不織布とは?製法・種類・用途・最新技術まで実務者向けに徹底解説!

メルトブローン不織布の拡大画像

不織布とは?

&CROP編集部の瀧澤です。不織布(ふしょくふ)は文字通り織らない布のことを指していますが、布は基本的には織物・編物・不織布に分けられます。本記事では、不織布の基礎知識から歴史、製法、用途、最新技術、そしてアパレル資材としての具体的な選定ポイントまでを、実務者目線で体系的に解説しています。また、織物・編物・不織布の違いと見分け方については下記のリンクの記事も参照してください。

いまさら聞けない!?織物・編物・不織布の違いと見分け方

 

織・編物は繊維を一度糸状にしてから織る、編む工程を経て布にするのに対し、不織布では繊維を絡ませてシート状に加工して布として利用するところが最も大きな違いです。そして不織布には古来より天然繊維の獣毛を用いて作られてきたフェルトとポリネシアを中心に伝統的に作られてきたタパ(カパ)やウガンダのルブコのような樹皮布があります。一方、一般的に不織布と呼んでいるのは近代以降に化合繊の繊維をシート状に加工して作られるようになった布や綿状の資材を指すことが多いです。不織布はポーラス(多孔質)構造が特徴で通気性・濾過性・吸放熱性の基本性能に加え、吸水性・速乾性・抗菌性・防臭性などの機能性を付与することが容易で複数の種類の繊維を組み合わせて厚みや硬さ形状などをコントロールすることで衣料をはじめ衛生・医療・インテリア・建築・工業などのあらゆる分野で広く用いられています。また低コストで大量生産できることからマスクやおむつのような使い捨ての用途の製品にも多く使われる便利で欠かすことのできない素材である反面、流通している商品の多くがプラスチック素材で生分解性が無いことからマイクロプラスチック汚染など環境汚染の問題があります。この記事では不織布の簡単な歴史や発展の流れ、種類、製法、用途、新技術のトレンド、環境問題への取り組みなどを簡単にまとめたので参考にしていただければ嬉しいです。

不織布の歴史と技術の発展

羊毛フェルト(不織布)はもっとも古い布か?

およそ2500年前の南シベリア、アルタイ地方のパジリク古墳からは保存状態の良い絨毯やフェルト製品が出土しています。またエジプトの墓地で発見された麻の織物のドレスは5000年前のものと言われています。いずれにしても天然繊維を原料にした保存状態の良い布が出土するには奇跡的な好条件が重なる必要があり、出土品をもとに織物・編物・不織布のどれが一番古いのかを予測することにはあまり意味が無いと思っています。ポリネシア地域で作られるタパのような樹皮を叩いて薄く延ばした古代布と呼ばれる樹皮布(不織布)がどのくらい古くから作られていたのかは憶測の域を出ないし、およそ9500年前に食肉利用目的で家畜化された羊の毛の利用がどんな形で始まったのかも想像するしかありません。はたして織物と編物と不織布のどれが最も古い布かは、正直わからないですが、牧畜の副産物として得られる羊毛を保温などの目的で使用していて、集積した羊毛が踏まれるなどして圧力がかかることで自然にフェルト化して布としての利用に結び付いたことは充分に考えられます。また遊牧民の移動式住居の覆いには古くから羊毛のフェルトが用いられていることや工程の単純さからも不織布が最も古い布なのではないかと想像することも出来ます。しかし、羊の利用が始まるかなり前から麻などの繊維を紡いで糸にして布にする技術が発達していたことは考えられ、現時点では推測するしかなく織物と編物(縄文時代には編布:あんぎんと呼ばれる編んだ生地があり織物より古いと考えられている)、不織布のどれが最も古いかは謎です。いずれにしても不織布も織物、編物とならんで古くから利用されてきたテキスタイルであると言えます。とくに羊毛のフェルトはその多機能性から色々なものに利用されて来ました。合成繊維の不織布が普及した現在でもその価値は変わらず様々な分野で広く用いられています。

