&CROP編集部の野崎です。
アパレルブランドを立ち上げるにあたって、「服を企画して生産を委託するときにどのくらいお金がかかるのか?」というのは、なかなかイメージがしにくい部分かもしれません。弊社にも異業種からアパレルブランドを始めたいという方や、初めて洋服を作ろうとする方からお問い合わせをいただくことが増えてきています。その中でよく耳にするのが「思ったよりも費用がかかる」「もっと簡単にできると思っていた」という声です。
服を作るには、デザインや仕様書の作成から、パターン、資材の手配、縫製に至るまで、多くの工程があり、それぞれに費用が発生します。この記事では、その目安の費用をひとつひとつ分かりやすく解説していきます。アパレルブランドを始めたい、と考えている方の参考になれば幸いです。
※本記事で目安としてご紹介する金額は、当社での事例に基づいたほんの一例です。実際は依頼する先によっても異なりますので、参考程度に捉えていただけますと幸いです。
服作り概算費用計算シートのダウンロードはこちら(Excel形式)
服を作るためにかかる費用
服を作るためにかかる費用として、下記項目が挙げられます。一つひとつ、解説をしていきます。
- デザインにかかる費用
- 仕様書作成にかかる費用
- パターン作成にかかる費用
- 表生地・付属品手配にかかる費用
- 縫製にかかる費用
- その他 見落としがちな費用
デザインにかかる費用
デザインとは、単なる「イラスト」ではなく、服全体のイメージを共有する大切な資料です。正面・背面など複数の角度からの図を通して、どこにどんな仕様があるのかを分かりやすく伝える必要があります。
自分で描く場合
「絵が上手=服のデザインができる」というわけではありません。今後パタンナーや縫製工場と共有していくためには、分かりやすく伝わる絵であることが大切です。初めての方は、自分で描いたデザインをプロのデザイナーや服飾の知識がある人にチェックしてもらうと安心です。参考にした製品サンプルがある場合は一緒に用意しておくと、さらに伝わりやすくなります。
デザイナーに依頼する場合
外部のデザイナーに依頼する場合は、ブランドの世界観や要望を伝え、一からデザインを起こしてもらうことも可能です。金額は、デザイナーによっても大きく異なります。スポットで1型数万円〜、シーズン契約(1シーズンに作成する型をすべてお任せする契約)では数十万~数百万(もしくはそれ以上)で契約することもあります。契約内容によっては、仕様書の作成やサンプルのチェックまで含まれることもあり、依頼したい範囲次第で金額も大きく変わります。
仕様書作成にかかる費用
仕様書は「服作りの設計図」であり、デザインを具体的な製品へと落とし込むための重要なツールです。仕様書には、デザイン画(絵型)、縫製仕様の細かな指示、使用する材料をまとめた資材表、寸法表などが含まれます。業界で統一されたフォーマットは存在せず、いかに分かりやすく作るかが、希望の仕上がり通りに製品ができあがるかどうかを左右します。
自作する場合
既存フォーマットを活用して自分で作れば費用はかかりません。ただし、縫製仕様の指示は服飾の専門知識が必要で、初心者が作成するのは難しいかもしれません。縫製仕様書の記載内容については、こちらの記事でも詳しくご紹介しておりますので、併せてご覧ください。
縫製仕様書とは 縫製仕様書とは洋服を作るために必要とされる指示書のことです。会社によっていろいろな言い方があり、仕様書、加工依頼書、縫製指示書などとも言われます。言葉は違いますが役割は同じなので、ここでは縫製仕様書としてお話します。 […]
縫製仕様書のフォーマット比較はこちら↓
縫製仕様書とは 洋服を作るためにはデザインが必要になる訳ですが、デザイン画だけでは洋服にはできません。まずパターンと言われる型紙が必要です。パターンはデザイナーが書いた2次元の絵を立体化する技術を持つパタンナーと言われる人によって作られま[…]
外注する場合
デザイナーにデザイン画を依頼する際に、仕様書までまとめて依頼すると、デザインと連動した正確な仕様指示が可能です。デザインと仕様書を別々の人に依頼すると齟齬が出やすいため、可能であればまとめて依頼したほうが安心です。
例えばデザイナーに服のデザインを考えてもらい、イラストレーターのデータで絵型をつくってもらい、資材や縫製指示まで反映させた仕様書を作成、1stサンプルの縫製指示から上がってきたサンプルのチェックまでお願いした場合だと、最低でも1型\10万~20万ほど必要になります。
パターン作成にかかる費用
