芯地のプロから学ぶ!知っておくべき接着芯地のトラブルとその防止法

&CROP編集部の野崎です。

アパレル資材のなかで、表からは見えないけれど、とても重要な役割を持っている「芯地」。芯地の中でも特に「接着芯地」は、生地に接着して使用するため、生地との相性が重要になり、トラブルも起こりやすいです。そこで今回は、接着芯地でよくあるトラブル事例と、それを防ぐ方法をご説明したいと思います。

※本記事は、当社の取引先である芯地メーカー GSI様にご協力いただき作成しています。

芯地ってなに?

芯地の基本知識

芯地とは、服などの製品にハリを持たせ、シルエットを美しく見せるための生地です。また、表地を補強する役割も果たします。

芯地には使用箇所や目的に応じた選定が求められます。大きく分けて、非接着タイプの「フラシ芯」と、裏に接着するための樹脂が付いている「接着芯」の2種類があります。

フラシ芯と接着芯の違い

フラシ芯は生地に接着しないため、家庭でのケアが難しく、縫製にも技術が必要です。しかし、仕上がりが柔らかく高級感があります。一方、接着芯はノリ(樹脂)で生地に貼り付けるため、フラシ芯よりも生地の風合いに影響を与えやすいものの、家庭でのケアが簡単で、縫製も容易です。

昔は接着芯というと、柔らかい風合いの生地に貼るとハリが出てしまったり、伸縮性を損ねてしまったりすることからフラシ芯も多く使われていました。しかし、加工糸の接着芯地(ポリエステルなどの化学繊維の接着芯地)が登場したことで、薄手で生地の風合いに影響しにくい接着芯地や、ある程度の伸縮性に追従できる接着芯地が作れるようになりました。そのため現在では、取り扱いの容易さもあり、接着芯地が使われている場合がほとんどです。今回は、接着芯地に焦点を当ててトラブル事例をご紹介していきます。

接着芯地がくっつく仕組み

事例をご紹介する前に、接着芯地がくっつく仕組みについて解説します。

接着芯地は、基布の裏側にドット状の接着剤が付いていて、その樹脂を熱で溶かすことで、生地と貼り合わせることができます。接着剤の成分は、耐久性が高く、経年劣化も少ないポリアミド樹脂が使われていることがほとんどです。

接着樹脂の付き方

樹脂の付き方にも種類があり、基布にそのまま接着樹脂が付いている「シングルドット」と、基布の上に土台の樹脂を敷き、その上に接着樹脂が付いている「ダブルドット」があります。

シングルドット

芯地の基布にそのまま接着樹脂が付いています。そのため熱で接着樹脂を溶かすと、芯地の基布と接着したい生地の両方に樹脂が染みこみます。

ダブルドット

芯地の基布の上に土台の樹脂を敷き、その上に接着樹脂が付いています。熱をかけると、接着樹脂は溶けますが、土台の樹脂は溶けないため、芯地の基布へ接着樹脂が染みこむのを防ぎ、接着したい生地に接着樹脂を染みこませることができます。現在では、ダブルドットが使われていることが多いです。

接着樹脂のドット数

接着樹脂は、基布にドット状に付いています。そのドットの数も選定ポイントの1つです。接着芯地のドット数は、1インチ(約2.5cm)の正方形の中に、ドットがいくつあるかを表しています。そのため、ドット数が大きいほど接着樹脂が細かく付いていて、ドット数が少ないほど接着樹脂の付き方が粗くなります。

接着芯地でよくあるトラブル事例とそれを防ぐ方法

前置きが長くなってしまいましたが、ここからは接着芯地でよくあるトラブル事例と、トラブルを防ぐ方法をご紹介していきます。トラブルが起きた時、下記の現象に当てはまる場合は、記載のある方法を試していただけると幸いです。

しみ出し

接着樹脂が貼り付けた生地に染み出てしまう現象です。生地の表面をよく見たときに、樹脂が染み出ている箇所がきらきらしてしまったり、生地の表面を触ると樹脂が染み出した部分がデコボコしてしまいます。

