話題のポリ乳酸繊維(PLA)を徹底解説!

  • 2024年7月5日
  • 2024年7月19日
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&CROP編集部の瀧澤です

ポリ乳酸繊維トウモロコシやサトウキビなどの植物のデンプンを原料に生成されるポリマーから製造される繊維です。カーボンニュートラル生分解性の観点から、化石燃料由来のプラスチックの代替品として20年程前に商品化されて話題になりました。耐熱性や強度等が不充分で特にアパレル製品での展開はほとんどありませんでしたが、新しい技術によって改質されたポリ乳酸繊維(PLA)が登場したことで再び注目されています。ポリ乳酸繊維と言えば、2004~2005年頃にパタゴニア社がトウモロコシ繊維(※1Cargill Dowカーギル・ダウ社(現NatureWorks)のIngeo™繊維)を使って話題になった記憶があります。

当時日本国内では、東レ・帝人・ユニチカ・カネカなどがポリ乳酸繊維の商品展開をはじめていました。その中で現在も継続的に生産されている東レのエコディア®ユニチカのテラマック®に加えて、独自技術で従来のポリ乳酸繊維の欠点であった耐久性・耐熱性の低さを改良したバイオワークス㈱が展開するプラックスPlaX™ハイケム㈱が展開するハイラクトHIGHLACT®が新しいポリ乳酸繊維素材として注目されていて、大手アパレルにも採用されています。

また、2024年4月には「強靭性と生分解性を両立した次世代型ポリ乳酸(LAHB)の大量生産に成功した」と神戸大学/産総研/カネカの共同研究グループの発表がありました。このLAHB水素細菌の働きによって強靭性と海水中で速やかに分解する生分解性の両立が可能になり、従来のポリ乳酸に少量添加することで成形加工性と耐衝撃性の課題を克服できる言われています。では「ポリ乳酸繊維とは何なのか」、現状でのメリット・デメリットも含めて解説していますので最後までお付き合いいただければ幸いです。

ポリ乳酸繊維とは

バイオプラスチックの種類

はじめに、バイオプラスチックの種類について簡単に説明します。バイオプラスチックとはバイオマスを原料に製造される「バイオマスプラスチック」微生物によって生分解される「生分解性プラスチック」の総称です。合成繊維の原料となるプラスチックには、従来の化石燃料由来のプラスチックバイオマス原料由来のプラスチックバイオマス原料と化石燃料の両方を使用しているプラスチックがあります。また、どの原料から製造されたプラスチックにも生分解性を有するプラスチック非生分解性プラスチックがあります。今回解説するポリ乳酸繊維(PLA)は下図(由来原料と生分解性の有無でプラスチックを分類)の左上に記載されています。100%バイオマス原料由来で生分解性を有するプラスチックであることから、カーボンニュートラルによるCO2削減やマイクロプラスチック汚染の低減に有効な繊維素材として注目され、素材や製品の開発が進められてきました。

由来原料と生分解性の有無でプラスチックを分類した図

ポリ乳酸(PLA)

ポリ乳酸繊維の原料となるポリ乳酸(ポリにゅうさん、polylactic acid、polylactide、PLA)は名前の通り乳酸が長く連なってできているポリエステルの一種です。化学式は(C3H4O2)n乳酸(C3H6O3)を脱水重合して得られるポリマーで乳酸がエステル結合で長くつながった構造をしています(下図参照)。熱可塑性と生分解性があり、通常の条件下では透明なガラス状のプラスチックでフィルム・繊維・シート・成形プラスチックなどに広く利用されています。余談ですが、PLA樹脂は生分解性があり回収不要なバイオBB弾の原料としても使われています。しかし実際には通常の地表にある状態ではほとんど分解が進まず、分解性能に関して消費者に誤解を生じさせる表記があったとして景品表示法に基づく措置命令が公告された経緯もあります。当初生分解性のあるプラスチックとして注目されたPLAですが、コンポストのような一定の条件がそろわないと分解が進まず、回収インフラの不整備等の理由もあって生分解性プラスチックとしての有用性の評価はあまり高くありません。現在では研究が進み、従来のPLAよりも強靭で海水中でも生分解されるタイプのポリ乳酸も登場してきています。

