
&CROP編集部の瀧澤です。
前回のスパンデックス記事で、ハード/ソフトセグメントという「バネ構造」を解説したあとに、クモの糸が同じ設計原理を持っていることに触れました。そして山形県鶴岡市のSpiber株式会社が、その生物由来のバネ構造を人工的に再現していることをご紹介しました。今回の記事では、この人工タンパク質繊維の現状を技術の仕組み・採用の広がり・コストと財務の現実という3つの視点で俯瞰的に解説しています。
2022年にSpiber関連記事を書いた時点では、タイの量産プラントが稼働し始めたばかりで「これからどう広がってゆくのか」という状況でした。それから約3年経過して、採用ブランドは飛躍的に広がり、アパレルを超えて自動車内装や化粧品にまで展開が進んでいます。一方で財務状況は極めて厳しく、「継続企業の前提に重要な疑義」という会計用語が決算書に記載される事態になっています。この夢のタンパク質素材の良い話も悪い話も含めて、業界に携わる私たちが知っておきたい内容を整理していますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
🔖 動画 お時間のない方は移動中に聞き流していただくだけでブリュードプロテインの現状への理解が深まります。
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🔖 2022年のspiber社関連記事
スパイダーシルク開発から始まったプロテイン繊維の今 &CROP 編集部の瀧澤です。クモの糸の繊維という言葉は耳にしたことがあると思います。2015年にSpiber株式会社がゴールドウィンと提携して人工クモ糸繊維QUMON[…]
もくじ
クモの糸からBrewedProtein™へ――Spiberとはどんな会社?

Spiber株式会社は2007年、慶應義塾大学大学院で研究していた関山和秀氏らが山形県鶴岡市で創業したバイオベンチャーです。出発点は一つの問いでした。「クモの糸を人工的に合成できたら、世界が変わるのではないか。」
クモの糸は鉄より強く、ナイロンより伸び、しかも生分解性があるという、繊維業界では長年「夢の素材」と呼ばれてきた存在です。しかし実際のクモから糸を採取することは現実的ではありません。クモは縄張り意識が強く、養殖ができないからです。そこで関山氏らは、クモの糸を構成するタンパク質の遺伝子を解析し、微生物を使って人工的に製造するという方法にたどり着きました。
研究開始から約10年を経て、素材の名称は「人工クモ糸(QMONOS)」から「BrewedProtein™(ブリュード・プロテイン)」へと変わりました。この名称変更は単なるリブランディングではなく、技術の本質的な転換を意味しています。
なぜ「クモの糸」から「BrewedProtein™」に変わったのか
❓ そもそも天然のクモ糸をそのまま再現すればよかったのでは?
天然のクモ糸には吸水時に大きく収縮するという特性があり、衣料品には適しませんでした。また「強度と伸縮性」以外の特性がアパレル用途のニーズと必ずしも一致しなかったため、クモ糸の遺伝子をベースにしながら用途に応じて分子配列を再設計するという方向に転換しました。
❓ では今のBrewedProtein™はクモ糸ではないのか?
厳密にはそうです。現在のBrewedProtein™はクモ糸タンパク質の「設計思想」を受け継いでいますが、具体的なアミノ酸配列は用途に応じて独自に設計されたものです。Spiber自身も「もはやクモ糸とは呼べないものになっている」と述べています。
❓ 山形県鶴岡市に拠点があるのはなぜ?
