&CROP編集部の瀧澤です。表地を取り扱っていて必ずついて回るのが生地の縮率(寸法変化)の問題です。生地は染色整理加工を経た時点で染色堅牢度と供に収縮率をチェックされ、基準値を満たしていない場合は整理直しなどの修整が行われます。寸法変化率は一般的には縮率(しゅくりつ)と呼ばれますが縮率が基準値と大きく違っていた場合製品となる過程のプレスやクリーニング・洗濯などによって製品の仕上がり寸法が大きく狂ったり、歪みが生じてしまいます。生地の縮率は繊維の種類や織・編物の構造などによっても差が大きく裁断や縫製の際に工場が最も神経を使う部分です。今回は繊維の種類による収縮のメカニズムや防縮加工の方法、寸法変化率のJIS試験方法や見方など実務レベルでも押さえておきたい内容となっていますので参考にしていただければ嬉しいです。
もくじ
生地の「寸法変化率」と「寸法安定性」の基礎知識
寸法安定性とは
生地の「寸法安定性」を簡単に言うと「着用や洗濯・ドライクリーニング・タンブラー乾燥・プレスなどを経ても、元の形やサイズを維持する性能」のことを言います。アパレル製品において寸法安定性が低いと「洗ったら縮んで着られなくなった」「型崩れした」などの消費者クレームにつながるため品質管理において極めて重要です。寸法安定性は一般的には収縮率(縮率)とも呼ばれますが収縮(ちぢみ)と伸び両方の変化があって縮みをマイナス、伸びをプラスで表し一般的な織物でプラスマイナス3%以内が品質基準の目安とされています。
寸法変化率の定義
寸法変化率は、生地や衣類が家庭洗濯、ドライクリーニング、プレスなどの処理を受けた際に生じる寸法の伸び(プラス)または縮み(マイナス)を%(パーセント)で表します。 計算式は寸法変化率(%)= {(処理後の長さ - 処理前の長さ) / 処理前の長さ} × 100で計算した数値に伸び(+)、縮み(-)の符号をつけて表記します。寸法変化率が一般的に縮率と呼ばれるのは以前は「収縮率」という用語を用いていたためで1999年のJIS規格(JIS L 1096)の制定・統合に伴って伸びと縮みを統一して管理するために「寸法変化率」という呼称になりました。収縮率という呼び方をしていた当時はプラスが縮みをマイナスが伸びを指していたため勘違いが生じ易いので注意が必要です。
洗濯によって寸法変化が起こるメカニズム
洗濯によって生地の寸法が変化するのは、おもに下記の3つの科学的なメカニズムが働いています。寸法変化が起こりやすい繊維は親水性が高い綿・麻・レーヨンなどのセルロース繊維や繊維表面にうろこ状のスケールのある獣毛繊維です。ポリエステルやナイロンのような合成繊維は熱セット性があり、繊維自体がほとんど吸水しないため、洗濯による寸法変化はあまり起こりません。ここではそれぞれの仕組みを簡単に説明します。
①緩和収縮(かんわしゅうしゅく)
染色や整理仕上げの工程で生地に過度なテンションがかかったり、セット時の巾の出しすぎや、縦(生地の長さ)方向へのテンションが強すぎた場合などには生地内部に歪みが残った状態で仕上げられて納品出荷されてしまうことがあります。こうした歪みが洗濯などによってリラックスして元の安定した状態に戻るときに起こるのが緩和収縮です。緩和収縮は綿・麻・レーヨンなどのセルロース繊維で起こり易く、とくにテンションがかかると伸びやすいセルロース系のニット製品で発生しやすいです。
②膨潤収縮(ぼうじゅんしゅうしゅく)
膨潤収縮は密度のある織物で発生しやすい収縮です。これは繊維が吸水して膨潤した際に起こる収縮のためやはり親水性のあるセルロース系の繊維で起こります。繊維が膨潤して糸が太くなることで織物が構造的に収縮して発生します。
③フェルト収縮
