&CROP編集部の瀧澤です。昨今のキャンプ・焚火ブームでアパレル向けの難燃性素材の提案依頼が増えてテキスタイル商材を扱っているメーカーや問屋からの難燃性の生地商材提案も増えています。今回は難燃素材や防炎加工とはどういうものなのか?テキスタイルを構成している繊維素材の種類や形状による‟燃えやすさ・燃えにくさ”や難燃素材・防炎加工について、また燃やして繊維を鑑別する簡単な方法についても解説しています。この記事を最後まで読んでいただくことで素材の燃焼特性を理解して企画するアイテムに最適な素材選びのお役に立てていただければ幸いです。
もくじ
繊維の種類と燃焼特性
国内では年に100件近くの着衣着火による事故が報告され、高齢者や子供を中心に死亡事故も起きていて、死亡事故には至らないまでも多くの場合火傷などの負傷を負っています。繊維は種類や形状によっても燃えやすい、燃えにくいがあるのでアイテムによっては素材選びの際に素材の燃焼性を把握して商品を企画する必要があります。下図は一般的な繊維素材の燃焼性を表にしたものです。
繊維の種類 | 燃えやすさ | 燃え方 | 臭い | 炭の形状 | |
天然繊維 | 綿・麻 | 燃え易い | 燃えやすく炎を離しても燃える | 紙を焼く臭い | 灰色の柔らかい灰を 少し残す |
毛 | やや燃え易い | ちぢれながらくすぶるように燃える | 髪を焼く臭い | 黒褐色の塊になり 押すと容易につぶれる | |
絹 | やや燃え易い | ちぢれながら 早く燃える | 髪を焼く臭い | 黒褐色の塊になり 押すと容易につぶれる | |
化学繊維 | ポリエステル | 燃えにくい | 煤の多い炎を出して燃える | 芳香臭 | 溶けた球は冷えると硬くなるが 熱いうちに引き伸ばすと 糸状になる |
ナイロン | 燃えにくい | 溶けながら徐々に燃え 炎を離すと燃え続けない | 特有の臭い | 冷えるとガラス状の硬い球になる 熱いうちに引き伸ばすと 糸状になる | |
アクリル | 燃えにくい | 溶けながら弱い炎を放って燃える | 辛苦い臭い | 硬く黒い球を残す | |
ポリウレタン | 燃えにくい | 溶けながら徐々に燃え 炎を離すと燃え続けない | 特有の臭い | 粘着性のあるゴム状の 塊になる | |
レーヨン (再生繊維) | 燃え易い | 引火し易く紙のように パッと早く燃える | 紙を焼く臭い | 白っぽい柔らかい 灰を少し残す | |
アセテート トリアセテート | やや燃え易い | 溶けるように燃える | 酢のような臭い | 硬くて黒い塊を少し残す 手で押すと容易につぶれる |
表① 出典:「被服材料への招待」日下部信幸著
上の表を補足すると、綿・麻・レーヨンなどのセルロース繊維はとても燃えやすく一度火がつくと炎を離しても燃え続ける性質があります。ウールやシルクのようなタンパク質繊維は燃やすと髪の毛を焼くような臭いがして燃えますが、炎を離すと自ら燃え続けることはありません。表によると石油由来の合成繊維はどちらかというと燃えにくい繊維となっていますが、燃える前に繊維が溶解する性質と燃焼によって温度が上昇し分解温度に達すると可燃性ガスが発生して非常に燃えやすい状態となり燃焼が持続します。
また、初めて人工的に製造された初期のレーヨンは天然原料のセルロースを硝酸と硫酸の混合したもので処理したニトロセルロース(火薬や接着剤、セルロイドの原料でもある)を原料にしていた為に極めて燃えやすくレーヨンのドレスを着た人が火だるまになる事故が続出したことで、ビスコース法による新たな製法が確立するまでは製造が中止された経緯があります。現在、着衣着火を起こしている素材の大半が綿や綿混の素材であることからもセルロース系繊維の燃えやすさがうかがえますがこれには繊維・生地の形状やアイテムも大きく影響しています。
参考にした資料:着衣の燃焼性に関する研究 東京消防庁
繊維を燃やして見分ける方法
素材の判別が困難
最近ではポリエステルの繊維をまるで綿や麻、ウールのような天然素材にそっくりの見た目や手触りに加工した商品も多く、一見しただけでは何の素材を使用しているのか判別できない生地もあります。海外の市場などで手配した素材では綿100%のように表記されているのに調べるとポリエステルや混紡・交織素材が使われているケースもあります。
素材の判別ができる簡易式の検査方法
正確な素材の混用率を表記するには公的機関での試験が必要ですが、取り急ぎ手元にある素材の表記が正しいかどうかを繊維を燃やして判定する簡易式の検査方法があります。経糸・緯糸等に解した繊維をライター等で燃やして燃え方や臭い灰の状態を上記の表①と照らし合わせることで生地を構成している繊維の種類をおおよそ判断することが出来ます。一見して綿や羊毛のように見える繊維がポリエステルのような合成繊維や合成繊維との混紡・交織素材かどうかの判断は比較的簡単です。しかし綿と麻や再生繊維のようなセルロース繊維の種類の判別はかなり難しく、ポリエステル・ナイロン・アセテートなどは慣れるとある程度判るようになります。あくまでも簡易式の判別法ですが興味のある方は火災など起こさないように自己責任でどんどん燃やしてみて下さい!
