&CROP編集部の瀧澤です。
麻素材を含め素材のコストが上がり続けています。とくにリネン(亜麻)は原料価格がここ数年で大幅に値上がりしてしまい素材を選ぶ際にコストがネックとなってしまう場面も多いと思います。もちろん、価格が高くなっても麻の繊維としての価値や機能性が変わる訳ではありません。リネン・ラミー・ヘンプ、それぞれの麻繊維の特徴や適性を正しく理解して、より商品の付加価値を高める最適な素材の選択と企画提案が求められます。この記事では主にアパレル向けに使われる3種の麻の違い・向いているアイテム・代替戦略、そして国産麻の現状などをアパレル実務者向けに解説しています。
麻に関する基礎知識は下記のリンクの記事も参照してください。
もくじ
麻のコスト高騰はなぜ起きている?
円安やインフレによる素材価格の値上がりが続いています。なかでも2022~2024年にかけてリネン原料の価格の急騰が起こり、一部のスカッチド亜麻長繊維※は かつての10倍以上の価格水準に達しました。 この高騰には、天候・地政学・サステナブル需要という複数の要因が複雑に絡み合っています。世界の高品質フラックス(亜麻原料)の約75%は、フランス・ベルギー・オランダなどヨーロッパの限られた地域で生産されています。この「欧州フラックス」が近年、気候変動による収穫量の不安定化・農家の減少・作付面積の変動などにより供給が不安定になっています。
とくに80番手以上の細番手リネン糸に必要な繊維長の長い原料は希少化が進んでおり、業界によっては麻糸の仕入れ価格が従来比2倍以上になったケースも報告されています。2025年後半からやや落ち着いて来ていますが、構造的な問題は続いています。
※スカッチド(scutched)亜麻長繊維とは、収穫した亜麻の茎から不要な木質部分を機械的に取り除く「スカッチング」という工程を経た繊維です。この段階で、紡績に使える長い繊維(長繊維・ロングファイバー)と、短く落ちた繊維(短繊維・トウ)に分けられます。
リネン原料価格の推移
グラフを見ると、リネン原料の価格は過去25年で大きく4つのフェーズをたどってきたことがわかります。
| 年代 | フェーズ | 価格帯 | 背景 |
| 2000~2010年 | 低迷・過剰供給期 |
0.5〜0.8 €/kg |
東欧・旧ソ連の安価な供給が続いた時代 |
| 2011~2015年 |
緩やかな需要回復期 |
0.9〜1.5 €/kg |
中国需要の拡大と欧州の生産増強が始まる |
|
2016~2022年 |
サステナ需要拡大・上昇期 |
1.5〜4.5 €/kg |
欧米ブランドがリネンを積極採用。需給が高まる |
| 2020年~現在 |
急騰・急落の転換期 |
1.86 → 9.0 → 3.3 €/kg |
不作・コロナ後需要増で歴史的高値、その後豊作で急落 |
なぜ2021年以降に急騰したのか?
