【テキスタイル初心者必見!プリントの基礎と実践知識!】

&CROP編集部の瀧澤です。

テキスタイルのデザインに欠かせない染色についてのシリーズ2回目は捺染(プリント)です。1回目の「染色の仕組みと代表的な染料9種類を分かりやすく解説」の記事では染料で繊維が染まる仕組みや染料の種類について説明しました。今回はテキスタイルに柄を表現する捺染(プリント)技法の種類や特徴、メリット・デメリット等の基礎知識に実践的な内容を加えて解説します。テキスタイルを学んでいる方やデザイナー志望の人にもお役に立つ必見の内容ですので是非最後までお付き合いください。

捺染(プリント)と伝統染色

生地に柄を表現する伝統的な技法には三纈(さんけち)と言われる纐纈(こうけち:絞り染め)・夾纈(きょうけち:板締め絞り)・﨟纈(ろうけち:ろうけつ染め)や江戸小紋琉球紅型のような型を用いて柄を染める型染手描友禅引き染め墨流し注染…等々多くの伝統的技法があります。一方で一般的なファッションやインテリアに多く用いられている柄を表現する技法を捺染(なっせん:プリント)と言います。ここでは主にテキスタイルに用いられるプリントについて説明しています。

シルクスクリーンプリントの概要

日本におけるシルクスクリーンプリントの始まり

現代ファッションにおけるプリントによる柄表現はシルクスクリーンプリントによって始まったと言えると思います。シルクスクリーンは木版や活字などの凸版画やエッジングのような凹版画と並ぶ代表的な印刷方法の孔版画の技法の一つです。伝統的な孔版技法にはステンシルや日本の型染があります。糸で吊ることで柄を保持していた日本の友禅型紙は明治の末頃に絹の紗を張って型紙を維持する技術が広まりました。この技術からヒントを得たサミュエル・シモンという英国人が1900年代のはじめにシルクのメッシュを用いて特許を取得したのがシルクスクリーン印刷の始まりと言われています。欧米で広まったスクリーン印刷の技術を万石和喜政という人が日本に持ち帰り大正12年に「重合製版法」という特許を取得したのが日本におけるシルクスクリーンプリントの始まりのようです。

シルクスクリーンの現在の使用用途

現在では耐久性がありコストも安いナイロンやポリエステル等の合成繊維のメッシュをスクリーンとして使用する事が多いですが合成繊維が普及していなかった当初にはシルクのメッシュを用いていたことでシルクスクリーンまたはシルクスクリーンプリンティングと呼ばれています。シルクスクリーンはメッシュを目止めする素材や方法に様々な工夫をすることで幅広い表現が可能で精密な印刷や多色の印刷、そして様々な形状の素材に印刷か可能なことから服地をはじめ飲料容器・道路標識・電子製品の基盤・液晶・燃料電池…等々と幅広く使われています。

日本におけるシルクスクリーンプリントの普及

日本においてシルクスクリーンプリントが普及するのは終戦後に菅野一郎氏の発明によるシルクスクリーン印刷機に現在のミノグループの前身の美濃紙業所創業者の塩谷広五郎氏が投資してグランド印刷研究所を開業し、多くの技術者を輩出したことや同社が1961年にスクリーン印刷機の製造販売を開始したこと、また服地においては化学繊維が普及したことなどによって1960年代になるとプリントの服地も一気に普及しました。また1859年にシルク(絹)の集散地であった横浜に横浜港が開港すると生糸の輸出と共にハンカチーフ等の絹製品の輸出が拡大。木版や型染の技術者が集まり横浜の伝統的な捺染技術が確立していたところにシルクスクリーンプリントの技法を取り入れてプリントの一大産地として発展してシルクスクリーンによるテキスタイルのプリント技術が確立しました。そして古くから分業による伝統染色技術を発展させてきた京都は、京友禅の伝統的な技法にシルクスクリーンを取り入れた「京プリント」の産地として発展し伝統技法を応用した独自の捺染技術や抜染プリントの技法を現在に伝えています。

捺染(プリント)の種類

テキスタイルの染色には下表のように無地に染める浸染と柄を表現する捺染があり、捺染には機械捺染手捺染(ハンドプリント)そして手工芸と呼ばれる伝統的な各種の染技法があります。

染色について説明した画像

ここからは機械捺染のフラットスクリーン・ロータリースクリーン・ローラー捺染・インクジェットプリント・転写プリントハンドプリントと呼ばれている職人が手作業でする手捺染についてそれぞれ特徴やメリット・デメリットなどをもう少し詳しく解説します。

