンを採用し、その意義や必要性は認知されてきています。ただとくに日本国内の市場に目を向けたとき、「オーガニックコットン=肌に優しい」というイメージが先行し、本来の意味である農家・土壌・生態系を守るための農法の選択という本質が伝わりにくい現状があります。この誤解を丁寧に解くことは、素材を正しく選ぶための第一歩になると思います。

オーガニックコットンが本当に解決すること

まず、本来オーガニックコットンが実際に解決することを整理します。

オーガニックコットンは農薬・化学肥料・GMO種子を使わない栽培方法であるため、農家が農薬に直接暴露するリスクが下がります。土壌や周辺の水源・生態系への化学物質の流出も抑えられ、長期的な農地の健全性が保たれます。また転換後の農家は農薬・種子コストの負担から解放され、経済的な自立を取り戻す可能性が生まれます。

さらに、第三者機関による認証があることで「本当に農薬不使用で育てられたか」をサプライチェーン全体で確認できるトレーサビリティが確保されます。これは調達側にとって非常に重要な担保です。

つまりオーガニックコットンの本質的な価値は、農家・土壌・生態系を守るための農法の選択にあります。それは「着る人」のためではなく、まず「作る人」と「その土地」のためのものです。

オーガニックコットンが解決しないこと

一方で、オーガニックコットンが解決できないことも明確にしておく必要があります。ここを混同したまま「オーガニックだから大丈夫」と判断してしまうと、本質を見誤ることになります。

① 「肌への優しさ」は保証されない

綿花は収穫後、洗浄・精錬・漂白・染色・加工といった多くの工程を経て製品になります。農薬は栽培段階で使われますが、これらの工程を経ることで残留農薬は極めて低い水準になります。通常のコットンを使った製品でも、農薬が肌に直接影響を与えるケースは稀です。

肌トラブルが起きる場合、原因として多いのは染色や仕上げ加工に使われる化学物質です。これはオーガニックコットンを原料としていても同様で、「オーガニックコットン使用」と書かれていても加工工程に基準がなければ、肌への影響は通常の製品と変わらない可能性があります。オーガニックコットンが「肌に優しい」と言えるとすれば、それはGOTSのように加工工程まで基準を設けた認証製品、または無染色・低加工の製品に限られます。

② オーガニックであることと繊維としての品質の高さは別

オーガニックコットン=高品質、という誤解も根強くあります。しかし繊維としての品質である風合い、強度、光沢などは農法よりも品種・紡績・加工工程によって決まります。オーガニック農法で育てられていても、品種や加工の精度が低ければ品質は高くなりません。逆に、慣行農法のコットンでも品種と加工次第で高品質な繊維になります。「オーガニックかどうか」と「品質が高いかどうか」は、別の軸で評価する必要があります。

③ 「環境負荷がゼロ」にはならない

農薬・化学肥料を使わないことで土壌や生態系への負荷は大幅に減りますが、コットン栽培に必要な大量の水はオーガニック農法でも変わりません。また染色・加工工程での水・エネルギー使用、輸送による環境負荷は、オーガニック認証の対象外です。「オーガニックコットンだから環境に優しい」は正確ではなく、「栽培段階の農薬負荷を減らした素材」と理解するのが正解です。

オーガニックコットンを選ぶことには確かな意義があります。農薬に依存しない農業を支え、農家の健康と土壌を守る選択です。ただ、一口に「オーガニック」といっても、認証の種類によって基準は大きく異なります。何をどこまで保証しているのか認証の中身を知らなければ、正しく選ぶことはできません。次の項では、代表的な3つの認証を解説します。

知っておきたい3つのオーガニック認証‐GOTS・OCS・NOC

「オーガニックコットン」と一口に言っても、認証の種類によって基準は大きく異なります。代表的な3つを整理します。

① GOTS認証:Global Organic Textile Standard

GOTSはオーガニックコットン認証の中で現在最も包括的な国際基準です。

カバーする範囲が広いのが最大の特徴で、農場での栽培から紡績・染色・加工・最終製品まで、サプライチェーン全工程を対象にしています。他の認証が「原料がオーガニックかどうか」を見るのに対して、GOTSは「作る過程全体が環境・社会的に適切かどうか」までを問います。