ポリ乳酸の化学式

ポリ乳酸繊維の原料・生産工程・カーボンニュートラルについて

ポリ乳酸の原料は、光合成によって水(H2O)と二酸化炭素(CO2)からつくられる植物のデンプンです。一般的には効率面からトウモロコシやサトウキビが使われています。これらの植物から抽出したデンプンを酵素(アミラーゼ・マルターゼ)で加水分解してグルコース(単糖)を生成し、得られたグルコースを乳酸菌発酵させて乳酸を生成します。この乳酸を化学的に縮重合させて得られるのがポリ乳酸(PLA)です。植物の光合成によって生成された原料を使用することで廃棄後に焼却や分解によってCO2が発生しても固定されたCO2の量と発生するCO2量がプラスマイナスゼロになることから、カーボンニュートラルな原料であると言われています。しかし原料からデンプンを抽出・分解・発酵・化学重合して製品にする過程でも化石燃料が使われていることを考えると、バイオマス原料だからといって環境負荷が無いとは言えません。後述しますが、燃料用の作物を大量に栽培するには大量の水・農薬・化学肥料を必要とするので、その方が環境に与える負荷が大きいと言う考え方もあることも考慮する必要があります。

ポリ乳酸繊維の原料・生産工程・カーボンニュートラルについて説明する図

ポリ乳酸繊維の利点と留意点

この項では、一般的に言われているポリ乳酸繊維のメリットと課題について思いつく範囲の多視点で考えてみたいと思います。

ポリ乳酸繊維のメリット

カーボンニュートラル

ポリ乳酸繊維はトウモロコシやサトウキビなどの再生可能な植物から得られるデンプンを原料とするため、化石燃料由来のプラスチックや合成繊維の代替品として使用することで化石燃料への依存を減らし製造過程でのCO2排出量削減に効果があります。

生分解性

ポリ乳酸繊維は、堆肥コンポストのような温度55℃以上湿度80%以上の条件下で、比較的短期間で加水分解されて分子量が小さくなると微生物によって生分解されます。このことから、生分解性があり環境負荷の低い素材であると言えます。

抗菌・消臭機能性

ポリ乳酸繊維は弱酸性で乳酸を原料とするため生体的合性があり肌に優しく、乳酸の働きによって抗菌性・消臭性能があると言われています。

ポリ乳酸繊維の課題

PLAの融点は170~175℃ですが耐熱性が低く60℃くらいで軟化するため、衣料用途ではアイロンがかけられない欠点があります。また、ポリエステルの染色に使われる分散染料などの一般的な染料では染色が困難で、専用に開発された染料での染色が必要です。耐久性・耐衝撃性などの強度も弱く、サスティナビリティにおいて重要な長く使い続けられる製品と言う意味でも、ポリエステルなどの合成繊維と比べてコストが高い点でも課題があります。

環境への影響

現在では研究開発が進み前項で述べたような欠点を改質した耐熱性や強度のあるポリ乳酸繊維が商品化され、カーボンニュートラルや生分解性の観点からPLA繊維を製品に採用するアパレルブランドも増えてきています。製造過程でのCO2削減やカーボンニュートラルの観点から見れば、PLAは有用なバイオマス素材であり生分解性もあわせ持っているので、回収のインフラが整備されて行けば環境負荷の低減に大きく貢献できる素材に思えます。メーカーもその部分を強調してアピールしているので、PLAは環境に良い素材との認識が広まってきています。しかし別の側面から見れば、PLA繊維の普及が決して環境へプラスの影響ばかりではないことが分ります。汎用性ポリエステルの代替品としてポリ乳酸の製造を増やすことで、環境への影響が懸念される点を挙げてみます。

