タデ藍の生葉染めをやってみよう! textileコラム⑥

タデ藍画像
タデ藍  ケンロー・ナサハラ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

&CROP編集部の瀧澤です。

今年は季節の進みが早くて夏の暑さも例年よりもさらにきびしかった気がします。春先に知り合いからわけてもらった蓼藍(タデアイ)の種を 4月の初めに庭に蒔いてみたら狭い庭の一部を覆うように順調に成長したので3回ほどに分けて葉を収穫しました。収穫した葉は涼しくなったら何かを染めようと思い乾燥保存したのですが、せっかく生の葉が手元にあるのでタデ藍生葉染めにも初チャレンジしました!今回のコラムでは加熱なし、助剤なしで染まる生葉染の工程やその他の藍の染色方法をはじめ藍による染色方法や藍についての耳寄りな話題を取り上げましたので最後まで読んでいただけるとうれしいです。

藍(インディゴ)を染める植物と日本の藍染

インド藍・ナンバンコマツナギのイラスト画像
インド藍・ナンバンコマツナギのイラスト フランツ・オイゲン・ケーラー、ケーラーのメディジナル・プフランツェン, Public domain, via Wikimedia Commons

世界には藍を染める色素のンディゴ成分を含んでいる植物が百種類以上知られていて古くから染料として利用されて来ました。現在知られているインディゴ染色の最も古い遺跡は紀元前3000年頃のインダス文明の遺跡から発見された染色槽跡だそうですが古代エジプト第18王朝のツタンカーメン王のミイラにも藍染の布が使われていたという話は良く知られています。一般に知られている世界の代表的なインディゴ染料植物には、中世ヨーロッパで広く栽培されてきたウォード(南ヨーロッパ原産のアブラナ科2年草 和名:ホソバタイセイ )や日本のアイヌ民族の藍染に使われていたハマタイセイ(別名エゾタイセイはホソバタイセイの近縁種)。そして色素の量が多いことから世界中にインディゴ染料として広まったインド藍(インド原産マメ科コマツナギ属)は木藍(もくらん・きあい)とも呼ばれ和名をナンバンコマツナギと言い奄美・沖縄にも自生しています。一方、沖縄地方の藍染に使われてきたのはキツネノゴマ科の琉球藍(リュウキュウアイ)と呼ばれる低木です。また日本では古くから山地に自生するトウダイグサ科のヤマアイという多年生草本が染料として用いられ皇室の神事に使われる「青摺衣(あおずりぎぬ)」を染めるのにも使われて来たとされていますが本種はインディゴ成分を含んでおらずその出自には諸説があります。そして日本で藍染としてもっとも広く行われてきたのがタデ藍(アイ:タデ科イヌタデ属の一年草)を乾燥・発酵させて蒅(すくも)という状態にしてから甕(かめ)で発酵させて染める建て染めという染色方法です。江戸時代に木綿の生産が盛んになると藍染は染重ねることで濃色が得られることや防虫・抗菌消臭効果などの効果があることから広く行われるようになりました。

蓼藍(タデアイ)とは

藍(アイ)、藍蓼(アイタデ)学名:Persicaria tinctoria  英名:Japanese indigo plantsはタデ科イヌタデ属 インドシナ原産の一年草で6世紀頃に中国から伝わったとされています。

日本には同属同科のイヌタデ(別名:アカマンマ)が広く自生していますがインディゴ成分は含んでいません。6世紀に最先端思想の仏教とともに多くの物が伝来したときに栽培品種としての蓼藍もその染色法と共に伝わったと考えられます。また蓼藍は古くから薬草としても用いられ現存する日本最古の薬物辞典の「本草和名(ほんぞうわみょう)」にも藍の実が解熱剤として記載されているそうです。戦国時代には褐色(かちいろ)と呼ばれ武士が好んで身に着けた藍染の布は江戸時代になると綿とともに庶民にも広がり着物や作業着、のれん、生活雑貨などの幅広く藍染の商品がつくられるようになりました。当社の近くにも神田紺屋町がありますが染物商が多く集まっていた地域を指す紺屋町(こんやちょう・こんやまち)という地名が日本全国に数多あることからも藍染が広く行われていたことがうかがえます。

