&CROP編集部の瀧澤です。
今回はベースレイヤー編に続く…ミドルレイヤー編です。ミドルレイヤー(ミッドレイヤー)はアウトドアアクティビティのレイヤリングシステムと呼んでいるベースレイヤーとアウターレイヤーの間に着用する中間着を指し、巾広い素材やアイテムが含まれます。普段は下着(ベース)を着用するかしないかも含めてその上に何を着るかを、仕事に行くのか?遊びに行くのか?習慣・季節・天候・気分によって判断していると思います。野外でのアクティビティでは基本ベースレイヤーを着用してその上にどんな素材のアイテムを身につけるのかを気分や見た目よりも季節や天候、活動内容によって選ぶ必要があります。以前は保温性と通気性を兼ね備えていて比較的乾きが早く、汗冷えしにくいと言う理由でウール製のシャツやセーターを身につけることが多かったと記憶しています
1979年にポーラテック社によってポリエステル製のフリースが登場すると軽量で保温性・通気性・速乾性を兼ね備えたフリースはアウトドアに欠かせないアイテムとなり様々なタイプのフリース素材が登場してフリース全盛の時代が続きました。だからなんとなくミドルレイヤーと言うとむかしはウールのシャツで現在ではフリースと言うイメージがありますし、もちろん現在でもウールシャツもフリースもミッドレイヤーに適したアイテムとして人気があります。これに加えて最近では素材の進化によって新しい選択肢となるアイテムが次々に登場して定番となりつつあります。ではまずミドルレイヤーの役割から見ていきます。
通気と保温がミドルレイヤーの役割
ミドルレイヤーとは
ミドルレイヤー(中間着)は文字通りベースレイヤーとシェルと呼ばれるアウターレイヤーの間に着用するアイテムで、ミドルレイヤーが果たす主な役割は通気と保温です。ベースレイヤーが肌から吸収した汗と水蒸気をさらに外側に素早く逃がしながら空気の層を作って保温することが求められます。ポリエステル製のフリースが登場する以前はそうした条件を満たせる天然素材はウールほぼ一択でした。ウールは相反する親水性と疎水性をあわせ持ち、クリンプ(繊維のねじれ)が空気の層を作ってデッドエアを蓄えることで保温性があり、濡れたときには水蒸気を吸収して発熱して汗冷えを防いでくれる上に比較的乾きやすく、天然の防臭性能も備えた素晴らしい天然素材です。しかし高い保温性を求めると重くなりやや乾きにくいというデメリットもありました。
スパンポリエステル繊維のフリースが登場
そこに登場したスパンポリエステル繊維のフリースは水分をほとんど含まないため素早く乾き、軽くて嵩高(かさだか)性があるのでデッドエアを蓄えて暖かく、用途に合わせて様々な厚みに加工出来ることでアウトドアシーンばかりでなく私たちの日常のスタイルにまで大きく影響を与えたことは皆さんご存じの通りです。
現在のアイテム
そして現在では進化した化学繊維の加工技術によって中間着に求められる速乾性・保温性・通気性を兼ね備えたアイテムも商品化されているので条件やスタイルに合わせてベースレイヤーやアウターレイヤーとの組み合わせを考えてアイテムを選ぶことが出来るようになりました。反面で種類が多すぎてどんな素材やアイテムを選べば良いか判断に迷うこともあります。フィールドでは季節・天候・行動中・休息中などの条件で適したアイテムが変わりますが、限られた装備として携行するのに最適な一着を企画し、選ぶにために新旧のアイテムを素材視点でリサーチしていますので是非お付き合い下さい。
ミドルレイヤーの種類
行動着・保温着・アクティブインサレーション
中間着の範囲はとても広く色々なアイテムがあるので使用するシーンで分けて考えてみます。ミドルレイヤーは行動中に身につける行動着と休息中に体を保温する保温着に大きく分けて考えられます。(これはあくまでも便宜的な分け方です)素材の物理特性として汗の発散性が高い素材は通気性も高く保温力が小さく、保温性が高くなるにつれて汗の発散がしにくくなって蒸れやすくなる傾向があります。汗の発散性が高く通気性のあるアイテムは行動中の着用に向いていますし、逆に発散性が低くても保温力が高い素材は休息時やあまり動きを伴わないビレイ中などに身につけるアイテムに向いています。
行動着に向く素材
行動着には昔から着られているウール素材のシャツや機能性合繊のジャージ素材が向いています。アイテムとしては前ボタンの布帛シャツからフロントジップのジャージ素材まで色々で薄手の通気性のあるフリースや薄手の化繊起毛素材も行動着に適しています。素材の厚みや組織、起毛の有無などによって季節や行動量、着用感を考慮して素材とアイテムを選びます。
保温着に向く素材
