コットンとポリエステルどっちが環境にやさしい?

  • 2024年2月26日
  • 2024年7月23日
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&CROP編集部の瀧澤です

現在、世界で生産されている繊維の約7割が化学繊維です。その中でも最も汎用性が高く50%以上を占めているのがポリエステル(ポリエチレン)繊維です。そして残りの約3割綿・麻・獣毛などの天然繊維で、そのうちの約70% が綿花(コットン)です。1938年にナイロンが初めて化学繊維として生産・販売される以前は、世界中の繊維がほとんど全て天然素材に由来した繊維だったことを考えると、わずか70年程のあいだの合成繊維の普及のすさまじさを感じます。今回は合成繊維で最も生産量の多いポリエステル繊維と天然繊維で最も多く生産されているコットンどちらが環境にやさしいのか?を探りたいと思います。どちらが環境にやさしいのか?と言っても数値を比較して、だから○○をもっと使って◇◇を減らした方が良いと言うような事が言いたいのでは無いことはすでに皆さんもお気づきと思います。批判覚悟のバイアスのかかった視点で書いていますので是非最後までお付き合いください。

どっちも全然やさしくない!

 

はじめに謝っておきたいのが今回のタイトルです。便宜上「環境にやさしいか?」と言うタイトルにしていますが、ポリエステルもコットンも「まったく環境にやさしくなんか無いです。」オッ!はじめから暴走気味… 人間が経済活動を営むことや、何かを生産して消費することで環境にやさしいことなんて一つも無いです!(相対的に見て環境を良くする方向に働くことはあるかも知れませんが)。だから大手の企業が物を売るために使う「地球環境にやさしい」「持続可能性」などと言うお為ごかしは全部ウソです!…今回は代表的な生産量の多い2大繊維のポリエステルとコットンを取り上げていますが、ナイロンでもアクリルでも環境負荷が低いと言われる再生繊維でもウールでも麻でも環境への負荷が相対的に低い繊維はあるけれども「環境にやさしい繊維なんて無い」と言う前提で書いています。それではポリエステルとコットンそれぞれが環境に与えている影響について一般的に言及されている事項を挙げて行くので、めげずについて来て下さい。

ポリエステルが地球の環境に及ぼしている影響

石油(化石)原料への依存

ポリエステルは主に石油由来の原料から製造されるため、原油の採取や精製が環境に負荷を与えている。

製造過程でのエネルギー消費

ポリエステルの製造には高温での反応など大量のエネルギーを必要とする工程があり、これがさらなる石油資源の消費に結びついて温室効果ガスの排出を助長している。

水資源の大量消費と汚染

 

ポリエステル繊維は染色の工程で大量の淡水資源を使用するので地域の水資源に負荷を与え、染色加工の排水は水質汚染の原因となっている。

添加剤などの化学薬品による汚染

ポリエステルを含むプラスチック樹脂は、重合工程などで用途に合わせ三酸化アンチモン・トリメリット酸チタン・二酸化ゲルマニュウム・硫酸マグネシュウム等々…多種類の添加剤が使用されることでこれらの物質が排水などと共に環境に放出される。これらの添加剤の環境への影響にはわかっていないことも多く生態系への影響が懸念されている。

大量廃棄による環境への影響

プラスチック樹脂は自然環境での分解に非常に時間がかかるため半永久的に環境中にとどまることで環境に負荷を与えている。また徐々に分解される過程でも製造時に使用された添加物が環境中に放出されたり、 マイクロプラスチックとなって流出することで海洋や大気汚染を引き起こして生態系に悪影響を与えている。

焼却処理による温室効果ガスの放出

日本ではサーマルリサイクルと言う呼び方でプラスチック樹脂の焼却をリサイクル方法としているが、焼却することで温室効果ガスを大量に放出している。

リサイクルによる環境への負荷

リサイクルポリエステル原料を100%使用したからと言って環境への負荷が無くなるわけではありません。ポリエステルのリサイクルにはマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルがありますが、マテリアルリサイクルでは使用済みの原料を収集、輸送、選別、洗浄、粉砕、溶解、再成形する各工程でエネルギーを必要とし、バージン原料と同質の繊維を得るためのケミカルリサイクルでは原料を化学的に分解してモノマーに戻してから更に再重合させて繊維とする為のエネルギーや添加剤が必要となります。すべての原料がリサイクルされるようになれば石油原料の使用は最小限に抑えることが出来る感じがしますが、現状ではバージン原料を使用した繊維のコストのほうが安いことを考えると、リサイクル原料の繊維にはバージン原料から造られる繊維よりも多くの石油エネルギーが使われている可能性も否めない。現状ではあくまでも埋め立てや焼却するよりもましな感じがするという程度にとどまっていると思われる。

 

※ポリエステル繊維については下記の記事も参考にして下さい。

アパレル資材研究所 「&CROP」by株式会社クロップオザキ

ポリエステル繊維は石油原料由来の繊維で化学繊維の中で最も多く生産されて使用されている繊維です。ポリエステルという呼び方は…

ここまでポリエステル繊維(樹脂)の製造や利用が地球環境に及ぼしていると一般的に言われている影響を思いつくままに挙げました。地球の未来への明るい見通しが見えてきたところで、次に天然繊維で最も生産量が多いコットン(綿花)の環境への影響に行きたいと思います。