具体的な基準としては

  • オーガニック繊維の含有率:「Organic」ラベルは95%以上、「Made with Organic」は70%以上
  • 染色・仕上げ加工に使う化学物質にも禁止・制限リストがある
  • 労働環境・社会的規範(児童労働禁止、適正賃金など)も審査対象
  • 年1回、第三者機関による現地監査が必要

つまり「GOTSマークがついている」ということは、農薬を使わない農場で育てただけでなく、その後の染色や加工の工程でも有害物質を管理し、働く人の環境にも配慮した製品だということを意味します。GOTSは加工工程の化学物質まで基準があるため、OCSやNOCと比べると製品段階での化学物質管理が最も徹底されています。「染色・加工工程が肌への影響に直結する」という問題に、最も正面から向き合っている認証といえます。

② OCS認証:Organic Content Standard

OCSはGOTSと比べると、カバーする範囲が限定的な認証です。

証明するのは「この製品に使われているコットンは、認証を受けたオーガニック農場で育てられた」というトレーサビリティ(追跡可能性)です。農場から最終製品まで、オーガニック原料の同一性が維持されていることを第三者機関が確認します。

GOTSとの最大の違いは、染色・仕上げ加工に使う化学物質や、労働環境への基準が含まれていない点です。つまりOCSマークがついていても、その後の染色工程で何が使われているかは別問題です。鮮やかな色の製品にOCSマークがついていたとしても、染色には化学染料が使われている可能性があります。

OCS認証には2つのグレードがあります

  • OCS 100:オーガニックコットンが95%以上
  • OCS Blended:オーガニックコットンが5〜95%未満(混用)

GOTSよりも取得しやすいため、特にファッション性を重視するブランドが採用するケースが多いです。加工工程に制限がない分、デザインの自由度が高く、オーガニック原料の使用を証明しながらも幅広い製品展開ができます。OCSマークでは「オーガニック原料を使用している」ことは読み取れますが、加工工程に対する認証はない、という理解が正確です。

NOC認証:日本オーガニックコットン流通機構

NOCは日本独自の認定制度で、国際認証とは少し性格が異なります。

運営主体はNPO法人「日本オーガニックコットン流通機構」です。GOTSやOCSのような国際機関ではなく、GOTSをベースにしつつ、日本市場向けに情報開示の基準を加えています。原料の産地・生産者・加工工程などをより詳細に開示することを求めており、「どこで、誰が、どのように作ったか」を消費者に伝えることを重視しています。

NOC認証は単独で使われるケースもありますが、GOTSやOCSと組み合わせて使われることも多いです。国際認証で「オーガニックであること」を証明しつつ、NOCで「日本の消費者向けに情報を開示する」という役割分担のイメージです。

注意点としては、NOCは日本国内では一定の認知度がありますが、海外取引では通用しません。輸出や国際的なサプライチェーンを扱う場合はGOTSかOCSが必要になります。

また規模としてはGOTS・OCSと比べると取得企業数は少なく、日本のメーカーや産地と直接つながりを持つブランドが使うケースが中心です。

知っておきたい:日本の表示問題

日本では食品の「有機」表示はJAS法で厳しく規制されており、認証なしに「有機野菜」と表示することは違法です。しかし繊維製品には同様の法律がなく、「オーガニックコットン使用」という表示に対して定義も規制も存在しません。とくに日本の市場では「オーガニック=肌に優しい」というプロモーションが先行したことで、消費者が認証の有無を確認する習慣が希薄です。

具体的には?

