レイヤリングの素材とアイテム-03 ミドルレイヤー（インサレーション）編

＆CROP編集部の瀧澤です。

前回の記事ではミドルレイヤーでも行動中にかいた汗を吸収拡散して肌をできる限りドライな状態に保ちながら保温する行動着と呼んでいるアイテムや素材について説明しました。

関連記事

レイヤリングの素材とアイテム-02 ミドルレイヤー（行動着）編

＆CROP編集部の瀧澤です。今回はベースレイヤー編に続く…ミドルレイヤー編です。ミドルレイヤー（ミッドレイヤー）はアウトドアアクティビティのレイヤリングシステムと呼んでいるベースレイヤーとアウターレイヤーの間に着用する中間着を指し、[…]

今回は引き続きミドルレイヤーでも保温機能を重視した保温着と呼んでいるアイテムの素材について解説します。特に今回はインサレーション素材をメインで紹介していますので興味のある方は最後までお付き合いください。

保温着の素材

野外のアクティビティに多く用いられる保温着素材にはフリースとインサレーションと呼ぶ中綿素材が多く用いられます。インサレーションには天然素材のダウンと化繊中綿がありますが最近では化繊素材の進化によって通気・発散性の高い薄手の中綿を使用して行動中でも保温しながら通気性を確保したアクティブインサレーションと呼ぶ保温着が新しいカテゴリーとして認知されて広まっています。アクティブインサレーションはどちらかと言えば行動着になりますがここではアクティブインサレーションに使われている素材も含めてインサレーション素材を中心に取り上げ、フリースとダウンについては概説のみしています。

フリース素材

本来は一頭の羊から刈り取った一枚の羊毛をフリースと呼んでいました。現在ではアウトドア向けでフリースといえば、ほぼ化繊（ポリエステル）フリースのことを指しています。軽くて暖かく速乾性のあるフリース素材はパタゴニアの創業者とポーラテック社によってアウトドアアクティビティ向けに開発された素材ですが、軽く・暖かく・通気性と速乾性があり取り扱いが容易なことから瞬く間にカジュアルファッション素材としても定番となりました。

薄手のフリース素材には行動着向けに開発された素材も多数ありますが、中肉～厚手のフリース素材は保温着として幅広く活用されていて非常に多くの種類の素材やアイテムが商品化されています。フリース素材は前述のように嵩高性があることでデッドエアーを蓄えて温かく通気性があり、濡れてもすぐに乾く速乾性も兼ね備えていることと、汎用性がありコストが比較的安く、厚みや形状のバリエーションや様々な機能を付加し易いという利点があります。一方ではより高い保温性を得るためには重くなり、かさ張るというデメリットがあります。

ダウン（羽毛）

ダウンの始まり

1936年にエディ・バウアーが初めて「スカイライナー」と呼ばれるダイヤ柄キルトのダウンジャケットを発表。軽くて高い保温性のあるダウンインサレーションは米軍のフライトジャケットB-9に採用され、また難攻不落と言われた世界第二の高峰であるカラコルム山脈の「K2」峰攻略に向けて開発された「カラコルムジャケット」を生み出します。以降ダウンアイテムは極地探検や厳冬期の登山に必須の存在になって行きます。そして現在では防寒ファッション衣料としても欠かせないアイテムになっています。

ダウンのメリットとデメリット

ダウンのメリットは軽量でコンパクトになる上に高い保温性を持っていることで、薄くても強度のある表地素材（タフタ）や撥水加工技術が進歩したことで、アウトドアースポーツからファッションにまで広く使われるようになりました。ここではダウンアイテムの紹介は省きますが、特にアウトドアでのダウンインサレーションのメリットは高い保温性を持ちながら軽くてコンパクトに収納できること。一方で、最大のデメリットは濡れると嵩高性が失われ保温性が著しく低下することです。野外でのアクティビティにおいては降雨・降雪以外にもテント内での結露などによってダウンが濡れてしまうのを防ぐための工夫が必須です。そして濡れに弱いという弱点に対する解決策として、また動物愛護の観点からも近年注目されているのが次項で紹介する化繊中綿（インサレーション）です。

 中綿（インサレーション）

中綿の本来の由来

インサレーション（インシュレーション：insulation）という言葉には断熱・断熱材・絶縁体という意味があり、日本では中綿と呼んでいます。中綿は本来その言葉が表しているように木綿の綿を防寒着の綿入れ半纏入れたことに由来しています。綿繊維がデッドエアーを蓄えることでその温かさから庶民に綿入れ半纏が広まるのは和綿の栽培が盛んになった江戸時代後期頃からです。

