&CROP編集部の瀧澤です。よせばいいのにまた大仰なタイトルにしてしまった。読んでくださった方に、すべて? わかりやすく? どこが?…と思われないように頑張りますw さて…“パイル”といえばその危険性から2000年にWWFで禁止され、多くのバリエーションと派生技があるプロレス技の「パイルドライバー」… ではありません。はい、冒頭からややこしくして申し訳ございません!もとい…パイル生地と聞いて多くの人が思い浮かべるのはタオルではないかと思います。吸水性や保温性があって、柔らかい風合いで、バスローブやマット・ベビー用品などに多く使われているイメージです。でもそれはパイル生地の一部にすぎません。日本でパイル織物は添毛(てんもう)織物と呼ばれ16世紀にポルトガルから伝来してビロードとして広まったのが最初といわれています。ビロードは現在ではベルベットのことなのでベルベットもパイル織物です。つまりパイル(添毛)=毛が付いているという意味で、毛羽があるのがパイル生地ですから絨毯(カーペット)・別珍・コーデュロイ・ベロアやフェイクファーもパイル生地に分類されます。そしてパイル生地には織物(パイル織物)と編物(パイル編物)があり、その用途もアパレル向けから様々な資材までとても幅広い素材なのです。じつは日常に無くてはならないアイテムのスマートフォンの液晶画面の製造にもパイル織物のベルベットが欠かすことの資材として使われています。最後まで読んでいただければパイル生地の全体像が理解していただけると思いますのでお付き合いいただけるとうれしいです。
もくじ
パイル生地の種類
上の図のようにパイル生地にはパイル織物とパイル編物があります。パイル織物は平織や綾織のベーシックな組織に経糸または緯糸をループ状に織り込んだ生地です。パイル編物はベースとなる編地にパイルとなる別の糸をループ状に編みだしてパイル状にした編物です。パイル編物・パイル織物ともに片面パイルと両面パイルがあり、またパイルをカット(剪毛:せんもう)したカットパイルとループのまま仕上げるループ(輪奈:わな)パイルがあります。また両面ガーゼ組織の間にパイルを挟み込んだインナーパイルという独自の織物も商品化されています。パイル織・編物の産地として有名な和歌山県高野口はパイルを様々な長さや形状に加工して作るリアルで高品質なフェイクファー(エコファー)の製造で世界的にも知られています。ではそれぞれのパイル生地についてもう少し詳しく見てゆきましょう。
パイル織物
パイル織物はパイルの織出し方によって経糸をパイル状に織る経パイル織と緯糸をパイルにする緯パイル織があります。経パイル織にはタオル地やベルベット・モケット・カーペット(絨毯)・段通があり緯パイル織には別珍やコーデュロイがあります。
経(タテ)パイル織物
経パイル織物は整経された経糸に緯糸を織りこんで行くときに経糸をパイル状にしながら織る織物です。経パイル織物にはベルベット・モケット・絨毯(カーペット)・タオルなどがあります。フェイクファーを織る場合もパイルを長く織りだせるので経パイルで織ることが多いですが緯パイルで織る場合もあります。
ベルベット
伝統的なベルベット(ビロード)は有線ビロード(輪奈ビロード)とも呼ばれ針金を織り込むことで経糸をループ状に織りだして作られていました。今では針金の替わりにテグスを用いて織るメーカーもあります、現在でもシルク素材などの伝統的なビロード織物に用いられている製法です。一方、現在主流となっているベルベットの製法は二重ビロードとも呼ばれる二重織で製織した内側をカットすることで2枚の織物にする製法で織られています。ベルベットに関するより詳しい内容は下記のリンクの記事もあわせて参照してください。
&CROP編集部の瀧澤です。「ベルベット・別珍・ベロア…違いがよく判らない!」ベルベット・別珍・ベロアについて以前からよく聞かれる質問です。実は繊維やアパレルにたずさわる仕事をしている方でも人によって理解が違っていることも良く[…]
タオル地(テリークロス)
