&CROP編集部の瀧澤です。サンプル生地と量産で色味や風合いが違ってしまったり、発注した時点で量産の希望納期に間に合わない…と言ったトラブルは意外に多く、防ぎようのないトラブルなどが原因のケースもありますが、多くの場合は事前にポイントを押さえて確認しながら進めることで防ぐことが可能です。通常バイオーダーの素材では量産スケジュールを踏まえて、注文してからのリードタイムを確認しながら発注のタイミングを見極めてオーダーするのが一般的です。しかしメーカーが在庫している素材では、在庫があると思い込んでしまっている場合や、事前に在庫状況を確認するのを忘れていて、いざオーダーしたら現物在庫が無くて、次の生地が上がってくるのを待っていると製品納期を過ぎてしまうというような、笑えない相談を受けることも多いです。昨今は海外生産の生地も多くなっているので生産期間に加えて船便での輸送や通関にも時間がかかり、オーダーが集中している素材では納入までに半年以上かかってしまうようなケースもあります。また国内加工の素材でも工場の人員やキャパシティが減り続けている現状では、限られた加工場に依頼が集中して加工期間が従来よりも長くかかっている商品も多くなっています。受注した商品を納期に納入することが出来なくてキャンセルになったり、最悪の場合は損害賠償を請求されるケースも考えられるので注意が必要です。こうした事態を招かないためには取り扱っている商材の状況を販売・納品のスケジュールと合わせてチェックして管理することが重要です。この記事ではおもに表地を発注する際に気をつけたい具体的なポイントをピックアップして解説していますので素材発注を業務として行う方、初めて素材発注をする方、素材発注の経験が少なくて不安に感じている方は、是非ご一読ください。
サンプルと量産での違いについて
まず、サンプルと量産の基本的な違いについて確認しましょう。サンプル着分には量産(バルク)からカットする場合とサンプル用の生地(見本反・サンプル反)を使用する場合があります。どちらの場合でも基本的なポイントは同じですが、サンプルに見本反を使用した場合は量産反と見本反の差が許容できる範囲かどうかをより入念にチェックする必要があるので便宜的に分けて説明します。
メーカー在庫の生地を使用する場合のポイント
メーカーや生地問屋が在庫している生地を使用する場合にはストック(在庫)からサンプル(着分)用の生地をカットして使うことがほとんどです。この場合は量産とサンプルの加工条件は基本的には同じなので色や風合いが違うと言った問題は起こりにくいです。しかし在庫生地の場合でもサンプルと量産で加工ロットや加工条件が異なることもあり、稀にサンプルと量産で色味や風合いが大きく違ってしまっている事もあります。通常このような場合には量産投入前にメーカーから確認やアナウンスがあるのですが、ストックの生地を使う場合ではサンプルを作成しても量産につながらないケースも多くて、メーカーや問屋も把握しきれていない事が多々あります。こうしたことを踏まえてメーカーや問屋が在庫(ストック)している生地を発注する際のポイントを挙げておきます。
- 在庫状況と生産リードタイムの把握:在庫生地では使用する予定カラーの現状在庫と仕掛かり状況や発注時に在庫が無かった場合、生産にどれくらいの期間がかかるかのかを把握しましょう。自社またはお客様の生産スケジュールから逆算し、いつまでに生地が必要になるのかをメーカーや問屋の担当者に伝えてどのタイミングで発注しなければならないのかを把握して調整することが大切になります。
- 生地試験データーを取り寄せる:在庫生地の場合はほとんどの品番で必要な生地試験データーを取得していることが多いのでサンプル作成に先立って生地試験データーを取り寄せて強度や縮率、染色堅牢度等を確認して製品になった場合にどのようなデメリットがあるのかを確認しておきましょう。事前にデメリットを知ることで販売時にアテンション(注意書き)をつけるなどして不用意なクレームになるのを防ぐことも出来ます。またあまりにもデータが悪い場合には素材を変更するなどの対処が必要になる場合もあります。