羊毛や獣毛繊維の表面にはスケールと呼ばれる鱗(うろこ)があり、繊維が水分を含むとこのスケールが開きます。その状態で摩擦や揉みなどの外力が加わることで繊維同士が複雑に絡まりあって収縮する現象をフェルト化と言い、この収縮をフェルト収縮と言います。フェルト収縮は全方向的に起こり一度発生すると元に戻すことは難しい現象です。従ってフェルト収縮が起こる毛繊維では染色加工においては独自の染色整理技術が確立されていて、洗濯においても十分な注意が必要な繊維です。
寸法変化率の測定方法と品質基準
JIS規格による試験法(JIS L 1096)
JIS L 1096は、日本産業規格(JIS)が定めた、織物・編物の物理的・化学的特性を評価する試験方法の総称です。寸法変化率には上図のように浸漬寸法変化率(A~D法)・洗濯試験機寸法変化率(E法)・ワッシャ寸法変化率(F法)・家庭用電気洗濯機寸法変化率(G法)・プレス寸法変化率(H法)・ドライクリーニング寸法変化率(F法)があり、素材やアイテムによって適した試験方法を選択して評価します。またアパレルメーカーによってはアイテムごとの試験方法を指定している場合もあります。下図は綿100%のブロード生地の公的機関が発行する品質検査報告書の寸法変化率のデータです。このデータでは家庭用電動洗濯機寸法変化率G法の中のJIS L 1930 C4M法 吊り干し乾燥とワッシャ寸法変化率 F-2法で試験した2種類のデータが記載されています。試験数値のー(マイナス)の符号はいずれもこれらの試験による試料の縮みをパーセンテージを表しています。
計算式
寸法変化率(%)= {(処理後の長さ - 処理前の長さ) / 処理前の長さ} × 100 (+)伸び (-)縮み
個々の試験方法については公的検査機関のHPに詳しく記載されてます。カケン・ボーケン・QTECのリンクを貼っておくので参照してください。どの公的機関でも基準や試験方法は共通ですが説明や表現が違うので比較して読むと理解が深まります。
寸法変化率試験(JIS L 1096)の概要や試験・検査方法についてご紹介します。衣類が水に浸漬、洗濯などされた際に、寸…
一般的な品質評価の目安
一般的な品質の目安
アイテム別の詳細基準(QTEC基準例)
アイテム
|
洗濯(タンブル乾燥)
|
ドライクリーニング
|
プレス(H-2法)
|
|---|---|---|---|
ジャケット・コート
|
織物: ±3%以内 / 編物: -5~0%
|
±3%以内(紳士スーツ±2%)
|
織物: ±2% / 編物: ±3%
|
布帛シャツ類
|
±4%以内
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±3%以内
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±2%以内
|
ドレスシャツの衿
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±1.2%以内
|
–
|
–
|
セーター・カットソー
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編物: -8~0%
|
±3%以内
|
±3%以内
|
下着類
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織物: ±5% / 編物: -8~0%
|
±3%以内
|
織物: ±2% / 編物: ±3%
|
処理別の評価基準
判定の留意点
繊維別の防縮加工の種類とメカニズム
セルロース系繊維(綿・麻)の防縮加工
① サンフォライズ加工(Sanforization / 物理的処理)
② 樹脂加工(Resin Finish / 化学的処理)
③ 液体アンモニア加工(化学的処理)
レーヨン・再生繊維の取り扱いに関する注意