タオル地も経パイルの織物で経糸と緯糸を織るときにパイル経糸というもう一つの経糸でパイルを作りながら織り進みます。これはテリーモーションという原理を利用した織り方です。はじめに1本目の緯糸と2本目の緯糸の間隔を少し開けて打ち込み3本目の緯糸を打ち込むときに隙間を無くすように打ち込むとゆるく張ってあるパイル経糸が緯糸に絡んで最初に開けてあった間隔分だけパイル状になるという方法で織られています。タオルは用途により片面パイルと両面パイルがあり、ループをそのまま生かしたパイル地のタイプとパイルをカットして仕上げるシャーリングタオルがあります。
絨毯(カーペット)・段通・モケット
ベルベットやタオルは経糸をパイル状に織り込むタイプの経パイル織物ですが、一般的な絨毯のような織物は経糸に絡ませたパイル糸を緯糸で押さえてカットして柄を織りだして行くタイプの経パイル織物です。伝統的な絨毯は産地によって特色があり独自の素材や技法で織られていて今もイランで織られれているペルシャ絨毯は有名ですね。段通は中国で手織りされる厚手の最高級絨毯、モケットは細番手の糸を緻密に織り込み毛足を短く刈り込んだベルベットのような肌触りの耐久性のある織物で内装や車両のシートなどに使われます。絨毯にはつづれ織りのキリムやゴブラン織りもありますがこれらはパイル織物とは違異なります。また最近では低コストで量産されるタフテッドカーペットが多くなっています。これは基布にガンやマシンを使ってパイルを打ち込んで大量生産されるカーペットでパイル織物とは別物と考えて良いと思います。
緯(ヨコ)パイル織物
緯パイル織物は文字通り緯糸をパイルとして利用する織物で別珍(ベルベッチーン)とコーデュロイ(コール天)がヨコパイル織物になります。
別珍・コーデュロイ
別珍(ベルベッチーン)は畝の無いベルベットに似たパイル織物で18世紀のフランスでベルベットを模して織られたのが始まりと言われています。一方コーデュロイは古代エジプトが起源と言われている経畝のパイル織物です。どちらも綿素材で織られることが多く緯糸で輪奈(ループ)を作りながら高密度に織り、ループをカットして毛羽を作ります。日本には明治期に輸入され遠州(静岡県西部)地域が産地として発展しました。国産の別珍・コーデュロイは職人的な技術力で世界的にも評価の高い織物ですが伝統的に分業で生産されてきた経緯もあり、現在は後継者が無く存続が難しくなっています。別珍・コーデュロイについては下記のリンクもあわせて参照してください。
&CROP編集部の瀧澤です。「ベルベット・別珍・ベロア…違いがよく判らない!」ベルベット・別珍・ベロアについて以前からよく聞かれる質問です。実は繊維やアパレルにたずさわる仕事をしている方でも人によって理解が違っていることも良く[…]
パイル編物
先述したようにパイル編物はベースとなる編地にパイルとなる別の糸をループ状に編みだしてパイル状にした編物です。一般的に表地として流通しているパイル地カットーソーのベロアや裏毛、T/Cパイルなどのほとんどはシンカー編み機という丸編み機を用いて編まれています。「シンカー」はベースとなる組織にパイルとなる糸をループ状に編みこんで行くためのパーツで安定した品質の生地を効率的に生産することができるのでパイル編み機の主流となっています。一方、シンカー編み機が普及する以前の吊り編み機を用いて生産を続けている工場もあり、糸に余分なテンションをかけずに編むことができるため糸本来の柔らかさを保った吊り裏毛はハイクオリティな差別化商材として人気です。また少ないですが両面パイルを編める編み機もあります。丸編み機とは別に経編機を用いた経編(トリコットパイル)もあり、主に裏地や資材用途向けの生地に用いられます。
ベロア

シンカー丸編み機で編んでパイルをカットしたカットソーの生地がベロアです。素材としては綿・レーヨン・ポリエステル・トリアセテートなどが良く使われています。ソフトな風合いで伸縮性と光沢があるので様々なファッションアイテムに用いられ何度もブームを起こしてきたパイル素材です。
裏毛


裏毛は表面を天竺、裏面をパイルで編んだ丸編みのカットソーでスウェットやパーカーに使われる代表的な生地です。先述したようにシンカーパイルの裏毛と吊り裏毛があります。通常はウラケと言いますが関西系の古い人の中にはたまにウラゲと呼ぶ人もいます。それでもメモなどにはウラケと書いているのはかなり謎ですw。裏毛では表目に対してループを編む数を”飛び”と言って1飛びは一目ごとに1ループ、2飛びは2目で1ループ、3飛びは3目で1ループになっています。一般的な裏毛は2飛びが多く、1飛びは比較的細い糸を使うミニ裏毛、3飛びは太めの糸を使うヘビーウェイトの裏毛に多い編み方です。また裏毛にはループ面を起毛した起毛裏毛もありパイルの裏毛よりも厚みが出て保温力の高い素材になります。