- サンプルに使用した生地の控え見本保管:サンプル作成時に使用した生地のカット(出来れば0.3mくらいの巾なり)を控え見本として保管しておきましょう。これはサンプルと量産で万一、色・風合・生地巾等が違っていた時の違いを把握するためにもお勧めします。
- 量産(バルク)使用生地の控え見本保管:サンプルと量産で生産ロットが異なる場合は量産用のカットを取り寄せ、縫製工場に出荷する前にサンプルと量産分で許容を越える違いや欠点が発生していないかを確認することをお勧めします。そうすることで万一の時、縫製工場などからの問い合わせに対しても早い判断が可能です。色・風合い等のに違いにも裁断前に気づくことが出来るので対処方法の検討を素早くすることが可能になります。量産に使用した生地の見本はサンプル分の見本とあわせてどの見本か分かるように下げ札などをつけて量産製品の販売が終了するくらいまでは保管しておきましょう。
別注(バイオーダー)の生地を使用する場合
別注とひとことで言ってもいくつかのパターンがあります。一般的に多いのは①色の別注(ストック販売している生地でオリジナルの色を着けたい場合)や②プリント別注(オリジナル柄プリントやストックの柄を配色・素材を変えてプリントする場合)です。またメーカーによっては③リプロダクト別注(過去の素材や製品サンプルから同じものを再現して作る場合)を依頼されることもあります。通常の別注ではまず試作サンプルを作製して、色・風合い・物性強度・染色堅牢度等を確認してから量産生地の生産に入ります。この場合一度で思い通りに仕上がらない事も多く時間と費用に余裕があれば納得がゆくまで何度も作り直すことも出来ます。しかし現実的にはそこまでの余裕がない場合がほとんどです。量産を発注する際にはメーカーの担当者とどこまで再現が可能で、どこまでが許容できるのかを良く話し合って決めておかない後々問題になりかねないので要望を整理して伝える必要があります。その他の基本的な考え方は在庫生地を使用する場合と同じなので前項を参考にしていただいて、ここでは①色の別注・②プリント別注・③リプロダクト別注でそれぞれ気をつけたいところを簡単に述べておきます。
- 色別注での注意ポイント :生機や染用の下生地(P下)の在庫がある場合は比較的簡単にオリジナルの色に染めることが出来ます。その場合、染めたい色(ターゲット色)のついた現物(出来れば染める素材と近い素材感の生地)を渡してビーカーと言う染色見本を作成してもらいます。 (染めたい色目の素材が無い場合にはパントーンカラーなどで指示することも可能)通常は濃・淡含めた3水準でビーカーを作成してもらってどのビーカー色で進行するかを選ぶことが多いです。指示色と染める素材の組成や表面感が異なると色も違って見えるので一度では思い通りにならない場合もあります。 ビーカーの色味が希望と違っている場合は再ビーカーと言って再度染色見本を作ってもらいます。再ビーカーをお願いする際にはできれば一度目のビーカーに対して「赤味をプラスして濃度を10%アップ」の様に指示する方が思い通りの色に近づけやすくなります。 色味や素材によっては思い通りの色や濃度を再現するのが難しい場合もありますし、染めることが出来ても染色堅牢度が悪くて製品化できないケースもあるのでメーカー担当者と相談しながらターゲット色にこだわり過ぎずに販売したい製品のイメージに近い落としどころを探ることも必要です。ビーカーの色目が決まったらサンプル反または量産のオーダーをします。可能であれば見本を進行して堅牢度などのデータも確認してから量産へ進むのが望ましいですが、コストや納期の兼ね合いで即量産オーダーをしなければならない場合は堅牢度の基準や色味のブレて欲しくない方向(例として:ビーカーに対してこれ以上青味には振れないように)などのコメントは発注書面などで明確に伝えて指示を残しておきましょう。 (※小ロットで染めたい場合:メーカーでは染色時の色ブレや事故を防ぐために基準ロット以下では対応してくれない場合も多いです。1反・2反などの小ロットで生地を染めたい場合はご相談いただければ対応が可能な場合もあるのでHPからお問い合わせください。)