繊維形状やアイテムとフラッシュ現象
表面フラッシュ現象
綿やレーヨン、ポリエステルのような繊維の表面にパイルや起毛などの毛羽があり、空気を多く含んでいる素材にコンロなどの火が着火して瞬間的に燃え上がる現象を「表面フラッシュ現象」と言います。フラッシュ現象でいきなり人が焼け死んでしまうようなことはめったにありませんが、慌ててパニックになることで二次被害が起こることが多く高齢者や子供に被害が多くなっているのもうなずけます。
燃焼特性を理解して素材を選ぶことの重要さ
前項で参考にさせていただいた消防庁のレポートの事例でもトレーナーやフリースなどの裏毛やパイル・ネルのような起毛素材が多く、またアイテムもカットソーやパジャマ、バスローブなど家庭などで着用しているカジュアルな物が多いことがうかがえます。このように着衣着火には素材の種類と形状が関係していますが、燃えやすい綿を原料にしていても高密度に打ち込んだ毛羽の無い素材などの場合は簡単に着火することはないので、着衣への火の着き易さは繊維や生地の形状・規格などによっても違って来ます。また上記の表で比較的燃えにくいとされる合成繊維のポリエステルやナイロンでも薄手の素材の場合は火の粉などで簡単に穴が開いたり溶けたりしてしまうことは経験があるのではないかと思います。作業服やアウトドアだけでなくカジュアルウェアでも使用するアイテムやシーンによっては素材の燃焼特性を理解して素材を選ぶことが大切になると思います。
防炎と難燃
防炎と難燃は一般的には同じような意味にとらえられていますが繊維製品における防炎性と難燃性ではニュアンスが異なり、防炎は火災の発生や延焼を防ぐ目的を、難燃は素材自体の燃えにくさを表しています。
防炎・防炎加工
消防法とは
防炎・防炎加工という言葉は文字通り炎を防ぐという意味で「消防法」によって定義されています。消防法では高層建築物や人が多く集まる施設で使用される繊維製品等(カーテン・暗幕・絨毯・寝具類・テント類・シート類…など)を防炎物品・防炎製品として基準を定めています。多くの繊維製品は本来は燃えやすい性質を有しているのでこれらの繊維製品が火災の発生や拡大の原因となるのを抑えるために設けられているのが消防法による防炎基準です。
防炎とは
従って防炎は不燃とは異なりあくまでも燃えにくい性質を示すもので「小さな火に接しても繊維が燃え上がらず、着火しても燃え広がりが少ない」ことを表し、テキスタイルでは主にインテリアなどに適用されています。繊維製品を防炎化するには製品を防炎薬剤で処理する後加工による方法と繊維素材そのものに防炎性能をもたせる方法があり、前者は主に綿やレーヨン等の製品の防炎化に用いられ、後者は化学繊維の製造工程での処理によって行われます。
難燃素材・難燃加工
難燃素材・難燃加工は素材の燃えにくさを表しています。難燃性の素材は主にインテリアや消防服・作業服・アウトドアウェアなどに用いられ使用目的によって必要とされるスペックが変わって来ます。難燃素材は繊維そのものに難燃性のある素材を混紡・交織などによって用い、難燃加工は後加工によって難燃性を付与します。難燃商材の具体的な商材等は後半で紹介していますので参考にして下さい。
難燃性・防炎性の試験(燃焼試験)JIS L 1091
JIS L1091は繊維製品の燃焼性を評価するために公的試験機関が行っている主要な試験方法で下記の5種類の方法が定められています。
① A法( 燃焼試験 ) 対象物 :カーテン・暗幕・寝衣類
A-1 法(45°ミクロバーナー法) 薄地:450g/㎡以下
A-2 法(45°メッケルバーナー法) 厚地:450g/㎡以上
A-4法(垂直法)寝衣類等
② B法(表面燃焼試験) 対象物:敷物類
③ C法 (燃焼速度試験) 対象物:薄地衣料品・スカーフ・マスク
④ D法(接炎試験) 対象物:加熱によって溶解する素材
⑤ E法(酸素指数法試験)試験片が燃焼を続けるために必要な最低酸素濃度を測定。
燃焼性試験に関するより詳細な情報は下記のURLを参照して下さい
