ポリエステルとナイロン(違いと共通点)徹底比較!

  • 2024年5月13日
  • 2024年7月22日
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&CROP編集部の瀧澤です

ポリエステルとナイロンはどちらも石油を原料として人工的に合成された樹脂から紡糸された合成繊維です。現在、世界で生産されている繊維の約70%が石油由来の合成繊維でそのうちのおよそ85%がポリエステル系合成繊維、8~9%前後がナイロン繊維です。これはポリエステルが非常に安定した汎用性の高い繊維であるのと生産コストが安いことが大きな要因です。ポリエステルは加工によって様々な風合いや機能を持たせることができることでレディスファッション・ワークウェア・スポーツウェア・インテリア・産業資材など幅広く使われています。ナイロンはどちらかというとスポーツやカジュアル向けのウェアに用いられることが多い繊維ですが、スポーツ用途に用いられるポリエステルとナイロンの素材は見ただけでは区別がつかないほど似ていることも多くアイテムや用途も共通しています。このことでポリエステルとナイロンの違いや性能についての問い合わせや質問をいただくことが多く、この記事ではポリエステルとナイロンの違いを徹底的に解説していますので参考にしていただければうれしいです。

ポリエステルとナイロンの種類と合成方法

ポリエステルとナイロンを比較する前に一般的にポリエステルやナイロンと呼んでいる繊維にはいくつもの種類があり原料、製造方法、物理的性質に違いがあります。この記事で比較しているポリエステルとナイロンは繊維として最も広く使われているポリエチレンテレフタラート(PET)とナイロン6・ナイロン6,6ですが、正式にはポリアミドと呼ばれるナイロン繊維にはまったく異なる性能を持つアラミドという繊維もあります。ここではポリエステルとナイロンの比較する前に主なポリエステル系合成繊維・ポリアミド系合成繊維・アラミド繊維の種類や原料について簡単…?に解説しています。(ポリエステルとナイロンの比較だけ知りたい方は…もくじ2「ポリエステルとナイロンの比較」までジャンプ!して下さい)

ポリエステル系合成繊維の種類

主なポリエステル系合成繊維にはポリエチレンテレフタラート(polyethylene terephthalate:略称PET)ポリトリメチレンテレフタラート(polytrimethylen terephthalate:略称PTT)ポリブチレンテレフタラート(polybutylene terephthalate:略称PBT)ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate:略称PEN)ポリブチレンナフタレート(polybutylene naphthalate:略称PBN)などがあり、繊維として利用されているのはペットボトルの原料でもあるPET、伸縮性があることでストレッチ素材などに用いられるPTT、現在では繊維としては限定的に使われているPBTです。中でもPETは耐久性・耐候性が高くシワになりにくい、加工によって様々な風合い表現や機能性の付加ができる、コストが安いなどの理由から世界中で最も広く使われています。またPTTは原料となるトリメチレングリコールの安価な製法が確立されたことで経年劣化するポリウレタンのストレッチ素材にかわるストレッチ素材として帝人フロンティアのソロテックス東レのT400の需要が増えています。

ポリエステル繊維の詳細は下記のリンクも参照して下さい。

アパレル資材研究所 「&CROP」by株式会社クロップオザキ

ポリエステル繊維は石油原料由来の繊維で化学繊維の中で最も多く生産されて使用されている繊維です。ポリエステルという呼び方は…

ポリエチレンテレフタラート(PET)の原料と合成の仕組み

ポリエチレンテレフタラート(C10H8O4):PETテレフタル酸エチレングリコールエステル結合によって縮合重合して作られる熱可塑性樹脂です。テレフタル酸は石油から精製されたナフサから得られるパラキシレンと空気を原料にして作られ、エチレングリコールもナフサを原料にして作らるエチレンが主原料として作られます。下図はテレフタル酸とエチレングリコールから縮合重合してPETが生成されるのを表した模式図です。PETはエステル結合によって結びついた高分子化合物(ポリマー)でこのようにモノマー(単量体)とモノマーの間から水(H2O)のような分子が取れる縮合を繰り返して結びつく重合を縮合重合と言います。