フラットスクリーン

従来は平型を用いて職人が手作業で行ってきた捺染・乾燥などの作業を機械によって行うので、オートスクリーンとも呼ばれます。色毎に版を作成して染料を調合した捺染糊をスキージと呼ばれるゴムのヘラで生地にプリントして行きます。次項で説明するロータリースクリーンに較べると捺染速度は遅くデザインによっては版と版の繋ぎ目にジョイントが出来るため、デザインやアイテムによってはロータリースクリーンお勧めする場合があります。ただし1版の製作コストはロータリー型よりも安いので色数が多い場合は製版コストを抑えることが出来ます。また生地表面に多少の凹凸がある生地にも捺染が可能です。フラットスクリーンの型サイズは24インチ・32インチが一般的です。

ロータリースクリーン

ロータリースクリーン型画像
ロータリースクリーン型

ロータリースクリーン染色機によるプリントをロータリースクリーンプリントまたはロータリープリントと呼んでいます。写真のような円筒形の金属スクリーン型が回転しながらプリントして行くのでフラットスクリーンのような型の繋ぎ目(ジョイント)が出来ません。ロータリースクリーン型の素材はニッケルで小さな孔がメッシュ状になっていて、そこに感光乳剤を塗布して乾燥させてレーザーで焼いて型をつくります。捺染時には筒の内部に充填された染料糊を押し出してプリントして行きます。捺染速度がフラットスクリーンに比べて早い一方で型の製作コストが高いので比較的色数が少ない大ロットの生産に向いています。ロータリースクリーンのリピートは円筒形の型の直径によって決まっていて641mm/725mm/819mm/914mmのサイズがあります。

ローラー捺染

ローラー捺染はマシーンプリントとも呼ばれ、金属ロールに凹版の彫刻を施して顔料糊を捺染する方法です。柄のシャープさと段彫りによる水ぼかし調の表現が特徴で、他のプリントに較べて圧倒的に早い捺染が出来ることから生産コストを抑えることが出来ますが、ローラの作成に費用がかかるため大量生産に向いています。またマシーンプリントと呼ばれるのに反してコンピュータによる制御が難しく熟練した職人の技術が必要なプリント方法で現在では限られた染工所でしか生産できません。ローラー捺染についての詳細は下記のサイトも参考にして下さい。

インクジェットプリント

インクジェットテキスタイルプリンター画像
コニカミノルタインクジェットテキスタイルプリンター 画像はコニカミノルタのウェブページよりお借りしました。

インクジェットプリントは家庭用から商・工業用まで現在では広く普及しているプリント方法です。生地(原反)のプリントには専用のインクジェットプリンターを使います。

インクジェットプリントのメリット・デメリット

インクジェットプリントは微細な粒状の染料インクを直接生地に吹き付けるダイレクト方式のプリントでデジタルデーターによってプリントするので、製版の必要も色数の制限も無く小ロットで自由な表現のプリントが可能な上に型が無いので柄の送りの制限もありません。一方で、印刷速度が遅く同じものを大量にプリントするのには向きません。また色の再現や表現がプリンターの性能の範囲に制限され、スクリーンプリントに較べて染料の乗りが薄い、インクの価格が高くメーター当たりのコストが高くなる等のデメリットがあります。

転写プリント

転写プリントは、インクジェットプリンターによってポリエステル系素材用の分散染料インクを専用転写紙にプリントした後に生地と重ね合わせて200℃前後の高温で熱と圧力によって昇華させて生地に転写して定着させるプリント方法で、昇華転写プリントとも呼ばれます。

転写プリントのメリット・デメリット

転写プリントのメリットは発色の鮮やかさで諧調表現に優れ写真やグラデーションのようなプリントに向きます。また染め上がった生地や撥水加工等が施されている生地にもプリントが可能で、蒸しや水洗・乾燥等の工程が不要なので短納期での小ロットプリント向いています。一方でポリエステル系の素材にしかプリント出来ない、プリントの乗りが薄い、大量に生産してもコストが下がらない等のデメリットがあります。

手捺染(ハンドプリント)

手捺染は捺染台に張った生地に職人が手作業で一版一版専用のゴムヘラ(スキージ)を使って捺染糊をプリントして行く方法です。伝統的な型染や刷毛染め、絞り染めも手捺染に含まれますがここではスクリーンの手捺染について説明します。熟練した職人が一版ずつ色を重ねてプリントすることで多色で繊細な柄を表現することが可能です。柄や生地の種類によって染料糊の量を微妙に調整しながら手捺染でプリントした生地の表現の素晴らしさは他の捺染方法とは一線を隔するものがあると個人的には思っています。手捺染の生地はコストは高くなりますが伝統工芸と並んで充分な価値を有している貴重なテキスタイルと言えると思います。