カケン 燃焼性試験 https://www.kaken.or.jp/test/search/detail/20
QTEC燃焼性試験方法 https://www.qtec.or.jp/search/test/anzen/anzen06/
LOI(limiting oxygen index)値とは
前項の試験方法(E法)で測定される限界酸素指数をLOI(limiting oxygen index)ロイ値と呼んで、容量%で表されます。LOI値が空気中の酸素濃度(20~21%)よりも高いほど燃えにくい素材とされ、一般的に22%以下であれば可燃性27%以上であれば難燃性と言われています。テキスタイル商材として取り扱う際に目安となり易いので、最近では難燃性素材としてLOI値を表記している生地商材も増えています。参考までに一般的な繊維のLOI値は
綿(18~19%)・アクリル(18%)・レーヨン(18~19%)・ポリエステル(20~21%)・ナイロン(20~21%)・モダクリル(アクリル系25~29%)・羊毛(24~25%)・パラ系アラミド繊維(25~29%)・メタ系アラミド繊維(29~32%)※数値には出典により多少の差異あり となっています。
難燃加工と難燃素材
難燃加工
難燃加工は可燃性の素材や製品に後加工で難燃性を付与することを言い、個人的には防炎加工とほぼ同義であると思っています。難燃加工は生地や製品に薬剤を吸着させることで燃えにくくするのですが綿やレーヨンなどの素材には有機リン系化合物、ポリエステルには臭素系薬品、羊毛製品にはチタニウムやジルコニウム化合物を用いるなど素材によって有効な薬剤が異なります。
難燃素材
難燃性の素材を繊維として用いたのが難燃素材です。難燃性繊維にはLOI値の項で例にあげたモダクリル繊維・羊毛繊維・パラ系アラミド繊維・メタ系アラミド繊維などLOI値の高い繊維を使用し、作業服や焚火服に使われているような比較的身近な素材から消防服などに用いられるような難燃性能の非常に高い繊維素材までが繊維メーカーから販売されています。
代表的な難燃繊維素材と特徴
この項では代表的な難燃性繊維素材の種類と特徴を簡単に紹介しています。
プロテックス®(カネカ)
プロテックス(Protex®)は㈱カネカが製造販売する高難燃タイプのモダクリル繊維素材です。火源を離すとすぐに燃焼が止まる自己消火性を有し、燃えると溶融せずに炭化するので溶け落ちて皮膚に付着したりすることがありません。プロテックスは軽くしなやかで弾力性があり一般的なアクリル繊維と同様に発色が良く綿やポリエステルをはじめ多種多様な繊維との混紡、交織が可能でアパレル向け繊維素材としても広く使われています。
プロテックスメーカーサイト https://www.modacrylic.com/about
カネカロン®(カネカ)
カネカロン(kanekalon®)は羊毛に替わる素材としてカネカが開発したモダクリル難燃性繊維素材です。200種類を越える種類がありエコファーやかつらの素材として世界で広く使われています。日本のエコファーが世界的にも高品質で注目されているのもカネカロンに依るところが大きいと思われます。
カネカロンメーカーサイト https://www.kanecaron.com/kanecaron
アグニノ®(豊島株式会社)
アグニノ(Agunino®)高いは豊島㈱が販売するモダクリル繊維を使用した難燃性繊維素材です。素材自体が難燃性の為繰り返し洗濯しても高い難燃性能が維持され広くアパレル製品にも使われています。
アグニノメーカーサイト https://www.toyoshima.co.jp/business/textile/
PVC(ポリ塩化ビニル)
PVC(ポリ塩化ビニル)は合成樹脂の中では難燃性が高い樹脂で合成皮革にも使われています。合成皮革(いわゆる合皮)には表面にポリウレタン樹脂を塗布したものとポリ塩化ビニルを塗布したものがあります。ポリウレタン系の合皮は質感が本革に近い表現が可能なのでアパレル製品に多く用いられています。一方でPVC系の合皮はコストが安く難燃性がありますがツルっとした感触がビニールっぽいのでアパレル製品への使用は限定されます。