創業者の関山氏が学んだ慶應義塾大学先端生命科学研究所が鶴岡市にあったことが起点です。現在も本社・研究開発拠点は鶴岡市に置かれています。地域のバイオベンチャーとして出発し、世界規模の素材革新に挑む姿は、地方発スタートアップの象徴的な存在でもあります。
BrewedProtein™の仕組み:発酵でタンパク質を「醸造する」
BrewedProtein™の「Brewed(醸造された)」という名称は、ビールやワインの醸造と同じプロセス――すなわち微生物発酵――でタンパク質を製造することに由来しています。

製造プロセスの概要
ブリュードプロテインは大まかには以下の流れで製造されます。
- DNAの設計:目的の特性(強度・伸縮性・柔軟性など)を持つタンパク質のアミノ酸配列をコンピュータ上で設計し、対応するDNAを合成する。
- 微生物への導入:合成したDNAを微生物(主に大腸菌などの細菌)に組み込む。
- 発酵・培養:サトウキビやトウモロコシ由来の糖類を栄養源として微生物を培養し、タンパク質ポリマーを生産させる。
- 精製・紡糸:培養液からタンパク質を精製し、粉末化した後、繊維・フィルム・樹脂などの形態に加工する。
※この「発酵→精製→加工」という流れは、食品や医薬品の製造プロセスに近く、石油化学プラントとは根本的に異なるアプローチです。
なぜこの技術が革新的なのか
❓ 既存の合成繊維と何が違うの?
最大の違いは「原料」と「分子設計の自由度」の2点です。ポリエステルやナイロンは石油を原料とし、その化学的特性は基本的に固定されています。一方、BrewedProtein™は植物由来の糖類を原料とし、アミノ酸配列の設計次第で特性を自由に変えられます。
❓ アミノ酸配列を変えると何が変わるのか?
アミノ酸配列をデザインすることで強度・伸縮性・吸湿性・光沢・触感など、繊維の性質を大きく変えることができます。カシミヤ風・ウール風・シルク風など天然繊維の特性を模倣しながら、動物を使わずに製造することが可能です。さらに繊維だけでなく樹脂・ゲル・フィルムにも展開でき、応用範囲は繊維産業をはるかに超えています。
❓ 生分解性があると言うが、洗濯や使用中にも分解してしまわないのか?
ここは正直に「詳細は不明な点がある」と書かざるを得ません。Spiberは海水・淡水・土壌での生分解性を実証していますが(海水で30日以内に70%以上)、日常的な洗濯・使用環境下での分解速度については公開情報からは確認できませんでした。耐久性と生分解性をどうバランスさせているかは、素材設計の重要な課題の一つとされています。
石油由来合成繊維とBrewedProtein™の特性を下図で比較しています。

※ コスト・分子設計の欄は現状と進行中の開発状況に基づく目安です。
コラム①「ビールと繊維は同じ工場で作れるのか?――バイオ素材製造の現実」

「発酵でタンパク質を製造する」と聞くと、ビールやヨーグルトと同じようなイメージを持つ方もいるかもしれません。原理は確かに同じ「微生物に何かを作らせる」ですが、規模・精製工程・設備投資の桁がまったく異なります。
ビールの場合、発酵の目的物はアルコールです。糖がアルコールに変わればよく、精製は比較的シンプルです。一方でBrewedProtein™の場合、目的物は特定のアミノ酸配列を持つタンパク質ポリマーです。培養液の中から目的のタンパク質だけを高純度で取り出し、さらに繊維・樹脂・フィルムへと加工できる形に整える工程が必要になります。この「精製・加工」プロセスが食品発酵とは比較にならないほど複雑で、専用の大型設備を要します。
もう一つの違いは「スケール」です。ビール工場は世界中に無数にあり、設計・施工・運用のノウハウが蓄積されています。しかしBrewedProtein™のような繊維用タンパク質を量産できるプラントは、2025年時点で世界にほぼ存在しません。タイのプラントはまさにその「前例のない工場」を一から作った事例であり、米国工場の建設が想定の3倍のコストになったのも、この「前例のなさ」が根本的な原因の一つです。
「発酵」という親しみやすい言葉の裏に、桁違いの技術的・資金的ハードルがあることは、第5章の財務状況を読み解く上でも重要な背景です。
素材をゼロから設計する意味とは
Spiberが「BrewedProtein™」という素材に込めた最大の野心は、単に「環境にやさしい繊維を作る」ことではありません。「素材を目的から逆算してゼロから設計する」というプラットフォームを作ることです。
従来の繊維開発は「既存の素材をどう加工・改良するか」という発想から出発していました。これまでは綿は綿の特性の範囲内で、ポリエステルはポリエステルの素材の特性の範囲内で工夫するしかなかった。BrewedProtein™はその前提を崩します。「どんな特性が必要か」を先に決め、それを実現するタンパク質のDNA配列を設計し、微生物に製造させる。素材が先にあるのではなく、用途が先にある。
「テーラードデザイン」の実例
ムーンパーカ(ゴールドウィン/THE NORTH FACE):クモ糸の「超収縮」という特性だけを遺伝子から取り除き、アウトドアウェアに必要な強度と防水性を維持。天然のクモ糸をそのまま使うのではなく、用途に合わせて再設計した最初の製品事例。
バーバリーのスカーフ:カシミヤ風の柔らかさと光沢を、動物不使用でタンパク質レベルから設計。
資生堂のマスカラファイバー:繊維ではなく化粧品原料として、安全性・安定性・使い心地を化粧品規格でゼロから設計。
なぜこれが「プラットフォーム」なのか
❓ BrewedProtein™は素材なのか、技術なのか?
