&CROP編集部の野崎です。
突然ですが、「マジックテープ」と聞いて、どんなアイテムを思い浮かべますか?ビリッと剥がして何度も貼り直せる、あの便利なパーツですよね。
実はこの“マジックテープ”という名称、株式会社クラレが所有する登録商標です。日常的には一般名のように使われがちですが、正式には「面ファスナー」と呼ばれています。
“ファスナー”といえば、スライダーを引いて開閉するアレを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし本来、ファスナーとは“留め具”全般を指す言葉。スナップボタンのような「点ファスナー」、スライダー式の「線ファスナー」、そしてフックとループを使った「面ファスナー」と、大きく3つに分けられます。
さて、この面ファスナー。実はアパレル製品の中でも、さまざまな場面で活躍していることをご存知でしょうか?今回は、あまり知られていない面ファスナーの種類や応用的な加工方法まで、基本からまとめてご紹介していきます。
面ファスナーの種類と特徴
「面ファスナー」と一言で言っても、その種類はさまざま。用途や目的に応じて、適したタイプを選ぶことが大切です。ここでは代表的な面ファスナーの種類をご紹介します。
基本の面ファスナー
もっとも一般的なタイプ。クラレ社のマジックテープ®やYKK社のクイックロン®が有名です。フック面(ギザギザした面)とループ面(ふわふわした面)を組み合わせ、着脱を繰り返せる構造になっています。メーカーによって仕様や色展開が異なります。
一体型タイプ(フリーマジックなど)
フック面・ループ面を分けず、1つの面でどちらの役割も果たす「一体型」の面ファスナーもあります。クラレ社ではフリーマジック®という名称で展開されています。縫製時に面の向きを気にせず使用できる点がメリットですが、フックとループが分かれているものと比べると着脱力(係合力)はやや弱めになります。
薄型タイプ(成型フック)
足の短い、薄型タイプの面ファスナーもあります。英語で「モールドベルクロ」と呼ばれることもあり、成型されたフック形状が特徴。通常の面ファスナーに比べてかさばらず、スポーツウェアやベビーウェアなどに多く使われています。触ってもチクチクしにくく、肌あたりの優しい仕様です。
ソフトタイプ(スティッキーテープ)
さらに肌ざわりに配慮されたタイプが「ソフト面ファスナー」。まるで生地のような質感で、「スティッキーテープ」という名称で知られていることもあります。通常の面ファスナーと比較すると係合力や耐久性は劣りますが、そのぶん着用時の快適さが抜群。ベビー用品や介護用ウェア、肌に直接触れるアイテムに適しています。
※カラー展開は白・黒が基本ですが、白地にインクジェット印刷をかけて着色する方法もあります(色落ちのリスクがあるため、生地と同色推奨)。
環境配慮型「ニュー・エコマジック」
クラレ社が開発したニュー・エコマジック®は、環境への負荷軽減を考慮した次世代の面ファスナーです。従来の面ファスナーは、裏面にポリウレタン系樹脂を塗布する工程で有機溶剤を使用していましたが、ニュー・エコマジックでは「バインダー繊維」を織り込むことで、この塗布工程自体をなくしています。結果として、製造時のCO₂排出量を約30%削減。さらに、裏面の風合いが柔らかくなり、衣服への縫製もスムーズに行えます。クラレ社は、今後この方式へ全面的に移行していく予定です。
面ファスナーの加工
面ファスナーは、用途やデザインに合わせて加工を加えることで、より使いやすく仕上げることができます。ここでは、よく行われている代表的な加工方法をご紹介します。
スリット加工(幅指定)
一般的な面ファスナーには、定番で展開されている決まった幅があります(例:20mm、25mmなど)。しかし一部の面ファスナーでは、ロール状の面ファスナーをスリット(切断)することで、指定した幅に加工することが可能です。
注意点
スリットは広い幅から狭い幅に切っていくため、元の広幅面ファスナーの単価+加工賃が必要になります。
定番幅には両端に「耳」と呼ばれる、けば立ちを防ぐ部分が付いていますが、スリット加工をするとこの耳が失われてしまい、端が引っかかりやすくなる可能性があります。
角丸加工
ポケットの開閉部や袖タブなど、小さなパーツとして面ファスナーを使う場面では、角が尖っていると肌に当たって痛いことも。そこでおすすめなのが「角丸加工」です。あらかじめ決められた形状の型刃を使って、角を丸くカットすることで、安全性と見た目の良さを両立できます。
形状の一例
- CR05→半径5mmの円で角丸カット(四方)
- CR10→半径10mmの円で角丸カット(四方)
- CR25-FC→半径25mmの円で角丸カット(FCが付くと、片方2か所のみ)
ロット:20個から対応可能
ワッペン加工
モヘアタイプの面ファスナーは、熱をかけるとその部分がつぶれるという特性を利用し、エンボス風のロゴを表現することができます。さらに、その上からポリウレタンでロゴを立体的に造形・圧着させることで、ブランドワッペンとして使用することも可能です。たとえば、TATRASのようなアパレルブランドで採用されている面ファスナーワッペンは、こうした技術の応用例のひとつです。
※画像はZOZOTOWNの商品ページより引用
袖タブ加工(別素材との組み合わせ)
プリントやエンボスを施したヌバック素材と面ファスナーを組み合わせることで、オリジナルの袖タブも作成できます。形状のベースは数種類から選べて、ロゴの表現も柔軟です。身生地とは異なる素材で作ることで高級感が増し、ワンポイントデザインとしても活躍します。
面ファスナー選びのポイントとよくある質問
最後に、面ファスナー選びでよくあるご質問や、注意点について整理します。
面ファスナーは肌に当たると痛い?
通常の面ファスナーのフック面は硬く、肌に直接当たると痛みを感じることがあります。特にベビーウェアや介護用品など、素肌に触れる可能性のあるアイテムには、ソフトタイプやスティッキーテープを選ぶのが安心です。また、面ファスナーが他の衣類に引っかかってしまうこともあるため、縫製位置や使用シーンに配慮した選定が重要です。
フックとループは別メーカーでもOK?
面ファスナーは、メーカーごとに推奨される組み合わせがあります。別メーカー同士で組み合わせると、接着強度が弱くなったり、逆に強すぎて剥がしにくくなったりする場合もあるため、基本的には同一メーカー同士での使用をおすすめします。
着脱強度は「強ければ良い」わけではない?
たしかに「強く付く=良いもの」と思われがちですが、用途によっては強度が仇になるケースもあります。
たとえば、生地が薄い場合は、着脱のたびに引っ張り力がかかって縫製部分が裂けやすくなることも。使用頻度や素材の特性を考慮し、適切な強度の面ファスナーを選定することが大切です。
まとめ
面ファスナーを正しく選ぶために
面ファスナーは、一見すると単純な部材に見えますが、実は種類や特性が多様で、選び方や加工方法によって製品の使い勝手や印象を大きく左右します。どこに使うのか、どんな着心地にしたいのか、という視点を持って選定・加工方法を検討することで、服づくりの精度がグッと上がります。
また、アパレル資材に関して不安な点や疑問があれば、ぜひ&CROPの質問BOXもご活用ください。面ファスナーはもちろん、さまざまな資材の“ちょっと気になる”にお応えします。
ここまでお読みいただきありがとうございました。