プリントの生産工程

プリントの生産工程にはスクリーンプリント・インクジェットプリント・転写プリントで多少の違いがあるのでそれぞれの簡単なwork flowを記します。

スクリーンプリント(フラット・ロータリー・ハンド)のwork flow

  1. 図案データー入稿   :お客様から図案、データーの指示をいただきます。
  2. プリント手法/柄の方向/画像の修整:図案からプリントの手法や柄の方向、技術的な問題等を検討します。
  3. スクリーン型作成:必要な色数の型を作成します。
  4. 捺染糊のカラーレサイプ作成 :図案、指示色に基づいて測色し染料糊のレサイプを作成します。
  5. サンプル作成/確認 :手捺染でマス見本と呼ばれる見本を作成しお客様に確認、必要に応じて修正を行います。
  6. 生地の準備:必要数量の生地の準備とチェックを行います。
  7. 量産プリント工程:捺染機や手捺染によるプリントを行います。
  8. スチーミング:刷り上がった生地を蒸して染料の発色、固着を行います。
  9. ソーピンング・乾燥工程水洗によって不要な染料や糊を洗い落として乾燥させます。
  10. 整理・仕上げ工程 ・検反・:整理仕上げ工程で風合いの調整等を行い検反・出荷します。

インクジェットプリントのwork flow

  1. 図案データー入稿   :お客様から図案、データーの指示をいただきます。
  2. 生地の準備:必要数量の生地の準備、必要に応じてインクジェット用の前処理を行います。
  3. 画像データーの処理:必要に応じて画像データーの調整・修整を行います。
  4. サンプル作成と確認:本機で見本を作成して必要に応じて色柄の修整を行ってお客様に最終確認をしていただきます。
  5. 量産プリント:インクジェットプリンターで必要数量のプリントを行います。
  6. スチーミング:刷り上がった生地を蒸して染料の発色、固着を行います。
  7. ソーピンング・乾燥工程水洗によって不要な染料や糊を洗い落として乾燥させます。
  8. 整理・仕上げ工程 ・検反・:整理仕上げ工程で風合いの調整等を行い検反・出荷します。

転写プリントのwork flow

  1. 図案データー入稿   :お客様から図案、データーの指示をいただきます。
  2. 転写紙及び生地の準備:必要数量の転写紙と生地を準備します。
  3. 画像データーの処理:必要に応じて画像データーの調整・修整を行います。
  4. サンプル作成と確認:本機で見本を作成して必要に応じて色柄の修整を行ってお客様に最終確認をしていただきます。
  5. 転写紙へプリント:インクジェットプリンターで転写紙へプリントします。
  6. 生地への昇華転写:専用のプレス機で転写紙から生地に柄を写し取ります。
  7. 巻き取り・検査・出荷:プリントした生地を検反巻き取りして出荷します。

※プリントの商品を企画する際には表現したい意匠や素材、配色、生産数量、コストなどによって最も適した捺染方法を選択する必要があります。それぞれのプリント技法の特徴やメリット・デメリットをあらかじめ理解していることで染工場や生地商の担当者との打ち合わせもスムーズに進みますしベストな方法を見つけることが出来ます。

その他のプリント技法

プリントでは表現したい意匠や配色、素材、アイテム等によって最適なプリント方法や染料を選択する必要があります。また、スクリーンプリントの技法にも顔料をバインダーと呼ばれる接着剤で捺染する顔料プリントラバープリント、生地の表面にバインダー(接着剤)でレーヨンやナイロンの細かいパイルを植毛するフロッキープリント、特殊な捺染糊で綿やレーヨンの繊維を溶かして透かしを表現するオパールプリント、可抜染料で無地染めした生地に還元剤をプリントして色を抜く抜染プリント等々、いろいろなプリント技法があって様々なテキスタイル表現を可能にしています。これらのプリント技法や伝統工芸的な技法については別の機会に書きたいと思います。

基本的なパターンデザイン(プリント図案)のリピート

一般的なテキスタイルのプリントデザインは同じ図案の連続した繰り返しで構成されています。連続しない1枚の絵のようなデザインはパネルと呼ばれ、Tシャツの前面や背面にするようなプリントや1枚パネルの生地からパーツを取って縫製するようなデザインに使われます。テキスタイル図案の基本となっている一単位(モチーフ)の繰り返しをリピート(おくり)と言い、市販されているほとんどの柄物の生地や服地の柄は同じパターンが一定の法則で繰り返し配置されて出来ています。この項では3タイプの基本的な柄のリピート(おくりつけ)について簡単に解説しています。色々なプリント生地のデザインの送りがどのタイプおくりなのかを解読するのはパターンデザインのとても良い勉強にもなるので、気になるデザインのプリント生地がどのタイプのおくりに該当するのか是非色々な生地を見てみて下さい。