急騰の背景には、需要と供給、それぞれの側からの圧力が重なりました。
需要側:欧米ブランドによる天然素材シフトの加速
2020年前後から、欧米の大手ブランドを中心に「脱合成繊維」「天然素材回帰」の動きが加速しました。リネンは「環境負荷が低い」「農薬・灌漑が不要」という特性から、サステナブル素材の筆頭格として注目を集め、需要が急増しました。
供給側:栽培面積の制約と2023年の凶作
亜麻は「毎年同じ畑で作れない」作物です。土壌を回復させるために6〜7年の輪作が必要で、急に増産しようとしても土地がついてきません。もともと限られていた供給能力に追い打ちをかけたのが、2023年の不作でした。収穫期の長雨が欧州全域を直撃し、収穫量の減少と品質低下が同時に発生。供給が突然絞られたことで、価格が一気に上昇しました。2020年6月〜2024年3月の間に、欧州産亜麻の価格は約380%上昇。2024年第1四半期には欧州スカッチャーからの出荷価格が平均9.08 €/kgに達し、前年比55%増という記録的な水準となりました。
実際にこの時期には国内市場でもリネン生地の値上げが度重なり、リネン100%の素材の廃番やリネンとコットンの交織素材に切り替える生地問屋や産元メーカーが増えました。
2024年末〜2025年:急落局面へ
歴史的な高値をつけた後、価格は2024年末から急落に転じています。
2024〜2025年の欧州では記録的な豊作が続き、2025年の長繊維生産量は約190,000トンと前年(116,000トン)比で大幅増産。欧州では過去10年で19基の新スカッチングライン(亜麻の粗加工設備)が増設されており、処理能力も向上していました。これらが一気に市場に出たことで、2024年3月に約9.00 €/kgだった価格は2025年1月には約3.33 €/kgまで下落しました。
ただし、この水準でも2010年代前半(1〜1.5 €/kg)と比べると依然2倍以上。 構造的な需要増と産地の集中(世界生産の75%がフランス・ベルギー・オランダの3カ国)は変わっておらず、「安値に戻った」と考えるのは早計といえます。
ラミーやヘンプも例外ではない
ラミー(苧麻)は中国・ブラジル・フィリピンが主な産地で、リネンほどの急騰ではないものの人件費・加工コストの上昇が続いています。
ヘンプ(大麻)はSDGs・サステナブル素材として需要が拡大していますが、紡績の難度が高くコストが高め。「リネンより安価なはず」と思われがちですが、現実には60〜80番手クラスではリネンより高コストになるケースもあります。
円安・物流コストが追い打ち
原料・糸・生地の多くを海外から輸入している麻素材は、円安・輸送費・燃料費の上昇の影響をダイレクトに受けます。これらは短期的な解決が難しい構造的な問題であり、麻素材のコスト上昇は当面続くと見ておく必要があります。
リネン・ラミー・ヘンプの素材感・特徴・アイテム適性を比較
アパレルで主に使われる3種の麻(リネン・ラミー・ヘンプ)は、原料植物・風合い・強度・適したアイテムがそれぞれ異なります。以下の比較表と各素材の解説を参考に、用途に合った素材選択の判断材料にしてください。
| 項目 | リネン(亜麻) | ラミー(苧麻) | ヘンプ(大麻) |
|
原料植物 |
亜麻(フラックス) |
苧麻(ちょま) |
大麻(おおあさ) |
|
主産地 |
フランス・ベルギー・中国 |
中国・ブラジル・フィリピン |
中国・カナダ・米国 |
|
風合い |
しなやか・柔らかく上品 |
光沢あり・ドライ・清涼感 |
シャリ感強・粗め・ハリあり |
|
強度 |
高い |
天然繊維中最高レベル |
高い |
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吸湿・速乾 |
◎(吸水性は綿の4倍) |
◎(速乾性が特に高い) |
○(吸湿・発散性良好) |
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向くアイテム |
シャツ・ワンピース・パンツ・寝装品・テーブルリネン |
夏の薄手アイテム・ユニフォーム・スポーツ・シートカバー |
アウター・ワーク系・バッグ・厚手パンツ |
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向かないアイテム |
伸縮性が必要なアイテム |
柔らかさ・ドレープが必要なアイテム |
繊細な風合いが必要なアイテム・細番手織物 |
|
コスト感(2026年現在) |
高騰中・細番手は特に高価 |
比較的安定しているが上昇傾向 |
高め・紡績難度の高さがコストに反映 |
|
JIS表記 |
亜麻(麻と表記可) |
苧麻(麻と表記可) |
指定外繊維・ヘンプ(麻と表記不可) |
リネン(亜麻)‐麻の中で最もしなやかで上品な光沢がある