保温着に向くのは文字通り高い保温効果のあるウェア類でアウトドア向けの素材としては軽量で保温性の高いかさ高性のある中~厚手のフリースや化繊中綿・ダウンを用いたアイテムが保温着に向いています。
アクティブインサレーション
重い装備やハーネスを身につけての行動中にウェアを脱ぎ着するのはかなり面倒な作業です。保温力を持ちながら通気性があり行動中も休止しているときもウェアを身につけたまま快適に過ごせるように行動着と保温着の中間に位置していて保温しながら汗を素早く発散させる工夫がされたインサレーション(中綿やダウンなどの保温材の入った保温着)をアクティブインサレーションと呼んでいます。多くのアウトドアブランドから色々な工夫がされたアイテムが商品化されてミドルレイヤーの新しい定番になっています。
行動着の素材とアイテム
天然素材
ウールシャツ
山シャツと呼んでいる昔から登山者が身につけていた布帛ウール製の定番シャツです。基本は前ボタンの襟付き(カッターシャツ)で袖をまくり、前ボタンを開閉することでの温度調整や襟を立てて首筋を保護・保温することが出来ます。下降器が開発される以前の肩がらみ懸垂下降ではウールシャツの襟を立てて首筋へのロープの擦れを防いでいたので登山者にとっては必須のアイテムでした。
ウール素材は保温性・通気性・疎水性・親水性・吸湿発熱性・防臭性能など複数の機能を備え、暑さ寒さから保護してくれる天然の万能素材。肌触りの良いメリノウールから毛七と呼ばれる混紡の再生ウールまで用途と予算に応じた様々なウール素材がありアウトドメーカやカジュアルブランドからも色々な柄や素材のアイテムが出ています。特にメリノウール100%のウールシャツとメリノウールのベースレイヤーと組み合わせは天然素材を好む人には人気があり秋冬の低山ハイクからタウンまで快適に過ごすことが出来るアイテムと言えます。ウールについては下記の記事も参考にして下さい。
ウールとは 名称(日本語/英語) 毛・羊毛・獣毛 ( け・ようもう・じゅうもう)/ hair・wool・animal hair) カテゴリ 主資材 種類 大カテゴリ(天然繊維)[…]
化繊ジャージ・フリース系
化繊のミドルレイヤーはジャージやフリース等、幅広い素材やアイテムがありますがここでは定評のあるポーラテック社・ファイントラック社・モンベル社の化繊ミドルレイヤー素材とアイテムをピックアップして紹介しています。
ポーラテック社 Power stretch Pro®/Power Stretch/Power Grid
行動着に向いているポーラテック社の機能性素材にはパワーストレッチプロ®・パワーストレッチ®・パワーグリッド®があります。
Power stretch Pro®/Power Stretch®
ポーラテック社のパワーストレッチには厚さや起毛タイプにいくつかのラインナップがあります。薄手で起毛のないタイプの着用感はベースレイヤーに近く、厚手の起毛しているものは保温着としての特性が強くなるので使用シーンによって素材を選ぶ必要があります。柔軟で高い伸縮性が特徴で動きを妨げることなく保温し、通気性があり吸湿発散性・耐久性にも優れています。HOUDINI・HOGLOFS・NORONAなど多くのアウトドアブランドやスポーツブランドが採用しています。
Power Grid
1999年にパタゴニアのR1シリーズに採用されて以来のロングセラーでアクティブレイヤー素材の走りと言えるのがポーラテック社のパワーグリッド。凹凸のあるダブルフェイスの肌に接する面のサーマル構造が汗を素早く吸い上げて表面の速乾性に優れた編地に拡散します。起毛されたグリッド構造がデッドエアを蓄えるので保温性と通気性を兼ね備えた素材です。薄手~中厚手まで厚みやグリッドの形状にいくつかのタイプがありパタゴニアをはじめマムート・マウンテンハードウェア・Answer4・コロンビアなどの名だたるアウトドアメーカーが採用しています。
モンベル社 シャミース™ ストレッチクリマプラス® ウイックロン®ZEOサーマル
行動着に向いているモンベル社の薄手フリース素材にはシャミース™・ストレッチクリマプラス®・ウイックロン®ZEOサーマルがあります。
シャミース™
シャミースは極細のポリエステルマイクロファイバーを密に編み込むことで軽量で肌触りがよくストレッチ性にも優れ薄手でありながら繊維間にデッドエアを蓄えることで運動量が多い場面でも効果的に蒸れを逃がしながら保温します。フロントジップタイプのジャケットと裏地をつけて防風性を高めたライニングジャケット、レディス向けにフロントスナップボタンのカーディガンを展開しています。
ストレッチクリマプラス®