両方です。BrewedProtein™という名称は「微生物発酵で作られたタンパク質素材の総称」であり、その背後には「特定の特性を持つタンパク質をDNA設計→微生物生産できる技術基盤(プラットフォーム)」があります。Spiberが目指しているのは特定の繊維製品を売ることではなく、このプラットフォームをライセンスアウトし、世界中のパートナーと協業して多様な製品を生み出すことです。
❓ 他社は同じことができないのか?
技術的には類似のアプローチをとる企業は世界にいくつかあります(Bolt Threads、Modern Meadowなど)。ただSpiber自身は「タンパク質を素材として使いこなす技術において当社以上の会社は世界に存在しない」と述べており、DNA設計から発酵・精製・加工まで垂直統合した技術基盤は他にない競争優位とされています。ただしこれは自社の主張であり、第三者による客観的な比較検証の情報はこの記事の執筆時点では確認できていません。
採用ブランドと用途の広がり
2022年の前回記事時点では、採用事例はゴールドウィン/THE NORTH FACE中心の、まだ限られた状況でした。2025年時点では様相が大きく変わっています。

アパレルでの広がり
バーバリー(2024年):ラグジュアリーブランドとして初めてBrewedProtein™を採用。「B Shield Wool Cashmere Blend Scarf」として銀座・表参道・心斎橋店などで販売。ラグジュアリー市場への本格参入を示す事例。
イリス・ヴァン・ヘルペン(2025年):パリ・オートクチュール・ファッションウィーク2025年秋冬でのコラボレーション。ブライダルルックにBrewedProtein™を使用。サイエンスとクチュールの融合という文脈で大きな注目を集めた。
JNBYグループ(2025年10月):中国ブランドとして初めてBrewedProtein™を採用。メンズブランド「CROQUIS」と「JNBY」からウールコートを発売。アジア市場への本格展開の第一歩として注目。
宇多田ヒカル全国ツアー衣装(2024年):APOKE ABLE ISSEY MIYAKEがデザインした衣装の素材として提供。
Untouched World(ニュージーランド、2025年):サステナブルファッションブランドの2025年春夏コレクションに採用。
アパレルを超えた展開
トヨタ ランドクルーザープラド「NEWSCAPE」(2025年10月発売):量産車のシートカバーにBrewedProtein™ファイバーが採用されたのは世界初の事例。外装カラーはTHE NORTH FACEが担当する「メルドグレー」ほか。Japan Mobility Show 2025で展示発表。モビリティ産業への展開を示す象徴的な事例。
資生堂とのマスカラファイバー共同開発:BrewedProtein™繊維を化粧品原料として活用。繊維以外の産業領域への多角展開の事例。
ボンマックス(ユニフォーム):法人向けユニフォームへの採用。B2B市場での普及を目指す事例。
※「採用ブランド数」の読み方
公開情報では「45以上のブランド・200アイテム超」という数字が確認できますが、採用量(重量・金額ベース)については公開されていません。数が多いこと≠普及しているとは言い切れない点は留意が必要です。現状は「高付加価値・限定モデル・話題性重視」という文脈での採用が多く、量産品として広く流通している段階ではありません。
コストと財務の現実―295億円の赤字と362億円の返済問題
ここでは技術の革新性や採用ブランドの広がりという明るい話題と並べて、現状の財務状況の現実をお伝えします。

2024年12月期決算の概要
営業収益:4億1,400万円
営業損失:48億9,000万円
当期純損失:295億円(米国工場の減損損失280億円が主因)
返済期限が迫る借入金:362億円(2025年12月28日返済期限)
決算書の記載:「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する」(GC注記)
※「GC注記(ゴーイング・コンサーン注記)」は会計の世界では非常に重大なシグナルです。企業が1年以内に事業を継続できなくなるリスクがあることを、監査法人が財務諸表に明記するものです。
なぜここまで赤字が膨らんだのか
❓ 売上4億円なのに損失295億円というのはどういう状況なのか?
