化学繊維とは
名称(日本語/英語) |
化学繊維(かがくせんい) / chemical fiber |
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カテゴリ |
主資材 |
種類 | 大カテゴリ(化学繊維) |
概要
名称:日本語名・・・かがくせんい/英語名・・・ chemical fiber
(日本語名:化学繊維 かがくせんい/英語名・・・ chemical fiber)または人造繊維(synthetic fiber、英国表記:fibre 米国表記:fiber)天然繊維に対して化学繊維は化学的プロセスによって製造される繊維の総称。無機繊維(ガラス繊維・金属繊維・炭素繊維‥等)と有機繊維(合成繊維・再生繊維・半合成繊維)を含む。ここでは主に有機繊維について説明しています。
化学繊維の種類
自然界に繊維の状態で在るものを利用する天然繊維に対して化学的及び人工的なプロセスで製造される化学繊維(有機繊維)には合成繊維・再生繊維・半合成繊維があります。
合成繊維は有機物である石油やバイオマス原料などの低分子原料を化学的に合成してつくられた高分子繊維の総称でポリエステル・ナイロン・アクリル‥などをはじめ非常に多くの種類があります。
再生繊維は天然の高分子化合物(植物から得られるセルロース繊維)の繊維組織を化学処理によって一度溶解してから再生させて紡糸した繊維でレーヨン・キュプラ・ポリノジックレーヨン‥等と牛乳やトウモロコシなどのタンパク質由来のカゼイン繊維。コンブ等の褐藻類に多く含まれるアルギン酸を原料にしたアルギネート繊維などがあります。
半合成繊維はセルロースやタンパク質の天然繊維原料を溶解して化学薬品と反応させてつくられる繊維でセルロースを主原料に酢酸等を反応させたジアセテート・トリアセテートやミルクカゼインにアクリルニトリルを結合してつくられるプロミックス繊維などがあります。
代表的な化学繊維の概説(特徴・来歴など)
合成繊維
ポリエステル(Polyester)
1941年にイギリスで発表され、1953年に米国デュポン社が特許を取得して工業化されました。日本では帝人と東レが1958年からテトロンと言う商標で製造・販売を開始。汎用性の高さから衣料用途で広く普及。相次いで各紡績メーカーが参入し現在では用途によって多種類のポリエステルが製造されている。代表的なポリエステルにはポリエチレンテレフタラート(PET)・ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)・ポリブチレンテレフタラート(PBT)・ポリエチレンナフタレート(PEN)・ポリブチレンナフタレート(PBN)等がある。中でもポリエチレンテレフタラート(PET)は耐熱性・染色性・強度に優れ、コストも安い為、繊維・容器・フィルム等に幅広く用いられ。飲料用のペットボトルの原料でもあります。
ナイロン(Nylon)
1935年に米国デュポン社が合成に成功。ポリアミド系繊維の総称としてナイロン(nylon)が定着しています。ナイロン6・ナイロン6,6・ナイロン4,6 (数字は原料の炭素原子数に由来)などの多くの種類があり6は木綿、6,6はシルクに近い風合いと言われています。製造が始まった当初はストッキングの原料として需要が拡大しました。現在ではウインドブレーカーなどのアウトドアやスポーツ衣料にバックなどに幅広く用いられています。ナイロンは合成方法によって組成と性質が大きく変化し、一般的に多く用いられるナイロンは脂肪族ナイロンで吸水性があり耐薬品性に優れています。また全芳香族ポリアミド(アラミド)系繊維には高耐熱性・高強度の分子構造を持つパラアラミド系とメタアラミド系の樹脂があり、前者ではケブラー®(デュポン・東レ)・トワロン®(帝人)。後者ではノーメックス®(デュポン・東レ)・コーネックス®(帝人)が知られています。
アクリル(acrylic)
アクリルニトリルを重合させて作られるポリアクリルニトリル(PAN)を主成分として紡出される。1950年にデュポン社が工業生産を始めた繊維で、合成繊維の中でも染色性に優れ鮮明な発色が得られ、耐薬品性や耐候性にも優れています。羊毛に似せて主に短繊維として利用されることが多く、かさ高性や柔らかい風合いが特徴で、フェイクファーやセーター・毛布・カーペットの原料に用いられます。また主成分のアクリルニトリルが85%~35%の繊維をモダアクリル(アクリル系)と呼んでアクリル繊維に較べて難燃性があり防炎や難燃性のインテリやなどにも使われています。
