もくじ
成功するブランド・失敗するブランドの「ある共通点」
&CROP編集長兼、(株)クロップオザキの尾崎です。
昨今はアパレル不況の真っ只中にあり、大手中心にブランド縮小や閉鎖を余儀なくされています。一方で、小規模ブランドは増えていて、アパレルブランドを新たに立ち上げたいという話も増えています。
当社は日頃から資材卸やOEMで、さまざまなブランドとお付き合いしています。仕事柄、新規ブランド立ち上げ後、大きく成長するブランドとそうでないブランドとで明暗が分かれるのをこれまで見てきました。
たくさんのブランドとお付き合いする中で分かったことがあります。それは、ブランド立ち上げで成功するブランド・失敗するブランドにはある共通点がある、ということです。
それは、成功するブランドはこれからご案内する「3つの条件」をすべてクリアしており、失敗するブランドはそれら条件すべて、もしくはそのいづれかをクリアしていない、ということです。
そこで今回は、当社でもアパレルブランドを立ち上げで失敗した経験と、さまざまなブランドと一緒に仕事をしてきた経験、私自身の経営者としての経験から、アパレルブランド立ち上げの動機別成功例・失敗例と、成功するために絶対に押さえておくべき条件を3つご紹介します。
これからアパレルブランドを立ち上げたい!立ち上げ準備中だけど大丈夫かな、と思っている方は、これからご紹介する動機の失敗例に当てはまっていないか、成功に必要な条件3つをクリアしているか確認してみてください。失敗に当てはまっている、3つの条件をクリアしていない場合は準備不足ですので、しっかり準備しましょう。
これはアパレルブランドに限らず他のビジネスを立ち上げる際にも適用できます。
同じ動機でも明暗分かれる!
アパレルブランド立ち上げ動機別、成功例失敗例
まず、アパレルブランドを立ち上げる動機はどのようなものがあるのでしょうか。
アパレルブランドの立ち上げでよくある動機は主に3つ
- 動機1:自分の着たい服がないから作りたい、そしてみんなにも着てほしい
- 動機2:売れる仕組みがあるので、そこに置く商品として洋服を作りたい
- 動機3:ネットショップなど経費も掛からず、簡単に立ち上げられそうだから
次に、その動機から成功例と失敗例を見てみましょう。
動機1:自分の着たい服がないから作りたい、そしてみんなにも着てほしい
失敗例 このような動機は過去からよくあります。しかし、あまり考えずに進めてしまうと一番失敗しやすいのもこの動機です。自己満足で終わってしまい、結局、作った商品は売れずに在庫として残り、資金も行き詰ってしまうというものです。実は当社でも過去にこの経験があります。若手の発案で、気軽な気持ちでブランドを起こしましたが、2年間赤字を垂れ流し終わりました。
成功例 洋服ではないのですが、当社の顧客で抱っこ紐の「ママイト」(http://shop.mamaito.com/)というブランドがあります。始まりは、ご自身がお子さんを持った時に欲しい抱っこ紐がなかったから、自分で企画して作ったというもの。今や、しまむらにも卸すほどになっています。今まで世の中になかった商品を提供したことが成功した理由です。
動機2:売れる仕組みがあるので、そこに置く商品として洋服を作りたい
成功例 この方法は成功する確率が高いです。例えば、インスタグラムのインフルエンサーを使って売れる仕組みが既にあり、そこに洋服(アパレルブランド)を組み込んでいくケース。過去のデータから売れる枚数が予測できるので余計な在庫を持たなくて済み、消化率がいいのでセールの必要もない。ネット販売だと商品の横展開、奥行きもそれほど必要がないという点も今までのアパレルブランドとの違いで、リスクが軽減できます。
失敗例 消化率は高いのですが、その分、作る数量が限られます。生産してくれる縫製工場、OEM会社を見つけるのが難しいです。商品が供給できなければ、いくら売れる仕組みがあっても売れません。また、デザインやコンセプトを疎かにすると、すぐに飽きられてしまいリピートされず、ブランドが継続できなくなります。
動機3:ネットショップなど経費も掛からず、簡単に立ち上げられそうだから
失敗例 このケースはほぼ失敗しかないでしょう。以前はアパレルブランドを立ち上げるには、サンプルを作成し、展示会を開いて集客し、受注を取り、生産し、店を開いて商品を販売する必要がありました。しかし、今は展示会の代わりにSNSで商品紹介ができ、生産はヌッテ、シタテルと言ったOEMサイトで依頼、販売はネットショップを無料で開くことができ、参入ハードルは以前とは比べものにならいほど低いです。一方でそれだけライバルも増えるということで、立ち上げるのは簡単でもそこで生き残っていくのは簡単ではないのです。ブランド立ち上げは計画的に進める必要があります。
アパレルブランド立ち上げ成功に必要な条件3つ
どんなビジネスでもそうですが、新たに始めるにはしっかりとした準備が必要です。ネット上には「意外に簡単!アパレルブランドの立ち上げ!」みたいなものがありますが、先にも述べた通り、簡単に考えては危険です。当社も経験済みなのでこれは事実です。
ブランド立ち上げる前に最低限押さえておかなければならないことが3つあります。それは下記の通りです。