BrewedProtein™の製造には巨大な設備投資が必要です。タイの量産プラント、そして米国でのさらなる量産体制構築に向けた投資を続けてきました。しかし2024年は米国工場の建設において資材高騰や工期遅れが深刻化し、280億円という巨額の減損損失を計上しました。これが最終赤字を295億円まで押し上げた主因です。
❓ なぜ米国工場の建設がこれほど困難だったのか?
円安・物価高による建設コストの高騰、工期の遅延という複合的な要因です。当初2023年稼働予定だった米国工場はいまだ稼働しておらず、投資費用は想定の約3倍に膨らんだと報じられています。バイオ素材の量産は化学プラントと異なる固有の難しさもあり、想定外のコストが重なり続けています。
❓ 362億円という借入金はどこから借りているのか?
国内金融機関からの借入です。関係者によれば主要取引先の金融機関でも審査部門はBrewedProtein™の事業化に懐疑的な見方があったとも報じられており、2025年12月の返済期限に向けて借換え交渉が進められています。ただしこの交渉の詳細・進捗については公開情報からは確認できていません。
Spiber側のコメント:「事業価値は高まっている」
関山代表は経営危機説に対して「むしろ事業価値は高まっている」と述べています。採用ブランドの広がり・技術の深化・新市場への展開が続いており、財務的な苦境と事業的な前進は別物だという主張です。この見方は完全に否定できるものではありません。技術の価値と財務の健全性は別の問題です。
ただし客観的に見て、売上4億円に対して年間48億円以上の営業コストがかかり続けている現状では、早期の収益化なくして返済も増産投資も成り立ちません。「技術は本物だが、ビジネスモデルとしての持続性はまだ証明されていない」というのが現時点での正直な評価です。
ソフトバンクグループとの動き
2025年12月には孫正義氏の長女が経営する企業がSpiberへの事業支援を発表したと報じられています。詳細は明らかになっていませんが、経営危機への対応策の一つとして注目されています。この記事の執筆時点では、支援の具体的な内容・規模・条件は公開情報から確認できていません。
コラム②「バイオ素材スタートアップが直面する『死の谷』――世界の類似事例と比較して」

Spiberの財務状況を見て「経営が特別に下手なのでは」と感じる方もいるかもしれません。しかし実態を見ると、バイオ素材の量産化に挑む企業は世界的に同じ壁にぶつかっています。
米国のBolt Threadsは、スパイダーシルクやキノコ由来の皮革素材「Mylo」を開発し、ステラ・マッカートニーやAdidas、Lisaなど著名ブランドとの協業で注目を集めました。しかし2023年、量産コストの問題を理由にMyloの商業生産を無期限停止し、大規模なリストラを実施しています。同じく米国のModern Meadowは細胞培養による皮革素材を開発しましたが、こちらも量産化に至る前に事業の大幅な縮小を余儀なくされました。
この構造的な問題をスタートアップ業界では「死の谷(Valley of Death)」と呼んでいます。研究開発の段階では少ない資金で進められますが、量産化に向けた設備投資の段階で必要資金が急増し、そこで息切れする企業が多い。バイオ素材はこの谷が特に深く、食品・医薬品・繊維のいずれの分野でも、量産化に成功した事例はまだ限られています。
Spiberの苦境は、この「死の谷」の深さを改めて示しているとも言えます。逆に言えば、もし量産化を乗り越えた企業が現れれば、それは業界全体の転換点になる可能性があります。その候補としてSpiberは依然として最前線にいます。
それでも技術の価値は本物か―「わからないこと」も含めて考える
財務状況の厳しさを正直に書いたうえで、技術の価値について考えてみたいと思います。
