
&CROP編集部の瀧澤です。今回は日本が生んだ独自の染技法『注染(ちゅうせん)』の世界。注染と言えばやはり手ぬぐい⁉ 個人的に夏場は手ぬぐいが手放せませんが、用途としては浴衣・ハンカチ・ふきん・風呂敷・雑貨類…最近では注染で柄を入れたTシャツや、型を使わないムラ染め注染の生地を使ったアパレル製品も見かけます。手ぬぐいは100枚前後のロットで作れて単価も手ごろなことからイベントやノベルティ向けにオリジナル手ぬぐいの制作を依頼されることも増えました。今回はこの注染染めの歴史や工程、産地について探ります。
もくじ
注染とは? 日本独自の「にじみ」と「ぼかしの」染め技法

専用の薬缶(やかん)を用いて染料を注いで染めることから注染と呼ばれますが、注染のもとになっている染色法は型染めによる浸染(しんぜん)です。型染めは8世紀頃に大陸から伝わった三纈(さんけち:絞纈(こうけち、絞り染め)、夾纈(きょうけち、板締め絞り)、臈纈(ろうけち、ろうけつ染)の中の臈纈(ろうけち、ろうけつ)染から発展した方法です。ろうけつ染は生地を蝋(蜜蝋)で防染して染色する方法で、後に蜜蝋の替わりに米糊と型紙を用いて防染した生地を染料液に浸したり刷毛などで色を入れて染色するようになったのが型染です。型染は現在にも伝わる伝統的な染め技法で沖縄の紅型や江戸小紋が良く知られています。しかし型を使って生地に糊を置いて防染し、染める作業を一枚一枚行うとても手間のかかる方法の為伝統工芸品として扱われることがほとんどです。注染はこの防染した生地を20~50枚重ね、上から注いだ染料を下から吸引して一度に数十枚の生地を染められるようにした染色方法です。ある程度まとまった量の生地を一度に染めることで伝統的な手工芸の味わいのあるテキスタイルを現在でも日用品として使うことが出来ています。
注染の歴史 明治から現代へ

注染のもとになる染めは、江戸時代中期頃から行われていた渋紙で作られた型紙を用いて木綿生地に防染糊を塗りつけ、藍の染料に浸して染め上げる「浸染(しんぜん)」という手法です。浴衣や手ぬぐいの染色の主流は「長板中形(ながいたちゅうがた)」と呼ばれ約6.5mの長板に生地を張り、型紙を使って糊置きをした後に藍の液に浸けて染めます。小紋染よりも後に発展した中形染は小紋染が表面(片面)だけの糊置きであるのに対して、中形は、単衣で着るため、表裏の両面を型付けして同じ柄でピッタリと合わせる必要があり、細かい柄では中形の方が高度な技術を必要とする場合も多くありました。江戸時代には浴衣は風呂上りに着るものでしたが、明治30年頃になると外出着としての地位を得て高級な生地も使われるようになり多様な柄が生まれます。その頃に布地を昔の日本手拭の長さに折りたたんで染色する「手拭中形」が大阪で考案されはじめられました。手拭中形には、長板中形のような緻密で繊細な柄を表現したり、深みのある模様を染め上げることはできませんが一度に20~30枚を量産できるメリットがあり染色も簡単で効率が良いため、全国に広く普及します。手拭中形は生地を折りたたんで染色するので「折付中形」や「注染中形」また大阪で発祥したことから「大阪中形」などと呼ばれます。もとは手拭の染色法として考案された手拭中形が浴衣の染めとして広がったのは明治36年に内国勧業博覧会に注染浴衣が出品されて入賞し、全国的に注目を集めるようになったことや輸入の安価な人工インディゴや化学染料が普及したことも大きな要因です。また江戸期後半には、板に張った生地に刷毛(はけ)を使って染めていく「引染(ひきぞめ)」の手法も盛んで、この「友禅手拭」の手法から複数の色を注ぎ分ける表現が発展したと考えられます。注染は大阪から全国へ広がり大阪、浜松、東京が3大産地として発展しました。明治40年頃には、中形の問屋が130軒ほど中形の業者が東京で230軒、埼玉で100軒ほどあったと言われます。昭和10年頃までは産地ごとに「そそぎぞめ(浜松)」や「つぎぞめ(大阪)」などの名称で呼ばれていましたが、この頃に「注染」という名称に統一されます。注染は終戦後の1950年代後半に生産の最盛期を迎え、その後ライフスタイルの変化や安価な海外製品、プリント技術の普及により、生産量は激減します。現代では、機械プリントでは出せない手仕事による「滲み(しみ)」や「ぼかし」の柔らかな味わいが再評価されて伝統的な浴衣や手ぬぐいだけでなく、洋服、バッグ、ブックカバーなど、現代の生活に合わせた新しいアイテムへの応用が進んでいます。また、3月21日を「手ぬぐいの日」に制定するなど、技術を次世代へ繋ぐための活動も行われています。
注染の三大産地 大阪・浜松・東京産地の特色
大阪(浪華本染め)
大阪は注染の発祥の地。明治20年代に、それまで1日3〜8反ほどしか染められなかった手法に代わり、1日100反を仕上げられる画期的な大量生産技術として注染を開発した産地です。大阪の注染は経済産業大臣指定の伝統的工芸品「浪華本染め(なにわほんぞめ)」の名で知られ、現在も「堺」などを中心に、熟練の職人による技術が受け継がれています。堺市の株式会社ナカニでは自社ブランド「注染てぬぐい にじゆら」を展開し、伝統技術を現代のライフスタイルに合わせたデザインで発信しています。ナカニの代表取締役の中尾雄二氏は日本伝統工芸士に認定されており、技術継承のために3月21日を「手ぬぐいの日」に制定するなどの活動も行っています。
浜松産地(浜松注染そめ)
大正12年の関東大震災で職場を失った東京の職人たちが、新天地を求めて浜松に移り住んだことで発展。江戸時代から続く「遠州綿紬」などの綿織物の産地であった遠州は豊かな天竜川の水資源と反物の自然乾燥に欠かせない「からっ風」に恵まれ、東京と大阪の中間地点という立地の良さや、織機の開発が盛んな工業都市であったことから、浴衣の一大産地としての地位を確立しました。昭和2年の創業以来、多くの高級注染製品を手掛けてきた株式会社二橋(ふたはし)染工場では 晒し、染め、乾燥、仕上げまでの一貫生産が可能で熟練の職人が「出せない色はない」という気概でものづくりを行っています。また1961年創業の武藤染工も職人一人ひとりが納得できるものづくりを目指し、手作業ならではの「ぼかし」や「にじみ」の味わいを大切にした製品づくりをしています。
東京産地(東京本染注染)
江戸・東京における主要な産地であり、とりわけ関東地方で染め上げられるものが「東京本染注染(とうきょうほんぞめちゅうせん)」と呼ばれ、江戸時代から手ぬぐいを贈答品とする文化が根付いていたことで人々の生活にの身近に染物があったという背景があります。独自の「差し分け染め」(一枚の型紙で何色も染め出す技法)や、職人の手加減による繊細な「ぼかし染め」など、高い技術力を誇ります。代表的な注染工場としては明治22年創業の老舗、東京和晒(わざらし)株式会社(葛飾区)や有限会社 伊勢保(いせほ)染工所(江戸川区)があり。いずれも単なる受託製造にとどまらず、新しいアイテムの開発や体験の提供を通じて、日本独自の染色技法である注染を次世代へつなぐ役割を果たしています。
注染の工程 職人の手仕事と道具 重要無形文化財伊勢形紙 小巾綿織物