タデ藍生葉染の原理

インディゴ染料標本画像
インディゴ染料標本、ドレスデン工科大学、2012年撮影  シーシャトム, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons

まえおきが長くなってきたのでこの辺で最も簡単に藍でインディゴブルーを染めることが出来る生葉染めの方法を説明します。日本で広く行われてきた建て染めによる藍染の技法は手間と経験が必要な染色方法ですが生葉染では生の藍の葉が手に入れば簡単に誰でも藍染をすることが出来ます。ただし生葉染には新鮮な藍の生葉が必要です。藍の生葉にはインディカン(indican)という物質が含まれています。インディカンは無色の有機化合物で水によく溶けますが葉が乾燥すると空気中の酸素と結合してインディゴに変化するので乾燥した藍の葉をよく見ると青味を帯びているのが判ります。インディゴは藍染の染料となりますがそのままでは染めることが出来ない為一度インディゴを還元する工程が必要になります。生葉染はこの酸化してインディゴとなる前の生葉に含まれるインディカンを粉砕し、水で抽出して繊維に吸着させてから空気に触れさせて酸化させることでインディゴブルーを発色させる染色方法です。

タデ藍生葉染め

生葉の入手方法

いくら簡単に染めることが出来ると言っても新鮮な生葉を入手するのが一番の難題かもしれません。生藍葉を手に入れるには自分で栽培するか栽培している人に分けてもらうしかないですが近くに住んでいる知り合いが藍を栽培していることってあまり無いと思います。それでも最近はシーズンであればメルカリに藍生葉やタデ藍の種が出品されていることがあるのでチェックしてみる方法もあります。ただし運送賃を考えると割高なので種を入手して自分で栽培するのがオススメです。藍は丈夫な植物なのでプランターでも簡単に栽培出来て乾燥葉にして保存したり粉末にして食用にしたり、種を採ってまた翌年も楽しむことが出来るので是非ためしてみて下さい。いずれにしても手間がかかることではありますが手間も楽しみですからね。

生葉の収穫と保存

藍の乾燥葉
藍の乾燥葉は密閉できる袋で保存

藍の種は3月の大安の日をえらんで蒔くそうです。発芽した苗は間引きなどの手入れをして7月になるとかなり旺盛に繁ってくるので地面から10~15㎝くらいのところで刈り取ります。藍は刈り取った下から脇芽を伸ばし一月くらいでまた繁ってくるのでシーズン中に3回くらいは収穫が出来ると思います。収穫した藍は茎と葉を分けて生葉染に使わない葉はカラカラになるまで乾燥させて保存します。乾燥した葉での染色方法はまた別の機会にこのコラムで紹介する予定です。食用での利用方法や効用はコラムの最後に記載しておくので興味のある方は参考にして下さい。

粉砕と抽出

選別した生葉はミキサーやフードプロセッサにぬるま湯と一緒に入れて粉砕して水またはぬるま湯を張ったバケツ等の染容器の中で洗濯ネットや晒しに移します。洗濯ネットや晒の口を閉めたら生葉液を容器の中でよく揉みだすと染容器の水にインディカンが抽出されて緑色のとろみのある染料液が得られます。(粉砕から抽出・染色までの工程はあまり時間を置かずに手早く進められるように準備しておくことをおススメします。あまり時間が経つと染液の中のインディカンが酸化して染液が青色になり染まり難くなります。)

生葉染に適した繊維、染色と風乾

生葉染に適した繊維はウールやシルクのタンパク質繊維で、初めて試すときにはシフォンや楊柳のような薄手のストールなどが向いています。理由は薄手の生地の方が小さい容器でもムラになりづらく繰り返し染色して濃度を濃くして行くにもやり易いからです。綿や麻などの植物性の繊維は生葉染では染まり難いので避けた方が良いと思います。染める布はあらかじめ水につけて吸水させて絞っておきます。準備が出来たら染める布を染液に浸してムラにならないように均一に広げながら染めて行きます。布が充分に染料を吸収したら取り出して絞り広げて空気に触れさせて充分に酸化させるとインディゴが発色して布がブルーになって行きます。しばらく風にあてて充分に発色したら水洗いをして乾燥させて染め上がりです。染と発色の工程を何度か繰り返して好みの濃さになるまで染めて下さい。