羊毛(wool)
羊毛(wool)は天然繊維の中ではLOI値が24~25%と高い難燃性の繊維と言えます。ウールは火を近づけるとジリジリと燃えますが、火源を取り除くと炭化して自然に鎮火することや繊維の中に水分を多く含むこと、発火温度が570℃~600℃と高いことから、燃焼に対する安全性が高い繊維素材として評価されていて航空機の内装や消防服にも使われています。
難燃性ポリエステル
難燃性ポリエステルは主に防炎素材としてインテリアや寝具資材などに使われています。下記に代表的なメーカーの難燃性ポリエステルを紹介します。
帝人スーパーエクスター:ポリエステル繊維の内部にノンハロゲン系防炎剤を化学結合した高性能の難燃性ポリエステル(商標クリックでメーカーのリーフレットを別タブで表示)
東レアンフラ®:ポリエステル繊維に難燃性成分を共重合した難燃性ポリエステル (商標クリックでメーカーの商材サイトを別タブで表示)
東洋紡STCハイム® :主に短繊維と不織布に使われる東洋紡が開発した難燃性ポリエステル(商標クリックでメーカーの商材サイトを別タブで表示)
アラミド繊維
アラミド繊維は芳香族ポリアミド樹脂の総称で高強度・高耐久性・衝撃吸収性など多くの優れた特徴をもった高機能繊維で高い耐熱性と難燃性も兼ね備え、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり防火服や難燃作業服などにも使われています。
帝人 コーネックス:メタ系アラミド繊維「コーネックス®」は、400℃超の耐熱性を持ち、防炎性に優れる高機能繊維で、炎が燃え移ったり、熱で溶けて肌に付着したりすることがありません。(商標クリックでメーカーの商材サイトを別タブで表示)
ここで紹介した以外にも多くの難燃性繊維がメーカーから販売されています。紹介しきれない商材は下記の化学繊維協会の防炎・難燃素材のリンクをご参照下さい。
防炎・難燃 繊維(日本化学繊維協会) https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/katsuyaku/shuyou_brand/13.html
綿(cotton)
綿(cotton)は表①の繊維素材の燃焼性からも判るように燃えやすく、LOI値も18~19%と可燃性の高い繊維素材なのですが某メーカー(WM)のコットン100%のアイテムがネット上では難燃アイテムとして扱われています。これはWM社がアウトドア向けの化合繊アイテムに較べてコットンが熱に強くアウトドアでの焚火などに向いているとして販売して人気があるのをブログ等で発信している人たちが難燃アイテムとして取り上げていることから生じている誤解と思われます。WM社の公式ページでは綿100%のアイテムに対して難燃素材という言葉は一切使っていません。このような誤解が生じたのも綿が化学繊維に較べて焚火などの火で穴が開いたり溶けたりしないので焚火に向いている素材であることを難燃性と誤解して広めていることが原因です。綿は決して難燃性の繊維素材ではありませんが規格や加工の仕方を変えたり難燃素材とハイブリットにすることで火がつきにくい素材としても充分に使用できる素材でもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか? なんとなくしか理解していなかった難燃と防炎の意味や素材による燃焼性の違い。難燃・防炎と言っても燃えないわけでは無いこと、どんな素材や仕上げの生地が燃えやすいのか?難燃性繊維素材の種類と特徴…等々、この記事を書きながら私自身も初めて知ったことや認識を改めたことも多々ありました。繊維の燃焼に対する安全性の観点から製品を企画したり選ぶ際の参考にしていただければうれしいです。また間違って理解していることや訂正が必要な部分があればご指摘いただけましたら幸いです。