注染とプリントの違い 現代注染の可能性 現代の注染アイテム

注染は、布の染めない部分を糊で防染し、重ねた生地の上から染料を注ぎ込んで染める技法です。染料を生地の上から注ぎ、下からコンプレッサーで吸引して繊維の芯まで浸透させるため、裏表が同じ柄・濃さに染まります。プリントでは 生地の表面に染料や顔料を乗せるため、裏面まで綺麗に発色せず、裏側は生地の色(白など)のままになることが一般的です。注染は職人の手作業による機械的なプリントでは出せない独特の「滲み」や「ぼかし」といった柔らかな味わいのある表情が特徴で、プリントは細かいデザインを正確に表現することができて均一な仕上がりが特徴です。また現代注染は伝統を守るだけでなく、現代のライフスタイルに合わせてTシャツや衣服に注染を取り入れる提案や伝統的な文様だけでなく現代的な感性のデザインが取り入れられファッション、雑貨、インテリアなどにも取り入れられています。
注染の体験染め
東京や大阪では注染をより身近に感じてもらうための見学や体験コースを行なっている注染工場もあるので下記にリンクを貼っておきます。興味のある方は近くの工場見学や体験コースにチャレンジしてみてください。
東京
葛飾区・東京和晒創造館 てぬクリ工房
東京都葛飾区にて注染の手ぬぐい染め体験工房を運営しています。予約受付中!お気軽にお問い合わせください。手ぬぐいや和小物の…
上野・てならい堂「にじゆら」手ぬぐい注染フルコース体験
心はずむ注染(ちゅうせん)の世界を体験しませんか。 実は色々な使い道があり、便利な手ぬぐい。染めて使って手ぬぐい沼へいら…
大阪
株式会社ナカニ
手ぬぐいの自社ブランド「にじゆら」を立ち上げ、店舗展開も行う株式会社ナカニ。受注生産をメインに行っていた1966年(昭和…
株式会社北山染工
日本手ぬぐいや浴衣の注染を主に、1日に30〜200反を染め上げる株式会社北山染工場。1961年(昭和36年)の創業から長…
株式会社協和染晒工場
1952年(昭和27年)の創業から3代に渡り、注染ゆかた、注染手拭い、捺染手ぬぐいを手掛けてきた協和染晒工場。2022年…
まとめ

「注染(ちゅうせん)」は、伝統的な型紙と防染糊を用い、生地を重ねて染料を注ぎ込むことで、裏表まで美しく染め上げる日本独自の伝統的な染色手法です。にじみやぼかしといった手仕事ならではの柔らかな表情と風合いが特徴です。明治期に大阪で考案された注染は、浴衣や手ぬぐいの量産を可能にし、生活の中に根付いた染色文化として全国へ広がりました。現在は大阪・浜松・東京の三大産地を中心に、職人の技が受け継がれています。さらに近年、伝統的な手ぬぐいや浴衣だけでなく、Tシャツやバッグ、雑貨など現代のライフスタイルに合ったアイテムへも展開が進み、注染の新しい可能性が広がっています。見学や体験ができる工房もあり、実際に手を動かすことで、その魅力や奥深さをより身近に感じることができます。注染は、日本のものづくりの精神と職人技が今なお息づく、暮らしに寄り添う身近な染色文化と言えると思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。