現在の中綿

一方現在の繊維・ファッションで中綿と言えばほぼ化繊中綿のことを指しています。以前の化繊中綿はダウンに較べて保温性が低いイメージがありましたが、次々に開発される新素材の化繊中綿はダウン（羽毛）に劣らない保温力で水濡れに強く速乾性があり、更に様々な機能を付加することでとくに野外アクティビティおいてはフレキシビリティの高い素材として注目されています。最近では国内外のメーカーからさまざまな機能を付加された多種類の中綿素材が出ているのでファッション用途の素材も含めて代表的な中綿素材を取り上げて解説しています。

インサレーション素材の紹介

日本国内で手配可能なインサレーション素材

ウォームアシスト-AG　(WARM ASSIST-AG)　　

コアブリッドＢ　（COREBRID™B）　　

サンステートⅡ 　(sunstate®Ⅱ)       

KNFシリーズ　airpack 　　　　

KDSシリーズ airpack DS  　　

WA-300R/400R  Fiberball

中国手配のインサレーション素材

KV-L150 高透湿中綿　(上海手配)

KH-RDシリーズ 光吸収発熱2層中綿　(上海手配)

SUC シリーズ　ﾘｻｲｸﾙﾍﾟｯﾄ原料中綿

HYS-Rシリーズ　ｽﾄﾚｯﾁ中綿　vilene

SHGN-60/80 グラフェン中綿　

SOLOTEX×クラビオン×サンバーナー中綿　帝人ﾌﾛﾝﾃｨｱ/ｵｰﾐｹﾝｼ　

ECOPET×ベンベルグ中綿　TEIJIN/旭化成　

海外メーカーのインサレーション素材

プリマロフト（PRIMALOFT）アルバニー社　　　

プリマロフト®は米軍の要請でALBANY社が開発したマイクロファイバー中綿素材で保温性・軽量性・撥水性・柔軟性・通気性・コンパクトさに優れ、羽毛にはない撥水性を有することでウトドア・スポーツブランドを始め多くのアパレルや寝具メーカーが採用しています。プリマロフトの中綿素材には従来からのBlack insulation/Silver insulation/Gold insulationのラインナップに加えSilver insullation Active/Gold insulation Activeそして最近ではプリマロフトゴールドとNASAのシリカエアロゲルテクノロジーを融合させたPrimalift®Gold Insuretion with Cross Core™を商品化して注目されています。　プリマロフト・メーカーサイトprimaloft.com

クライマシールド（CLIMASHIELD）　　　

クライマシールド®は2015年に誕生した米軍にも採用されている高機能インサレーションです。クライマシールドは米国テネシー州にあるHarvest Consumer Insulation社の工場で生産されている独自のフィラメント技術によ高機能中綿で米軍の要請で開発されてコンパクトで優れた通気性と濡れた条件下での保温性が高いCOMBAT、軽量で熱効率に優れたAPEXをはじめCONTUR/PRIMS/HL/ELITE等のラインナップで展開しています。COMBATとAPEXについては日本国内で在庫販売も行っています。　クライマシールド・メーカーサイト

ソロナオーラ（SORONA®AURA）デュポン社　　　　

ソロナオーラ（SORONA®）はデュポン社が開発した高機能中綿、植物(トウモロコシ)由来原料を一部に使用したPTT樹脂を使用。伸縮性・形態回復性・速乾性・蓄熱保温性に優れたインサレーション素材。　ソロナ・メーカーサイト

ポーラテックパワーフィル（Polatec®Power Fill™）ポーラテック社　　　

100%リサイクルPETを使用したポーラテックパワーフィルは独自の幾何学形状に設計された繊維が疎水性と速乾性を確保しながら高い保温性を発揮します。現在61g・81g・102g・136g/㎡のラインナップで在庫展開しています。ポーラテックパワーフィル・メーカーサイト

ポーラテックアルファ（Polatec® Alpha®）ポーラテック社　　　

米軍特殊部隊の要請で開発されたポーラテックアルファは細かく編み込んだメッシュベースを起毛して毛足の長いフリースのような構造をしているため着用者の動きを妨げることがなく、透湿性の高いテキスタイルと組み合わせることで活動中の熱と湿度を放出して通気性を高めながら保温する活動着と保温着の中間に位置するアクティブインサレーションとして定評があり、リサイクルPET100%の素材は疎水性と高い速乾性があります。　ポーラテックアルファ・メーカーサイト

ポーラテックアルファダイレクト（Polatec®Alpha® Direct）ポーラテック社　　

ポーラテックアルファをさらに進化させたアルファダイレクトは表地や裏地がない状態で着用することができるインサレーション素材で高い通気性と保温性を兼ね備えています。透湿性のある素材や薄手のアイテムとレイヤリングを工夫することでアウトドアアクティビティにおいては高い汎用性を発揮するアイテムを工夫することが可能です。ポーラテックアルファダイレクト・メーカーサイト