対処法:ドット数が多い接着芯地を使う

接着芯の、ドット数が少ない(一つのドットあたりの接着樹脂の量が多い)ことが原因であると考えられます。ドット数が多い接着芯地に変更してみてください。

モアレ

モアレの画像
モアレ

接着芯地と貼り付けた生地が干渉して、縞模様や波模様が発生してしまう現象です。貼り付けた生地の打ち込み本数と、接着芯地の基布の打ち込み本数が合っていると起きてしまいます。

※打ち込み本数…生地の密度を表す指標で、1インチ四方の生地に織りこまれている経糸と緯糸の合計本数を指しています。

対処法①:接着芯地の基布を変更する

基布の打ち込み本数の異なる接着芯地に変更すると、モアレ現象を抑えることができます。特に不織布芯地は組織が織りではなくフェルトのような状態なので、モアレが出にくいです。しかし、不織布の接着芯地は安価ではあるものの、耐久性は低く毛玉になりやすいなどの難点もあるため、使用箇所や製品の価格帯によって検討いただくと良いと思います。

対処法②:接着芯地をよこ目に貼る

同じ接着芯地でも、生地の地の目と垂直に貼ることでモアレを解消することができます。

通常、接着芯地は、生地の地の目と合わせて貼ります。しかし地の目を合わせるとモアレが起きてしまう、でも同じ接着芯地を使いたい、という場合は、あえて地の目を合わせずに垂直にして貼ることでモアレを解消させることもできます。

※地の目…生地の糸目。織られた方向。経糸が通っている方向を「地の目」「たて目」といい、緯糸が通っている方向を「よこ目」といいます。

バブリング

バブリングの画像
バブリング

生地のぶくつきが起きてしまう現象です。初期(洗濯等をする前)は綺麗に貼り付けられていても、しっかりと接着芯地が生地に付いていないと、後からバブリングが起きてしまうことがあります。またドライクリーニングをした際に、生地が縮んでしまうのに対し、芯地が縮まないと、縮率の違いからバブリングが起きてしまうことがあります。

対処法①接着芯地がしっかり貼れているか確認

まず、接着芯地がしっかり貼れているかどうかを確認するようにしましょう。後述しますが、接着芯地を貼り付けるのには【温度】【圧力】【時間】の3つの条件が重要です。条件を合わせていても、工場が流れ作業で芯地を接着しているうちに温度が下がってしまったり、貼り付けの機械が古くて設定温度に達していなかったりすることも考えられるので、まずは工場に接着の条件が合っているかをよく確認するようにしましょう。

対処法②生地の伸縮に追従できる接着芯地を使う

バブリングの原因が接着不足ではなく縮率の違いにある場合は、生地の伸縮に追従できる、ストレッチ性のある接着芯地を使うようにしましょう。芯地の基布には、組織の構造や、同じポリエステル糸でもストレッチの効いた構造の糸を使うことで、伸縮性を持たせた種類もあります。

表面荒れ

表面荒れの画像
表面荒れ

生地の表面が、接着芯の接着樹脂の凹凸をひろってしまい、小さな凹凸が出てしまう現象です。貼り付ける生地が薄いほど生じやすいです。

対処法①:ドット数が多い接着芯地を使う

接着芯の、ドット数が少ない(一つのドットあたりの接着樹脂の量が多い)ことが原因の一つであると考えられます。ドット数が多い接着芯地に変更してみてください。

対処法②:シングルドットの接着芯地を使う

接着樹脂の付き方には「シングルドット」と「ダブルドット」の二種類があり、現在はダブルドットが使われていることが多いと先述しましたが、ダブルドットは接着強度が高い分、樹脂が二重になっていて厚みがあるため、表面荒れが起きやすいです。

接着強度に問題が無い場合は、シングルドットの接着芯地に変えるのも方法の一つです。

樹脂あたり

樹脂あたりの画像
樹脂あたり

接着芯に付いている樹脂の点々が生地に反映して点々の模様に見えてしまったり、凸凹してしまう現象です。厚手の生地用の芯地を薄手の生地に使うと生じやすいです。

対処法:薄手の生地には薄手用の芯地を使う

薄手の生地には、薄手用の芯地(接着樹脂のドット数が多く、接着樹脂の粒が細かいもの)を使用するようにしましょう。

基布あたり

基布あたりの画像
基布あたり

芯地を部分使いした際に、芯地を貼っている部分と貼っていない部分の境目に線状のあたりが出てしまう現象です。薄い生地に、厚い芯地を使うと生じやすいです。

対処法:対処法:薄手の生地には薄手用の芯地を使う

薄手の生地には、薄手用の芯地(接着樹脂のドット数が多く、接着樹脂の粒が細かいもの)を使用するようにしましょう。

豆知識:撥水の生地は芯地との相性が悪い

アウトドアブームから最近目にすることが多い撥水生地。撥水生地は、基本的に撥水性のある加工剤を生地に塗布しているため、芯地が付きにくいです。ポリアミド樹脂の芯地(一般的な芯地)で接着が難しい場合は、難接着用のポリウレタン樹脂の芯地を試してみてください。ポリウレタン樹脂は、ポリアミド樹脂と比べて粘度が高く、芯地を接着しにくい生地にも付けることができます。しかし、ポリウレタンは5年ほどで加水分解を起こし、経年劣化が見られるため、ポリアミド樹脂の芯地よりも寿命が短くなってしまうことをご了承ください。

芯地トラブルの原因で最も多いのは、「接着不足」

芯地のトラブルを起こす原因で最も多いのは、「芯地がちゃんと貼れてなかった」ということです。芯地を接着するには、【温度】【時間】【圧力】の3つの条件が重要です。芯地を貼っているうちにいつの間にか機械の温度が下がってしまっていたり、接着時間が足りなかったり、接着圧力が足りなかったりすると、芯地が本来の接着力を発揮できずトラブルの原因となってしまいます。芯試験やサンプルの時は問題が無かったのに、量産で問題が起きてしまったという場合は、まず最初にこの3つの条件に問題が無いかどうか、工場に確認をするようにしましょう。

トラブルを防ぐために、芯試験を行う

芯地トラブルを防ぐために、事前に生地との相性(接着力・伸縮率など)を確認する「芯試験」を必ず行います。ここからは、どのように芯試験が行われているのかをご紹介していきます。

芯地を接着する機械

芯地を接着する機械の画像
芯地を接着する機械

芯地を接着する機械がこちらです。この機械は、ベルトコンベア式で右側から生地と芯地を重ねて流すと、機械で接着して左側から流れてくる仕組みになっています。

芯地の接着条件の設定

先述したように、芯地の接着条件で重要な【温度】【時間】【圧力】が設定できるようになっています。【温度】は、機械の中央だけでなく、前後も含めた3点を計測しています。【時間】は、機械に入ってから出るまでに何秒かかるかを設定、【圧力】は出口にある2つのローラーの圧力を設定することができます。

条件を調整する装置の画像(左から、圧力・温度・時間の設定)
条件を調整する装置(左から、圧力・温度・時間の設定)

接着時のモアレやバブリング・表面荒れなどの状態を確認するために芯地を一面と、接着力のテストのために1インチにカットした芯地を接着します。また、一面貼った芯地に縦横10cmのスタンプを押し、芯地を貼ったあと10cmが何cmに変化しているかを見ることで収縮率を測ります。(画像では黄色いスタンプが使われています。)

芯を接着する前の状態の画像
芯地を接着する前の状態

接着ができたら

モアレや表面荒れなどの状態は、目視で確認します。初期(洗濯などをしていない、芯地接着してそのままの状態)の確認ができたら、さらに洗濯を回したり、ドライクリーニングを行い、バブリング等が起きないか、接着強度が落ちないかを確認します。

接着強度は、ばねばかりを使って計測します。1インチにカットして接着した芯地をばねばかりに引っ掛け、引っ張ってメモリがいくつになると芯地が剥がれるかを確認します。接着強度の目安として、ユニフォームで初期が600g以上、レディースアパレルで400g以上と言われています。(推奨は600g以上)

ばねばかりで計測している様子の画像
ばねばかりで計測している様子

まとめ

表には見えないけれど、なくてはならない存在

服が完成してしまうと表から芯地が見えることは基本無いので知らない方も多いですが、芯地はなくてはならない重要な資材であり、選定も難しいです。トラブルが起きたときは、ぜひこの記事を読み直して、原因を考えてみてください。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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