アクリル繊維の疑問?を一挙に解決!

アクリルのぬいぐるみ画像

&CROP編集部の瀧澤です

アクリル繊維とは

アクリルはポリエステル・ナイロンと並ぶ三大合成繊維と呼ばれる繊維の一つでウールに似た性質があることからセーターやカーディガン、靴下、カーペットなどに良く使われています。またアクリルはアクリル板やアクリル絵の具など身近にある様々なものにも使われています。アクリル樹脂はプラスチックの女王と呼ばれ、ガラスよりも透明度が高く耐候性や耐衝撃性に優れているので水族館の巨大水槽や飛行機の窓などにも使われているのは良く知られています。どちらも身近な合成樹脂素材でアクリルと言う名称で呼ばれますがアクリル繊維とアクリル樹脂は異なる物質(ポリマー)です。また衣料品の品質表示に「アクリル」「アクリル系」「モダクリル」と記載されていて「アクリル」と「アクリル系」って何が違うの?って、疑問に思われたことがある方も多いのではないかと思います。さらに近年のキャンプや焚火ブームで難燃性のモダクリルが使われている素材やアイテムも増えました。モダクリルってそもそも何?なんで難燃素材なの?などなど…この記事ではアクリル繊維についてのこれらの疑問に答えながらアクリル繊維を解説していますので最後までお付き合いいただけるとうれしいです。

難燃繊維プロテックス®画像

 

アクリルとアクリル系(モダクリル)の違いってなに?

石油由来モノマーのアクリロニトリル(CH2=CH-CN)を主成分として重量比で85%以上含み、アクリロニトリルを重合してポリアクリロニトリルを合成する際に酢酸ビニル・メチルアクリレート・メタクリル酸メチルなどの他のモノマーを加えて(共重合させて)柔軟性・染色性・耐久性などを調整した繊維がアクリル繊維です。保温性があって柔らかくシワになりにくく、染色性・発色性・耐候性に優れた繊維です。短くカットした繊維を嵩高(かさだか)に加工することで空気を含ませると羊毛にとても良く似た風合いとなり価格が安価で虫害も受けないことからウールの代替品として冬物衣料に広く使われています。一方モダクリルは、以前はアクリル系と表示されていましたが2022年の家庭用品品質表示法改定でモダクリルに用語が変更されました。主成分のアクリロニトリルが35%~85%までのものをモダクリル(アクリル系)繊維と呼んでいます。モダクリルは合成樹脂繊維の中でも特に難燃性が高いポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンを加えて共重合しているため難燃性に優れ、難燃製品(防炎布・毛布・カーペット・かつら・フェイクファーなど)に多く使われます。

難燃素材については下記の記事も参考にして下さい

アパレル資材研究所 「&CROP」by株式会社クロップオザキ

アウトドアやキャンプ、焚火のブームで難燃性の素材が注目されています。しかし難燃素材という言葉があやまって理解されていたり…

アクリル繊維とアクリル樹脂はおなじプラスチックなの?

水族館の巨大水槽の画像

初めに述べたようにアクリル繊維とアクリル樹脂は同じアクリルと言う名称で呼ばれていますが異なる物質です。前項で述べたようにアクリル繊維はポリアクリロニトリルと言う不透明な樹脂が主成分で、アクリル樹脂の主成分はポリメタクリル酸メチル(PMMA)と言う樹脂です。ガラスよりも透明(光の透過率はガラス92% アクリル樹脂93% )なことから有機ガラス・アクリルガラスとも呼ばれました。耐衝撃性はガラスの10~16倍、耐候性・耐寒性もあることから水族館の巨大水槽・戦闘機のキャノピー・自動車のテールランプ・カーポートなどからアクリル絵の具や塗料、接着材にも使われています。

アクリル繊維についてもう少し詳しく

アクリル製ぬいぐるみ画像

アクリル(英:acrylic)の工業的な原料はポリプロピレン(PP)の原料とおなじ石油由来のプロピレン(プロペン:C3H6)から生産されます。プロピレンから生成したアクリロニトリルに機能を付加する機能剤をブレンドして共重合し生成したポリアクリロニトリルを溶剤で溶解して口金から空気中に押し出して溶剤を蒸発させて繊維状にする乾式紡糸法または凝固浴と呼ばれる溶液中に押し出して繊維にする湿式紡糸法で紡糸されます。最近では機能性を付加し易いなどの理由から主に湿式紡糸で製造されています。ポリエステルやナイロン場合は溶融紡糸という原料の樹脂を熱で溶かして口金から押し出す方法で糸にしている点が違います。紡出されたアクリルフィラメントはステープルファイバー(短繊維にカット)されてから糸にして利用する場合がほとんどです。柔らかく保温性があるアクリル繊維は熱により収縮させた繊維と収縮させていない繊維を混紡することで嵩高性と保温性を高めたハイバルキー糸(さらにバルキー性を高めたハイハイバルキー糸もある)に加工されて羊毛に似た柔らかさと保温性のある繊維となりセーターや靴下、毛布など冬物衣料に多く用いられます。