コットンが地球の環境に及ぼしている影響

 

綿花(コットン)はとても肌触りが良い天然繊維で、そのほとんどは中国・インド・アフリカ・パキスタン・ペルー・アメリカなど世界各国で大規模に栽培されています。

大量の農薬・殺虫剤の使用

Monsanto pesticide to be sprayed on food crops. 作者不明作者不明, パブリック ドメイン, via Wikimedia Commons

 

綿花の栽培で最初に取り上げられるのが大量の農薬・殺虫剤の使用です。1990年代に綿花栽培の化学薬品使用量はピークとなり、世界の殺虫剤使用量の20数%、農薬使用量の11%が使用されていました。環境や労働者への悪影響から綿花栽培の現場では農薬使用を減らす努力もされています、2008年の段階で殺虫剤の使用は15.7%、農薬の使用は6.8% まで減少しました。正直に言って現在の数字は把握できていませんが他の作物と較べても綿花栽培には大量の農薬が使われています。また生産国によっても使用量に大きな差があり、後進のブラジルでは2006年時点で他の国の4~6倍の農薬が使われていました(またこれらのデーターには除草剤・枯葉剤の使用は含まれていません:出典JOCA連載コラム)。

現在行われている取り組み

現在ではオーガニックコットンやリジェネラティブオーガニックコットンをはじめとした取り組みも行われています。しかし、その生産量は極めて限られていて、ほとんどの綿花がコストを重視した農薬を大量に使用する慣行農法で生産されています。

大量の化学肥料の使用

綿花は農作物の中でも大量の化学肥料が使われる作物です。化学肥料は即効性があって作物にすぐに吸収されて効果が出る反面で持続性が無く土壌中の微生物が失われて土壌の生態系を破壊します。そして自然が作り出した肥沃な数センチの表土が自力で回復するには最長で1000年かかる地域もあります。また吸収されなかった化学肥料は水系に流失して広く環境を汚染し、被覆肥料のマイクロカプセルによるマイクロプラスチック汚染も大きな問題です。

大量の淡水資源の使用

綿花は農作物の中でも多くの水を必要とする作物です。灌漑による栽培では1キロのコットンの生産には世界平均で1931㍑の水が必要と言われます。水の惑星と言われる地球ですが淡水はわずか2.5%、そして人類が利用可能な淡水は0.5%以下とも言われ、淡水資源の枯渇はとてもシビアな問題となっています。ICACの資料では世界の約半分の地域の綿花栽培は雨水を利用して行われていますが、もともと綿花栽培が盛んなインドや中央アジアをはじめとした乾燥した地域では乏しい水資源を灌漑によって利用して栽培しています。雨水と比べて過剰な灌漑用水の使用には河川や湖沼の水位低下や地下水の枯渇にとどまらず水中に含まれる塩分が土壌中に蓄積して作物の生育に悪影響などのデメリットがあります。

遺伝子組み換え種子の使用

綿花は全体の70%以上と遺伝子組み換え率が最も高い作物です。遺伝子組み換えによって除草剤への耐性を高めることで除草剤を使用して作業効率を上げることが出来るなどのメリットから、遺伝子組み換え種子が広く使用されています。

遺伝子組み換え種子のデメリット

一方で、種の正常な発育プロセスを壊すことで有害な成分を醸成し害虫耐性を付与していることで花粉が人体に悪影響を及ぼすことが報告されていて、受粉作業によって特に背丈の低い子供への健康被害が多く報告されています。モンサント(買収されて現在はバイエル)のような巨大多国籍企業による遺伝子組み換え作物の普及と世界の種子企業買収、そして除草剤や農薬の販売は巨大な利益を生みながら環境や人類を負のサイクルから抜け出せなくなる麻薬のような存在と言えるのではないでしょうか。

低賃金・児童労働・過重労働・薬剤使用による健康被害などの社会的側面

綿花栽培は植民地の現地住民や黒人奴隷を労働力としたプランテーションによって広まった背景があり、現在でも低賃金・過重労働・児童労働・薬剤散布による有害化学物質の健康被害が継続的な問題となっています。現在の単一栽培による綿花栽培は大量の農薬・化学肥料を投入しなければ収穫することが出来ません。一方で綿花の買い付け価格は下がり、種・化学肥料・農薬の価格は上り続けて年間数千人の農家が借金を苦に自殺していると言われます。また薬剤による健康被害で年間7700万人が深刻な健康被害にあい、中毒死する人は2万人に及ぶと言う報告もあります。

染色・仕上げ工程における水使用、合成染料による水質汚染

コットンに限らず繊維の染色には大量の水資源を必要とし、また排水による水質汚染を引き起こしています。

大量廃棄による環境汚染

 天然繊維であるコットンは、自然環境下で分解するのでサスティナブルな繊維であるとも言われていますが、大量に廃棄されるコットン製品を埋め立てれば分解する過程で染色に使われた化学染料は土壌を汚染し、焼却すれば炭酸ガスを放出して温暖化に貢献します。

 

※コットン(綿)については下記の記事も参考にして下さい

アパレル資材研究所 「&CROP」by株式会社クロップオザキ

天然繊維の綿について、成り立ちから魅力、特徴、代表的な繊維メーカーなどを詳しく解説しています。綿について知りたい方はこの…

リサイクルポリエステルやオーガニックコットンならば環境にやさしいの?

日本ではまるで環境問題は過ぎ去った流行?みたいに感じる方も多いかも知れません。持続可能性や温室効果ガス、温暖化ばかりがクローズアップされている中で温暖化対策不要論のような説やSDGsや持続可能性という言葉は新しい経済価値を生み出す為のロジックと言う見方もあり、専門家と言われる人たちの間でも意見が異なります。日本国内を見れば、30年前と比べればはるかに排気ガスも減り河川も奇麗になり環境は良くなっているようにも見えます。しかし身近に見られる生物の種類は驚くほど減っています。そして、そうした現象は世界中で急激に進んでいます。

「環境にやさしい」という言葉を信じてはいけない

生物の多様性になんてあまり興味が持てないかも知れないし、変な虫はいない方が暮らしやすいと思うかも知れません。しかし目に見えない細菌やバクテリア、菌やカビをはじめ昆虫から動植物まですべてが存在しいて人も生物として存在することができるのです。そして人間の利益だけを優先したすべての活動がその環境を破壊し続けていることを知り、身の回りの素材や製品がどのように生産され廃棄されているかを知ればリサイクルだから環境にやさしいわけでもオーガニックだから問題がない訳でもないことが分ると思います。それでもバージン原料を使うよりもリサイクル原料を使った方が、大量の農薬や化学肥料、遺伝子組み換えの種子を使ったコットンよりオーガニックコットンの方が環境への影響を小さくするのことは出来ると思います。しかし、リサイクルポリエステルもオーガニックコットンも流通している素材の極めて一部でしかありません。だから現状は全然 ‟環境にやさしい” なんて言えるレベルではないのです。

まとめ

世界的に地球温暖化・CO2の削減が言われています。人類の経済活動が大気中の炭酸ガス濃度を増やし平均気温の上昇に影響しているのも事実だと思います。その結果として地球がどうなって行くのかには諸説あるけれども本当のところはわかりません。一方で、温暖化対策によって間接的に大きな利益を得ている人たちや多国籍企業もあります。WWFの「LIVING PLANETレポート2022」によれば1970年以後、世界の野生生物の数は69%減少。生物多様性の減少は北米20%・ヨーロッパ18%・アジア・太平洋地域55%・アフリカ66%・南米94%となっています。私自身を含めて当社も、そしてほとんどすべての人と企業も地球環境にとっては加害者の側に立っていることは間違いがありません。現状に比べてSDGsの目標はあまりにも高すぎて現実味がないですが、それでもほとんどの国によってこの目標が採択されたことはひとつの大きな成果だと思います。わたしたちは名刺や会社のパンフレットにSDGsのロゴを印刷しただけで今までと同じように環境破壊に加担してはいないでしょうか?これは自戒の意味を込めた問いです。ここまで書いてきてあまりにも明るい地球の現状と未来の見通しに力尽きたので… 最後に前向きに取り組んでいる企業や未来への可能性を感じられるリンクと今回参考にしたリンクを共有しておきます。ありがとうございました!

環境企業と参考リンク集

 

patagoniaprovisions.com

持続可能な農法のさらに先をいくリジェネラティブ・オーガニック農法は、地球と私たちを含む地球上のすべての生物の健全性を着実…

Spiber株式会社

微生物発酵プロセスによりつくられるタンパク質素材「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン™)」の開発を通…

スパイバーサステナビリティインパクトレポート

 

WWF LIVING PLANET REPORT2022

 

株式会社TBM - サステナビリティ革命の実現に向けて、環境に配慮したプラスチックや紙の代替素材LIMEX、再生素材CirculeX、資源循環サービスMaaR、リサイクル工場を運営。国内外に事業展開するスタートアップです。

サステナビリティ革命の実現に向けて、環境に配慮したプラスチックや紙の代替素材LIMEX(ライメックス)、再生素材Circ…

株式会社ファーメンステーション (FERMENSTATION Co., Ltd.)

ファーメンステーションは、事業性と社会性の2つのポジティブなインパクトを同時に追求するために、5つの視点でコミットメント…

SUNDA

アフリカの水環境改善に取り組む株式会社Sunda Technology Global(スンダテクノロジーグローバル)のオ…

EF Polymer株式会社

環境に優しい、100%オーガニックの吸水性ポリマー。水不足を中心とする環境課題の解決を目指します。 …

株式会社ユーグレナ | Euglena Co.,Ltd. | 公式企業情報

株式会社ユーグレナは、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)等を活用し食品や化粧品の販売、バイオ燃料の開発・製造を行って…

KAPOK JAPAN公式サイト
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株式会社イノカ 環境移送企業

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