- プリント別注での注意ポイント:プリントを別注で作る場合、素材・柄・表現・用途などによって手法が異なるので各種のプリント工場と取引のある専門の問屋に依頼するのが一般的です。ここではプリント別注の際の基本的なポイントについて説明します。プリント別注では無地染めのビーカーと同じように色目や柄を確認するマス見本というプリントの試し刷り見本を作製してもらいます。マス見本では柄の出方や配色を確認して納得のいく表現になるまで修正をしてもらって納得がいけばサンプル反を作製⇒製品サンプル作成⇒最終的な修正をして量産オーダーをするのが通常の流れです。ただし、プリントの場合でも時間がない場合などはコメントでサンプルを作製して量産で最終的な修正をするなど状況にあわせて臨機応変に対応する必要があります。あとは在庫生地や無地染め別注の場合と同様にサンプル生地の巾なり見本と量産生地の巾なり見本は分かるようにして保管しておきましょう。
- リプロダクト別注での注意ポイント:作りたい生地の端切れや製品見本から同じ生地を作ることをリプロダクトと言います。基本は再現したい生地見本と生地に関する情報(混用率・経糸/緯糸の打ち込み本数など)を渡して分析してもらってサンプルを作成してもらいます。もし混用率などの情報が分からない場合でも端切れを分析してもらって進めることはできます。なかには、もう今では手に入らない素材が使われている場合などもあるので元の見本に近づけられるような代替えの素材の提案などもしてくれる信頼できるメーカーや問屋に相談しましょう。素材によっては一度の試作では満足のいく仕上がりにならない場合もあるので試作を進行する前にスケジュールやコストを出してもらって確認後に納得のゆく形で進めるようにします。場合によっては市場にある素材で代替えした方が納期もコストもかからないケースや特殊な素材では再現が難しいものもあります。A問屋がダメでもB問屋ならできると言ったこともあるので相談できるメーカーや問屋の情報を日頃から収集して、綿の先染なら〇〇繊維、ウール素材なら△△織物、プリントなら◯△プリントのように信頼して依頼できる業者と関係性を作っておくことも大切です。依頼する先が決まれば基本的な管理は無地染やプリントと変わりませんがリプロダクトの場合は再現したい素材によっては不確定要素が多くて時間とコストがかかることも予想されるので納期に余裕を持って早め早めに進めるようにしましょう。
生産ロットについて
生地を生産する際の条件の一つにロットがあります。ロットとは生機を作ったり、染色・整理などの加工を行なう際の最小単位のことで、経済的要因と物理的要因によって決まります。また素材や加工所の規模になどによっても違ってきます。生地を染色するときのロットを染ロット、染色前の基布を作るロットを生機ロットと言います。メーカーや問屋が在庫販売している生地は基本的にはこのロットに基づいてオーダーしています。例えば生機ロットが5000メーターで染めロットが500m/colの場合では、最低ロットの5000m以上で生機を発注して1色あたり500m以上でアソートを組んで発注します。アパレルメーカーなどが生地を発注する場合には余程規模の大きなブランドでないとロット条件がクリアできないため中間業者(問屋)が発注して在庫している生地を使うことが多くなります。一般的に合繊や綿などの織物はミニマムロットが大きく融通が利かないことが多く、ウールやカットソー生地では比較的小ロットでの対応が可能な場合が多いです。
発注する際のロットに関する注意点
生地を発注する際のロットに関する主な注意点はロットぶれ(ロットの違いによる仕上がりの差異)と生産ミニマムロットが挙げられます。
ロットぶれ
ロットぶれは染色加工ロットによって色や風合いに差が生じてしまう現象です。とくに染色工程では条件の微妙な変化によって色差が生じることがあり。通常は微細な差異として許容されますが、稀に大きな差が生じてしまうケースやサンプルと量産品の色のイメージが食い違ってしまい使えないと言うことも起こります。これはサンプルで使った生地と量産生地のロットが違う場合に起こるのでサンプルと量産でロットが違う場合には量産投入前に生地のカットを取り寄せて確認する習慣をつけておくと、縫いあがってきた量産品のイメージがサンプルと違う…というようなトラブルを未然に防ぐことが出来ます。