製造過程でのエネルギー消費

ポリ乳酸繊維は原料自体は再生可能資源ですが製造過程で使用されるエネルギー源が化石燃料由来である場合、生産流通工程全体を通してのエネルギーバランスの評価が必要であることを考慮しなければなりません。

廃棄と生分解の現実性

ポリ乳酸繊維の生分解には温度55℃以上、湿度80%以上の堆肥コンポストのような特定の条件が必要です。適切な廃棄・生分解のインフラが整っていない現状では従来のプラスチックと同様に分解されずに環境中にとどまり汚染が進む可能性があります。このことについて分かりやすく解説している記事があったのでリンクを貼っておきます。参考にして下さい。

Nature3D

生分解という言葉を聞くと自然環境で分解されていくことを思い浮かべますが、実は必ずしもそうではありません。…

農業による環境への影響

原料となる資源作物の増産には農業の環境への影響を考慮する必要があります。FAO(国際連合食糧農業機関)によれば、農業生産による温室効果ガスの排出量は全体の温室効果ガス排出量のおよそ24%を占めていると言われています。そればかりではなく、燃料作物を大量に生産するためには以下に挙げるような環境にかかわる懸念点があります。

土地利用

新しい農地を確保するための森林伐採による生物多様性の減少や生態系の破壊・食用作物との競合・大規模農法による土壌の劣化、流出が懸念される。

大量の水資源消費

大規模農業による大量の水資源の使用による水資源の枯渇の懸念、とくにトウモロコシ栽培には大量の水を必要とします。

農薬と化学肥料の使用

大規模農法による栽培では大量の農薬や化学肥料の使用による土壌や水質汚染、生態系への影響が懸念されます。

温室効果ガスの排出

化学肥料の製造過程でのCO2排出や肥料の使用による亜酸化窒素(N2O)の放出。亜酸化窒素には二酸化炭素(CO2)の300倍の温室効果があると言われます。

遺伝子組み換え作物の問題

多くのトウモロコシには遺伝子組み換え技術が使われており、遺伝子組み換え作物の長期的な生態系への影響は未解明である。

PLAについてのパタゴニア社のアプローチとその後の展開について

パタゴニア社は常に環境負荷の低い素材を探求しており、2004年にはPLA繊維を採用しました。パタゴニア社はその後も継続的に環境負荷を減らす素材の開発や技術の導入を続けていますが、現在の製品ラインにはPLA繊維を使用していません。代わりにリサイクル素材の使用に重点をおきプラスチックの使用削減に努めています。パタゴニア社の現状での考え方については下記の記事(竹やPLAを使わない理由)を参照して下さい。

国内外のポリ乳酸繊維メーカーと素材・製品の紹介

NatureWorks LLC(ネイチャーワークス) 商標 :Ingeo(インジオ)

ネイチャーワークス社はタイ最大手の化学メーカーPTTグローバルケミカルとミネソタ州ミネアポリスに本社を置くCargill(カーギル)が共同所有する先端材料メーカーで、再生可能な資源からつくられるバイオポリマー及びバイオケミカルを提供している。当社の提供するIngeo(インジオ)ポリマーはその独自の機能性を評価され繊維・不織布・コーヒーカプセル・ティーバック・フィルム・3Dプリンター用フィラメントなど複数の業界とカテゴリーにまたがる製品導入を支援している。

NatureWorks manufactures Ingeo brand polylactic acid (PLA) a…

Eastman Chemical Company(イーストマンケミカルカンパニー)

スペインのマドリードに本社を置くイーストマンケミカルカンパニーは、トウモロコシ由来のポリ乳酸を用いたバイオポリマーを提供している。包装材料・フィルム・繊維などに使用されている。

1. 東レ株式会社(Toray Industries, Inc.)商標名: Ecodea®(エコディア)

エコディア®PETはサトウキビの廃糖蜜を粗原料に植物由来のエチレングリコールと石油由来テレフタル酸を重合・溶融紡糸した部分植物由来ポリエステル繊維。エコディアのラインナップとして2022年には100%植物由来のナイロン繊維エコディア®N510の販売展開も開始した。

