
&CROP編集部の瀧澤です。
デザイナーがとても気に入っているテキスタイル素材、企画をすすめていく段階で染色堅ろう度の試験データーを見て頭を抱えた…そんな経験はありませんか? かれこれ30年近く、アパレルメーカーに生地を販売してきて「この生地堅ろう度が基準値以下だからなんとかして~」とか「気に入ってるのに、このままじゃ使えない!」みたいな相談と言うか脅迫は、日常チャメシ事!(笑)
企画としては使いたいのに品管(品質管理部)が許してくれない「堅ろう度が基準値以下だからあきらめるしかない」のか? そんなときに染色堅ろう度の数値の意味を理解した上で、どんな対応ができるかを知っていれば選択肢が広がります。
この記事では、染色堅ろう度の基礎から、等級の読み方、そして基準値を下回ったときに現場でとれる具体的な対応まで、アパレルの実務に携わる方に向けて解説します。
もくじ
染色堅ろう度とは

染色堅ろう度は「色の変化しにくさ」を数値化したもの
染色堅ろう度(せんしょくけんろうど)は、衣類などの繊維製品の色が洗濯・摩擦・汗・光などによってどの程度色落ちや色移りしにくいか(染色の外部要因に対する丈夫さ・抵抗性)を示す指標です。
堅牢性が低い生地は、洗濯・摩擦・汗・光などの外側からの刺激によって色が抜けたり、他の衣類に色が移ったりするリスクがあります。消費者クレームに直結するため、アパレルの生産・品質管理において必ず確認すべき項目のひとつです。
染色堅ろう度は繊維素材や染料の種類、色によっても違いが生じます。一般的に合成繊維は堅ろう度が安定している場合が多く、天然繊維では不安定になりがちです。また黒やネイビーのような濃色染や色相によっても変退色や色移りが起こり易くなる場合があります。さらに、同じ素材や染料を使用していても染色する時の温度・時間・圧力・ソーピングなどの条件の変化によって堅ろう度が低下するケースもあり、染色加工ロットごとの確認を求められる場合もあります。
立場や職種によってとらえ方が異なる

染色堅ろう度は同じ数値でもかかわる人の職種や立場によってとらえ方に違いが生じます。お互いの立場を理解しながら商品企画や生産を進めることが大切になります。
生地メーカー
堅ろう度を自社製品の品質のひとつの指標として捉えています。高い等級を安定して出せることは品質安定性の証明となり競争力につながるため、堅牢性の向上と安定に努めていますが素材や色による限界も熟知しています。
染色加工所
染色加工所は、染料・助剤・加工方法の選択によって堅牢度をコントロールする技術的な立場です。「この素材にこの要求水準なら、こういう加工が有効」という提案ができる頼もしい存在です。堅ろう度に課題がある場合、まず相談すべき相手ですが一般的にはアパレルメーカーとの間には生地メーカーが介在することが多く生地メーカーの仲介を通したコミュニケーションとなります。生地メーカーは染工所と相談して生地のスペックを策定していることを知っていると話の流れが理解しやすいです。
アパレルメーカー
アパレルメーカー内でもデザイナー・企画担当/生産管理/品質管理/MD・バイヤー/小規模のブランドオーナーなど職種や立場によって関わり方が異なります。とくに「デザイナーは感性で素材を選び、品管は数値で使用の可否を判断する」と言った立場の違いが現場での摩擦を生じやすいポイントでもあります。
- デザイナー・企画担当:素材選定の段階で試験データを確認し、使用可否を検討
- 生産管理・品質管理担当:自社基準値との照合、取引先への報告・承認取得・改善要求
- MD・バイヤー:商品リスクの判断、販売条件(ケア表示・注意書き)等の策定
- 小規模ブランドオーナー:自社基準の設定、生産パートナーとの交渉
堅ろう度の種類と等級の読み方

