&CROP編集部の瀧澤です。竹(バンブー)の繊維というとどんなイメージがありますか?化学肥料や農薬を使わずに成長が早い天然のバイオマスで抗菌性もあることからサスティナブルな素材としても注目される「竹繊維(バンブーファイバー)」ですが、実はその製造過程には多くの誤解や問題も含んでいます。私自身分かっていなかったことがいくつかあり今回の記事を書くことで認識を新たにしたこともあります。この記事では、「竹繊維」の種類、製法、環境負荷や流通の現状をわかりやすく解説して、アパレルのデザイナーや企画担当者、サスティナブルなモノづくりを目指している方々に竹繊維の良さと問題点を知っていただくことでより良い製品提案のお役に立てていただければうれしいです。
竹繊維3つのタイプ
竹から作られる繊維を大きく分けるとバンブーレーヨン・バンブーリヨセル・竹靭皮繊維の3種類があります。下記にそれぞれの竹繊維の製法・特徴・環境負荷について簡略にまとめました。
1. バンブーレーヨン(バンブーバイオセルロース)
- 製法: 化学的製法:ビスコース法(ビスコースレーヨンを製造するのと同様の製法)
- 特徴: 滑らかで光沢感がある。ビスコースレーヨンやモダールレーヨンに近い風合い
- 環境への影響: 二硫化炭素などの有害化学物質を使用、回収率が低い・生分解性有
※ バンブーレーヨンを使用して綿やリネンと交織したテキスタイル商品もあります。
2.バンブーリヨセル
- 製法: 化学的製法:クローズドループ方式の溶剤紡糸(テンセルを製造するのと同様の製法)
- 特徴: 滑らかで光沢感があり、バンブーレーヨンと同等
- 環境への影響: 有害化学物質の使用を極力抑え、溶剤の99.8%以上を回収して再利用
3. 竹靭皮繊維(Bamboo bast fiber)
- 製法: 機械的な方法で開繊した繊維を綿などの繊維と混紡して利用することが多い
- 特徴: 繊維が粗く、風合いは麻に似る
- 環境影響: 環境負荷は低いが繊維にするために特殊な工程が必要でコストが高い
※バンブーリネンとも呼ばれることもありますがバンブーリネンという名称で経糸にバンブーレーヨンを使い緯糸にリネンを交織した生地素材もある
市場に流通している「竹繊維」素材の現状
市場に流通しているバンブー素材の多く(90%以上)はコスト面、加工性、量産性から見てバンブーレーヨンと推定されます。そして環境負荷の低いテンセル(リヨセル)と同様なクローズドループ型の溶剤紡糸によって製造されているバンブーリヨセルと呼んでいる繊維もいくつかのメーカーが商品化しています。さらにバングロやバンブーリネンなどと呼ばれる竹の繊維を機械的に開繊して他の繊維と混紡・交織して繊維や生地として利用する環境負荷の少ないサスティナブルな竹靭皮繊維素材も少量ですが生産されています。
竹繊維=「エコ素材」と誤解されてきた?
竹は非常に成長速度が早く炭酸ガスを高効率で吸収して固定できることや、栽培に農薬や化学肥料をほとんど必要としないためバイオ原料としてのポテンシャルが高い繊維原料です。しかし、竹を原料とした繊維で最も多く流通しているバンブーレーヨンの製造過程では、セルロースを取り出すために有害な化学薬品(二硫化炭素など)を大量に使用、使われた薬品や溶剤の大半は回収されず(回収率は50%程度と言われている)に環境中に放出されて作業者の健康に深刻な影響を与え、環境汚染の一因となっています。現状では「竹繊維」と表示された製品の多くにバンブーレーヨンが使われているために天然由来素材である「竹繊維」=「環境にやさしい」と言うイメージで消費者をミスリードする(してきた)恐れがあります。
バンブーレーヨン製造の環境への影響
バンブーレーヨンもバンブーリヨセルも竹の繊維を溶剤で溶かしてノズルから紡出する製法で作られる再生繊維(※再生繊維については下記のリンクも参照してください)です。バンブーレーヨンの製造(ビスコース法)に使われる二硫化炭素(CS₂)は、毒性を有する揮発性の溶剤で中枢神経系の多岐にわたる症状を引き起こし製造現場では作業者の健康被害が報告されています。また、工場での生産工程での回収率は50%程度で使用された二硫化炭素の半分は環境中に流出していることになります。またビスコース法では水酸化ナトリウムや硫酸などの化学薬品も使用されることから未処理の排水が環境へ流出した場合、周辺の生態系にも悪影響を与えるリスクがあります。
[caption id="attachment_6460" align="alignright" width="800"] グルコースの分子モデル[/caption] &CROP 編集部の瀧澤です。 私たちが利用している繊[…]
安全で低環境負荷な竹繊維