1920年代~:工業的な不織布の登場

1920年代にドイツのフェルト業者が毛屑を接着剤で固めたフェルトの代用品を作って特許を取得したのが工業的な不織布のはじまりと言われていますがこの辺りの事実関係は不確かで正確な記述が見当たりません、ドイツのフロイデンベルク社のHPには(以下引用)

革不足への更なる対策として、フロイデンベルグ社は化学者カール・ルートヴィヒ・ノッテボーム博士のリーダーシップの下、バッグやスーツケースの代替素材として合成ラテックス人工皮革「ヴィレドン」を開発しました。生産は1938年に開始されました。この人工皮革の裏地には、フロイデンベルグ社が1936年に開発を開始していた不織布が使用されていました。

第二次世界大戦後の1950年代にPellon(ペロン社:米国フロリダ州)がナイロンと綿のウェブを合成ゴムで接着した不織布芯地を開発したのが工業的な不織布産業のはじまりと言われています。国内では日本クロス工業(京都西陣で創業、現:ダイニック(株))が1956年に米国から機械を導入して生産を開始、続いて金星製紙・金井重工業・日本フェルト・倉敷繊維加工…などが不織布の生産を開始して日本不織布工業会が設立されました。

1960年代:スパンレース・スパンボンドの商業化

1958年にデュポン社(米)、1963年にフロイデンベルク社(独)がスパンボンドの特許を出願し、さらにサマールボンド・ステッチボンドなども製品化されました。

2000年代~現在:微細繊維化・複合化・環境配慮型不織布の発展

1970年代にはメルトブロー法による極細繊維の製造が商業化されましたが1990年代~2000年代には複合繊維技術(2種類のポリマーを利用して繊維を分割)により微細化されたマイクロファイバーが広く流通し始めて2010年代後半になるとエレクトロスピニングによるナノファイバーの工業生産が本格的に始まります。また、安価で大量に生産できることから使い捨て不織布の消費が急速に拡大したことで焼却時のCO2排出や廃棄による埋め立てや海洋ゴミ汚染などの環境問題が顕在化し、生分解性(PLA/PBSなど)・バイオプラ(植物由来樹脂)・再生PET・セルロース系などの不織布の実用化が進められている。さらに近年ではAI制御やIoTを活用した省エネ生産ラインの導入や生産ロス削減するスマート工場化、溶剤レス化、使用済み不織布の再生利用も進められています。

不織布の原料

先述したように不織布のはじまりは獣毛繊維特有のスケールの働きによって繊維が絡まり合う性質を利用したフェルトでした。しかし、現在ではどのような繊維であっても不織布に加工することが可能です。綿やレーヨンのような単一素材の不織布から必要に応じて複数の原料や太さ、長さの繊維を組み合わせて用途や目的に応じた機能を持たせたものなど様々なタイプの不織布があります。一方で安価で大量に生産される不織布の原料には熱可塑性樹脂繊維のポリプロピレン(PP),次いでポリエステル(PET)が最も多く、目的や用途によりポリエチレン・ポリオレフィン・ナイロン・ビニロンなども用いられています。最近では、環境汚染などへの問題意識から生分解性素材、リサイクル素材、セルロース系複合素材の開発が進みこれらの需要が増加する傾向があります。また耐久性・難燃性・耐熱性などの高い機能性から羊毛フェルトが建築資材などの幅広い分野でも改めて注目されていて生産量も増加しています。

不織布の製造プロセス

不織布の基本的な製造工程は

①    ウェブ(フリース ※)の形成 と ②    ウェブ(フリース)の結合 の2段階で行われます。

① ②ともに原料や用途によって色々な製法がありますのでここではそれぞれの代表的な製法について簡単に説明します。

※フリース(ウェブ):不織布に加工される前の繊維をシート状にしたものを一般的にウェブ(フリース)と呼びます。ウェブには”くもの巣” という意味がありフリース同様に繊維がある形状(シート状など)にまとまった状態を指しています。 