ポリウレタン(Polyurethane)
米国ではスパンデックス(Spandex)と呼ばれる。1937年にドイツで最初に実用化された弾性繊維(樹脂)の一般名称。1950年代になると工業用に広く用いられるようになり、1959年にデュポン社が開発・発売したライクラ®は水着やスポーツウェアなどを中心にストレッチ性のある繊維として需要が広がりました。繊維用途以外にも接着剤・塗料・合成皮革・防水コーティング樹脂として様々な用途があります。一方でポリウレタン樹脂は合成された時点から水分・塩分・紫外線・熱等によって劣化が始まり高温高湿度条件下では劣化が促進される為に製品の機能や耐用年数に大きく影響を与える素材でもあります。
再生繊維
レーヨン
1855年にフランスで特許が取得された最初の化学繊維で初期のレーヨンはニトロセルロースを原料としていた為に非常に燃えやすく生産が中止されました。後に天然高分子化合物であるパルプやコットンリンターなどのセルロースを化学薬品で溶解して再生紡糸して製造されるようになります。光沢があり絹(シルク)のような風合いから日本では人絹:じんけん(人造絹糸)とも呼ばれています。シルクのような風合いと光沢を持ち、吸湿性・放湿性があり木綿と同じ染料で良く染まるがウォータースポット(輪ジミ)になり易い、洗濯で縮みやすい、擦れにより白化する等の欠点もあります。製造過程で中間生成物であるビスコース(Viscose)を経ることからビスコース・ビスコースレーヨンとも呼ばれます。製造方法を工夫してレーヨンの欠点である強度や寸法安定性を改善したポリノジックレーヨンやブナ材を原料としたモダール®レーヨン(レンチング社)等があります。
リヨセル(テンセル®)
1988年~イギリスのコートルズ社が製造販売をしていたテンセル®は合併により現在はオーストリアのレンチング社がリヨセルと言う総称のテンセル®商標で製造販売しています。木材パルプ(主にユーカリ)を原料として使い毒性のある二硫化炭素を使用しない完全クローズドシステムで製造されることから比較的環境負荷が低いとされている。レーヨンと較べ引っ張り強さが大きく、水に濡れた時の強度低下も少なく、洗濯時の収縮も小さい。欠点としてはフィブリル化(繊維が縦方向に割れて白化して見える現象)が起こりやすく、褪色し易い特徴があります。
キュプラ(cupro)
銅アンモニアレーヨン(銅シルク)とも呼ばれるキュプラはベンベルグ®と言う商標で現在は旭化成が製造販売している唯一のベンベルグメーカーです。原料として通常はコットンリンター(綿花の種の周りの短い綿繊維)が用いられ、ビスコースレーヨンに較べて耐久性・耐摩耗性に優れています。旭化成が銅の再生利用技術を確立していることや生分解性であること、原料にコットンリンターを使用していることから環境負荷の低い繊維としても注目されています。
半合成繊維
ジアセテート・トリアセテート
ジアセテートは木材パルプ(セルロース)を原料として酢酸を反応させた酢酸セルロース(合成樹脂)から紡出される繊維で、天然原料のセルロースを使用しながらも化学反応を使って樹脂化することから半合成繊維と呼ばれています。アセチル基が2つの物がジアセテート、3つの物がトリアセテートでアセチル基の数が多いトリアセテートの方が合繊に近く形態安定性や耐熱性などの物質的性質が安定しています。ジアセテートは服地・裏地・小物・インテリアなどに広く利用され、トリアセテートは主に高級婦人服地向けに三菱ケミカル㈱がソアロン®の商標で製造販売しています。
主要化学繊維の性質
主な化学繊維の性質は下表を参照して下さい。(表下のバーをスクロールして表示)
繊維の性質 | 繊維製品に 関する性能 |
ポリエステル | ナイロン | アクリル | レーヨン | アセテート | キュプラ |
比重 | 重さ・かさばり | 1.38 | 1.14 | 1.14~1.17 | 1.50 | 1.32 | 1.50 |
水分率(%) | 吸湿性・乾きの速さ | 0.4~0.5 | 3.5~5.0 | 1.2~2.0 | 10.5~14 | 6~7 | 10.5~14 |
引張強度 (乾燥時)g/d |