その他のパイル地カットソー
ベロアや裏毛以外にパイルと呼ばれるカットソーの生地は色々なタイプあります。アパレルアイテム向けにはパイル織物よりもカットソーパイルの方が小ロットでの生産がしやすく一般的で、綿100%パイル・T/Cパイル・ランダムパイルなどパイルの長さや表情などいくつかのタイプの商品が流通しています。
ループパイルとカットパイル
パイルをそのまま生かしたタオルなどはループパイル(アンカットパイル)で、ループをカットした物がカットパイルと呼ばれます。タオルにもループパイルとカットパイルがあり、カーペットにもカットパイルとループパイルの両方があります。ベルベット、別珍、コーデュロイは基本はカットパイル織物ですがパイルをカットしていないアンカットコールというコーデュロイもあります。また二重織で織ってパイルをカットする製法の現在のベルベットはすべてカットパイルということになるのですが伝統的な手法で織られている紋織物のビロードなどはカットしていないパイル(輪奈)で柄を表現している織物もあって輪奈ビロードと呼ばれています。
両面パイルと片面パイル


織物・編物ともに両面にパイルがあるものと片面だけがパイルになっているものがあります。タオルなどでは両面パイルは吸水力が大きいのでバスタオルやフェイスタオルなどに向いています。一方で片面パイルのタオルは吸水性は小さいですが薄い分乾きやすくコストも安いメリットがあります。衣料向けのパイル生地では両面パイルは保温力が高い分重く、コストも高くなります。軽衣料のカットーソーアイテムや裏地使いなどには片面パイルのカットソーを使うことが多いです。両面パイルの片面をカットパイル、もう一方をループパイルにした仕様なども可能なので用途によって目的に合わせたパイルを使用するようにしましょう。
フェイクファー

高野山への参詣で栄えた和歌山県の高野口は江戸時代になると川上木綿の栽培と織物によって織物産地として栄え、のちに世界的にも高品質なフェイクファーを生産する織・編物の産地へと発展しました。フェイクファーの毛足となる部分はパイル織・編物で作られたパイル部分に様々な加工を施すことによって作られています。もとはアザラシの毛皮に似せた高品質で丈夫なシール織物の生産が多く、次第に時代のニーズに合わせたフェイクファーの産地へと変わってきました。ファーの製造方法もかつてはパイル織が主流でしたが最近では小ロット生産に対応しやすいパイル編による生産も多くなっています。高野口は世界でも唯一のパイルファブリック産地として紀州繊維工業協同組合を中心に41名の組合員がそれぞれの得意分野の技術を確立して再織(シェニール織)・パイル織物・パイル編物・ラッセルパイル(経編)・シンカーパイル・ハイパイル(スライバーニット)などのパイルファブリックを生産しています。高野口産地のパイルファブリックについては紀州繊維工業協同組合のHPもあわせて参照してください。
地域団体商標でもある「高野口パイル」とは、どういった物なのかを説明しております。また、産地の歴史や織機、編機についても記…
フロッキーパイル
フロッキーパイルはパイル織物や編物ではなく、基布にパイルを植毛する加工方法でつくるパイル生地で、パイルにはレーヨン・ナイロン・ポリエステルなどが使われることが多いです。柄やパターンをプリントするフロッキープリントや生地の全面にパイルを植毛する場合があり、フロッキープリントは通常の柄捺染と合わせて行うことが多いです。全面フロッキー加工の生地はどちらかというと資材用途に使われることが多いですが 最近ではバインダー(パイルを接着する樹脂)も改良されて、以前と較べてソフトな風合いで耐久性のあるアパレル素材向けの加工が可能でメッシュ素材などにフロッキー加工を施した素材も人気があります。フロッキー加工については下記の近江ベルベット(株)のHPもあわせて参照してください。
フリースもパイル生地?