生葉染めしたストールの画像
今回染めたシルク楊柳のストール、一度紅茶で絞り染した上から藍生葉で染めました。

ただし生葉染では濃色にまでは染まらないと思いますのでより濃い色にしたい場合や綿などを染めたいときには乾燥葉を還元して染色する方法が向いています。乾燥葉による還元染についてはまたの機会にご紹介したいと思います。

代表的な4つの藍の染色方法

①    生葉染はもっともプリミティブで簡単な藍染の方法で藍に含まれるインディカンが酸化する前に繊維に吸着させてから酸化発色させる方法です。新鮮な生の葉が手に入れば染色助剤や薬品を使わずに簡単に染めることができます。ただし染められるものが限られ、濃色に染めることはできない為あまり実用的な染色方法ではありません。

以降の②~④は水に溶けないインディゴ成分を建てる(アルカリで還元)ことによって繊維に吸着させてから再び空気に触れさせて酸化させて発色させる染め方で建て染めという染色方法に分類されます。②は化学的な助剤を使って建てる染色方法で③と④は天然の素材を用いて古くから行われてきた建て染め方法です。

②    乾燥葉による還元染は乾燥葉の中に生成されたインディゴをソーダ灰やハイドロの様な還元剤を使って還元・抽出して染める方法です。薬剤を使用しますが比較的簡単に綿などの繊維も染めることが出来ます。

③    沈殿藍染または泥藍とも呼ばれるインド藍染や琉球藍染などを熱帯・亜熱帯地域で広く行われてきた染色方法です。インディゴ成分を含んだ植物を発酵させてインディゴ成分を沈殿させて抽出して染料として利用する方法で合成インディゴが普及するまでは西洋でも広く行われ来た染色方法です。西洋ではインディゴを還元するのに尿を発酵させて使っていました。日本では還元剤として灰汁や石灰が用いられて来たようです。最近では化学的に合成されたソーダ灰やハイドロを還元剤として使う染色方法が一般的に行われています。

④    本藍染・正藍染 本藍染・正藍染と呼ばれる伝統的な日本の藍染の技法は乾燥させた藍の葉を土間で発酵させて蒅(すくも)という染料にしたものを灰汁で発酵還元させて染める技法です。この伝統的な染技法には染め場によって独自のレシピやノウハウがあり、藍の発色にも染め場ごとに特色やこだわりがあります。本藍染・正藍染など呼び方も色々です。

現在の藍染は合成インディゴによる染色が主流です。デニムなど工業的に生産されるインディゴ染めのほとんどは化学的に生成された合成インディゴで染色されています。しかし日本の伝統的な藍染の色はジャパンブルーとも呼ばれ世界的にも人気があります。伝統的な本式の藍染は手間暇がかかり技術的にもとてもハードルが高いですが、是非この機会にもっとも簡単で薬品も使わずに日本の青を染めることが出来る生葉染めに挑戦してみて下さい。

藍の食用利用

藍の葉の粉末画像
タデ藍の葉の自家製粉末

藍には一般的な食用としての歴史はあまり無いようですが、タデ藍の生産が盛んだった徳島県には「藍商人は病気知らず」と言う言葉があるそうです。本草和名にも藍の実の解熱剤としての記載があるように薬草としての効能もあり産地では古くから食用としても利用されて来ました。藍には抗酸化作用のあるポリフェノールや食物繊維が豊富でお茶や天ぷらにしたり新芽を刺身のツマやうどんの薬味に利用したりいたそうですが、最近では麺やケーキに練り込んだり、四国大学ではサプリメントとしての利用も研究されているそうです。ちなみに私は写真の自家製粉末を納豆にかけたり青のりやふりかけのように色々なトッピングとして使っていますが藍の香ばしい香りがしてなかなかいけます。あ、食用としての利用はあくまでも自己責任でお願いします。最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考にさせていただいたページ等のリンク

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