&CROP編集部の瀧澤です
繊維素材が布になるまでには様々な工程と段階があり素材によって染料の種類や染め方も変わります。染料にも、古くからある天然の植物や動物を利用する方法から藍の建染めや顔料染め、各種化学染料による染色までその種類や素材との組み合わせ、染色方法などによって得られる表現は無限にあると言えます。この「&CROP」でも「染料の種類や染まる仕組み」や「プリント(捺染)の基礎知識」について
・染色の仕組みと大意表的な染料9種類を分かりやすく解説(繊維染色の基礎Part-1)
の記事で基礎的な知識を解説していますのであわせて参考にしていただければと思います。そして今回はPart-3として原料の繊維から糸→生地→製品へと商品化されて行くどの段階でどのように染めるのか?染める繊維の形状や方法・工程についての基本的な知識を解説していますので最後までおつきあいいただければ嬉しいです。
繊維の形状による染色の種類と特徴
繊維が布になる工程で繊維の形状は変化しますがどの段階で色を着けるかによって表現・風合・工程・コスト…などが変わります。繊維が製品になるまでの形状を大きく分けると次の5つの段階がありそれぞれの段階(形状)ごとに染色方法が違います。
① 原料樹脂での染色(化合繊)
② 原毛(ばら毛)染・トップ染・トウ染
③ 糸での染色
④ 生地(原反)での染色
⑤ 製品での染色
上記5つの段階でも原料の種類・使用目的・表現・コスト…などによって染め方にもバリエーションがあるので、基本的な染色方法やそれぞれの特徴について具体的に説明します。
原料樹脂での着色(化合繊)
ポリエステルやナイロン、アクリルなどの合成繊維の原料樹脂(ペレット)に染料や顔料を加えて着色することを原液着色(原着:げんちゃく)と言い、原液着色された樹脂を紡出した繊維から作る糸を原着糸(げんちゃくし)と言います。原着によって着色できるのは合成繊維に限られますがメリットとしては染色の工程が無いためエネルギーや水の使用量、染料廃液などの汚染水の排出を大幅に削減できる。染まりにくいポリプロピレンやアラミドなどの繊維にも着色できる。摩擦・洗濯・耐光などの堅牢度が良く、色移りや変退色が起こりにくいメリットがあります。デメリットとしては好みのカラーに色合わせするのが難しいことや生産する際のロットが大きいため生産量が見込める素材の中でも黒などのベーシックなカラーに限定されてしまうことが挙げられます。
原毛(ばら毛)染・トップ染・トウ染
繊維が糸になる前段階の原毛やワタの状態や、スライバー(繊維の方向を揃えた束の状態)で染める方法には原毛(ばら毛)染・トップ染・トウ染があります。繊維の状態で染めることで色ムラが少なく深みのある発色が得られ、染色堅牢度に優れて変退色しにくいメリットがあります。また別の色に染めた繊維を混ぜ合わせて調色することでメランジや杢調のような糸染や生地染では出来ない表現が可能です。
原毛(ばら毛)染
羊毛やカシミヤなどのもともとの獣毛の風合いを重視する場合に行います。刈り取った原毛の汚れやゴミを取り除いて選別し脂や汚れを洗浄します。選別と洗浄を何度か繰り返した状態をばら毛と言いこの状態で染めることをバラケ染と言います。
トップ染
ゴミや汚れを取り除いた繊維の方向を揃えて束にして太いロープ状にしたものをスライバーと言いスライバーを巻き上げると独楽(英:TOP)を伏せたような姿になるのでスライバーの状態で染めることをTOP(トップ)染と言います。トップ染で身近に目にするのは新内外綿の杢糸を使ったカットソーの生地でGR7と言う杢グレーの色目が最もポピュラーです。杢・杢調については下記の記事も参考にしてください。
杢(もく)・杢調ってなに?