主なウェブ(フリース)形成方法

乾式法

15~100mmの長さにカットした乾燥した原料繊維を解繊(繊維をほぐす)してカード機(くし削って一定の方向性を持たせる)やエアレイド(繊維を空気の流れでランダムに配置させる)を用いて薄いウェブを形成する方法でこの方法で製造された不織布を乾式不織布と言います。

湿式法

数mm以下にカットした短い繊維を水または他の液体中に分散させスクリーンで濾過してウェブを形成する方法でウェットレイド法とも言います。この方法は紙漉きの工程とよく似ていてこの方法で製造された不織布を湿式不織布と言います。

スパンボンド法

熱可塑性ポリマーを加熱、熔融してノズルから細い長繊維状に吐出させてウェブを形成する方法で連続したフィラメントが一定の方向に整列してウェブが形成され高強度で耐久性を要する不織布に向いています。

メルトブローン法

スパンボンド法の一種でノズルから吐出された熔融ポリマーを高速・高熱のガスや空気を吹き付けることで微細に引き伸ばされた繊維をランダムかつ高密に配向させてウェブを形成する方法です。メルトブロー不織布の繊維径は一般に1〜5µm程度ですが、製法(用途)によってはサブミクロン領域に達する繊維の不織布の製造が可能で、より高いフィルタリング性能を求められる不織布の製造に適した製法です。

フラッシュスパン法(フラッシュスピニング)

フラッシュスパン法はポリマーを特殊溶媒に溶かして紡糸ノズルから高圧下に噴出(フラッシュ)させることで極細の連続繊維が形成させて堆積させることで非常に軽量で優れたバリア性を持ったウェブを形成する方法です。製品としてはデュポンのタイベック®が良く知られています。

主なウェブ(フリース)の結合方法 

ケミカルボンド(浸漬)法・(スプレー)法

形成したウェブをバインダー(接着剤)に浸漬またはウェブにバインダーをスプレーして加熱、乾燥させ結合する方法。

サーマルボンド法

熱と圧力をによってウェブ中の熱可塑性繊維を融着せて結合する方法、厚さの設定やし易く均一な質感と強度を必要とする不織布の製造に向いている。

ニードルパンチ法

かえしのある特殊な針でウェブに繰り返し突くことで繊維同士を物理的に絡ませて結合する方法で厚手で耐久性を要する不織布の製造に適していて自動車の内装材などに多く用いられています。

スパンレース(水流交絡・ハイドロエンタングリング)法

高圧水流を使用して繊維を絡み合わせる方法で柔軟でドレープ性に優れた不織布に仕上がります。バインダーを用いないので衛生面に優れ様々な原料に対応が可能な製法です。

 

代表的な上記の結合法以外にもステッチボンド法スチームジェット法などがあります。

代表的な不織布の種類と特徴・用途について

不織布は原料繊維の種類もさることながら、前述の製法(ウェブの形成や結合)によって性能が大きく変化します。ここでは代表的な種類(製法)による不織布の特徴・用途などを下表にまとめました。

不織布の製法・種類 製造のしくみ 特徴 代表的な用途
スパンボンド(Spunbond)

樹脂を溶かして糸を噴出 → 冷却→ そのままシート化

強度が高い・低コスト・通気性が良い 荷重・摩耗に強く産業用と向け

おむつカバー、農業シート、産業資材、最大の市場シェアを占める製造法
メルトブロー(Meltblown) 溶融樹脂を細いノズルから高速エアで吹き飛ばし超極細繊維に フィルター性             バリア性が非常に高い マスク、HEPAフィルター、吸油材
スパンレース(Spunlace / 水流交絡) 強い水流で繊維を絡ませて布化 柔らかく布のような風合い        吸水性が高い ウェットティッシュ、衛生材、ワイパー
ニードルパンチ(Needle Punch) 無数の針で繊維を機械的に絡ませる 厚みが出せる・強度・耐久性が高く  産業用途に向く カーペット基布、断熱材、土木用マット、車両の内装
ケミカルボンド(Chemical Bond) 接着剤で繊維を固定 均一な仕上がり・コスト低め キルト芯、 disposable cloth
サーマルボンド(Thermal Bond) 熱で繊維同士を融着 柔らかいが強度は中程度 生理用品、おむつ吸収材層