四方連続おくり(正おくり)

連続四方送りは柄を上下・左右におくる方法で、比較的バランスのとれたパターンをそのまま繰り返して表現したいときや全面に小さい柄が詰まって配置されている時に用いられます。モチーフの動きや流れをあまり強調したくない場合に都合の良い基本のおくりです。

ハーフステップおくり

モチーフの動きを偏らせることが少なく柄の動きや流れを表現し易いおくり方法です。構成のアンバランスな柄をそのまま上下左右にリピートすることで生じる柄のムラを防ぐことが出来るので一般的に最も多く用いられている柄おくりの方法です。

上下おくり・左右おくり

インテリアや大きなモチーフの服地ではモチーフを布のサイズいっぱいにの大きさにして上下方向にだけリピートする場合があります。またボーダー柄は布を横方向に見て左右方向にリピートしています。垂直方向や水平方向の動きを強調したおくりになります。

型のサイズとデザインのリピート

フラットスクリーンやロータリースクリーンでは版(型)のサイズに決まりがあります。フラットスクリーンでは24インチや32インチの型が多く、ロータリーの型は641mm/725mm/819mm/914mmと型の大きさが決まっています。プリント工場によっても使える版の大きさが違うので柄のデザインを描く場合には版のサイズを確認してデザインの1リピートの大きさが版サイズの×1,×1/2,×1/3,×1/4…と割り切れるサイズにする必要があります。多少のサイズの違いは製版の際に修正できますがリピートの大きさを意識していないと意図したデザインのサイズと実際のサイズ感が違ってしまう場合があるので事前に使える版のサイズを確認しましょう。また図柄は生地の長さの方向へは繰り返しリピートが可能ですが生地巾の方向へのリピートはプリントする生地の巾によって制限されるので使用する生地の巾もあらかじめ確認します。版のサイズと生地の巾を確認したうえでデザインするモチーフの大きさや配置を決めることが大切です。

型口(型ふみ)について

型口の画像
型口の例 画像は下記のリンクのSOU・SOUさんのブログからお借りしました。

プリントする際、版と版のつなぎ目が目立ってしまう

型口(型ふみ)とは、手捺染やフラットスクリーンで捺染する際に出来る版と版のつなぎ目のことを言います。日本のプリントには型口を目立たなくする為の様々なデザインの工夫やテクニックがありますが、例えばストライプの柄をプリントする場合にはどうしても版と版のつなぎ目が目立ってしまいます。また水玉や花柄のようなモチーフの図案でも生地のベースに色を付けるには地型用いて捺染するのでモチーフの背景部分に必ずつなぎ目が出来てしまいます。

つなぎ目を目立たなくするには?

このつなぎ目を完全に無くしてプリントするには、生地を地染めしてモチーフだけを捺染するか、ロータリースクリーンでの捺染が必要です。ロータリー型を用いれば連続した回転運動で捺染されるので地の部分にも型ふみをすることなくプリントすることが出来ます。また手捺染や型染ではこの型口(型ふみ)をデザインの一部として見せる方法もあります。型口については下記のSOU・SOUのブログも参考にして下さい。

SOU・SOU ブログ 「一語一絵」

今回の染織倶楽部は、『型口(かたくち)』についてお届けいたします。 型口というのは手捺染の特徴でございまし…

まとめ

近年のデジタル方式のプリントの進化によって必要最小ロットで簡単にプリントが出来るようになりました。最近では蒸しやソーピング工程の不要なインクジェットマシーンも出て来ているので従来のプリントに較べてプリント生地を生産する際の環境負荷の低減にも役立っています。また従来ナイロン生地のプリントは難しく量産可能な加工所が限られていましたがインクジェット方式ならナイロン生地へのプリントも問題なく出来るようになっています。一方でシルクスクリーンプリントでもフラットスクリーン、手捺染そして型染のような手工芸と手間のかかる捺染方法ほど生地そのものにも間違いなく存在感があります。すでにハンドプリントは手工芸の域に入っているのかも知れません。今回はちょっと長くなってしまいましたがテキスタイルプリント生産の一連の流れを理解する一助にしていただければうれしいです。最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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