アクリルとウールを比較

ヒツジの画像

ここで、ウールに似ていると言われるアクリル繊維がウール(羊毛)と似ている点ウールとは性質が異なる点を簡単に比較してみます。ご存じのようにウールは獣毛繊維に分類される羊の毛を利用した短繊維です。羊毛は一本一本の繊維にはクリンプと呼ばれる縮れがありこの短い繊維が層になって空気を含むことで嵩高(かさだか)性や高い保温力があります。アクリル繊維は合成繊維で比較的ポリエステルに似た特性を持っていますがポリエステル繊維よりも柔軟性があり熱を加えると収縮する性質があります。この性質を利用して繊維を収縮させたり、変形させたりして羊毛繊維に似せることで繊維の間にウールのように空気を含ませて嵩高性のあるバルキー糸がつくられます。またアクリルは羊毛に比べると比重が軽い(比重:羊毛1.32 アクリル1.14~1.17)ためウールよりも軽くて保温力が高いメリットがあります。

アクリルとウールの物質的・化学的性質

比重(重さ) 

アクリル 1.14~1.17  羊毛 1.32  アクリルはウールよりも軽い繊維である。

水分率(吸湿性・乾きやすさ)

アクリル 1.2~2.0%   羊毛 16% アクリル繊維は吸湿性の低い化学繊維なので乾きやすい反面、繊維が湿気を吸収しないので汗や多湿な環境ではベタつきやすい

引張り強度(耐久性) :

アクリル(ステープル) 2.2~4.4cN/dtex  羊毛0.9~1.5cN/dtex アクリル繊維はウールよりもはるかに強度があり摩擦に強く耐久性がある繊維です。

 

耐候性

ウールは天然繊維なので屋外などに晒されることによって著しく劣化し、カビや虫害を受けやすい繊維です。アクリルは合成繊維の特性上耐候性が高くカビや虫害の影響をほとんど受けません

乾湿強力比(耐洗濯性)

アクリル 80~100  羊毛 76~96  アクリルとウールでは濡れた時の強度にはさほど大きな差はありません、しかしウールは洗濯時に縮みやすく、アルカリ性の洗剤に弱いため洗濯時に注意が必要です。アクリル繊維には耐洗濯強度はありますが熱で縮むためタンブラー乾燥によって繊維に縮や変質が起こるので注意が必要です。

 

熱の影響

アクリル繊維は溶融点が160℃(明瞭でない)と言われ合繊のポリエステル(溶融点255~260℃)と較べても熱による影響を受けやすい繊維です。ウールは熱で溶けることはありませんが高温のアイロンで黄変する場合があり、130℃で熱分解がはじまり205℃で焦げ始めます。前述したようにアクリルは熱の影響を受けやすい繊維なのでアイロンを使用する場合は低温であて布、ウールでは中温までが望ましいです。

耐薬品性

アクリルはポリエステル同様に酸やアルカリ、その他の化学薬品の影響をほとんど受けません、一方、ウールは酸には比較的強くアルカリに弱い性質があるので洗濯の際には中性の洗剤の使用が望ましいです。

染色性

ウールはタンパク質繊維なので染まりやすく様々な染料で染めることができますが一般的には酸性染料を用いることが多いです。アクリルの染色にはアクリル繊維用に改良された塩基性染料のカチオン染料が用いられ発色・染色堅牢度がともに非常に良好です。

 

その他の特性

ウールもアクリルもともに毛玉(ピリング)になりやすい繊維です。ウールでは出来た毛玉は自然に脱落しますがアクリルやポリエステルでは表面に絡み合って脱落せずに衣類の風合いを損なうことが多いです。またアクリルはポリエステルと並んで比較的コストが安く、ウールは気候や需給バランスによっても価格が変動しやすいコストの高い繊維です。

 

テムレス画像
ショーワグローブ テムレス

アクリル繊維の用途

 

アクリル繊維は合成繊維の中でポリエステル・ナイロンに次ぐ生産量があります。生産コストが比較的安く耐久性があるのでウールの代替品としてセーターや冬物カットソーをはじめ手袋・帽子・マフラー・ストールなどの衣料品からカーペット・カーテン・クッションカバーの様なインテリア、フェイクファーやぬいぐるみ等の玩具。またフィルターやシートの様な工業製品まで広く使われています。作業用の防寒手袋も裏面にアクリルのフリースや起毛素材を使用しているものが多いです。余談ですが防寒作業手袋でプロのクライマーやスキーヤーが使用して厳冬期でも硬くならず暖かいと賞賛されて有名になったショーワグローブのテムレスも裏布にアクリルを起毛したボア素材を使っています。

 

自転車カーボンフレーム画像
自転車カーボンフレーム画像

PAN系炭素繊維

アパレル衣料の素材としてはコストが高く一般的ではありませんが航空・医療・宇宙分野や一部の作業服などに使われ、軽量・高強度で高熱や耐薬品性にも優れていることでゴルフクラブ・テニスラケット・釣り竿・スキーの様な身近な製品から航空機の機体や主翼、小惑星探査機「はやぶさ」にも使われている炭素繊維(カーボンファイバー)の大半を占めているPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維はその名称からもわかるようにアクリル繊維のフィラメントを高温で焼成して造られています。

アクリル繊維製造メーカー

1950年デュポン社が生産を始めたアクリル繊維は日本では1957年に鐘淵化学が生産を開始、続いて三菱レイヨン、旭化成工業(現:旭化成)が参入して生産が拡大してポリエステル・ナイロンと並ぶ三大合成繊維の一つとなりました。しかし中国などに技術移転が進んだことによりコスト面が厳しくなり1957年をピークに減少、2002年に旭化成がアクリル繊維事業から撤退。2023年には三菱ケミカルもアクリル繊維事業から撤退し、現在日本国内のアクリル繊維メーカーは東レ日本エクスラン工業の2社となりました。

国内のアクリル繊維製造メーカーと商標

東レ   トレロン🄬 

トレロン🄬は東レが開発したバルキー性・発色性・弾力性に優れたアクリル繊維で他繊維との混用性に優れた柔らかい風合いのアクリル繊維でセーター・ジャージ・靴下などの衣料から毛布・マット・カーテンなど幅広い用途に使われ、抗ピル性・蓄熱性・吸水性撥水性・防汚性・制電性などの高機能を付加した製品も展開しています。

日本エクスラン工業株式会社

日本エクスラン工業株式会社は1956年に1東洋紡が100%出資して設立したアクリル繊維メーカー。衣料用の繊維にとどまらずアクリル機能性素材を自動車・家電・産業機械・土木・建築・安全・衛生・医療・環境など幅広い分野に提供、アクリル繊維をベースに様々な商品を開発している。多種類のアクリル繊維製品があるので商品詳細は下記の日本エクスラン工業のウェブページを参照して下さい。

日本エクスラン工業株式会社

[:ja]製品一覧(衣料・リビング)製品名特性詳細極衣®ゴクイ®0.5dtexレベルの超極細タイプのアクリル繊維で、その…

 

海外の主要なアクリル繊維メーカー

AKSA

Akrilik Kimya Sanayii A.Şはトルコの老舗産業グループAkkök Holding傘下のアクリル繊維メーカー

Aksa Akrilik, 308.000 ton/yıl kapasitesi ile dünyadaki en bü…

 

Dralon社 ドラロン®

ドラロンはドイツのDralon社が乾式紡糸法で製造するアクリル繊維、繊維断面がドックボーン(犬の骨)の形状をしていることで毛細管現象による高い吸汗性を発揮する。コットンと混紡・交編することで適度なボリュームと吸水速乾性・断熱性も備えたオールシーズン向け素材として国内ではダイワボウが販売している。

Thai Acrylic Fiber(タイ・アクリリック・ファイバー:TAF)

インドのアディタヤ・ビルラグループ傘下のアクリル繊維メーカー

 

ジリン・ケミカル・ファイバー(吉林化繊股分有限公司)

主に化学繊維製品の製造・販売を行う中国企業

Sinopec (中国石油化工集団公司)

中国の石油精製及び石油製品製造流通を行う国営石油企業

 

アクリル繊維拡大画像
アクリル繊維の拡大画像 Taken By Edward Dowlman, Public domain, via Wikimedia Commons

まとめ

ポリエステル・ナイロンと並ぶ身近な合成繊維のアクリルですがよくよく調べてみて、初めて知ったことが沢山ありました。そうなんです!もともと天然繊維に比べて合成繊維には苦手意識があったのでとりあえずポリエステルやナイロンについては‟なんとかせなあかん”と言う気持ちで記事を書きましたが、あ~く~り~る~また今度で~と言う感じで先延ばしにしておりました。軽くて、安くて、あたたかいアクリルにはどうしてウールのパチモンのイメージがありましたがウールとは別の繊維と言う視点で見るとまた別の魅力を持った繊維なのだという事がわかってきます。炭素繊維がアクリルフィラメントから作られていることもこの記事を書いていて初めて知りました。はずかしながら勉強不足は棚にあげておき、まだまだ知らないことが沢山あって楽しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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