主要な堅牢度の種類
おもな染織堅ろう度には染色性に影響を与える条件(洗濯・摩擦・汗・光・熱など)によってそれぞれに応じた状況を想定した試験方法や等級の判別方法が決められています。これらの試験データは経済産業省の認可を受けた公的試験期間で取得することが出来ます。ここではアパレルの実務でよく使われる6種類の堅ろう度について概要をまとめています。
種類 | 何を試験しているか | 想定される素材・アイテム |
洗濯堅ろう度 | 洗濯による色の変化・色落ち・色移り | Tシャツ・カジュアルウェア等 |
摩擦堅ろう度(乾) | 乾いた状態でこすったときの色移り | デニム・ジャケット等 |
摩擦堅ろう度(湿) | 濡れた状態でこすったときの色移り | 雨・汗をかく場面 |
汗堅ろう度 | 汗(酸性・アルカリ性)による色の変化・移染 | インナー・スポーツウェア等 |
耐光堅ろう度 | 日光(紫外線)による変退色 | アウター・カーテン等 |
昇華堅ろう度※ | 熱と圧力による分散染料の昇華移染 | プリント生地・主にポリエステル素材 |
表の項目以外にも水堅ろう度・ドライクリーニング堅ろう度・汗耐光堅ろう度・色泣き・酸化窒素ガス堅ろう度・BHT・NOx黄変などの項目があります。
※移行昇華については下記のリンクの記事も参照してください
&CROP編集部の瀧澤です。移行昇華(いこうしょうか)という言葉はご存じの方も多いと思います。でもまだ業界経験が浅い人や、勉強中の人だと聞いたことがない、聞いたことはあるけれど意味が良く分からない、という人もいると思います?移行昇華は簡単に[…]
等級(1~5級)の読み方

堅ろう度の試験結果は、1〜5級で表示されます。5級が最も良好(堅牢性が高い)で、1級が最も変化が大きい(堅牢性が低い)ことを意味します。
- 5級:ほとんど変化なし
- 4級:わずかに変化あり
- 3級:やや変化あり(一般的な流通基準の目安)
- 2級:変化が目立つ
- 1級:著しく変化あり(最低)
一般的に、アパレル製品では洗濯堅ろう度・摩擦堅ろう度ともに3級以上が流通の目安とされています。コーポレート・ブランド・用途によって求められる等級は異なり、独自の基準を設けているアパレルメーカーやブランドもあります。また現場の肌感覚ですがヤングカジュアルブランドは比較的許容度がありスポーツブランドでは品質基準が厳しい傾向があります。
堅ろう度の基準は「どこが決めるか」で変わる

堅ろう度に「絶対的な合否基準」はありません。何を基準にするかは、販売する市場・取引先・商品カテゴリーなどによって変わります。まず、基準を決めている4つの根拠を把握しておきましょう。
| 基準の根拠 | 内容 | 実務上の優先度 |
|---|---|---|
| 法的規制 | 家庭用品品質表示法など。国内販売の最低限の基準 | 必須(下回ると違法) |
| JIS規格 | 試験方法と等級の業界標準。参照基準として使われる | 参考値として確認 |
| ブランド・取引先の独自基準 | 百貨店・セレクトショップ等が独自に設定。JIS以上を求めることも多い | 最も注意が必要 |
| 認証基準 | エコテックス等のサステナビリティ認証が求める基準 | 該当する場合のみ |
※実務上、最もハードルが高くなりがちなのがブランド・取引先の独自基準です。同じ生地でも取引先が変われば判断が変わる、ということは現場ではよくありますし、基準に対する許容度にも差があります。新しい取引先と仕事をする際は、早めに先方の基準を把握しておくことをおすすめします。
基準の厳しさに5㎏痩せた話
ある老舗のスポーツブランドは基準が厳しい上に許容度がほとんど無いことで有名。たまたま知り合いの企画会社に資料集めをお願いされて別のブランドだと思って要望の資料を集めて提出したところ数種類の生地が決まったのでフォローして欲しいと言われ。1stサンプル用の着分を納品、ひと月ほど後に各色サンプル反の依頼が来た際に一冊のファイルを提示され、この基準をすべてクリアして欲しいと言われたのが半年に及ぶ苦闘の始まりでした。生地メーカーに基準を確認したところ素材ごとにクリア出来そうもない基準値がいくつもあり一旦は断ったのですが許してもらえずに数品番、約3万メーターの受注に対して本当に納品できるのか…不安を抱えながら毎日のようにファックスで送られてくる不合格の試験結果に対してどうやって改善改善するかの報告レポートを提出。生地メーカーと交渉を繰り返す日々が続き気が付くと体重が5㎏も落ちました。必殺試験データダイエット!(笑)最終的にはなんとか全量無事納品することが出来ましたが、今も思い出すと胃の辺りがキュッとします。
試験データの集め方と報告書の確認ポイント