ミニマムロットとアップチャージ
別注で生地をオーダーする時にはサンプルを進める前に量産時のロットを必ず確認しておくようにしましょう。万一、メーカーが指定している生地生産ロットに届かない場合にもロット以下での生産可能なのか?その際の最小の生産可能数量とコストも把握しておくことであらかじめ製品の量産が可能なのか?コストが見合うのか?を判断して、必要な場合には素材の変更も検討しましょう。
納期遅延リスクについて
約束の納期に納品出来ないことを納期遅れと言います。納期遅れは色々な原因で起こりますが、やはり多いのは発注が遅くなったことで生産がズレ込んで遅くなってしまうパターンです。運良く早いタイミングで生地が上がってくることもありますが、何らかのトラブルが生じれば大幅に納期が遅れてしまうことになるのでできるだけ余裕を持ったタイミングで発注することが望ましいです。また加工中に起こる機械の故障や加工不良、色ブレなどのトラブルはあらかじめ予測することができません。このようなトラブルの場合は状況を的確に把握した上で、先方に対して納得のいく状況説明とスケジュール変更の報告をいち早くする必要があります。あやふやな状況把握でのうやむやな説明や、スケジュールが二転三転してしまうようでは完全に信用を失ってしまうばかりか損害賠償を請求されることもあるので慎重かつ迅速な対応が不可欠です。
生地のトラブルと対応策
仕上がった生地に色ブレや染むら、傷や物性不良などさまざまなトラブルが生じている場合があります。こうした場合にも迅速な状況把握と対処方法の検討をしてクライアントへの状況と対処方法を説明する必要があります。状況把握や対処方法があやふやだと先方に不安を与え、信用を失う結果になります。以下に生地不良などのトラブルが生じた際のチェックポイントをいくつか挙げておくので参考にしてください。
起きているトラブルの状況と対応策チェックリスト
- どんな内容のトラブルか?:色ブレ・染ムラ・傷・アタリ…などどのような問題が発生しているのか?
- 発生の頻度:そのトラブルはどの程度の頻度で発生しているか:全部の反か?一部の反か?特定の色か?1反内での発生頻度は?反全体か?反の一部か?
- 修整の可否と納期:生地での修正が可能か?修正して使えそうなのか?再加工が必要か?修正にかかる期間は?再加工した場合の期間は?
- 修整可能な場合生地の状態で修正するのか?製品での修正する方が良いのか?
- 製品で修正する場合はどこで修正するのか?縫製工場が海外の場合は現地対応が可能か?
顧客及び関連部署への報告
トラブルの内容が把握できたら発生している欠点の画像や生地の現物を送ってもらい確認の上で関連部署や顧客に報告して対応策を検討します。製品修正で対応する場合には修整工場で修正サンプルを作ってもらってどのように修正ができるのかを提示すると話がスムーズに進みやすいです。基本的な生地の欠点や対処方法については下記のリンクもあわせて参照してください。
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まとめ
今回はおもに表地の発注に関するポイントを解説しました。素材の受発注には先方の希望する商品を納期通りに納入する責任が伴います。小さなミスや勘違いが大きなクレームや損失につながることもあり、顧客に迷惑をかけるだけでなく信用や利益を失う結果になってしまうこともあります。これはどのような業務にも共通しますが「大切なのは状況の確認把握と仕入れ先・得意先とのコミュニケーションです。」業務に慣れていないと大切なポイントを忘れてしまいがちなので参考にしていただければと思って記事にしました。発注の際などで困ったときに参考にしていただければうれしいです。日常業務で使える素材発注管理チェックリストを作ったのでよろしければ下記より登録して無料ダウウンロードして使ってください。
無料チェックリストpdfダウンロード
下記より表地素材発注管理チェックリストのexcel版とpdf版を無料でダウンロードいただけます。excel版は項目をアレンジ(削除、追加)してお使いいただくことも出来ますのでお役に立てていただければうれしいです。