ユニチカのテラマック®

テラマック®はポリ乳酸をユニチカが独自の技術で改質・成形した樹脂、繊維、不織布などのバイオマスプラスチック製品の登録商標。

バイオワークス㈱ 商標名:プラックスPlaX™

京都府に本社・研究所を置くバイオワークス㈱はサトウキビを主原料とするポリ乳酸の耐久性や耐熱性、染色性などの課題を独自技術で解決。石油由来ポリエステルの代替素材としてだけではなく新たな用途への展開も積極的に行っている。

Bioworks株式会社

あたらしい「豊かさ」の種を蒔く ─新しい社会と環境の循環を「素材」からつくる─ Bioworksは、素材の研究・開発から…

ハイケム㈱ 商標名:ハイラクトHIGHLACT®

東京都に本社を置くハイケム㈱は化学専門商社としての独自のノウハウからポリ乳酸繊維の濃色染めを実現、フリース素材の商品化にも成功した。小野メリヤス工業やタキヒョーと業務提携してファッションアパレル向けに製品を提案している。

HighChem Fashion

"HighChem-Fashion.com" is strategically designed to streamli…

次世代型ポリ乳酸繊維と生分解バイオポリマー

次世代型ポリ乳酸LAHB

2024年4月に神戸大学大学院科学技術イノベーション研究所と国立研究開発法人産業技術総合研究所と株式会社カネカの共同研究グループは、強靭性と生分解性を両立する次世代型ポリ乳酸の開発に成功したと発表しました。使用時には強靭な特性を有しながら、使用後は海水中でも速やかに分解差荒れるバイオプラスチック製品の開発が期待されています。LAHBは水素細菌の育種によって大量生産に成功。また従来のポリ乳酸にLAHBを少量添加することで成形加工性と耐衝撃性の課題を克服したプラスチック素材の開発にも成功しました。

参照記事 :神戸大学プレスリリース

生分解性バイオポリマーPHBH  Green Planet®

PHBHは㈱カネカが世界で初めて工業化に成功した微生物が植物油から生成する生分解性ポリマーです。PHBHはポリ乳酸ではないですが、100%植物由来原料から微生物が産生するバイオポリマーで海水中も含め微生物が存在するさまざまな環境下で良好な生分解性を示す、代替素材として環境問題への貢献が期待される素材です。興味を持たれた方は下記のリンクも合わせて参照して下さい。

カネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet®

カネカ生分解性ポリマーPHBHの開発

まとめ

20年前に商業化された時には、熱に弱くアイロンが使えない・染色が難しい・強度・耐久性が弱いなどの理由でアパレル製品として使われることがほとんどなかったポリ乳酸繊維(PLA)が再び注目されています。以前に比べて改質されて濃色染めも可能になったことで、採用するアパレルブランドも増えているようです。繊維の性能としてはポリエステルやナイロン等の合成繊維に遠く及ばないPLAが再び注目されるのは、カーボンニュートラルで生分解性があることで代替繊維としての必要性が求められているからに他なりません。確かにカーボンニュートラルと言う観点からみれば大気中の炭酸ガス削減へ一定の効果があることは間違いありませんが、現状での繊維としての性能・バイオマス原料(トウモロコシ)の生産が環境に与えるインパクト・原料がバイオマスでも生産する際にはエネルギーを必要とすること・条件が揃わないと生分解されずに環境中に留まるこや生分解される際に環境中に流出する添加剤…etc。バイオマスだから、カーボンニュートラルだから、生分解性があるから「環境負荷が低い」「地球に環境にやさしい」みたいにはならないことはもう皆さんもご存じだと思います。新しいものが注目されてすぐ飽きて、また新しい素材や切り口を求めるのはファッションの業界だけでなく、人間の宿命なのかも知れません。個人的には、現時点での「PLAの使用は保留してリサイクル素材の使用に重点をおき、プラスチックの使用削減に努める」と言うパタゴニア社のスタンスに共感します。皆さんはどのように思われますか?最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

参考リンク集

 

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