&CROP編集部の瀧澤です。
暑い季節を快適に過ごすためのファブリックには従来からある繊維の性質を利用して組み合わせや組織、加工方法に工夫をした素材と近年広く使われるようになった吸汗速乾などの機能性を持った合成繊維素材。薬剤を用いた加工を施して冷感性能を持たせた素材 があります。今回のコラムはそれぞれの素材の特性やメリット・デメリットを整理して簡単に解説しています。使用する用途やシーンに合わせた素材選定や組み合わせを工夫することで高温多湿の日本の夏をより快適にしてくれる商品づくりのお役に立てていただければうれしいです。
夏快適素材の5つのタイプ
暑い季節を快適にしてくれる素材には5つのタイプがあります。
- 接触冷感素材(さわって冷たく感じる素材)
- 通気性の良い組織(紗・捩り織・レース等)
- 肌との接触面積を小さくする(強撚糸・サッカー・リップル加工等)
- 吸汗(吸水)速乾素材
- 吸湿冷感加工
夏向けの素材はこの5つのタイプの組み合わせることで快適に着用できる工夫がされています。ここからはそれぞれのタイプの仕組みやメリット・デメリットも合わせて解説します。
接触冷感素材
接触冷感素材は言葉の意味そのまま触ったときに冷たく感じる素材です。従来から夏向けのアイテムに多く用いられてきた麻は繊維の中でも熱伝導率が高いことによって触れたときに肌表面の熱を奪い冷たく感じる効果が高い素材です。熱伝導率は熱の伝わりやすさを表した数値で熱が高温部から低温部へ移動するし易さをW/m・k という単位で表します。熱伝導率が高い物質は銀(420)・銅(398)・金(320)・アルミニュウム(236)などの金属ですが、ダイヤモンドは熱伝導率が1000~2000と最も高い物質で一般的に原子同士の結合が強く密なものほど熱伝導率が高い傾向があるようです。ちなみに水の熱伝導率は0.6、空気の熱伝導率は0.024です。余談が長くなりましたが繊維素材の熱伝導率は高い方から麻(0.63)・レーヨン(0.58)・綿(0.54)・絹(0.44)・ナイロン(0.38)・羊毛(0.37)・アクリル(0.21)・ポリエステル(0.20)となっています。ただ熱伝導率の高さはあくまでも接触した時に冷たさを感じる程度を現わしているだけなので接触冷感素材を身に着けていれば涼しさや快適さが持続するわけではないこと知っておいてください。
通気性の良い組織
夏向けの素材には織や編み組織の構造によって隙間を多くして通気性を良くする目的で薄手の素材やレースのような編地。また、もじり織という技法でレースの様な隙間を作り通気性を良くした紗・絽・羅のような布帛が古くから用いられてきました。このようなファブリックは隙間を多くすることで通気性が良く、見た目にも清涼感があります。また最近ではアウトドアなどのアクティビティ向けにメッシュ素材をアンダーウェアの下に着用することで吸汗速乾ウェアの性能を補強するレイヤリングも認知されるようになりました。従来の素材も新しい機能素材も組織・素材・レイヤリングの組み合わせを工夫することでより快適さを追求できる可能性があります。
肌との接触面積を小さくする工夫
強撚糸やサッカー、リップル加工などの生地は肌と生地の接触面積を小さくして肌と生地の間に隙間をつくることで通気性や肌離れを良くしてベタつきを抑える夏向けの素材に従来から用いられている技法です。一般的に秋冬向けの素材と思われがちなウールもサマーウールのように強撚梳毛糸が夏向け素材として広くスーツ・スラックスをはじめ着物にまで使われています。
吸汗速乾素材
吸汗速乾素材は汗を素早く吸収・発散・蒸発させる素材です。おもに吸水性がほとんど無いことで速乾性のあるポリエステル繊維を異形断面にデザインした素材や太さの異なる糸を組み合わせ多重構造にするなどして繊維が従来もっている毛細管現象効果を促進させる構造にすることで汗を素早く吸収拡散させて肌面をドライに保ちながら蒸発するときの気化熱によって冷却する効果があり、合繊メーカーが開発した多種類の吸汗速乾素材がスポーツウェアやアンダーウェア、作業服向けなどの用途で発売されています。代表的な吸汗速乾素材のメーカサイトを下記で紹介していますので参考にして下さい。
吸汗速乾素材リンク集
東レユニフォーム素材の吸水速乾機能製品(フィールドセンサー)についてのページです。高い吸水速乾性と洗濯耐久性は、汗をよ…
東レオフィシャルサイトの製品・サービス紹介ページです。ここではセオアルファ® 高い吸水性を…
クラレトレーディング株式会社|衣料・繊維|人工皮革クラリーノ|産業資材|機能材|ポバール|樹脂・化学品|アクリル|ベルト…
吸湿冷感加工
吸湿冷感は、エリスリトールやキシリトールなどの糖が水分や蒸気を吸収して溶けるときに熱を奪う原理(溶解吸熱)を利用して汗や湿気を吸って涼感効果を付与する加工による冷感素材です。吸湿冷感は接触冷感のように繊維素材そのものが持っている性質ではないので繊維に薬剤を加工することで冷感効果を発揮します。綿やポリエステルなどの繊維に加工することが出来るので天然の接触冷感素材や吸汗速乾素材と組み合わせて使用することが可能です。吸湿冷感加工については下記リンクの大原パラヂウム化学株式会社のコンフォートクール®の説明ページも参考にして下さい。
まとめ
クール・ビズやビジネス・カジュアル化を契機に国内の冷感素材の開発は一気に進みました。現在では合繊メーカーをはじめとして大手アパレルやアウトドアブランド、作業服メーカーまで様々なオリジナルの冷感アイテムを製造販売しています。それらのアイテムも基本的にはここで述べた冷感素材のカテゴリーに含まれるか、組み合わせて快適さを追求した素材になるのではないかと思います。基本的な仕組みを知ることでより快適なアイテムづくりのお役に立てていただければうれしいです。