  • 認証なしで「オーガニックコットン使用」と表記できる
  • 全体の5%しかオーガニック原料を使っていなくても「オーガニックコットン製品」と名乗れる
  • 染色・加工工程で化学物質を多用していても、原料さえオーガニックなら表示できる
  • 産地・生産者・加工工程の情報開示義務がない

食品との非対称性

同じ「オーガニック」という言葉でも、食品と繊維製品ではルールがまったく異なります。食品は「食べるもの」なので健康への直接リスクがあるとして規制されましたが、繊維製品は「食べない」という理由で後回しにされてきた経緯があります。しかし、オーガニックコットンの本来の意義は「肌への影響」ではなく「農家・土壌・生態系の保護」にあります。消費者の認識と法整備の両方が、本来の意図からずれたままオーガニックコットンという言葉が定着してきたのが現状です。

調達・購入の場面での確認すること

「オーガニックコットン」という言葉だけでは判断できないため、以下の点を確認するようにしましょう。

  • GOTSまたはOCSの認証マークがあるか
  • 認証マークがある場合、農場段階だけか加工工程まで含んでいるか
  • 認証された素材の含有率はどれくらいか
  • 生産国・加工国の情報が開示されているか

この項ではGOTS・OCS・NOCという3つの認証を見てきました。ただ「オーガニックコットン使用」という言葉だけでは、農場段階の話なのか、加工工程まで含むのか、含有率はどれくらいなのかが見えません。オーガニックコットンを使用する際には認証の内容を良く理解していることが大切です。

そして、オーガニック認証はあくまで「すでにオーガニック農法に転換した農家」の作物を評価する仕組みです。すでにオーガニックに転換を完了した農家を支えることには直結しますが、現在生産されているコットンの大半が農薬や殺虫剤・化学肥料を大量に使用した慣行農法で行われていることを考えたときにこれから転換しようとしている農家を支援することには直接つながりません。

では、転換の途上にいる農家はどう支えられるのか。認証の外側で起きている取り組みに目を向けると、コットンとの関わり方の選択肢がさらに広がります。

 

この項では「認証を取ること」ではなく「転換のプロセスを支援すること」に価値を見出す取り組みを、2つの事例で見ていきます。

転換を支援するという選択‐CFCLとパタゴニアの事例

パタゴニアの段階的アプローチ—オーガニックからROCへ

アウトドアブランド「パタゴニア」のコットンへの取り組みは、業界の中でも最も長く、最も深い軌跡のひとつです。その歩みは「害を減らす」から「積極的に良くする」への転換の記録でもあります。

パタゴニアがオーガニックコットンに向き合うきっかけは1988年、ボストンの直営店スタッフが衣類から発生するガスによる健康被害を訴えたことでした。調査の結果、当時使用していた慣行農法のコットンが原因と判明。その後、カリフォルニア州のコットン農場を実地調査した上で、1996年に全コットン製品をオーガニックコットンに切り替えるという決断を下しました。当時、世界でオーガニックコットンの供給量が十分ではなく、調達に苦労しながらもコミットメントを守り通した経験を持ちます。

次のステップとして取り入れたのが、コットン・イン・コンバージョンです。ペルーのサプライチェーンパートナーと協力し、転換期間中の農家に技術支援とプレミアム価格を提供する仕組みを構築。2020年春、コットン・イン・コンバージョンを使った最初の製品ラインを発売しました。認証取得を目指す農家が、転換の多年にわたるプロセスの中で経済的に報われる仕組みを作ることが目的です。

さらにその先として、パタゴニアはROC(リジェネラティブ・オーガニック認証)の開発に参画します。2018年、Dr. Bronner’sとロデール研究所とともにリジェネラティブ・オーガニック・アライアンスを設立。リジェネラティブ・オーガニック農業の実践に向けた基準と認証プログラム(ROC)を生み出しました。このアプローチは既存のオーガニック基準を否定するものではなく、農家・牧場主・ブランドがリジェネラティブな農業実践を取り入れる後押しをするものです。

2018年、インドで150名以上の農家とROC認証のパイロット栽培をスタート。その後プログラムは拡大を続け、参加農家は1,000名以上に達しています。2022年春には初のROC認証コットン製品コレクションを発売しました。

インドの農場では、慣行農場で見られる整然とした畝の間に、マリーゴールド・レンズ豆・ひよこ豆・野菜が綿花と並んで育てられていました。液体肥料の代わりにコンポストを使い、作物の輪作で土壌に有機物を蓄積させるこの農法は、「農薬を使わない」という消極的な選択ではなく、土壌そのものを再生するという積極的な農業の姿を示しています。

現在パタゴニアは、オーガニックコットン・リサイクルコットン・コットン・イン・コンバージョン・ROC認証コットンの4種類を軸に据え、それぞれが環境と農家に与えるポジティブな影響を優先しながら原料調達を続けています。