一般に流通している生地では、生地メーカーが公的機関の染色堅ろう度データを取得している場合が多いです。メーカーがカラーストックを持って販売していれば大抵は自社で試験データを取得しているか、生地を染色している加工所のハウスデーターがあるはずなので生地の使用を検討する段階でまずこれらのデータを確認することをお勧めします。既存のデータを見れば、その素材のどの項目に注意が必要かを判断する基準になります。公的試験機関にデータ取得を依頼する場合、試験項目が多くなると費用がかなり高額になります。すべての必要項目を自社で取得しようとすると小規模のメーカーでは生産量との兼ね合いで経費がかかりすぎてしまうので、まず生地メーカーの既存データを確認するようにしましょう。
既存データを使う際に確認すること
試験結果報告書を受け取ったら、まず以下の3点を確認します。
① 必要な試験項目がそろっているか: 用途に応じた試験(洗濯・摩擦・汗など)が含まれているかを確認します。試験していない項目は「不明」のまま進むことになるため、後から問題が出るリスクがあります。
② 試験条件が自社用途に合っているか: 洗濯温度・回数など、想定する使用環境に近い条件で試験されているかを確認します。条件が違えば同じ生地でも結果が変わることがあります。
③ データ取得日:古い試験データの場合は現行のロットの生地と加工所や加工条件が変わっている場合がありその場合には染料や助剤が変わる可能性があるので注意が必要です。
上記の3点を確認したうえで必要な項目があれば試験データを取得するようにしましょう。別注カラーなどの場合は既存のデータが無いので生地を発注する際に生地メーカーにデータをとってもらえるか確認することをおすすめします。その際に費用の負担がどうなるのかも確認しておきます。通常の生産ロットでオーダーすれば基本生地メーカーが費用を負担してくれるはずです。
基準値を下回ったときの4つの基本的な対応方法
堅ろう度が基準値を下回ったからといって、必ずしもその生地が使えないというわけではありません。状況に応じて、以下の4つの選択肢を検討します。
① アテンション表示をつけて使う

使用上のリスクを消費者に開示する方法です。洗濯表示に加えて、「この製品は色落ちする場合があります」「他の衣類と一緒の洗濯はお避けください」などのアテンションタグを付けることで、クレームのリスクを下げる方法です。
ただし、アテンション表示は免責の手段ではなく、「リスクを正直に伝える」ためのものです。過度なリスクがある場合は使用を見直すことも必要です。
アテンション文言の作成にAIを活用しよう
アテンション表示の文言を考える作業は、AIが得意とする分野のひとつです。「どんな表現が適切か」「似たような表現がないか」を一から考えるのは意外と時間がかかりますが、AIに条件を指示することで複数の文言案をすぐに得ることができます。
AIが有効な理由
- 素材・用途・想定リスクを入力するだけで、複数の文言バリエーションを短時間で出せる
- 「やさしい表現」「簡潔な表現」「英語併記」など、トーンや形式の調整が簡単にできる
- 自分では思いつかなかった表現や注意点の抜け漏れに気づくきっかけになる
指示するときのポイント
AIへの指示(プロンプト)は、以下の情報をセットで伝えると精度の高い文言が出やすくなります。
- 素材と染色方法:例)「反応染料で染めたコットン100%」
- 想定されるリスク:例)「洗濯時の色落ち」「摩擦による色移り」
- アイテムと用途:例)「カジュアルシャツ、日常使い」
- 文言のトーン:例)「消費者向けにやさしく」「簡潔に1〜2行で」
- 必要な形式:例)「下げ札用」「洗濯ネームに追加するテキスト」
- ブランドのイメージ
- 顧客層
例えば「反応染料のコットンシャツで洗濯時に色落ちのリスクがあります。下げ札に追加するアテンション文言を3パターン、やさしい表現で作成してください」のように指示すると、すぐに使えるレベルの文言が出てきます。
ただし、最終確認は必ず自分で
AIが出した文言はあくまでたたき台です。法的に問題のある表現がないか、自社のトーン・マナーに合っているか、実際のリスクを正確に伝えているかは、必ず自分の目で確認してください。アテンション表示はブランドの信頼に直結するため、最終判断は人間が行うことが大前提です。
② 用途・アイテムを限定する