綿・麻とレーヨンに代表される再生繊維は同じセルロース系繊維で収縮メカニズムも共通しています。しかし レーヨンは水による膨潤(ふくらみ)が非常に大きく、収縮が大きい繊維です。また濡れると強度が非常に弱くなり、一度大きく縮むとプレスなどで元に戻りにくい特性があります。そのためアパレル製品製造や品質管理上のリスクが極めて高い素材です。レーヨンにはポリノジック・モダール・リヨセルなどレーヨンの欠点を改良して水洗いを可能にした素材もあります。またレーヨン素材に洗い加工を施した製品も一部あります。しかし基本的にはドライクリーニングを指定することが推奨されます。再生繊維でドライクリーニングが推奨されるのはドライクリーニングに使われる溶剤では一般的に繊維の膨潤や型崩れが起こりにくいのが大きな理由です。
ウール(毛繊維)
ウールの防縮加工には薬品を用いて絡まりの原因となる①スケールを除去するオフスケール加工。②樹脂で繊維の表面を覆いフェルト化を抑える加工。③あらかじめ繊維を縮絨させることで洗濯などによるフェルト化をそれ以上起こりにくくする方法。などがあり、加工されたウールをウォッシャブルウールと呼んでいます。それぞれの加工について簡単に説明します。
スケール除去(オフスケール)による防縮加工
クロイ加工
塩素などの薬品を使ってスケールをほぼ完全に取り除く防縮加工
バソラン加工
スケールを部分的に取り除いてウール本来の風合いや膨らみを維持しながら防縮性を緩和する加工
クロイラスター加工
薬品によってスケールを除去した後に樹脂によるコーティングを施し高い耐洗濯性を持たせる加工
繊維の用途や目的によって糸の太さ・加工方法の組み合わせで多くの種類のウォッシャブルウールがあります。また最近では環境に配慮しオゾンの酸化作用でスケールを滑らかにする加工法や通気性のある特殊フィルムで繊維をコーティングする方法、繊維表面を親水性のナノ被膜で覆うプラズマ加工なども開発されて商品化されています。
縮絨による防縮防縮
ウールのフェルト収縮を利用して生地の段階で縮絨加工を施して通常の洗濯ではそれ以上縮まないレベルまで縮めてしまう方法です。生地がやや硬くがさついた風合いになりますが用途やアイテムによっては独特の風合いが好まれる加工方法で縮絨前の生地の選択と縮絨の具合で好みのタイプのウォッシャブルウールにすることが可能な加工方法です。
シルク(絹)
シルクは天然の動物(タンパク質)繊維ですが羊毛のようなスケールはありません。ただしその特性は他の繊維とは異なり取り扱いには注意が必要です。この項ではシルクの収縮特性と防縮について簡単にまとめています。
シルクの収縮特性と洗濯
シルク繊維はとても細く水分が繊維の中心部まで浸透しやすいために1回目の洗濯で大きく収縮する傾向がありますが2回目以降は安定してあまり収縮しない特徴があります。ただし非常にデリケートな素材なので濡れた状態で摩擦や力が加わると繊維が傷んだり型崩れが起こり易く、ドライクリーニングやおしゃれ着用の中性洗剤での手洗いが推奨されます。シルクに関する特殊な防縮・形態安定の技術もありますがあまり一般的ではないのでここでは割愛します。適切な洗濯方法(ドライまたは手洗い)や取り扱い方法に注意を払うことがシルク繊維の品質を維持するための基本となります。
合成繊維(ポリエステル・ナイロン)
合成繊維の収縮特性とメカニズム
合成繊維(ポリエステルやナイロンなど)は天然繊維と比べて吸湿性がとても低く、水分による膨潤がほとんど起こりません。そのため、家庭洗濯における「水」の影響による収縮(膨潤収縮)は極めて少ないのが特徴です。一方、合成繊維には熱を加えると柔らかくなり、一定の温度(軟化点)付近から熱収縮が始まりまる特性があります。これらの合成繊維は樹脂を溶かして作られているため、アイロンやプレスの高温によって縮んだり融けたりする性質があり、ナイロン6の軟化点は約180℃、ポリエステルは約238〜240℃です。
合繊の防縮加工:熱セット(ヒートセット)と品質管理試験