CFCL+スタイレム瀧定大阪「ORGANIC FIELD」—認証より先にあるもの

日本のニットウェアブランド「CFCL(シーエフシーエル)」は、2030年までに認証素材使用比率100%を目指しています。コットンに関してはこれまでオーガニックコットンを優先的に使用してきましたが、スタイレム瀧定大阪が展開する「ORGANIC FIELD」プログラムと出合い、視点を転換しました。

「ORGANIC FIELD」は、オーガニック農法への転換期間中(農薬不使用だが未認証)に収穫されるコットン・イン・コンバージョンを全量買い取り、認証取得を目指す農家の転換を経済面で支える取り組みです。種の選定から栽培・紡績に至るまで一貫して管理し、トレーサビリティの確保と農家の労働環境改善を目指しています。

CFCLの高橋ディレクターは「コットン・イン・コンバージョンを使うことは、認証素材100%を達成すること以上に意味があると判断した」と語ります。「原料の価値をデザインの力で増幅できるのがファッション。だからこそ、あえてこの素材を選び、伝えていく必要がある」—認証という結果より、転換というプロセスに投資するという姿勢を明確に示しています。

出典:WWD JAPAN 2025年4月掲載記事「認証素材100%を目指す『CFCL』、なぜオーガニックより『コットン・イン・コンバージョン』を選ぶのか」より。

2つの事例が示すこと

CFCLとパタゴニア、アプローチは異なりますが、根底にある問題意識は共通しています。「認証を取ることがゴールではなく、農業と農家の転換を支援することに意味がある」という視点です。

パタゴニアは30年近くかけてオーガニック→コンバージョン支援→ROCという段階的な深化を歩んできました。CFCLはファッションの力で「転換期の素材の価値を増幅する」という選択をしました。規模もアプローチも違うけれど、どちらも「認証の先」を見ています。

こうした取り組みを知っておくことは、調達の判断基準を広げます。「オーガニックか、そうでないか」という二択ではなく、「慣行農法からの転換を、どのように支援しているのか」という問いを持てるかどうか—それが、次の項で紹介するコットンの選択肢を考える土台になります。

慣行農法からリジェネラティブコットンまで‐農法の5段階とフェアトレード

この項では下図の慣行農法からリジェネラティブコットンまでの段階を整理したいと思います。またフェアトレードコットンについても簡単に解説します。

①慣行農法コットン

現在世界で生産されているコットンの大半を占める農法で、農薬・化学肥料・GMO種子の使用を前提とした工業的な栽培方法です。

20世紀半ば以降に急速に普及し、収量の最大化とコスト削減を優先してきた結果、今日のコットン生産の標準となっています。世界の農地のわずか約2.4%しか占めないにもかかわらず、世界の殺虫剤消費量の約16%がコットン栽培に使われているというデータがその実態を象徴しています。

農家は農薬・種子・化学肥料をセットでバイオ化学メーカーから購入し続けなければならない構造に組み込まれており、害虫や雑草が耐性を持つたびに使用量が増えていく悪循環が生まれています。

②BCI(ベターコットン)

2005年に設立された国際NGO「ベターコットン・イニシアチブ」が運営する基準で、現在世界最大規模のサステナブルコットンプログラムです。ユニクロ・H&M・ZARAなど多くの大手ブランドが加盟しており、日本でも比較的知られています。

BCIは農薬の削減・水の効率的な使用・土壌の健全化・農家の労働環境と収入の改善を目標としています。農家への研修や技術支援を通じて、慣行農法からの段階的な改善を促す仕組みです。

重要な注意点

  • 農薬・化学肥料の使用を「禁止」するのではなく「削減・最適化」が目標であり、オーガニック認証ではありません
  • GMO種子の使用も禁止していません
  • 「マスバランス方式」を採用しているため、BCIコットンを購入してもその製品に実際にBCI農場で育てられた綿が入っているとは限りません
  • 物理的なトレーサビリティは保証されません