- コンセプト/デザイン(アイデア)
- マーケティング
- 資金(財務)
この3点のどれが疎かでも上手くいかないです。では、それぞれを見ていきましょう。
1.コンセプト/デザイン(アイデア)
何のために、誰のために
まずブランドを立ち上げるコンセプトが必要です。何のためにブランドを起こすのか、誰に届けたいのか(マーケティングに通じる)、あなたの想いを言葉にしたものです。人は商品には共感しませんが、想いやストーリーには共感をします。その想いやストーリーの題名みたいなものがコンセプトです。
実例「フライングジーンズ」
知り合いの経営者で「フライングジーンズ」(https://flyingjeans.jp/)というブランドを立ち上げた方がいます。この「フライングジーンズ」は車いすの人のためのジーンズです。このコンセプトは「車いすの人にかっこよくて、履きやすいオシャレなジーンズを」です。これは実際に車いすで生活をしている方の「履きやすいジーンズでオシャレをしたい」という要望を、その経営者の方が具現化したものです。「服の持つチカラ」を広げたいという想いがあったのです。
コンセプトから生まれるデザイン
コンセプトができたら、そこからデザインが生まれてきます。ただカッコいい服をデザインした、自分が着たいからデザインしたというのではなく、根底にしっかりとしたコンセプトが必要なのです。コンセプトがしっかりしていれば、デザインに一貫性が生まれ、ブランドとしてわかりやすくなります。そこに共感してくれるファンができれば、ブランドとして継続的に経営していくことができます。
2.マーケティング
マーケティングとは
次にマーケティングが必要になります。マーケティングというと市場調査とか、広告宣伝などを思い浮かべるかもしれませんが、それはマーケティングの一部でしかありません。また、マーケティングは大企業がすることという捉え方も多いですが、中小企業でもマーケティングをよく考えないことが売れない原因であることが多いのです。
マーケティングはそれほど難しいことではありません。ターゲットカスタマーを絞り込み、それに合った4Pを考えるだけです。4Pというのは、製品(Product)、価格(Price)、場所・流通形態(Place)、販売促進(Promotion)です。先ほどの市場調査や広告宣伝は販売促進の一部ということです。
ターゲットカスタマー
まずターゲットカスタマーですが、これはコンセプトを考える時にすでに決まっていることも多いです。「こういう人に届けたい」という想いの「こういう人」がそれに当たるからです。ターゲットカスタマーはなるべく絞り込んだ方がいいです。その方がわかりやすくなるからです。絞り込みの例でいうと、【男性か女性かユニセックスか】、【年代は】、【どんな職業か】、【どこに住んでいるか】、【どんな趣味か】などです。絞り込んだからといって、その人にしか売れないという訳ではないので、思い切って絞り込んでみてください。
製品(Product)
製品もコンセプトを考える時点で決まっていることが多いです。製品はそのターゲットカスタマーに届ける商品です。ターゲットカスタマーが欲しいと思うものでなければなりません。潜在的な需要を掘り起こすものでもいいです。また製品は自分たちの強みを活かしたもの方が、他との差別化ができていいです。自分が作りたい服、着たい服を作るのもいいのですが、しっかりお客様を想像することを忘れないでください。見失い欠けたときはコンセプトに立ち返ってください。
価格(Price)
価格は決めたターゲットカスタマーだったらいくらまで出すのかということです。一人暮らしでアルバイトをして生活費を賄っている学生をターゲットにしているのに、10万以上するような価格を付けるのはミスマッチです。同じ学生でも洋服にこだわりを持っていて、自宅暮らし、洋服を買うためにバイトをしているような人がターゲットなら10万でもいいかもしれません。
中小企業の戦略として安価をうりにするのはやめましょう。価格競争に陥ると体力勝負になり、資金力の乏しい中小企業に勝ち目は薄いです。付加価値を付けた商品でターゲットカスタマーに合った、ある程度の価格を付けていきたいです。
場所・流通経路(Place)
場所ということですが、どこで売るのか、どういう流通経路で売るのかということです。これもターゲットカスタマーに合わせたものが必要です。例えば、上記のような学生なら若者がよく利用しそうなネットショップでもいいです。また、学生のよく行きそうな街でポップアップストアを行うというのもあります。今は学生もリモート授業ですから環境変化を理解することも大切です。また、顧客に直接販売するのか、セレクトショップなどに卸して販売するのかなどもあります。
販売促進(Promotion)
最後に販売促進ですが、これには営業活動、広告宣伝、プレスリリース、展示会、市場調査などが含まれます。これもターゲットに合わせた販売促進活動が必要になります。広告宣伝、プレスリリースならどういう媒体をターゲットはチェックするのか、SNSならどのSNSがいいのか、どういう投稿を好むのか、営業ならどこに行くのが最適なのかなどを考えていきます。
マーケティングのまとめ