 シンサレート（Thinsulate）3M

シンサレートは3Mが1979年に販売を開始した化繊断熱材の老舗ブランドで、ウィンタースポーツウェア・ファッション・手袋・ブーツ・帽子・寝具等に高機能中綿素材を提供しています。スタンダードのType-Cを始めType-U(Ultra)・Type-HL(HI-LOFT)・Type-EX(Ex-Soft)等のラインナップがあります。個々の素材の詳細はメーカーサイトを参照して下さい。　3M™シンサレート™・メーカーサイト

サーモライト（THERMOLITE）インビスタ社

サーモライト®はインビスタ社が開発した高機能中綿で中空ポリエステルを使用することで軽量性と高い保温性がある。

アウトドアメーカーのオリジナルインサレーション素材

フルレンジ・インサレーション（FULLRANGE INSULATION）パタゴニア社・東レ

パタゴニア社と東レが共同開発したフルレンジ・インサレーションは保温性・伸縮性と抜群の通気性を兼ね備えたインサレーション素材です。フルレンジ・インサレーションを採用したアイテムとしてはパタゴニアナノエアジャケットがあります。

ファインポリゴン（FINE POLYGON®）ファイントラック社

ファイントラック社が開発したファインポリゴン®は最先端のシワ加工技術で立体構造にした極薄シート状の生地を積層させることで空気層を形成し非常に軽くて濡れに強く高い保温性があります。シート状のファインポリゴンは化繊綿に較べ水分を含みにくく、乾きが早くシート上であるため綿の抜けや偏りの心配もないため通気性の高い表地を使用して蒸れを大幅に軽減できるメリットがあります。ファインポリゴン・メーカーサイト

ストレッチエクセロフト（STRETCH EXCELOFT）モンベル社

モンベル社が独自に開発したエクセロフトはかさ高性・透湿性・耐久性・コンパクト性を兼ね備えたインサレーション素材で極太・中太・極細の3種類の繊維によって高い断熱効果を発揮。エクセロフトとストレッチエクセロフトがあります。エクセロフト・メーカーサイト

エナジーコクーン（ENERGYCOCOON）ゴールドウィン社

エナジーコクーンはゴールドウィン社が独自に開発したインサレーション素材でGRS認証を取得しています。リサイクル原料を使用した大きさの異なる2種類の粒わたを開発し、ダウンに近い風合いや膨らみを実現、繊維内に光電子®を練りこむことで遠赤外線効果によって直接人体を保温します。エナジーコクーン・メーカーサイト

ベントリックス（VANTORIX™）ザ・ノースフェイス社

ベントリックスはシート状の中綿が体の動きに合わせてスリットを開閉させることで行動中に発生する熱や蒸気を放出して蒸れや過度な温度上昇をコントロール、静止時にはスリットが閉まり保温します。通気性とストレッチ性に優れた表地・裏地と組み合わせることによってアクティブインサレーションに求められる高い機能性を実現しています。ベントリックス・メーカーサイト

コアロフト（Coreloft®）アークテリクス社

コアロフトはアークテリクス社が開発、シリコン加工を施した2種類の太さのポリエステル繊維による濡れても暖かさが持続、圧縮・収納を繰り返す長期の酷使にも耐えるインサレーション素材。※メーカーサイトで詳細情報を見つけられませんでした。

インサレーション素材まとめ

今回は保温着のインサレーション（主に化繊中綿）素材を中心に紹介しました。化繊中綿はダウン（羽毛）に較べて保温性は劣るもののコストが安くケアが簡単という理由から広く使われてきました。現在では繊維技術の進歩によって軽く、コンパクトで耐久性があって水濡に濡れても保温力が下がらずにすぐに乾く上にダウンに劣らない保温力のあるインサレーション素材が次々に商品化されています。また行動中に体温が上がりすぎないようコントロールしながら保温するアクティブインサレーションというアイテムも一般的になっています。いずれにしても中綿素材は一見しただけではその違いが分かりにくいですし、メーカーの提示している素材の機能表示を見るだけではどのインサレーションを採用すれば良いのか迷ってしまう程多くの種類があります。

今回はアウトドアアクテビティに限定せずに取り扱いやすい国内の中綿や中国手配が可能なもの含めて紹介しましたが、紹介しきれなかったアイテムもまだ沢山あります。各メーカーが出しているプレスリリースのまとめ的な記事になってしまった感は否めませんが素材を選定する際の参考にしていただければ幸いです。