テレフタル酸とエチレングリコールから縮合重合してPETが生成されるのを表した模式図

ポリアミド(ナイロン)系合成繊維の種類

ポリアミドアミド結合にの繰り返しでつながっているポリマー樹脂の総称です。アミド結合したポリマー=ポリアミドと覚えると分かりやすいと思います。また日本では米国デュポン社の商標名「ナイロン」で呼ばれることが多いです。ポリアミドには原料の組み合わせや重合の方法によって多くの種類があり高強度で耐摩擦性が高く耐油性・耐薬品性に優れる特性からプラスチック樹脂原料として自動車部品やエンジニアプラスチックに広く用いられています。ポリアミドは繊維に多く用いられるナイロン6・ナイロン66を含む脂肪族ポリアミド、芳香族・脂肪族モノマーの組み合わせで出来ている半芳香族ポリアミド、芳香族骨格のみで構成され超高強度・高耐熱性があって一般的にアラミドと総称される芳香族ポリアミドに大別されます。ここでは繊維に用いられることが多いナイロン6・ナイロン66・アラミド繊維の原料と合成の仕組みについて説明します。

ナイロン繊維の詳細は下記のリンクも参照して下さい。

アパレル資材研究所 「&CROP」by株式会社クロップオザキ

ナイロンはポリエステルに次いで多く生産されている合成繊維です。一見するとポリエステルと区別がつきにくいですが高強度で耐熱…

ナイロン66の原料と合成の仕組み

ナイロン66:PA66(C12H22N2O2)は一般的にはベンゼンを水素化して生産されるシクロヘキサンを高温・高圧条件で酸化させて得られるKAオイル(ケトン/アルコールオイル)を硝酸酸化させて得られるアジピン酸とアジピン酸からさらにアジポニトリルを経由して製造されるヘキサメチレンジアミン縮合重合させてアミド結合でつながったポリマーです。ナイロン66は世界で初めて米国デュポン社が合成に成功したポリアミドで登録商標を「ナイロン」としたことでポリアミド系合成繊維を総称して日本ではナイロンと呼ぶようになりました。ナイロン66はどちらかというと絹に近い風合いのナイロンと言われ、デュポン社やモンサントのような化学メーカーがより低コストで効率の良い原料(ブタジエン・プロピレン等)を利用した製造方法を開発して製造されています。ナイロンは多くの段階(物質)を経て製造されるため原料の供給が不安定になりやすい反面、繊維ばかりでなく自動車部品などのエンジニアプラスチックとしての利用がとても多いために現在、供給が不足傾向にあります。

ナイロン66の原料と合成の仕組みを表した画像

   ※1分子中に炭素(C)が6+6(計12)あるのでナイロン66と呼ばれます。

ナイロン6の原料と合成の仕組み

ナイロン6:PA6(C6H11NO)は1941年に東洋レーヨン(現:東レ)が合成に成功したナイロンです。ε-カプロラクタム(イプシロン‐カプロラクタム)開環重合して合成され、木綿に近い肌触りとされています。原料のε-カプロラクタムはベンゼンやフェノールから合成されます。開環重合は環状構造を持つモノマーが環を開きながら結びつく重合でナイロン6は1分子中の炭素(C)の数が6個であることからナイロン6(PA6)と呼ばれています。

ナイロン6の原料と合成の仕組みを表した画像

 

アラミド繊維の原料と合成の仕組み

全芳香族ポリアミドアラミドとも呼ばれ、高耐熱性・高強度のエンジニアリングプラスチックとして用いられることが多く、繊維としてはパラ系アラミドケブラー®(デュポン・東レ)が良く知られています。その他にもトワロン®(帝人)メタ系アラミドノーメックス®(デュポン・東レ)コーネックス®(帝人)等があります。用途としては自動車部品を始めタイヤコード・光ファイバーケーブル・防弾チョッキ・消防服・ヘルメット・宇宙服・カーペット・カーテンなど、アラミド繊維の特性を生かした幅広い分野で使われています。合成にはどちらもベンゼン環を有するテレフタル酸ジクロリドp-フェニレンジアミンが2つの塩化水素(2nHCL)を取る形で共縮重合してベンゼン環とアミド結合が交互に直鎖状に並ぶことでアラミド繊維は高耐久性・高耐熱性を有するとされています。

アラミド繊維の原料と合成の仕組みを表した画像

ポリエステルとナイロンの比較

前項「ポリエステルとナイロンの種類と合成方法」で説明したように、ポリエステルにもナイロンにも原料や合成方法によっていくつもの種類があり、用途や性質が違います。また同じ繊維でも加工方法などによって性質が変わります。この項では繊維として最も一般的なポリエチレンテレフタラート(PET)とナイロン66またはナイロン6の物理的性質の基準項目からポリエステルとナイロンの繊維としての性質を比較しています。

重さ

 

比重:ナイロン1.14  ポリエステル1.38

ナイロンとポリエステルの比重を較べるとナイロンは天然繊維やポリエステルと比較して軽い繊維です。ちなみに主な繊維の比重は綿1.54、麻1.5、毛1.32、絹1.33~1.45となっています。

吸湿性・乾きやすさ

水分率:ナイロン3.5~5.0%   ポリエステル0.4~0.5%

 

ナイロン、ポリエステルともに天然繊維と比べ水分率が低く乾きやすい繊維と言えます。とくにポリエステルは水分率が0.4~0.5%と低く速乾性に優れています。ナイロンはポリエステルに較べて吸湿性があることで若干ヌメリ感のある風合いです。また吸湿することによって物性が変化するのでポリエステルに較べるとやや形態安定性に乏しく、静電気が起こりにくいのも特徴です。

耐洗濯性

乾湿強力比:ナイロン83%~92%   ポリエステル100%

乾湿強力比は、乾燥時と濡れた時の強度の違いを比率であらわしています。ポリエステル(100%)は乾燥時と濡れた時で強度が変わらないことを意味しているのでポリエステルは耐洗濯性が高いと言えます。ちなみに綿(102%~110%)・麻(108~118%)は耐洗濯性が高く、絹(70%)やレーヨン(45~65%)は洗濯時に注意が必要な繊維と言えます。

耐久性

耐摩擦性・引張強度・耐水性・耐紫外線性

耐摩擦性はナイロンがポリエステルより優れていますが引張強度では乾燥時はナイロンが強く、湿潤時はポリエステルの方がやや強い傾向があります。またナイロンもポリエステルもカビや虫害の影響を受けない繊維です。耐水性・耐紫外線性ではポリエステルの方が影響を受けないので耐候性ではポリエステルが優れていると言えます。ナイロンでは屋外暴露によって強度低下や黄変が起こる場合があります。

防しわ性

伸長弾性率 : ナイロン95~100%   ポリエステル90~100%

ナイロン・ポリエステルともにシワになりにくい繊維です。

伸縮性

伸び率 : ナイロン25~60%   ポリエステル12~50%

繊維の伸縮性はポリエステルに較べてナイロンが大きく、登山用ロープや釣り糸にはナイロンが使われることがほとんどです。これはナイロン繊維自体に伸縮性があることで落下時に登山者やギアにかかる衝撃を和らげることができること、また耐摩擦性が高いこと、さらに低温下でも硬くなりにくい性質を有していることが大きいです。

熱の影響

軟化点 : ナイロン6  180℃   ナイロン66  230~235℃  ポリエステル  238~240℃  

溶融点 : ナイロン6  215~220℃   ナイロン66  250~260℃  ポリエステル  255~260℃ 

一般的にはポリエステルの方がナイロンよりも軟化点温度が高く耐熱性があります。ナイロン66とナイロン6ではナイロン66の方が軟化点・溶融点がポリエステルに近いです。ポリアミド系繊維の中でも芳香族ポリアミドに属するアラミド繊維はとても高い耐熱性がありエンジニアプラスチックとして広く使われています。またナイロンとポリエステルではナイロンの方が低温下で硬くなりにくい性質があります。

染色性

ナイロン

ナイロンは染色性が良く常圧で、酸性染料・分散染料・クロム染料・塩基性染料・反応染料などで染色が可能です。

ポリエステル

ポリエステルは分散染料での高圧染色が基本です。

耐薬品性

ナイロン・ポリエステルともに一般的には耐薬品性のある繊維です。ただしナイロンでは強酸(濃塩酸・濃硫酸・濃硝酸)処理で一部分解を伴う溶解が見られます。

帯電性

ナイロン:+プラスに帯電しやすい

ポリエステル :ーマイナスに帯電しやすい

ナイロンはプラス、ポリエステルはマイナスに帯電しやすい性質があります。他の繊維ではウール・レーヨンがプラスに、アクリル・アセテートがマイナスに帯電しやすい性質があります。重ね着をする際にはプラス同士またはマイナス同士の組み合わせにした方が静電気が起きにくいことを覚えておくと良いと思います。またナイロンに比べてポリエステルの方が水分率が低いため、静電気を生じやすいです。

価格

一般的にポリエステルの方が汎用性が高く生産量も多いため生産コストが安く価格も安いです。ナイロンは原料から前駆物質への生成までに経る工程が多いなどの理由もあって価格は高めです。