合成繊維の寸法を安定させる一般的な方法は、その熱可塑性を利用した「熱セット(ヒートセット)加工」です。ヒートセットは生地の仕上げ工程で蒸気・乾熱を使用して高温で行います。ヒートセット加工を施すことで寸法が安定して収縮が少なくなり、毛玉やシワもつきにくくなるメリットがあります。このように合成繊維の場合は洗濯による寸法変化がほとんどないためこれら試験は行わずに、代わりに熱による変化を見るプレス寸法変化やタンブル乾燥による収縮の試験を行う場合が多いです。
製品の価値を高める「プリ・シュランク」と「形態安定加工」
プリ・シュランク(Pre-shrunk)
プリ・シュランクは、製品として出荷する前にあらかじめ「縮ませる」工程を指します。1800年代後半、リーバイス社の創業者リーバイ・ストラウスの弟、ヤコブ・デビッドによって考案されました。当時のデニムは非常に硬く、洗濯によって製品が縮んでサイズが変わってしまう課題を解決するためにこの方法が導入されました。メリットとしてフィット感の安定、着心地の向上(生地が柔らかくなる)、一貫したシルエットの維持が挙げられ、現在はデニムだけでなく綿などの縮み易い素材のTシャツ・シャツ・ボトム・ジャケットなどのカジュアルウェアにも行われます。また製品の縮みを防ぐ目的以外にも仕上がりをナチュラルな風合いにする目的でも行われ「製品洗い」とも呼ばれます。デメリットとしては追加工程によるコストの上昇や加工による色落ちの可能性が挙げられます。
形態安定加工
形態安定加工は、「防縮」「防しわ」「プリーツ保持」の3つの機能を兼ね備えた加工技術です。おもに綿などのセルロース繊維に対し、樹脂を用いて繊維分子(ミクロフィブリル)の非結晶部分に「架橋結合」を形成させることで、繊維同士の「すべり」を抑制し、しわや縮みの発生を物理的に防ぎます。広く知られているのはYシャツに施される液体アンモニア処理(液アン加工)で この処理によって繊維の断面を丸く整え、樹脂加工と併用することでソフトな風合いと高い形態安定性を両立させます。他にも製品状態で形態安定樹脂を熱で硬化させるポストキュア方式(キュアリング)や、ホルマリンガスを反応させて形態を安定させるVP加工 (Vapor Phase)があります。
実生活で縮みを防ぐための対策
普段の生活で繊維製品の縮みを防ぐためには、素材の特性を理解して洗濯方法や乾燥方法を知って日常のお手入れを行うことが大切です。以下に具体的な方法を5ステップで説明しています。
1. 洗濯前の確認
2. 洗濯時の注意
3. 乾燥:熱によるダメージの回避
4. 素材別のルール
5. 日常のお手入れと復元
低環境負荷の防縮加工
低環境負荷の防縮加工とは、従来の化学薬品や樹脂を多用する方法に代わり、物理的な処理や環境に配慮した物質、最新技術を用いて、環境汚染やエネルギー消費を抑えながら生地の寸法安定性を高める加工方法の紹介です。
サンフォライズ加工( 物理的・機械的防縮加工)
環境配慮型ウール防縮技術
最新の化学・生物的アプローチ
まとめ
生地の寸法変化(縮率・寸法安定性)は、製品クオリティとクレームリスクを左右する、テキスタイル設計・品質管理の要となる要素です。寸法変化は単なる「縮み」ではなく、繊維の種類、織編構造、加工履歴、洗濯や乾燥、熱処理といった複数の要因が重なって発生します。本記事では、緩和収縮・膨潤収縮・フェルト収縮といった寸法変化のメカニズムをはじめ、JIS規格(JIS L 1096)に基づく試験方法と品質基準、防縮加工の代表例(サンフォライズ加工・樹脂加工・液体アンモニア加工・ウォッシャブルウール加工・ヒートセット)を体系的に整理しました。さらに、プリ・シュランクや形態安定加工など、製品価値を高める実務的な加工手法や、低環境負荷の最新防縮技術についても紹介しています。寸法安定性の理解は、企画・素材選定・加工指示・品質基準設定・クレーム予防まで一貫して関わる実務知識です。「なぜ縮むのか」「どう防ぐのか」「どの試験で管理するのか」を押さえることで、製品トラブルの予防だけでなく、素材提案力・品質設計力の底上げにもつながります。本記事が、現場での判断や仕様設計の“よりどころ”になれば幸いです。