フリースは一般的にはポリエステル製の起毛の生地ですがフリースとパイルの違いを聞かれることが時々あります。フリースとパイルはどう違うのでしょうか?フリースのはじまりはパタゴニア社が開発したシンチラ(シンチラフリース)で、これはポリエステル製の両面パイル生地でした。この素材はとても軽量で速乾性があり保温力が高いことから当初はアウトドア向けのアイテムとして人気を集め、後に一気に広まって、今ではフリースの無い世界は想像できません(笑)。そして現在では用途やコストに応じて様々な厚みや機能のフリースが製造されています。それらのフリースの中には片面パイル・両面パイルを起毛したのものもありますし、パイルではなくポリエステルの編地(丸編やトリコット)を起毛したタイプもあります。ですので一概にフリース生地とパイル生地を違うものとも、同じものとも言えないです。つまりフリースにも片面・両面パイルもあればパイルのフリースもパイルでない起毛生地のフリースもあると理解していて良いと思います。
パイル素材の用途
パイルの用途と言えばまず、タオルやベビー用品が思い浮かびます。ルームウェアではパジャマ・ワンピース・スウェット・バスローブなど肌触りが良く吸水性が求められる製品が多い印象です。裏毛類もスウェットやトレーナーでは定番の素材です。ベルベットはフォーマルなドレスやセットアップ・ジャケット・パンツなどが多くコーデュロイはどちらかというとカジュアルなアイテムに広く使われています。インテリア向けではカーペットには様々な製法のパイル織物が使われていますが、別珍やベルベットも高級なカーテンや内装にも広く使われています。フェイクファーもファッションアイテムとして幅広い用途があるので私たちの身の回りには結構色々なところにパイル素材が使われています。一方でファッション衣料、インテリア以外にもパイル素材には産業資材としての様々な用途があります。掃除機・エアコン・複写機・ATMなどに使われているブラシパーツ類、車両用のシート、化粧用のパフ、ペイントローラー、各種フィルター、医療用の帽子や介護器具のベルト類…等々、パイル系の資材は色々なところに使われています。最も身近なところでは毎日持ち歩いているスマートフォンのディスプレイに液晶の入る溝をつける工程でパイル織物のベルベットが使われています。これはラビング法と呼ばれるディスプレイの液晶分子を一定の方向に揃えるための溝をつける処理工程で、使用されるベルベットにはパイルの角度など衣料向けとは別次元の精密さが求められるそうです。このラビングクロスと呼ばれるベルベットを製造している株式会社アゲハラベルベットの担当者に聞いた話では現在生産しているベルベットの半分くらいがこうした資材用途向けとのことです。
まとめ
パイルといえばタオルというイメージが少し広がって、パイル素材についての理解がチョット深まったと感じていただけたら嬉しいです。身の回りのどんなところにパイル素材が使われているのか?どんなファッションアイテムにどんなパイルが使われているのか是非色々なところを探してみてください。パイル素材をつかったアイテムのとびきりのアイデアが浮かぶかもしれません!最後まで読んでいただきありがとうございました。