バンブーレーヨンよりも環境負荷の少ない竹繊維としてバンブーリヨセル(Banboo Lyocell)やクリーンバンブー(CleanBamboo®)といった素材が欧米のメーカーを中心に使われています。以前はリヨセル(Lyocell)はレンチング社の登録商標でしたが、今はセルロース系再生繊維の一種として一般的に使われる名詞となっています。現在レンチング社では竹を原料としたリヨセル繊維の製造はしていませんが、いくつかのメーカーによって製造されているクローズドループ製法で製造されたバンブーリヨセルは木材を使用したテンセル®と較べても必要とする水資源の量も少なく、短期間に沢山の炭素を吸収できる竹素材の性質からも優秀なバイオマス素材で OEKO-TEX® 100認証やFSC認証を取得しているメーカーもあります。また竹の靭皮繊維をリネンや麻のように物理的に取り出して利用する製法は環境負荷も少なく竹本来の性質を生かせる繊維として利用価値がありバンブーリネンと呼ばれることもあります。
※「バンブーリヨセル」や「バンブーリネン」のような名称にはバンブー・リヨセル・リネンが含まれることで、エコな素材を連想させる場合もあり、バンブーレーヨンとこれらの繊維とをブレンド・交織している素材では、実際の環境負荷は混用比率に依存すると考えて良いのではないかと思います。
環境負荷の低い製法で生産されているバンブーリヨセルブランド
企業・ブランド名 | 企業url | 主な用途・製品 |
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Ettitude(CleanBamboo®) | https://www.ettitude.com/ |
高級寝具・衣料(シーツ・ガウン) |
Eco Staples | https://www.ecostaples.co/pages/about-bamboo-lyocell |
Tシャツなど日常アパレル |
※Lenzingは、現時点では木材由来のLyocellに特化しています ※上記以外にも「Bamboo Lyocell」を取り扱う中国系企業や製品も多数ありますが、製法・原料の仕入れ先・環境評価の精度にはばらつきがあるので素材の導入を検討する際にはサプライチェーンも含めた検証が重要になると思われます。
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バンブーリヨセルのメリットと竹繊維の可能性
竹繊維(バンブーファイバー)は、ビスコース法による製造からクローズドループ製法へ切り替えや透明性のあるサプライチェーンの構築、リヨセル系製造技術のさらなる進化とコストの削減などの課題はありますがこれらを実現してゆくことで、持続可能なバイオマス繊維原料として非常に有効な素材と言えます。ここではバンブーリヨセル繊維製品の特性について触れたいと思います。
竹は再生可能なバイオマス原料
竹は平均的な広葉樹に比べて5倍の二酸化炭素を吸収、伐採後も自然に再生して農薬や肥料、灌水もほとんど必要としないことから有用なバイオマス原料と言われています。
環境負荷の少ない製造法
バンブーリヨセルは原料の竹パルプを無毒なアミンオキシドという溶剤を用いて分解するクローズドループ技術を用いて製造され、使用された溶剤と水の99%を回収して再利用することでより環境負荷の低い繊維素材と言えます。
バンブーリヨセルの繊維としての特徴
バンブーリヨセルは軽量で柔らかい肌触りで肌に優しく皮膚の敏感な人や寝具などにも適した素材です。また竹の繊維は多孔質で綿よりも吸湿性・速乾性が高く夏涼しく、冬は暖かく、有害な紫外線や抗菌効果もあると言われています。
まとめ
バンブーは、古くから利用されてきたサスティナブルなバイオ素材で、繊維素材としても有用な特性を多く持っています。一方、製造方法や原料の調達方法によって環境への負荷が大きく異なります。バンブーリヨセルの中にはOEKO-TEX® 100認証やFSC認証を取得しているメーカーや素材もあるので製品のラベルや説明に「製造方法」や「原料の来歴」を明記するなど、違いを明確にすることで環境負荷の少ない素材として認知してもらいながら普及してゆく工夫も大切になってくると思います。どのような原料素材を使用する場合でも経済効率を優先した従来の考え方や手法による生産・消費が環境に与える負荷を考慮して「○○だからエコで環境にやさしい」と言った安易な発想で素材や製品をアピールすることはブランドやメーカーとしての信頼を損なう可能性があることを心に留めておく必要があると思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。