規模の大きさが最大の特徴 2022〜23年シーズンには世界のコットン生産量の約22%がBCIコットンとしてライセンス供与され、25カ国で220万人以上の農家が参加しています。「慣行農法よりはマシだが、オーガニックとは別物」という理解が正確です。

③コットン・イン・コンバージョン(転換期コットン)

オーガニック農法への転換期間中(通常3年間)に収穫される綿花を指します。農薬・化学肥料・GMO種子を使わずに栽培されているにもかかわらず、オーガニック認証を取得できないため市場での評価が低く、通常のオーガニックコットンより安い価格でしか売れないという問題があります。

転換期の農家が直面する現実

オーガニック認証を取得するには最低3年間、農薬を使わずに栽培し続ける実績が必要です。この期間中、農家は

  • 農薬を使わないため収量が落ちる
  • オーガニックとして高値で売れない
  • 転換コストがかかる

という三重の不利を抱えます。この「転換期の壁」を越えられずに断念する農家が多くいます。

なぜこの素材を選ぶのか

コットン・イン・コンバージョンを買い取ることは、転換を諦めかけている農家に「続けられる」という経済的な根拠を与えます。CFCLとスタイレム瀧定大阪「ORGANIC FIELD」の全量買い取りの仕組み、パタゴニアのペルーでのプレミアム価格保証はその代表例です。

「認証を取ること」より「転換するプロセスを支援すること」がコットン・イン・コンバージョンを選ぶ本質的な理由です。

 

④オーガニックコットン(GOTS/OCS/NOC)

 

オーガニックコットンについては前々項で解説しているので簡潔にまとめます。

農薬・化学肥料・GMO種子を使わない農法で3年以上栽培した実績を第三者機関が審査し、基準を満たした場合に与えられる認証です。「本当に農薬不使用で育てられたか」をサプライチェーン全体で確認できるトレーサビリティが最大の特徴です。

代表的な3つの認証の違いはセクション4で詳しく解説していますが、要点だけ整理すると——

GOTS — 農場から最終製品まで全工程対象。染色・加工工程の化学物質・労働環境まで基準あり。最も包括的。

OCS — 原料のトレーサビリティのみ。加工工程は対象外。取得しやすい。

NOC — 日本独自。GOTSをベースに情報開示基準を加えた制度。海外では通用しない。

注意点

日本では「オーガニックコットン」という表示に法的規制がなく、認証マークなしでも表示できます。調達・購入の場面では必ず認証マークの有無と種類を確認する習慣が重要です。

⑤リジェネラティブ・オーガニック(ROC)

オーガニック農業の「農薬を使わない」という消極的な選択をさらに一歩進め、土壌・生態系・農家の暮らしを積極的に再生することを目指す、現時点で最も包括的な農業認証です。

2018年にパタゴニア・Dr. Bronner’s・ロデール研究所が中心となって設立したリジェネラティブ・オーガニック・アライアンスが運営しています。

3つの柱

① 土壌の健全性 カバークロップ(被覆作物)の活用、作物の輪作、コンポストの使用など、土壌に有機物を蓄積させ炭素を土中に固定する農法を実践します。健全な土壌は農薬なしでも作物が育つ環境を作り出し、長期的に農地の生産性を高めます。

② 動物福祉 家畜を含む農場の生き物が自然な行動をとれる環境を確保します。

③ 農家の公正な待遇 適正な賃金・安全な労働環境・地域コミュニティへの貢献を基準として定めています。

オーガニックとの違い

オーガニック認証が「害を与えない」ことを基準とするのに対し、ROCは「積極的に良くする」ことを求めます。オーガニック認証(GOTSなど)を前提とした上でさらに高い基準を設けており、オーガニックの「その先」に位置づけられます。

現状

パタゴニアがインドで150名以上の農家とパイロット栽培を開始し、現在は1,000名以上に拡大。2022年に初のROC認証コットン製品を発売しています。認証取得農場はまだ世界的に少なく、希少性の高い素材です。

⑥フェアトレードコットン

農法ではなく「取引の公正さ」に焦点を当てた認証です。①〜⑤のどの農法とも組み合わせ可能な別軸の認証であることが最大の特徴です。

何を保証するのか

  • 農家への最低価格保証——市場価格が下落しても一定の価格で買い取る
  • フェアトレードプレミアム——通常の取引価格に上乗せした資金を農家のコミュニティに提供。学校・医療・インフラ整備などに使われる
  • 児童労働・強制労働の禁止
  • 農家の組合・協同組合への組織化支援