パターンは、洋服を理想のシルエットに仕上げるための生地の型紙です。 服のデザインを細かな裁断パーツに変換していきます。 洋服はパタンナーさんの腕が大きく影響します。どんなパターンを引いているかで、出来栄え(見た目)も、着心地も変わります。パタンナーにもそれぞれアイテムやメンズ・レディスの得意分野があるので、依頼する際は得意なアイテムや実績を見て選ぶようにしましょう。
費用の目安
依頼するパタンナーによっても異なり、アイテムのパーツの複雑さによっても異なるため、一概には言えませんが、目安の金額を下記にまとめました。
- Tシャツやカットソー:約1.5〜2.5万円
- パンツや布帛:約3〜5万円
- 複雑なジャケットやアウトドアアイテム:パーツ数が多いためさらに高額
グレーディング
基本サイズからS・M・Lなどに展開する「グレーディング」にも費用がかかります。1パーツあたり1,000〜2,000円程度が目安で、サイズ展開やパーツ数が増えるほど費用も膨らみます。依頼する縫製工場によっては、パターンを引くことができる縫製工場や、グレーディングならできる、という工場もあります。 パタンナーにグレーディングまですべてをお願いしてしまうとコストが合わない場合は、最初のパターンはパタンナーに依頼をし、グレーディングは縫製工場に依頼してコストを抑える、ということも可能です。
データ納品か紙納品か
パターンはCADデータで作成されますが、縫製工場によっては紙出力が必須です。専用の大判プリンターが必要で、出力代が別途かかるケースもあるため確認が必要です。
表生地・付属品の費用
表生地や付属品を手配するのにも当然ですが費用がかかります。特にサンプル段階では割高になることが多く、量産時の約2倍と考えるとイメージが近いでしょう。そのほかにも、例えば下記のような費用が掛かります。
- 生地のサンプルカット:メーカーやm数によっても異なりますが、カット1件につき数千円のカット代が掛かります。
- スピンドルなどの加工:サンプル時(1色1サイズ100本以下のロット)は、数百円~数千円の小口代が掛かります。
また、商品によってはカットや小口対応ができず、1巻での手配に繰り上がったり、使いたい個数は数個でも、100個からしか手配できないこともあるため、このような最小ロットの制約により思わぬコスト増になることもあります。
縫製にかかる費用
縫製工場に縫製を依頼する場合は、工賃が掛かります。
サンプル縫製
量産時より2〜3倍の工賃がかかります。縫製工場は基本的に流れ作業で効率を重視するため、サンプル製作は採算が取りにくいからです。例えば量産時の縫製工賃が1着あたり\1,000~2,000のポロシャツがあったとしても、サンプルを1着だけ縫製してもらう場合には、サンプル縫製賃として割り増されて、1着あたり\4,000~5,000かかったりもします。
量産縫製
国内と海外で費用は大きく異なり、さらにアイテムや生産枚数によって変動します。Tシャツ1枚とジャケット1枚では必要工数もまったく違うため、金額にも幅があります。サンプルを依頼する段階で、量産時の工賃目安も合わせて確認しておくと、予算の見積もりがずれにくくなります。
見落としがちな費用
型代・版代・データ代
二次加工や付属品でにブランドロゴを入れる場合は、初期費用がかかります。特に金型から作成が必要なアイテムは金型代で数十万かかることもあります。
- プリント版代・刺繍データ代・ブランドネームの版代:3〜5万円程度
- 金属パーツをオリジナルで作る場合:5万円〜数十万円と高額になることも
運送費
海外で縫製する場合は、海外の縫製工場に運送する輸送費が掛かります。資材やパターンを日本で揃える場合は、縫製工場に送り込むための費用と、製品が出来上がった時に受け取る費用で往復分掛かります。例えば中国の工場で、サンプル数枚をクーリエ(海外航空宅配便)で送る場合は数万円程度です。また細かな部分ですが、生地や資材を購入した際にも、取り寄せのための送料が細かく発生していきます。
まとめ
服作りにかかる費用は、デザインや仕様書、パターン、資材、縫製工賃といった「分かりやすい費用」だけでなく、版代や送料のように「見落としがちな費用」もあります。1型を作るにも多くの工程と費用がかかるため、全体像を知っておくことで「思ったより高い!」というギャップを避け、より現実的な計画が立てられるようになります。
服作りにかかる概算費用を計算できるExcelシートを作成しました。ぜひダウンロードしてお役立ていただけたら嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました!