いまさら聞けない?フッ素フリーの疑問に答えます。PFCフリー撥水徹底解説!

まえがき

PFAS(ピーファス)・PFOA(ピーフォア)・PFOS(ピーフォス) 

&CROP編集部の瀧澤です

PFAS ・PFOA ・PFOS…英語の4文字表記が苦痛です!個人的にはわかりにくい事柄をさらに難解にする意図に思えます。(笑) しかし、ぺルフルオロアルキル化合物・ペルフルオロオクタン酸・ペルフルオロオクタンスルホン酸と正式名称で呼んでも舌と頭がさらにもつれ、余計にわけがわからなくなって認知機能が衰え…さて!前出の表記はいずれもフッ素化合物の名称です。少し前までアパレル業界界隈でフッ素と言えば撥水・撥油・防汚加工に用いられるフッ素樹脂のことを指していました。また1970年代後半の登場以後、革新的な素材としてレインウェアやアウトドア・プロ向けのアイテムを中心に使用されて高い透湿防水性で定評のあるGORE-TEX®のメンブレンフィルムもPTFE (polytetrafluorothylen:ポリテトラフルオロエチレン)というフッ素樹脂から製造されてきました… 過去形になっているのは、最近になってゴアテックスを製造販売しているW.L. Gore & AssociatesGORE-TEXプロフェッショナルファブリックスの製品もPTFEを使用しない新素材に置き換えると発表したからです。PTFEは1938年にデュポン社の研究員によって発見されたフッ素と炭素の原子からなるフッ化炭素樹脂でテフロン®(teflon®)という商標で日用品から工業用品そしてアパレル製品まで幅広い分野で使われて来ました。テフロン加工をしたフライパンを使ったことがある人は多いと思いますがアパレル製品にも撥水・撥油・防汚などの目的でテフロン加工を施した商品が流通していたのを覚えている(今も有る?)方もいると思います。しかしその高い耐久性や安定性から広く用いられて来た一部の有機フッ素化合物には有害性があり環境中や生体内に長い期間留まる物質であることから近年急速に規制が進みました。その結果、フッ素は全て有害と誤解されている人もいるようですがもちろんそんなことはありません。またPFCフリー・PFASフリー・C0撥水(いずれもフッ素化合物を使用していない事を表す)などの言葉を耳にする機会が増え、フッ素化合物を使用しない非フッ素撥水加工の開発も進みました。そこで今回は、いまさら聞けない?フッ素とは・フッ素の有害性とは・フッ素フリー撥水って実際はどうなの?などフッ素フリー撥水についての疑問を徹底的!?…にまとめたので最後までお付き合いいただければうれしいです。

そもそもフッ素とは?

フッ素(英:fluorine)原子番号9の元素元素記号はF反応性(酸化力)が高く自然界に単体で存在することは極めて稀で、カルシウム・ナトリウム・アルミニュウムなどの金属・非金属(無機物)と結合し、フッ化物(無機フッ素化合物)として土壌や海水・動植物の中にも存在しているので、日頃摂取している飲み水や食品中にも微量に含まれています。単体のフッ素には強い毒性がありますが自然界にフッ素化合物の状態で存在しているフッ素は一度に多量に摂取したりしない限りは無害な物質です。歯科で虫歯予防に使われているのも無機のフッ化物で有害性は無いと言われています。フッ化物を多く含んでいる鉱物には蛍石(ほたるいし・フローライト英:Fluorrite)水晶石・魚眼石(アポフィライト)などがあり、限られた産地で産出します。その中で古くから製鉄などの融剤として用いられて来た蛍石は世界各地で産出しフッ素化合物の原料として広く利用されています。

蛍石(ほたるいし)とフッ素

蛍石結晶の画像
蛍石結晶 wikipediaより転載 ディディエ・デスクーエン, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons

蛍石(ほたるいし/けいせき/フローライト/フルオロライト 英:Fluorrite)の主成分はフッ化カルシウム(CaF2)でフッ素が大量に含まれ、硫酸と反応させるとフッ化水素酸と石膏が生成されます。そして、このフッ化水素酸から様々なフッ素化合物が作られます。

※蛍石について興味のある方は下記のリンクも参照してください。

蛍石とは キャノンオプトロン(株)

蛍石 Wikipedia

無機フッ素化合物と有機フッ素化合物

国際純正応用科学連合(IUPAC)ではフッ素元素名無機のフッ素化合物フッ化物(Fluoride)有機のフッ素化合物フッ素化合物(fluorine compounds)と公称し、フッ化物(無機)とフッ素化合物(有機)を分けて考えています。フッ化物(無機フッ素化合物)は天然由来のものと天然由来の原料に化学反応や中和反応を加えて得られる無機のフッ素化合物指し、天然に存在するフッ化物も人工的に生成されたフッ化物も無機物同士の結合でできています。一方、有機フッ素化合物は人工的に炭素(C)をフッ素と結合して作られる化合物です。自然界にもわずかに存在していますがほとんどが人工的に製造された物質です。これらの炭素を含む有機フッ素化合物を総称してPFAS(ピーファス)Per-and Polyfluoroalkyl Sabstances(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルアルキル化合物)と呼んでいます。

International Science Council

国際純正応用化学連合(IUPAC)は、化学および関連する科学技術を代表する国際機関です。 その目標は、コラボレーションと…

なぜ?有機フッ素化合物が撥水加工に使われてきたの…

テフロン加工のフライパン画像
フッ素樹脂加工の加工フライパン

 

有機フッ素化合物(PFAS)には他の物質では代替え出来ない耐熱性や耐薬品性等の性質を有するものがあり、撥水材・消火剤・コーティング剤・ワックス・界面活性剤・乳化剤…などの様々な用途に用いられ、その種類はなんと1万~12000種類もあると言われています。この有機フッ素化合物の「炭素・フッ素結合」は炭素がつくる様々な結合の中でも最強といわれる非常に安定した結合で環境中ではほとんど分解しない上に、熱による分解にも1000℃以上の高温が必要な化合物です。これらのフッ素化合物を含むオレフィンを重合して得られる樹脂は耐熱性・耐薬品性・非粘着性・絶縁性が高く、摩擦性が低いなどの性質があり、この優れた性能のゆえに様々な分野で幅広く使用され来ました。なかでも身近で良く知られているのがフライパンのフッ素樹脂コーティング(テフロン加工等)衣類の撥水・撥油・防汚加工です。

PFAS(有機フッ素化合物)規制の理由と現状

ストックホルム条約ロゴ
ストックホルム条約ロゴ Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons

一方でPFASの一部には人体への有害性が明らかになったものや、その強固な結合ゆえの難分解性生体への高蓄積性があり、遊動性も大きいなど、様々な形で環境中に大量に排出されてきたことでその存在が問題視されるようになりました。特にPFASの中でも代表的なPFOS/ピーフォス(ペルフルオロオクタンスルホン酸)PFOA/ピーフォア(ペルフルオロオクタン酸)は幅広い用途で長期間に渡り使用されて来ました。またPFOSと似た性質のPFHxS/ピーエフヘクスエス(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)も同様に多く用いられてきましたがやはり人への有害性が指摘され環境中で分解されにくく長く残留することなどからPFOSは2009年、PFOAは2019年、PFHxSは2022年に国連のPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)で製造・使用が禁止され、日本でもPFOS/2010年・PFOA/2021年・PFHxS/2024年の順で規制が進みました。1万種類以上あるPFASの全てに有害性が認められている訳ではありませんがPFASの規制は国によって対応が大きく異なり、米国では指定された有害物質による汚染が発生した場合は政府が直接浄化対策を実施して費用を汚染を発生させた当事者に負担させる法律が公布され、EU(欧州連合)も厳しい規制を進めています。なかでもドイツ・デンマーク・オランダ・ノルウェー・スウェーデンの5か国は合同で、安全と判断されているPFASも含めた有機フッ素化合物の製造・使用・輸出を禁止する前提の規制案を公表しています。このような背景からPFASに対する規制は今後さらに厳しくなることが予想され、自主規制も含め衣類に使用される撥水剤や透湿防水フィルムのフッ素フリー化が急速に進みました。ゴアテックス製品の中でも特に高い透湿防水性・撥水性・耐久性が求められる登山やプロ向けのアイテムもフッ素を使用しない商品に置き換えられています。(※2025年秋冬シーズンからゴアテックスプロの透湿防水メンブレンも従来のePTFE:延伸ポリテトラフルオロエチレンからePE:延伸ポリエチレンに置き換えられる)

フッ素樹脂の高撥水性のしくみ、「C6」「C8」撥水とは?

PFOA化学構造式
PFOA  炭素が8個 (C8)
PFHxSの化学構造式
PFHxS 炭素が6個 (C6)
PFBSの化学構造式
PFBS 炭素が4個 (C4)

ここでフッ素フリーの撥水ePE:延伸ポリエステルメンブレンに言及する前に従来のフッ素樹脂による撥水加工やePTFEがなぜ高機能・高耐久性を有しているのかを確認しておきましょう。従来の撥水加工ではC6(シーロク)C8(シーハチ)という呼びかたをしていたのをご存じの方もいると思います。このC6・C8という呼び方は撥水加工樹脂に使われている有機フッ素化合物の分子が持っている炭素Cの数を表します(上記の一般的な化学構造式では炭素Cが省略されていて交点の部分に炭素Cが入ります)。この炭素(C)にはフッ素(F)が結合してパーフルオロアルキル基(RF基)という構造をつくっていますがRF基を持つ物質は表面張力が非常に低い特徴があり。C8のフッ素化合物はRF基が8個、C6では6個、C4では4個が直鎖状に結合していて炭素数が多いほど結合も強くなり表面張力も低く耐久性も高くなります。これらを繊維に加工することで水や油の表面張力より生地の表面張力が低くなり水や油を弾く(撥水する)効果が生じます。一般的には分子中のRF基の数が多い方が撥水性も安定性も高いのでC8>C6>C4となり、これまではより高い撥水・撥油性能や耐久性を求める場合にはC8系(PFOA/PFOS)を用いて来ました。しかし先述の経緯からまず有毒性や環境への影響が認められたC8系への規制が進み、生体への蓄積性が比較的低いとされるC6(PFHxS)やC4系(PFBS:ペルフルオロブタンスルホン酸)等に置き換えられてきましたが、有機フッ素化合物全般を使用することへの懸念が強まったことで先述したように欧州を中心にすべての有機フッ素化合物を廃絶する動きもあります。またゴアテックス社が2025年秋冬シーズンからは過酷な条件下で高いパフォーマンスを要求されるゴアテックスプロ®にもPTFEを使用しない決断をしたことで、現在広く使われているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン:デュポン社のテフロン®の商標で知られる)も今後規制の対象になって行く可能性もあり、また仮に規制が行われなくても自主規制の動きは更に強まって行くのではないかと推測されます。次項ではフッ素フリーの撥水・撥油・透湿防水技術について触れたいと思います。

フッ素フリー(PFCフリー)素材のメリット・デメリット

有機フッ素化合物はプラスチックごみのように目には見えませんが半世紀以上に渡り様々な分野で使われて環境中に放出されて来ました。遊動性があることで環境中に拡散し、物質としての安定性が高いことから分解されずに環境中に長く留まり続けます。また人の血液中や生体内にも長く留まることからフォーエバーケミカルとも呼ばれています。人体への有害性が確認されているPFASはごく一部ですが1万種類にも及ぶ人工的に作られたPFASについてはその有害性も含めて良く分かっていないというのが本当のところだと言えます。さらに規制が進む可能性もある中でそうした事情を鑑みればまだ規制がされていない段階でもアパレルをはじめ多くのメーカーがフッ素樹脂を使用しない選択をしてゆくのは必然の流れと思われます。有機フッ素化合物フリー(PFCフリー)の撥水加工には植物由来コーティング剤や環境への害が少ない代替化学物質を使用した撥水剤、バイオベースの撥水剤がなどが開発され、さらに繊維の構造をデザインして水を弾く技術などと組み合わせることで従来の有機フッ素樹脂を使用した撥水加工と同等の効果や耐久性を求める努力と工夫が進められています。また、PTFE:ポリテトラフルオロエチレンの発見による延伸ポリテトラフルオロエチレン製造(透湿防水フィルム)技術を根幹としてきたゴアテックスePE:延伸ポリエチレンへの切り替えを決めたことはPFCフリーへの大きな一歩だと思います。このように有害性の認められた。また有害性は認められていなくても生態や環境にどのような影響があるかわからない有機フッ素化合物の環境中への放出を無くして行くことがフッ素フリー化が進むことの重要なメリットです。一方、デメリットは撥油性と耐久性が低下することで、メーカーの努力によってePEメンブレンePTFEメンブレンと同等の透湿撥水性を実現したと言われますが耐久性についてはやはりePTFEには及びません。ただし衣類の寿命を考えた時にはそこまで高い耐久性は必要ないとも言えます。また撥水・撥油性を考えた場合もとくに撥油性と耐久性において従来の有機フッ素化合物を使用したものに及ばないことが最大のデメリットになっています。

PFCフリーアイテムにはメインテナンスが超重要?!

衣類で高い撥水・撥油性や透湿防水性が求められるのはレインウェアやアウトドアウェア向けシェルなどのアイテムです。これらのウェアでは外側からの雨や水を防ぎ(防水)ながら、内側の発汗による水蒸気を外側に放出させてウェアの内部をできる限りドライな状態に保つことがもっとも重要です。そしてその性能の基準となるのが耐水圧と透湿性です。耐水圧は生地が水圧に耐える性能をmmで表し透湿性は生地が水蒸気を透過させる性能をg/㎡・24hで表します。一般的なナイロン素材の傘の生地の耐水圧は250mmで、衣類の場合300mmで小雨、10000mmで大雨、20000mmで嵐に耐えられるとされています。高所登山のように環境変化が激しく厳しい環境下で使用する場合には20000mm以上の耐水圧があると必要と言われます。一方、透湿性能は1㎡あたりの生地が24時間で透過させることができる水蒸気のグラム数で表され数値が大きいほど透湿性が高いことを示します。日常の小雨程度なら5000~8000g/㎡・24hくらいの透湿性でも比較的快適に行動できますが、激しい発汗が予想される登山などでは20000g/㎡・24h以上は必要とされています。ゴアテックスのように25000g/㎡・24h以上の透湿性がある場合では1時間当たり1㎏以上の水蒸気を放出することが出来るのでかなり快適に行動することができます。ただしこれらの数値は未使用のウェアをテストした基準値なので、繰り返し使用したり汚れが付着することによって性能が低下します。また透湿防水素材のウェアでは表面が濡れて水の膜が覆ってしまうと水蒸気を外部に排出できなくなり透湿性能が失われてウェアの内部が蒸れてしまう為、レインウェアやアウトドア用のシェルでは生地表面の撥水・撥油性が充分に機能していることがとても重要になります。PFCフリー撥水では従来の有機フッ素撥水剤と較べて撥油性能が劣るため着用による汚れや皮脂の付着によって撥水性も低下しやすくなります。また撥水加工の耐久性も劣る為、充分な撥水効果を維持するためには使用するたびに専用の洗剤を使用して適切な方法で洗濯して熱処理を施すなど撥水性を維持することをメーカーが推奨しています。

まとめ

撥水・撥油・耐久性の性能面についてだけ率直に言えば、従来使用して来た有機フッ素を使用した加工に軍配が上がりPFCフリーの加工では特に撥油性や耐久性が劣ることは現状ではあきらめざるを得ません。それは有機フッ素の炭素フッ素結合がとても強く耐薬品性・耐熱性・耐久性に優れている上、RF基が直鎖状に結合していることで表面張力が極めて低く水や油を効率よく弾くことができるからです。その反面で環境中や生体内で分解されずに長く残留することが問題となりPFCフリーの技術開発が進みました。すでに、人為的に環境を汚染することに目をつぶり利便性だけを追求することが許された時代は過ぎ去りました…しかし、まだまだ実情は伴っておらず更なる意識の変革も必要と思われます。人類と全ての生命にとってマザーアースの環境を保全してより良い状態に戻して行くことは最大の課題で、有機フッ素以外にも環境に関する問題は山積しています。性能の観点から用途やメーカーによってはC6撥水剤の使用を続けたい意向もあります。しかし国内で撥水剤の大元の原料を製造販売するダイキン工業やAGC(旭硝子)でも全ての原料をフッ素フリーに切り替えて行っているので撥水加工を施す加工所(繊維製品に使用する生地の場合はおもに染工所)でも新しい素材に対応してより効果的な撥水加工を施せるようにノウハウを構築し従来品に劣らない加工法を確立して商品化している加工所もあります。PFCフリーの撥水加工にはまだまだ改善の余地があり、より環境負荷が少なくて高い性能の技術が開発されることが待たれますが、それまでは手持ちのアイテムをメインテナンスしながら長く使い、より快適で安全に過ごす工夫をして行くしかありません。下記にこの記事を書くにあたって参考にさせていただいたページのリンクを貼っておくので参考にしてください。とくに、もっとも参考にさせていただいたdroproofそらのしたさんのリンクも貼っておきますので、興味のある方は是非覗いてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました!

droproof(ドロップルーフ)そらのした

おもにアウトドアで使用するレインウェアや透湿防水シェル、テントなどの撥水加工がされている製品に最適なクリーニングをして撥水性を回復させる「弾水コーティング」を施すサービスを展開している会社です。コラム記事がとても参考になるので興味のある方は読んでみてください。 droproofそらのした

アウトドア専門クリーニング&撥水加工サービス「ドロップルーフ」

〜 アウトドアギアメンテナンスのプロ「そらのした」の経験と技術を結集し生まれた、撥水加工&クリーニングサービス〜…

参考にさせていただいたサイトURL

 

 

 

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