「わかること」
技術の独自性は本物:DNA設計→微生物発酵→精製→加工という一気通貫の技術基盤は、競合と比べても高い水準にあると評価されています。
採用ブランドの質が上がっている:バーバリー・イリス・ヴァン・ヘルペン・トヨタという採用先は「実験的・話題性」だけでなく「本格採用」の段階に入りつつあることを示しています。
アパレル以外への展開が進んでいる:化粧品・自動車・ユニフォームへの展開は、繊維だけに依存しないポートフォリオを形成しつつあることを示しています。
「わからないこと」
現実的なコストになるのはいつか:量産規模が上がればコストが下がるというのは理論的には正しいですが、どの規模でどのコストレベルになるかは、現段階では計画値しか示されておらず、実績での確認はできていません。
財務的な存続が確保されるか:借換え交渉・新たな資金調達・支援の内容次第で状況は大きく変わります。この記事を書いている時点(2026年3月)では、2025年12月の返済期限への対応が決着したかどうかを公開情報から確認できていません。
日常的な耐久性と生分解性の両立:前述の通り、使用中・洗濯中に分解しないかという問いへの明確な回答は公開情報から見つかりませんでした。
普及には20〜25年かかると代表自身が言っている:関山代表は「大規模な普及には20〜25年かかる」と発言しています。これを長期的な展望として前向きに捉えるか、現実的なスケール感として留意するかは、読む側の立場によります。
アパレル実務者の視点として
現時点でBrewedProtein™は「今すぐ普通の製品に使える素材」ではありません。コストは高く、供給量は限られ、採用できるのは一部のハイエンドブランドや実験的なプロジェクトに限られます。しかし5〜10年のスパンで見れば、技術の方向性は本物であり、採用の広がりも現実に起きています。「今使えないから無視する」のではなく「何がどうなれば使えるようになるかを理解しておく」というスタンスが、業界に関わる私たちには求められると思います。
まとめ―アパレル業界はどう関わる?

Spiber / BrewedProtein™について、技術・採用・財務の3軸から整理してきました。最後に率直な感想を書かせてください。
技術の革新性は本物だと思います。石油由来素材に頼らず、アミノ酸配列レベルから素材を設計できるというプラットフォームは、繊維産業の長期的な方向性を示していると感じます。採用ブランドがバーバリーやイリス・ヴァン・ヘルペン、トヨタに広がっているという事実も、技術への信頼の表れです。
一方、財務状況は深刻です。売上4億円に対して295億円の赤字、362億円の借入返済という数字は、「夢の素材」の実用化がいかに困難で資金を要するかを示しています。素材の革新性と事業の持続性は別の話であり、現時点ではその両方がそろっているとは言えません。
アパレル業界に関わる私たちにできることは何でしょうか。今すぐ採用できないとしても、この素材が「実用的なコストで手が届くようになったとき、自分たちはどう使うか」を考えておくことには意味があると思います。また、BrewedProtein™を含むバイオ素材の動向は、繊維産業のリサイクル・サステナビリティの大きな流れと接続しています。素材の選択肢を増やすという意味でも、定期的に情報をアップデートしていくことをお勧めします。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。この記事の内容について「ここが違う」「最新情報がある」という方はぜひご連絡ください。
【本記事内リンク記事一覧】
▶ 伸びる・もどる・劣化する――スパンデックスの正体とポリウレタンフリーストレッチの現在地
▶ 次世代タンパク質繊維とセルロース繊維の未来(2022年公開・旧版)
▶ リサイクル繊維の現実と未来