各分野における不織布の利用状況

不織布が工業的に生産されるようになってからの歴史はまだ短く、国内における不織布のアパレルや服飾資材としての利用は4%程度と限定的です。一方、低コストで多機能性を有することからその需要は増え続けています。現在、不織布消費の60%は使い捨て用途(衛生・医療・ワイプ向け等)が占め、産業用途(建設・自動車・地盤材)が残りの大半を占めています。生産、消費の中心はアジア地域が急拡大していて、市場全体は近年おおむね**年率4〜5%(CAGR)**で成長しています。以下に各分野ごとの概要を記しておきます。

衛生用品(おむつ、ナプキン等)

マイクロファイバー/スパンボンドが中心、大量使い捨て用途となっていて最大セグメントの一つで人口増・高齢化や新興国での普及で需要が拡大している。高機能(薄型化・高吸収)化が進み市場は成長している。

医療(使い捨てガウン、マスク、サージカル)

メルトブロー(フィルター層)やスパンボンドが主流、コロナ禍で急増しその後も高い需要が継続している。

ワイプ/クリーニング用品

スパンレースやエアレイド等、ソフトで吸水性の高いタイプが多く、生活衛生意識の高まりで商業向け家庭用ともに拡大している。

エアフィルター・液体フィルター

高捕集性機能を有するメルトブロー/ナノファイバーが中心で大気汚染対策や空調・空気清浄システムや産業用途で需要が増えている。

自動車(内装、吸音、フィルター)

ニードルパンチ/スパンボンドが多く、軽量化・電動化に伴う素材置換で緩やかに増加している。

建築・土木(ジオテキスタイル等)

耐久性重視でニードルパンチ、ウェットレイドが多い、高い耐久性や耐候性が求められるインフラ投資や防災対策向けでで安定した需要がある。

農業(マルチ、緑化資材等)

PP系スパンボンドが多く、緑化資材として植生基盤の保護や、土砂の流出を防ぎ地盤を安定させるための透水フィルター・雑草の抑制・保水などの目的で継続的に利用されている。

アパレル・インテリア(芯地、意匠)

薄手スパンボンドや異素材の組み合わせによる不織布など機能性(断熱・軽量化)やコスト面で採用され、近年はリサイクル素材の試用が増加している。

再生・環境素材(r-PET、PLA、セルロース系)

環境規制や企業のESG対応で年々採用が拡大する傾向にある、ただし医療等の主要用途ではまだ石油系が優勢である。

不織布の新素材と機能技術

不織布では、従来のポリプロピレン(PP)やポリエステル(PET)といった石油由来樹脂だけでなく、新素材や高機能技術の導入により性能領域が大きく広がっています。

ナノファイバー不織布

電界紡糸法(エレクトロスピニング法)と呼ばれる製造技術を用いたナノファイバー不織布は100万分の1ミリ単位の超極細織維の不織布です。比表面積が大きく、薄く、柔らかく、密着性が高いなどの特長があって、フィルトレーション(ろ過)効果が高いので、フィルター・分離材料としての高い性能を発揮します。また機能性薬品を添加することにより、美容、抗菌、止血、撥水等さまざまな機能を有する不織布を製造することが可能です。ナノファイバー不織布は高機能フィルターや医療材料、美容シートなどに活用されています。