このマーケティングを疎かにしてしまうと、いくらいいものを作っても売れません。ターゲットカスタマーを絞り込み、そのターゲットに合わせた4Pを考えて、実行していきます。ターゲットカスタマーと4Pをしっかり合わせていきます。この作業を忘れずに行ってください。また、上手くいかなかったらどんどん修正していきましょう。
3.資金(財務)
始めるには資金が必要
いくらいいコンセプト、デザイン、マーケティングができても、資金がなければビジネスを始めることはできません。しかも、初めは売上が上がらないので、費用ばかり掛かってきます。事業開始資金(ここでは触れません)、サンプル材料費・作成費、販売促進費(展示会、パンフレット、撮影、営業等)、出店費用など出ていくばかりです。また、初めは資材調達をするにも掛け売りなどしてもらえないので、即支払いをしていくことになります。そのため、ある程度の資金を初めに準備しておく必要があります。この資金はどれくらいサンプルを作るのか、どのような販促をしていくのかなどにより変わってきます。今はネット販売でサンプルの横展開は少なくて済んだり、出店費用も掛からなかったり、販促はSNSを駆使したりすることで資金を抑えることができますが、それでもある程度の資金は必要です。
資金計画を立てる
まずはどれくらいの資金が初めに掛かるのか、どれくらい売っていって回収できるのか、最低3年先までの資金計画を立てる必要があります。当初作った資金計画がその通りに行くことはまずないので、この計画もやりながら修正していきます。ここで押さえておくべき数字は、初期のサンプル作成など販売に至るまでの費用、販売計画=売上高(数量、金額)、売上原価(製造コスト)、販売管理費(給与、家賃、出張費、通信費、光熱費、運賃、広告宣伝費等)です。これを3年分出すことで、資金計画表を作成することができます。その計画で黒字にいつなるのか、そこまで資金がどれだけ必要になるのかがわかります。資本金がどれだけ必要かということです。
資本金について
資本金というのは事業を始める時に用意する資金のことです。資金計画から初期費用と黒字になるまでの費用が500万掛かったとします。500万をどう集めますか?自分が蓄えたものを使うのが誰にも迷惑を掛けなくて済むのでいいです。親族から借りるということもあるでしょう。あなたのビジネスに共感した人から出資を受けるというのもあるでしょう。クラウドファンディングがこれに当たります。
初めは融資に頼らない
いきなり事業開始資金を金融機関から借り入れるというのはお勧めできません。実際には事業をまだ行っていない会社に銀行は基本的に融資しませんが、政府系の日本政策金融公庫は「新創業融資制度」で融資をしてくれます。融資というのは返済する義務があります。事業が上手くいかどうかわからない状態で数年先まで返済義務を負ってしまうのはリスクが大きいです。初めは融資に頼らず自己資金で賄っていくのが王道です。
資金繰りについて
資金繰りというのは、現金の収支のことです。黒字倒産という言葉は聞いたことがあるでしょうか。利益は黒字でも現金がなく倒産してしまうことを言います。これは事業開始当初はないですが、順調にビジネスが進んでいき、規模も徐々に大きくなってきた時に起こりえます。売上の回収と支払いのタイミングのズレによるものです。例えば、1月に100万円セレクトショップに売り上げ、この製造原価が50万円、販売管理費が20万だとします。100万-50万-20万=30万円の営業利益で黒字です。売上100万円を回収できるのが掛け売りのため2月末だとします。一方で、製造原価、販売管理費は1月末まで払わなければならないとします。1月末に70万の支払いが発生しますが、売上回収は2月末のため、現金が足りないという事態になるのです。この場合、1月末の支払いができるように70万円を予め用意しておく必要があります。このような現金の流れを予測していくのが資金繰りです。
財務諸表の理解
「ブランドを起こす」=「会社を経営する」ということになります。会社を経営するためには最低限の財務の知識をもっておく必要があります。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の財務諸表と資金繰りについては理解をしておいてください。言葉だけ聞くと難しそうに感じますが、要点さえわかってしまえば、それほど難しいものではありません。
財務についてのお勧めの書籍:「財務3表一体理解法」作者: 國貞克則 · 朝日新聞出版
まとめ
アパレルブランドを立ち上げる際に押さえておくべきコンセプト、マーケティング、資金について説明してきました。コンセプトはブランドを立ち上げるあなたの想いです。その想いがデザインに結び付きますし、他社との差別化にもなります。マーケティングはターゲットカスタマーと4Pをマッチさせることで、売れる仕組みを作り上げることができます。そして資金のところで、財務の知識を持ち、お金の流れを理解して、資金計画を立てることで、資金ショートなどお金にまつわるリスクを回避します。
ブランド立ち上げでは想いだけ突っ走ってしまうケースをよく見ますが、しっかりマーケティング、資金に関することも押さえておきましょう。
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