リネンはアパレル用途において最も広く使われている麻素材です。しなやかで肌触りが良く、使い込むほどに柔らかさが増す「育てる素材」としてブランドのストーリーにもなりやすい特徴があります。
綿の4倍の吸水性と優れた発散性で夏は涼しく、中空構造による保温性で秋冬にも対応できる万能素材として、シャツ・ワンピース・パンツ・スカートといったウェアから、寝装品・テーブルリネンまで幅広いアイテムに展開できます。
一方でシワになりやすく、濃色では色落ち・摩擦による色移りに注意が必要です。伸縮性がないため、ストレッチ性が求められるアイテムには不向きです。
素材染色堅ろう度については下記のリンクの記事も参照してください。
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ラミー(苧麻)‐天然素材最高レベルの強度と清涼感
ラミーは天然繊維の中でも最高レベルの強度を持ち、吸湿・速乾性に優れた夏向きの素材です。独特の上品な光沢と肌離れの良い風合いが特徴で、高温多湿の日本の気候にとても向いています。
業務用ユニフォームや新幹線の座席カバーにも使われるほどの耐久性は、スポーツウェアや作業着にも適しています。ただし繊維が硬めでしなやかさに欠けるため、ドレープや柔らかさが必要なアイテムには向きません。しかし着用と洗濯を繰り返すことでエイジング感のある独特な風合いのアイテムに育てる楽しさもあります。
リネンと比べるとやや光沢感が強く、素材感も異なるため、同じ「麻」として扱うとイメージと実物がかけ離れることがあります。サンプルで風合いを確認してから発注することが重要です。
ヘンプ(大麻)‐サステナブル素材として再注目
ヘンプは麻の中でも最もシャリ感・ハリが強く、繊維が太く短めです。ネップやスラブが出やすく独特の粗い表情が特徴で、アウター・ワーク系アイテム・バッグ・厚手パンツなどに向いています。
農薬・化学肥料に頼らず栽培でき、土壌改良効果もある環境負荷の低い素材として、サステナビリティの観点から再評価されています。抗菌性・消臭性もリネン・ラミーより優れています。
ただし繊維としての扱いには注意が必要です。紡績の難度が高く安定した品質の確保が難しい面があり、コストもリネンと同程度かそれ以上になるケースがあります。また日本ではJIS規格上「麻」と表記できず「ヘンプ(指定外繊維)」として流通しています。
国産麻の現状‐「使える素材」から「守るべき文化」へ
日本では古来より大麻(おおあさ・ヘンプ)や苧麻(国産ラミー)を使った麻布が全国各地で織られて来ました。しかし、衣料用途の国産の大麻は大麻取締法施行以降にほぼ消滅。国内で栽培された苧麻を使った越後上布・宮古上布・小千谷縮・近江上布・八重山上布や糸芭蕉の繊維から織られる芭蕉布は伝統織物として受け継がれています。これらの伝統的な麻織物は国産の繊維作物からの手作業による繊維採取が中心で、工業的な生産には限界があります。また手積み(てうみ:麻の繊維を手で撚りをかけながら繫いで糸にする作業)を行なえる伝統的な技術を受け継ぐ担い手が年々減少していること、そして工程の大半が手作業であるなどの理由で海外産の輸入麻とは比較にならないほど希少で高価な素材になっています。
そのため、国産麻の伝統織物は現在では「アパレル素材」というより「工芸品・文化財」として扱われ、一般的なウェア生産への使用が難しいのが現実で、特別なコレクションや伝統文化との協業といった文脈での使用が主になっています。
日本古来の大麻については下記のリンクも参照してください。
[caption id="attachment_12254" align="aligncenter" width="1933"] ウィーン写本(1世紀)に記された、大麻の図(Cannabis sativa)Wikipedia[/captio[…]
価格高騰時代の5つの対応策
コストが上昇しているからといって麻素材を使わなくなるのは選択肢の喪失です。最近では麻によく似たポリエステル製の繊維もあり一つの選択ではありますが、天然繊維の麻素材を使う本来の理由やブランドのイメージを考えるとベストな選択とは言えない気がします。そこで以下の対応策を状況に応じて使い分けることで、コスト高騰時代でも麻素材を活かした商品づくりができます。
①綿麻混紡や交織素材への切り替えを検討する
リネン100%やラミー100%の素材からコットンリネン・コットンラミーなどの交織・混紡素材に切り替えることで、麻の風合いや機能性をある程度保ちながらコストを抑えることができます。混率によって風合いと価格のバランスが変化するので、事前にサンプルを確認して検討するようにしましょう。
②リネン⇒ラミー・ヘンプなどの代替を検討する