複合・多層構造化

異なる不織布を組み合わせた**複合多層構造(例:SMS=スパンボンド/メルトブロー/スパンボンド)**は、外層で強度と耐久性を確保しつつ、中間層でバリア性やフィルター性を向上させるなど、性能の異なる不織布を多層にデザインすることで高機能化が計られています。

環境配慮型素材の採用

PLA(ポリ乳酸)などのバイオベース/生分解性樹脂を用いた不織布は、完全生分解性・堆肥化可能性を持つ素材として評価されています。これらは通気性や抗菌性を活かしつつ、従来の石油系不織布の代替になる可能性が注目されている材料です。また近年エレクトロスピニングによる溶剤使用量を大幅に低減したナノファイバー紡糸技術や使用済みポリエステル(PET)などを原料としたナノファイバー不織布を生産する技術が報告されています。これにより、廃棄プラスチックの価値向上と循環利用の道が開かれつつあります。

アパレル資材向け不織布の選び方

不織布は「安価な副資材」という印象がありますが、選定を誤ると、縫製不良・風合い低下・クレームなどの原因になります。この項では、アパレル資材用途で不織布を選ぶときに押さえるべき具体的な選定ポイントを整理してまとめました。

不織布選定の際に押さえるべき基本5項目

  1. 用途(どこにつかうのか?):芯地・補強/あて布・仮縫い・包装材・物流/保護用途など…最終製品のどこに何の目的で使用するのかを明確にする。
  2. 必要な性能(何をゆうせんするのか?):強度・風合い・通気性・バリア性・寸法安定性など…すべてを満たす不織布は無いので何を優先するのかを明確にする。
  3. 製法(つくられ方によって性質が異なる):スパンボンド(やや硬め・強度、コスパ良い)・スパンレース(柔らかく布に近い風合い)・ニードルパンチ(厚み、耐久性あり)・メルトブロー(フィルター用途が多く衣料向けは限定的)
  4. 原料(素材):PP/ポリプロピレン(軽量・安価・耐水)・PET/ポリエステル(寸法安定性・耐熱性)・レーヨン系(吸水性・柔軟性)・PLAなどバイオ系(環境配慮・耐熱性は要注意)※プレス・洗濯/乾燥などの工程がある場合は耐熱性の確認は必須
  5. 安定供給性とコスト:コストだけでなく、ロット・納期・供給の安定性を確認、海外調達の場合は品質のバラツキが無いか要チェック

アパレル資材向けの不織布選びのポイントと注意点

芯地用途(前身・衿・見返しなど)に求められる不織布の要件は以下の3点です

①表地の風合いを邪魔しない 

②プレス耐性がある 

③剥離・収縮しにくい

薄手タイプではスパンレース系 やソフトスパンボンドが、中肉〜厚手タイプではニードルパンチ orや複合タイプが選ばれることが多いです。良くある失敗例としては目付だけで不織布を選んだり(同じ目付でも製法や原料で大きく風合いが異なる)、試験をせずに量産を投入して剥離やプレス後の収縮、縫製時の破れなどが挙げられます。

アパレル向け芯地用途で起こりやすい失敗例

  1. 同じ目付の芯地でも製法の違いでプレスで硬化する場合がある:不織布は、その製法によって熱を加えた時に硬さが変わる場合があります。特に熱で融着させるスパンボンドタイプでは熱接着点の量や融着度合いによって硬さが変化したり、バインダー(接着剤)系でも仕上がりの風合いが異なることがあります。(参考出典リンク)
  2. PLA不織布を通常の芯地のプレス条件で扱うと収縮率や寸法が変化する場合がある:PLA(ポリ乳酸)は他の熱可塑性樹脂(PP・PET)と比べて低温で軟化・収縮しやすい性質があり、熱処理やプレス条件に特に注意が必要です。(参考出典リンク)
  3. 海外調達品でロットごとに剥離強度や品質が変動する場合がある:メーカーや工場ごとに 工程・原料の供給・紡糸条件が異なるために同一スペックでも バッチ(ロット)ごとの微細差が出やすいことは製造現場でも広く知られています。「剥離強度・接着性」は、製法・繊維径・接合条件に左右されるため、工程管理が甘いラインではばらつきが出ることが多く、対策としては「芯試験」によってロット差を把握することが推奨されています。

接着芯地のトラブル防止については下記のリンクの記事がとても参考になるのであわせて参照してください。

関連記事

&CROP編集部の野崎です。 アパレル資材のなかで、表からは見えないけれど、とても重要な役割を持っている「芯地」。芯地の中でも特に「接着芯地」は、生地に接着して使用するため、生地との相性が重要になり、トラブルも起こりやすいです。そ[…]

実務者向け不織布選びの簡易チェックリスト

□ 使用工程(縫製/プレス/洗濯)を想定しているか

□ 表地との相性を実物で確認したか

□ 熱・湿度・摩擦に対するテストを行ったか

□ 安定供給が可能な規格か

□ 必要以上の性能を求めていないか

不織布 × 表地素材 相性リスト(布帛/ニット)

布帛(織物)と不織布の相性

表地タイプ 推奨不織布 理由 注意点
シャツ地(ブロード・ローン) 薄手スパンレース 風合いを殺しにくい ゴワつきNG
スーツ・ジャケット 中肉スパンボンド/ニードルパンチ 構築性・安定性 硬すぎ注意
デニム・厚地 ニードルパンチ 強度・耐久性 目付過多に注意
シルク・レーヨン 超軽量スパンレース ドレープ保持 接着圧低め

ニット(編物)と不織布の相性

表地タイプ 推奨不織布 理由 注意点
天竺・スムース 低目付スパンレース 伸び追従性 方向性確認
ダンボール・ポンチ ソフトスパンボンド 形状安定 硬化注意
リブ・高伸縮 専用ニット芯/極薄 伸びを殺さない 一般不織布NG

環境配慮型不織布と使用する際の注意点

PLA(ポリ乳酸)不織布

PLA(ポリ乳酸)不織布は新しいいバイオベース原料で最大の特徴は生分解性で環境中で二酸化炭素と水に徐々に分解されることで注目されています。一方で耐熱性が低くプレスや高温乾燥に適さないデメリットがあります。また回収や分解のインフラが整備されていない現状では生分解性=環境負荷の低減とはなり難いことを認識して使用する必要があります。ポリ乳酸繊維については下記の記事も参照してください。

関連記事

&CROP編集部の瀧澤です ポリ乳酸繊維はトウモロコシやサトウキビなどの植物のデンプンを原料に生成されるポリマーから製造される繊維です。カーボンニュートラルや生分解性の観点から、化石燃料由来のプラスチックの代替品として20年程[…]

再生PET(r-PET)不織布

再生PET不織布は使用済みのペットボトルを原料とするため廃棄物削減と石油資源の節約に貢献できる素材として注目されます。従来のポリエステルのメリットをそのまま生かせるので耐久性や速乾性にも優れています。一方、原料の回収・選別・リサイクル工程にコストがかかるため従来の石油原料由来のPETよりもコストが高くなるデメリットがありす。また原料の供給源の信頼性の確認も重要です。

セルロース系不織布

セルロース系の不織布は再生可能な天然原料(木材パルプ等)を使用しており生分解性を有することから環境負荷の低い素材と考えられています。また高い吸水・吸湿性があり柔らかい風合いが特徴でスキンケア商材などへの活用も注目されています。

環境配慮素材のチェック項目

環境配慮型の不織布は現状では万能ではないので機能性を優先するか?環境配慮を優先するのかを明確にする

□ プレス温度耐性

□ 縫製時の裂け

□ 洗濯・乾燥条件

□ 長期供給可否

□ 「環境表示」の根拠となるLCA(ライフサイクルアセスメント等)の明確化

国内(日本)と海外の代表的な不織布メーカー

以下に国内・欧米・中国・ASEANの代表的な不織布メーカーをまとめました。メーカー名をクリックすると各メーカーのHPを別タブで開きます。この表は代表的なメーカーの一般的な傾向を記載していますが実際の不織布では工場やラインによって差異がありますので採用に当たっては現物の確認とテストが必須です。

国内(日本)の不織布メーカー

国内のメーカーは芯地・補強材など高安定用途※に強く、ロット差がすくないので長期間使用しても型崩れが少なく、ジャケット・コートの芯地、制服・ユニフォーム、百貨店・ラグジュアリーブランドや品質の安定性が求められる商品に向いています

※高安定用途:本記事でいう「高安定用途」とは、長期使用・繰り返し着用・洗濯やプレス工程を前提とし、ロット間差や経時変化が少ないことが求められる用途を指します。(制服、スーツ、百貨店向け商品など)

メーカー名 おもな不織布の種類 特徴
旭化成 スパンボンド、SMS 高品質・医療/産業向け実績

東レ

スパンボンド、複合不織布 素材開発力・PET系強い
ユニチカ スパンボンド、不織布芯材 アパレル・産業両対応
三井化学 PP系不織布原料・加工 原料〜不織布一貫
クラレ スパンレース、機能不織布 レーヨン・機能付与
日本バイリーン(Freudenberg系列) 芯地用不織布 アパレル芯地特化

欧米の不織布メーカー

欧米の不織布メーカーは高機能・多層構造・環境訴求が得意で価格は高めだが技術的な説得力がある。

メーカー名 国・地域 おもな不織布 特徴
Freudenberg Group

ドイツ

芯地、不織布全般 世界最大級・芯地規格の標準
Berry Global(現在はAmcorが買収 米国 スパンボンド、SMS 医療・衛生
DuPont 米国 高機能不織布 技術ブランド力
Ahlstrom フィンランド フィルター系不織布 高性能・環境対応
Avgol イスラエル PPスパンボンド 衛生材・大量供給

中国の不織布メーカー

中国の不織布メーカーは低価格で供給量が圧倒的に多い、芯地用途では事前のテストは必須、環境素材に関する表示と実際の性能は別物と考えた方が良い。

メーカー名 おもな不織布 特徴 注意点
Zhejiang Kingsafe

スパンボンド

大量生産・低コスト 要品質確認
Jofo Nonwoven スパンボンド 世界最大級の規模 ロット差に注意が必要
Xiantao Group 不織布全般 医療・衛生中心 アパレル用途は検証が必要
Winner Medical スパンレース 医療・衛生特化

ASEANの不織布メーカー

ASEANの不織布メーカーは中国集中のリスク回避先としてアパレル副資材向けが拡大している、コストと品質のバランスで選ばれるケースが多い。

メーカー名 国・地域 おもな不織布 特徴
PFNonwovens

タイ

スパンボンド 中国代替え拠点
Toray Thailand タイ PET系不織布 日系品質
Indorama Ventures タイ

PET原料・再生PET不織布

再生PETが強み

まとめ

不織布はアパレル向けの資材としては芯地など用途が限定的な為、あまり注目されないアイテムですが製品づくりには欠かせない資材です。今回は歴史から原料、製法、用途や各種不織布の特徴や選定の際の注意事項までを一気に解説したので長くなってしまいました。最後まで読んでいただければ不織布に関する一通りのことがわかるように解説したつもりですが、不織布にポイントを絞って全般的に解説した記事は少ないので一気に読むというよりはブックマークしていただいて必要な時にピンポイントで見ていただくのも良いかもしれません。牧畜をする地域では古くから生活に欠かせないアイテムとして利用されてきた伝統的な不織布のウールフェルトについてももっと掘り下げて書きたかったのですがちょっと長くなりすぎたのでまた別の記事でウールフェルトについては改めて書きたいと思っています。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

最新情報をチェックしよう!