トゥ染
化学繊維のフィラメントを引きそろえたロープ状の束を「トゥ」と言い、この状態で染めることをトゥ染と言います。染色されたトゥは必要に応じた長さの短繊維にカットされて化合繊のスパン糸に紡績されます。
糸での染色(糸染・先染)
繊維原料を紡績した糸の状態で染めることを糸染め(yarn dyed)と言います。生地(原反)で染めるのを後染(あとぞめ)と呼ぶのに対して生地になる前に染めるので先染(さきぞめ)とも言い、先染めの糸を用いることでストライプ柄・チェック柄・シャンブレー・絣などの表現が可能です。糸染めには綛染め・チーズ(コーン)染色・ビーム染色・ロープ染色などがあります。
綛染め(かせぞめ)
一定の長さで糸を巻き取って輪の状態になっている糸を綛(かせ)と言い、一周の長さ×本数で1綛の糸の長さが決まります。綛染めは昔から行われてきた糸染めの方法で精錬や糊付けも綛で行われて来ました。手間のかかる染色方法ですが現在でも手工芸や風合いを重視する糸、甘撚りの糸、絣糸や特殊な形状の意匠糸などの染めでは綛染めが行われます。綛染めはチーズ(コーン)染に比べて糸にテンションがかからない状態で染色できるので膨らみのある良い風合いの糸に仕上がります。もともとは手染めで行われてきた染色方法なので件数は限られますが専用の染色機を導入して綛染めを行っている工場もあります。
チーズ(コーン)染色
効率よく大量の糸を染められるので紡績糸の多くはチーズ(コーン)染色で染められています。通常紡績された糸は紙管に巻かれた状態で、円錐形の紙管に巻かれた糸をチーズ巻き、円筒形の紙管に巻かれた糸をコーン巻きと言います。染色するときはプラスチックや金属の穴の開いた円錐(円筒)形の染色ボビンに巻きなおして大型の染色釜で染めるのでチーズ(コーン)染色と呼ばれます。チーズ染色は比較的細くてストレートな糸の染色に向いていてコストが抑えられるメリットがあります。
ビーム染色
ビーム染色は先染め織物の経糸を染色用のビームに長さを揃えて同時に並べて巻き取り(荒巻整経)して染色する方法で大ロットの先染め織物の経糸染色に限られた染色方法です。染色後のビームはサイジング工程に送られてまとめて一斉に糊付けされた後に本整経が行われます。
ロープ染色
ロープ染色はおもにデニムの経糸をインディゴに染める染色方法です。染色する糸をロープ状に束ね染料液に浸し引き上げて絞り、空気にさらして酸化発色させる工程を何度か繰り返して染色します。糸をロープ状に束ねて染めることで染料が糸の芯まで浸透せずにデニム特有のアタリが出やすい中白の糸に染まります。
生地(原反)での染色
織り(編み)上がった生地の状態で染色することを先染(糸染)に対して後染(piece dyed)と言います。染工所や生地(繊維)の種類・使用目的によって染色機のタイプがいくつかあるのでここでは生地染めに使われる4種類の代表的なジッガー染色機・液流染色機・ウインス染色機・ビーム染色機について特徴と概要を簡単にまとめました。
ジッガー染色機
ジッガーは綿の精錬や漂白を大量に行うためにヨーロッパで生まれた染色機ですが現在はナイロンやポリエステルの高密度織物をシワが入らないように染めるのに使用されることが多く、二本のローラーに交互に巻き取りながらガイドローラーでシワが入らないようにテンションをかけて染液槽を何度かくぐらせて染色します。ナイロンの染色には常圧ジッガーが使われ、高圧染色が必要なポリエステルには高圧ジッガーが使われます。
液流染色機
液流染色は「jet dyeing」とも呼ばれ生地の端と端をつないでロープ状にして高温の染液の管の中をジェット部からの染液噴射によって循環させながら染める染色機です。水流によって被染物が揉み込まれることで柔らかい風合いに仕上がります。天然繊維から化合繊まで様々な素材に対応できるので多く使われる染色方法ですがフラットに仕上げたい合成繊維にはシワやアタリが残ってしまうので不向きです。逆に膨らみのある風合いやナチュラルなシワ感を残して仕上げたい場合には向いていいる染色方法です。
ウインス染色機
ウインス染色機は液流同様に生地の端と端をつないでロープ状にして染液槽の中を移動させて染める方法ですが液流染色が染液の入った管の中を水流によって循環するのに対してウインス染色機では吊ったリールを回転させて染色するので生地に縦方向のテンションがかかりシワになりやすい染色方法です。膨らみのある風合いになるので短繊維の生地や楊柳の様な生地に向いている。
ビーム染色機
側面に穴の開いた筒(ビーム)に生地を巻きつけて染色機に沈め染料を循環させて染める染色方法、生地を拡布(広げた)状態で染めるのでシワになり難く、不織布など染色に多く用いられています。
連続染色機
先に紹介したジッガー・液流・ウインス・ビームの染色機は総称してバッチ染色機と呼ばれます一定量の生地と染色液を入れてそれぞれの方法で染色した後にソーピングや乾燥などの工程を行います。これに対して連続染色機で染めることを「レンセン」と言います。レンセンでは大量の生地を短時間で染色加工することができて染・乾燥・スチーム・ソーピング・乾燥の工程を一貫して行うことが出来ます。10,000メートルの生地を1時間弱で染めることができるので大ロットのオーダーに向いていて、高度成長期には日本のレンセンは世界を圧巻しました。現在では中国やアジアに大量生産の拠点は移動して国内では数件の大手染工所に限られています。
製品での染色
縫製が終わった製品を染めることを「製品染め」「ガーメントダイ」と言います。小ロットで染めることが出来るので下晒の生地で縫製しておいて売れ行きを見てカラーアソートを変更できるメリットがあります。おもにドラム染色機やパドル染色機で染料液と被染物を回転しながら染めるので製品で洗いをかけたような風合いに染めることが出来ます。一方で染色堅牢度が不安定で色落ちや移染が起こる場合もありムラになりやすい、ロットごとに色ブレが起こりやすいなどのデメリットがあります。仕様によっては縫い目がほつれる(パンク)するなどの事故率が高くなるのでどちらかと言うとT シャツやワンピース、カジュアル向けのボトムなどに向いている染色方法だと思います。製品染めを受けてくれる加工所は小~中規模まで様々で加工所ごとに独自のレシピや独特の加工なども行っているのでメリット・デメリットを考えて相談しながら進めます。
まとめ
染色とひとことで言っても繊維から糸へ糸から生地を経て製品になって行く段階で形状がかわりそれぞれの素材や形状ごとに染色方法も表現も違ってきます。ここでは基本的なことを簡単に解説させていただきました。素材によって染料や染め方が変わり、形状によっても色々な染色方法があり、さらにプリントや伝統工芸の染色技法まで含めると改めて染色って広くて奥が深いなと思います。そしてこの奥深さが無限とも言える表現を生み出していることを感じていただければ嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。