丈夫さ・耐久性 | 4.3~6.5 | 4.5~7.5 | 2.5~5.5 | 1.7~3.1 | 1.2~1.6 | 1.8~3.4 |
乾湿強力比 (%) |
耐洗濯性 | 100.00 | 83~92 | 80~100 | 45~65 | 60~67 | 55~75 |
伸び率(%) | 剛軟性・伸縮性 | 12~50 | 25~60 | 25~50 | 16~24 | 25~35 | 10~17 |
ヤング率(%) | 剛軟性・ドレープ性 | 310~1100 | 80~450 | 260~900 | 400~1150 | 300~550 | 700~1000 |
伸長弾性率(%) (3%伸長時) |
防しわ性・伸縮性 | 90~100 | 95~100 | 70~95 | 55~80 | 70~95 | 55~80 |
熱の影響 | アイロン温度の適温 | 中 | 低 | 低 | 中 | 低 | 中 |
アルカリの影響 | 洗剤の選択 | 強い | 強い | 強い | やや強い | やや強い | やや強い |
染色性 | 分散染料 | 分散・酸性・クロム・塩基性・反応染料 | 分散・カチオン・塩基性染料 | 直接・バット・塩基性・媒染など各種染料で染められる | 分散・酸性・塩基性染料 | 直接・バット・塩基性・媒染など各種染料で染められる | |
燃焼 | 難 | 難 | 難 | 易 | やや易 | 易 | |
日光 | 強 | やや弱 | 弱 | 弱 | やや弱 | 弱 | |
カビ | 強 | 強 | 強 | 弱 | やや弱 | 弱 | |
虫害 | 強 | 強 | 強 | やや強 | やや強 | やや強 | |
比 重:4℃の水の密度を1としたときの比重。 水 分 率:温度20℃、湿度65%(標準状態)において繊維が吸湿する割合。 引 張 強 度 :繊維を引っ張って切断したときの強力を1デニール当たりの強力に換算した値。 乾湿強力比:水にぬらしたときの強度と乾燥時(標準状態)の強度の割合。 伸 び 率:繊維を引張って切断したときの伸びの割合。 ヤ ン グ率:初期の引張に対する抵抗力。 伸長弾性率:一定の伸び率(3%またはかっこ内の%)に対して回復する割合。 |
国内の代表的な化学繊維メーカー
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旭化成株式会社
https://www.asahi-kasei.com/jp/
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東レ株式会社
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倉敷紡績株式会社
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大和紡績株式会社
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丸井織物株式会社
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東洋紡株式会社
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Spiber株式会社
化学繊維まとめ
有史以来、数千年を優に越えて人類の暮らしと深い関りのある天然繊維に較べると化学繊維の歴史はようやく100年と言ったところです。レーヨン・ナイロン・ポリエステルと相次いで開発・実用化されて来た化学合成繊維によって私たちの生活はとても便利で快適なものになりました。一方で、安価に大量に生産され廃棄される石油由来の繊維による環境破壊が大きな問題になっていることは皆さまもご存じの通りです。これからもより快適さや機能性を求めながら環境負荷を軽減して行くような新素材の開発やインフラの整備も加速しています。天然繊維の性能や快適さを再現する形で始まった化学繊維の開発はすでに全く新しいフェーズを迎えています。日本の開発技術がリードする新しいタンパク質繊維の人工合成クモ糸やセルロースナノファイバなどの新素材はすでに衣料の原料としての繊維の枠を越えて開発が進んでいて、次の100年で化合繊が環境問題を解決しながらどんな進化をしていくのかがとても楽しみでもあります。
参考文献
- 「被服材料への招待」日下部信幸著
- Wikipedia