リネンのコスト上昇が顕著な場合、同じ麻素材のラミーへの代替が有効なケースがあります。ただし風合い・光沢感が異なるため「麻っぽければ何でも良い」という代替では無く。デザインの意図と素材感をすり合わせての検討必要です。
③ギマ加工(疑麻加工)の検討
麻繊維全般のコスト高や調達難への対応策の一つとして、ギマ加工素材の活用も選択肢になります。ギマ加工は、麻織物産地として知られる滋賀県・湖東産地で生まれた加工方法で、コンニャク由来の天然樹脂をコットンに施すことで麻らしい風合いを表現します。コットンベースのため麻原料の価格変動リスクを受けにくく、天然素材由来の加工というポジションもサステナブル文脈と相性が良いといえます。
④生地メーカーへ早期の相談や数量確保
麻素材は原料調達のタイミングによって価格の変動が大きいため、可能であれば早い段階で生地メーカーに相談し、数量を確保することも有効です。また別注カラーより定番カラーストックを活用する方がコストが安定している傾向があります。
⑤麻の「価値・希少性」をストーリとして捉え付加価値を高める
コストが上がったことで、麻素材は「手軽に使える素材」から「選び抜かれた価値ある素材」へとポジションが変化しています。D2Cブランドやものづくりにこだわるブランドにとっては、麻を使う理由・ストーリーを伝えることで商品の付加価値を高めるチャンスでもあります。
FAQ-よくある質問
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Q. リネンとラミーはどう使い分ければ良いですか? |
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A. 風合いと用途が異なります。しなやかさと上品さを求めるならリネン、吸湿速乾と強度を重視するならラミーが向いています。夏のカジュアルウェアにはどちらも適していますが、ユニフォームや作業着にはラミーの方が耐久性の面で優れています。 |
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Q. ヘンプはリネンやラミーと比べてどう違いますか? |
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A. ヘンプは三者の中で最もシャリ感・ハリが強く、繊維が太く短めです。ネップやスラブが出やすく独特の表情が特徴ですが、繊細な風合いが必要なアイテムには不向きです。サステナブル素材として注目されていますが、紡績の難度が高くコストは高めです。 |
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Q. 麻素材の価格はいつ頃落ち着きますか? |
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A. 欧州フラックスの原料価格は2025年後半からやや落ち着きの兆しもありますが、気候変動・人件費・物流コストの構造的な問題は続いています。大幅な価格下落は期待しにくく、麻を使う場合は早めの発注・数量確保が有効な対策です。 |
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Q. 綿麻混紡はコスト削減に有効ですか? |
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A. 有効な選択肢です。綿麻混紡は純麻に比べてコストを抑えながら、麻の風合いや機能性をある程度保てます。ただし混率によって風合い・機能性が大きく変わるため、サンプルで確認してから発注することをおすすめします。 |
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Q. 国産麻(越後上布・宮古上布等)はどこで入手できますか? |
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A. 国産麻の伝統織物は各産地の組合や取り扱い専門店を通じて入手できますが、生産量が非常に少なく価格も高価です。一般的なアパレル生産への使用より、特別なコレクションや工芸品的な商品企画での使用が現実的です。 |
まとめ
麻素材の価格高騰は構造的な問題でもあり、短期的な解決が難しい状況です。しかし麻の繊維としての価値である「吸湿・速乾・強度・独特の風合いと肌触り」には変わりありません。
リネン・ラミー・ヘンプそれぞれの特徴と適性を正しく理解し、コスト・用途・デザインの三つのバランスを取りながら素材を選ぶことが、価格高騰時代には求められます。また、ギマ加工など麻風合いの代替素材も選択肢として把握しておくのも一つの方法です。
麻素材の選定や発注でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。