ストレッチクリマプラス®はナイロン・ポリエステル・ポリウレタンを交編して裏面を起毛することで高い保温性とストレッチ性、通気性を兼ね備えたフリース素材です。体にフィットして動きを妨げることがなく運動量が多い場面でも蒸れにくいミドルウェアーとして定評のあるトレイルアクションパーカとトレイルアクションジャケットを展開しています。
ウイックロン®ZEOサーマル
高密度二重構造のウイックロン®ZEOの肌面に起毛加工を施すことで保温性能をさらに高め、サーマル構造が汗を素早く吸い上げて拡散して蒸れ汗冷えを防ぎます。制菌加工による防臭効果が半永久的に持続するので春から冬まで年間を通して活躍します。ウイックロンにはZEOサーマルのほかにも極薄手のウイックロンクールライト、薄手のウイックロンクール、ウイックロンZEOのラインナップがありシーズンやアクティビティによって選ぶことができます。ウイックロン®ZEOサーマルではハーフジップシャツ、フロントジップジャケットとパーカを展開しています。
ファイントラック社 ドラウト®センサー ドラウト®クロー ドラウト®ソル
行動着に向いているファイントラック社の機能性素材にはドラウト®センサー・ドラウト®クロー・ドラウト®ソルがあります。
ドラウト®センサー
ドラウト®センサーはファイントラック社が独自開発した春~秋シーズン向けのミッドレイヤー素材で吸汗層・導水層・蒸散層の3層構造のテキスタイルが汗を素早く吸い上げてウェアの外側へ蒸散させて汗戻りを防ぐ。異形断面糸したテキスタイルは耐久性があり、抗菌防臭加工と皮脂汚れがつきにくい加工が施されている。
ドラウト®クロー
ドラウト®クローは秋~冬シーズン向けのミッドレイヤー素材で耐久性の高いパイル編地に100洗後も効果が持続する吸汗速乾加工を施していて、高い汗処理能力と適度な保温性能が秋~冬の運動量の多い登山などのアクティビティに適している。ポリエステル繊維自体に親水性を与える改質加工と起毛ではないループパイル構造の編地にすることで耐久性と吸汗速乾性能を両立させた素材。
ドラウト®ソル
ドラウト®ソルは冬季向けの行動着向け素材でフリースのような起毛とは異なるドラウト構造という立毛技術によって嵩高を持たせたテキスタイルがスムーズな吸汗性能と保温性を両立させた素材です。
新しいカテゴリーの行動着素材
従来のアクティブレイヤーよりも激しい発汗を伴う行動中のウェア素材として最近注目されているのがパタゴニアR1エアとポーラテックアルファダイレクトです。行動着の新しいカテゴリーといえるかもしれません。
パタゴニア R1エア
先述のポーラテック社Power Gridの項でパタゴニア社が定番展開しているR1シリーズに新しい素材として2020年から展開を始めた。リサイクルポリエステル100%の中空糸を使用した5.7㌉のジャカードタイプフリースで耐久性抗菌防臭加工が施され、軽量で薄く伸縮性があり激しい運動中でも高い通気性と速乾性を発揮します。レビューによると冬季の行動着として高いポテンシャルを持っているが休息中等には防風対策をしないと寒いのではないかと思われます。
ポーラテック Alpha Direct
ポーラテックアルファダイレクトはアメリカ特殊部隊のインサレーション素材として開発されたポーラテックアルファをインサレーションとしてではなく表地や裏地なしで直接身に着けることで通気性を高めて激しい行動中でも着用し続けられるよう改良・設計された保温素材です。メッシュ状に編まれた毛足のあるテキスタイルはストレッチ性があり、体にフィットしながら動きを妨げることなく適度に保温してくれます。行動中の汗抜けが良い新しいタイプの行動着素材として表地・裏地のない一枚仕立で使用したり、他の機能素材と組み合わせて防風性や保温性を高めたアイテムに工夫することができます。マムート・ミレー・マウンテン・アンドワンダー・マウンテンハードウェアなど多くのアウトドアメーカーが製品に採用しています。
行動着まとめ
ミドルレイヤーの行動着に求められる汗を素早く吸収拡散する性能と保温する性能は相反するため季節・運動量・気象条件等によって求められるスペックにも巾があり状況によって変化します。素材視点と言いながらメーカーのアイテム紹介みたいになってしまったのはそれぞれのメーカーが開発した素材がユーザー間で定評があり外せない素材を中心に紹介したためです。次回はアクティブインサレーションと保温着(主にインサレーション素材)について紹介してゆく予定です。参考にさせていただいた各メーカのサイトは下記にリンクを張っていますので御参照ください。最後までご覧いただきありがとうございました。
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