&CROP編集部の野崎です。
「サンプルが仕上がったけど、なんだかイメージと違う」
確認してみると、使いたかった裏地やボタン、細かいところが思っていたのと違う…そんな経験はありませんか?
先日会社にいらしていたアパレルブランドの方も「ファスナーの引手を品番も指定して依頼していたのに、違うものでサンプルが上がってきてしまったんです。」と話していました。指定した種類のファスナーにその引手が対応しておらず、別の品番に代用されていたようですが、理由の説明や事前の相談もなかったことに、モヤモヤが残ってしまったそうです。
最近はアパレル不況と言われるなかでも、小規模にスタートし、着実にファンを増やしていくブランドが増えています。そういったブランドでは、縫製工場がOEMとして服づくり全体を担い、資材の選定・手配まで一括で任せていることも多くあります。それは助かる一方で、完成品が「完成品がどこかイメージと違う…」と感じてしまうこともあるようです。 それは決して工場側の対応が悪いということではなく、役割の違いから生まれる「すれ違い」が原因になっているのかもしれません。
資材を”工場お任せ”にすると、なぜ違いが出るのか
工場は決められたコストや納期のなかで最適な方法を選択をしてくれます。
「この釦は納期に間に合わなかったので、似たものに変えておきました」
「この裏地は使えないと言われたので、他のものにしました」
そんなふうに、見た目が近い資材に変更されることも少なくありません。
ただ、その“似たもの”が、ブランドの雰囲気や着心地に大きな違いを生んでしまうこともあるのです。裏地の質感やファスナーの引手のデザイン、 一つひとつが服の完成度に影響し、時には「らしさ」までも左右します。「なぜそれが使えなかったのか」「代わりに使った素材の違いは何か」といった説明が簡略化されてしまうのも、現場ではよくあることです。縫製のプロであるOEM会社や工場にとって、資材は“仕様の一部”であり、詳細まで言語化するのは難しい場面もあるからです。
資材のプロだからこそ伝えたい、“落とし穴”
例えば「ボタンに高級感を出したい」と天然素材のボタンに変えたことで、クレームにつながってしまうこともあります。ポリエステルボタンなどの樹脂ボタンは、基本的に洗濯機洗い・乾燥ができます。しかし、ナットボタン(タグワ椰子の実の種を原料としたボタン)や水牛ボタンなどの天然素材ボタンは、水を使うことでボタンが膨張し割れの原因になってしまったり、表面の油分が失われて艶が無くなり、割れの原因になってしまうことがあり、熱も加わる乾燥はもってのほかです。それを知らずにボタンだけ変え、同じ洗濯表示(水洗い・乾燥OK)のまま販売してしまうと、クレームに繋がり、お客様をがっかりさせてしまいます。
他にも、冬物のトリコットなどの裏地で「見た目が似ているからこれで代用できるだろう」と安価な裏地に変えてみると、帯電防止機能など、裏地に静電気を防ぐための工夫が施されておらず、着用すると裏地が肌にまとわりつき不快感が出てしまうこともあります。資材は、素材や見た目そのものだけでなく、「使われ方」まで見越して選ぶ必要があるのです。
分かりやすい例でいうと「芯地」もその一つです。表には見えない「芯地」は、販売価格の安いブランドでは、安価な不織布芯が使われていることが多いですが、「芯地」はアパレル資材の中でも特に、見た目に大きく影響します。生地の保形性を向上させたり、補強として使われる芯地は、接着する表地の素材や厚み、伸縮性、また使用箇所にも大きく左右されます。
こんな時、付属屋はこう関わっています
服づくりの中で、「これで本当に大丈夫かな?」と不安になることはありませんか?実は、資材には素材ごとの特性や組み合わせによる相性があり、選び方によっては仕上がりや着用感に大きく差が出てしまうことがあります。例えばこのような場面です。
ケース1:静電気が気になる裏地選び
秋冬物のパンツで、最初に選ばれていた裏地は安価で使いやすいタイプでしたが、「静電気で足にまとわりつく」という問題がありました。このときは、導電糸を編み込んだ帯電防止素材の裏地や、 滑りが良くて吸湿性のあるキュプラ素材、裏地は変えずに静電気防止テープロックの中に入れることで静電気を防ぐ方法などをご提案しました。
「そんなのあるんだ!」と驚かれることも多いのですが、 素材の選び直しや別のアイテムを加えることで、着心地がぐっと良くなります。
ケース2:ブランドを誇張しすぎないロゴ入れ
アパレル資材にブランドロゴを入れてオリジナルのボタンやファスナー引手を作りたい、というお問合せが多くあります。しかし、ロゴ入れはしたいものの、服全体のデザインを損なうような目立つロゴは入れたくない。良い方法はないか?というご相談を頂きました。このときは、ボタンの表面ではなく、側面にロゴを入れる方法や、マットな質感のシートの上に艶のある文字を入れてさりげなくブランドロゴを表現するワッペン、テープの上に小さな文字を入れることができる加工などをご提案しました。
ケース3:用途に合ったファスナー選び
カジュアルラインを展開していたアパレルブランドで、初めてジーンズ素材でパンツを作ることになりました。しかもストーンウォッシュ加工で古着のような質感にしたいとのこと。今まで使っていた通常の金属ファスナーを選ばれていたので、縫製後ストーンウォッシュをするならば、洗い加工にも耐えられる丈夫なファスナーの方が良いと、洗い加工にも対応したエレメントの厚いファスナーとスライダーをご提案しました。
私たち付属屋は資材のプロである以上、ブランドやシーズンのテーマに合った提案を行うことができます。また、代用する場合でも「なぜそれが使えなかったのか」「代用するならどんな素材か」を理由を含めて分かりやすくお伝えするようにしています。
資材の知識は、ただ“モノを知っている”というだけではありません。
- どんな素材と相性がいいのか
- どんな加工・工程に適しているのか
- 代替するとしたら何が近くて、どう違うのか
- その違いが見た目や機能にどう影響するのか
こうした情報を、ブランドの世界観や優先順位に合わせて、わかりやすく整理して伝えることが、付属屋の役割だと思っています。
まとめ
会社によりけりですが、基本的には縫製工場発のOEM会社は「縫製のプロ」。アパレル資材の選定までできる知識はありますが、「資材のプロ」ではありません。アパレル資材の専門的な知識や、表生地との組み合わせの相性、資材のトレンドまで把握し、カバーしているとは限りません。裏地の質感、ファスナー引手の形状、ボタンの素材。ひとつひとつが服の印象を大きく左右する大切な要素です。アパレル資材は、ただの「仕様」ではなく、「ブランドらしさ」を表現するひとつのツールです。「こんな資材はどうなの?」「他に選択肢はある?」というような、困ったときに相談できるプロがいると、資材選びの不安も減り、服作りもずっと楽に、楽しくなります。
OEMや縫製工場と良い関係を築くことは、ものづくりにおいてとても大切なこと。そしてその上で、資材に関しては“専門の視点”を取り入れることで、服づくりはより自分らしく、納得のいくものになります。こだわりのブランドづくりにこそ、資材の選び方にも目を向けてみてくださいね。