農法との関係

フェアトレード認証は農薬の使用を禁止していません。つまり慣行農法のコットンでもフェアトレード認証を取得できます。「環境への配慮」ではなく「農家の経済的・社会的な公正さ」を保証するものです。

逆にオーガニックコットンであってもフェアトレード認証がなければ、農家への価格保証や労働環境の改善が担保されているとは限りません。

GOTSとの違い

GOTSも労働環境の基準を含みますが、フェアトレードは農家への価格保証・プレミアムという経済的な仕組みを持っている点が異なります。

組み合わせの例

  • オーガニック+フェアトレード—環境と農家の両方に配慮
  • ROC+フェアトレード—現時点で最も包括的な選択

コットンを選ぶ前に持っておきたい3つの問い

農法の段階を見てきたところで、「ではどれを選べばいいのか」と思った方もいるかもしれません。ただ、「正解の素材」はブランドの規模や取引先との関係、予算、伝えたいストーリーによって異なります。ここでは選択の前に立ち止まって考えてほしい問いを3つ整理します。

① 「何を解決したいのか」を明確にする

オーガニックコットンを選ぶのか、コンバージョンコットンを選ぶのか、ROCを目指すのか——それは「何が課題で、何に貢献したいのか」によって変わります。

  • 農薬による農家の健康被害を減らしたい → オーガニックまたはコンバージョン
  • 認証農家を増やすプロセスを支援したい → コンバージョン(転換期支援)
  • 土壌の再生まで踏み込みたい → ROC
  • 農家の経済的な公正さも担保したい → フェアトレード認証との組み合わせ
  • まず慣行農法からの改善の一歩を → BCI

「環境にいいから」という理由だけでなく、「誰の、何の問題を解決したいのか」を起点に選ぶ習慣が、より本質的な調達につながります。

② トレーサビリティを確認できるか

「オーガニックコットン使用」という表示があっても、それがどの農場で、誰が、どのように育てたのかが見えなければ、選択の根拠が薄くなります。GOTSやOCSのような認証があれば第三者機関がサプライチェーンを確認しています。認証がない場合でも、生産国・加工国・農場の情報が開示されているかを確認することが重要です。

日本市場では残念ながら、認証もトレーサビリティもない状態で「オーガニックコットン」と表示されている製品は少なくありません。「どこで証明されているか」を見る目を持つことが、素材調達には必要です。

③ その選択をどう伝えるか

コットン・イン・コンバージョンを例にとると、認証は取得できていないにもかかわらず農薬不使用で育てられた綿花です。単に「未認証だから使えない」と判断するのか、「転換のプロセスを支援する素材」としてストーリーを持って伝えるのかで同じ素材でも、意味はまったく変わります。

CFCLの高橋ディレクターが「ファッションは原料の価値をデザインの力で増幅できる」と語ったのは、この点です。素材の背景を知り、それを伝える言葉を持てるかどうかが、選択を意味あるものにします。

まとめ‐コットンとどう向き合う?

コットンは私たちの暮らしにもっとも近い天然繊維です。しかしその生産の実態はナチュラルなイメージとはかけ離れています。農薬への依存、水資源の問題、農家の経済的な苦境。これらの課題はひとつひとつが独立しているのではなく、複雑に絡み合っています。

「オーガニックコットンを使えばいい」は、部分的には正しい答えです。農薬に依存しない農業を支え、農家の健康と土壌を守ることには確かな意義があります。ただ、オーガニック認証はあくまで「すでに転換を終えた農家」を評価する仕組みです。転換の途上にいる農家を支援するには、認証の外側に目を向ける必要があります。

この記事を通じて伝えたかったのは、「コットンの選択は農法の問題であり、農家・土壌・生態系への関わり方の問題だ」ということです。どの素材を選ぶかよりも、「なぜそれを選ぶのか」を自分の言葉で説明できることは、素材に関わるすべての人が問われていることだと思います。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

 

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