身近な熱可塑性樹脂(おまけ)

ナイロンもポリエステルも熱可塑性樹脂と呼ばれる樹脂です。この項では繊維として使われるこれらの合成樹脂以外にも身近にある樹脂をいくつかご紹介したいと思います。

熱可塑性樹脂とは

合成樹脂(プラスチック)は熱を加えると柔らかくなり冷やすと再び硬くなる熱可塑性樹脂と熱を加えると固まる熱硬化性樹脂に大別されます。ナイロン繊維もポリエステル繊維も熱を加えると軟化する熱可塑性樹脂です。ポリ袋のポリエチレンカップ麺の容器のポリスチレンペットボトルキャップのポリプロピレン、様々なシートやフィルム・バッグなどにも使われるポリ塩化ビニルなどが身近な熱可塑性樹脂です。他にもEVA樹脂・ABS樹脂・メタクリル樹脂…etcの樹脂がありますがここでは先に挙げた3種類の最も身近な熱可塑性樹脂について簡単に説明します。

ポリエチレン(PE)

ポリエチレンの化学式の画像

ポリエチレンはスーパーのレジ袋をはじめ、さまざまな容器やレジャー用品・産業資材などに巾広く使われています。繊維やアパレル業界ではポリエステルをPEと略号で表すことが多いのでポリエステルとポリエチレンを同じ樹脂と思い違いしやすいですが、ポリエチレン(PE)とポリエステル(PET:ポリエチレンテレフタラート)は違う樹脂です。ポリエチレンは原油から精製されたナフサを熱分解炉で加熱して発生させた無色のエチレンガスに触媒を加えて高温・高圧で付加重合させて生成され、メチレン基(CH2)が繰り返しつながったもっとも単純な構造をした熱可塑性樹脂で耐薬品性・絶縁性・防水性・耐寒性に優れていますが熱に弱く70℃~90℃で変形・容化し印刷・塗装・接着が難しく、紫外線によって劣化しやすい欠点があります。

ポリスチレン(PS)

ポリスチレンの化学式の画像

ポリスチレンはナフサを原料に合成されるスチレン(C8H8)が付加重合して合成される、いわゆるスチロール樹脂です。ポリスチレンには透明性が高く硬質な汎用ポリスチレンとゴム成分を添加して衝撃吸収性を改良した乳白色の耐衝撃ポリスチレンがあります。ポリスチレンを発泡剤を用いて成形したものが発泡スチロールです。燃えやすく一部の食用油やベンジン・シンナーなどに溶ける性質があります。

 

ポリプロピレン(PP)

ポリプロピレンの化学式の画像

ポリプロピレンは無色で弱い不快臭のある気体プロピレン(C3H6)を付加重合して生成される。汎用熱可塑性樹脂の中で最も耐熱性が高く、比重が最も軽く、耐薬品性に優れている。最も身近なところではペットボトルキャップに使われている他ロープ・不織布・カーペット・ターポリン・土嚢袋・家電製品・プランター自動車部品・タッパーウェア…と利用範囲は広範に渡っています。

まとめ

今回はナイロンとポリエステルの違いを繊維としての性質(物性)や原料、合成方法も含めて多角的に比較してみました。ポリエステルもナイロンも繊維の形状や加工方法で性質が変化する場合もありますが基本的な性能で比べると両者とも合成繊維なので耐久性・耐候性・耐薬品性・形態安定性に優れた安定した繊維で熱可塑性樹脂としての汎用性も高く様々な用途に使われています。あえて違いを挙げるとナイロンは耐摩擦に優れ、ポリエステルは耐候性が高くポリエステルに比べてナイロンは伸縮性・吸湿性がありますナイロンよりもポリエステルの方が安定で加工によって多様な表現が可能なことから繊維としての汎用性が高く、カジュアル・スポーツ・ワークウェア・レディスウェア・インテリア…と実用繊維からファッション用途まで繊維としての利用の幅が広く。またコストが安いことで世界で生産される繊維の7割を占めるに至っています。一方でナイロンは適度な吸湿性と伸縮性・軽さ・耐摩擦性・寒冷な気候でも硬くなりにくいなどの特性からカジュアル・スポーツ向けの素材としての利用が多くなっています。長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。代表的な合成繊維のポリエステルとナイロンの素材特性を知って製品の企画やデザインに生かす一助にしていただければ幸いです。

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