摩擦や洗濯の頻度が少ない用途や装飾的なディテールに限定することで、リスクを許容範囲内に収める方法です。
たとえば摩擦堅ろう度が低い生地であれば、直接肌に触れるインナーには使わず、アウターや装飾的なアイテムに限定したり、取り外しが可能なパーツとして使用する方法が考えられます。
③ 代替素材・代替加工を探す

デザインイメージを保ちつつ、堅ろう度基準を満たす別の素材や加工方法を探す方向性です。素材や加工方法が違う素材に変えることで堅ろう度が改善するケースもあります。
素材メーカーや染色加工業者に相談することで、解決策が見つかることもあります。
④ 取引先と基準値の再交渉・用途合意をする

「この素材のこの用途なら、3級でも問題ない」という合意を取引先と形成する方法です。すべてのケースで可能というわけではありませんが、根拠を持って交渉することで合意に至る場合もあります。
交渉の際は、次のセクションで説明する「説明の組み立て方」も参考にしてください。
品質管理・取引先への説明の仕方
品質管理部や取引先の担当者には、商品クレームによる損害やブランドイメージの低下を回避する責任があります。その際の基準となるのが品質試験データなので立場上「基準値以下だからNG」と言わざるをえなくて、対立する構造になりやすいです。なぜNGなのかを正確に把握したうえでいくつかの判断基準や代替え案、他のブランドでの事例など説得材料をそろえて説明する必要があります。その際の説明・説得の材料となるポイントを以下にまとめました。
数値の「見せ方」を工夫する
試験結果を単に「洗濯堅ろう度3級でした」と伝えるだけでは、品管側は判断材料が不足しています。以下をセットで伝えることで、判断しやすくなります。
- どの試験条件か(洗濯温度・回数など)
- どの用途・アイテムを想定しているか
- 業界的にどのくらいの等級が一般的か
- 類似素材の事例(他ブランドではどう扱われているか)
「基準以下」という事実を変えることはできませんが、「この条件・この用途においてどのくらいのリスクか」を具体的に示すことで、品管側が「許容できる」と判断しやすくなります。
代替案を必ずセットで持っていく
「この生地を使わせてください」という一点突破の交渉より、「もしこの生地がNGであれば、こういう代替案もあります」という形で提案します。その際にはMDやバイヤーを巻き込んでおくことで企画VS品管のような対立構造になるのを避けて、良いアイデアが生まれたり、合意が引き出しやすくなることがあります。代替案には、アテンション表示の追加・用途の限定・別素材の提案なども含まれます。「問題を一緒に解決しようとしている」という姿勢を示すことが、調整をスムーズにするポイントになります。
まとめ‐発注前・仕様確定前のチェックリスト

染色堅ろう度や生地の物性データは、素材の選定から生産・販売まで、アパレルのものづくり全体に関わる重要な品質指標です。「基準以下=使えない」ではなく、数値の意味を正しく理解した上で、状況に応じた対応を選択することが大切です。
最後に、発注前・仕様確定前に確認しておきたいポイントをチェックリストにまとめました。
発注前・仕様確定前チェックリスト | |
□ | 必要な堅ろう度の試験項目を確認した(洗濯・摩擦・汗・光・昇華) |
□ | ブランドまたは取引先の基準値(等級)を確認した |
□ | 試験結果報告書を入手した |
□ | 基準値以下の項目がある場合、どの選択肢で対応するか方針を決めた |
□ | アテンション表示が必要な場合、文言を確定した |
□ | 品管部・取引先への説明資料(根拠・代替案)を用意した |
□ | 代替素材・代替加工の選択肢を検討した |
堅ろう度の問題は、早い段階で把握・対処するほど選択肢が広がります。素材選定の段階から試験結果を確認する習慣をつけることで、後工程でのトラブルを大幅に減らすことができます。最後まで読んでいただきありがとうございました。染色堅ろう度や生地物性の対応で迷った時に参考にしていただけるようにブックマークなどに保存して活用いただけるとうれしいです。