もくじ
ファスナーとは
概要
ファスナー(日本語名:ファスナー・ジッパー・チャック/英語名:fastener・zipper)とは、衣類などに用いる留め具のうち2つの部分を合わせて固定させるもので、何度でも自在に開け閉めできることが特徴です。大きく分けて「点ファスナー」「面ファスナー」「線ファスナー」の3種類があります。
ファスナーは大きく分けて3種類
- 点ファスナ
- 面ファスナー
- 線ファスナー
1.点ファスナー
点ファスナーは点で留めることを意味します。工業用ですと、ボルト、釘、ナットなども点ファスナーの分類に入るそうですが衣料用として代表的な物は、ドット釦(SNAP FATENER)です。
ちなみにドット釦の名称は、第一次世界大戦の頃にアメリカのDOTファスナーズ社が開発したためドット釦の名称として一般的になったようです。
2. 面ファスナー
面で留めるファスナーで、代表的な物としてはマジックテープ、ベルクロ、クイックロンなどがそうです。一般的にはマジックテープの呼び方が一番分かりやすいかもしれません。ちなみに、マジックテープは㈱クラレ、ベルクロはベルクロUS社、クイックロンはYKKの商標です。
- (株)クラレ:マジックテープ
- ベロクロUS社:Velcro® Brand ALFA-LOK® Fastener
- YKK:クイックロン
3.線ファスナー
線で留めるファスナーで、皆様がファスナーと聞いた場合、多くの人が想像するのがこの線ファスナーです。スライドファスナー、ジッパー、ジップ、チャックなどとも呼ばれていますが一般的にはファスナーの呼び方で親しまれています。
※この記事では「ファスナー」を最も一般的な「線ファスナー」として解説していきます。
ファスナー各部の名称
ファスナーの各部の名称についてご説明します。
エレメント
務歯(むし)とも言い、エレメントが噛み合うことで生地などの2つの部分が固定される作りになっています。
スライダー
ファスナーを開閉する際にエレメントをかみ合わせる役割をします。用途(ロック機能)やデザインに合わせて様々な種類があります。
テープ
生地へ取り付ける際に縫製をする部分です。カラー展開が豊富で、ファスナーの種類によって様々なデザインがあります。
止め(下止め、上止め)
スライダーがエレメントから外れないよう、エレメントの終始点に置く金具(または樹脂)です。
「ファスナー・ジッパー・チャック」成り立ちと名称の違い
線ファスナー(以下ファスナー)は、「ファスナー」「ジッパー」「チャック」という3種類の呼び方があります。この呼び方はファスナーの成り立ちと深く関係しています。
ファスナーの起源
ファスナーの起源は1891年米国ノホイットコム・ジャドソン氏が今まで不便だった靴紐を結びやすくするために開発したものと言われています。
ジッパー(Zipper)の起源
1921年には、米国のメーカーであるグッドリッチ社がファスナーを閉めるときの音である「zip」という擬音語から「ジッパー(zipper)」という商標を取得し、呼び名が浸透していきました。
チャックの起源
その後1927年、ファスナーが日本にやってきた際に尾道で「巾着(きんちゃく)」をもじって「チャック印」という商標でファスナーが製造販売されました。
ファスナーとジッパーは世界共通、チャックは日本のみの呼び方
チャック印のファスナーは丈夫で壊れにくくかったことから全国に広まり、日本ではファスナーの別の呼び方として「チャック」が浸透していきました。そのため、「ファスナー」「ジッパー」は世界共通ですが「チャック」は日本のみで通じる呼び方となっています。
YKKファスナーのなるほど 「ファスナー」と「チャック」「ジッパー」の違い
用途
衣類
パンツのフロント・ポケット/上物のフロント・ポケット・アームホール(ベストとして腕部分を着脱できる製品)・フードの収納部分
小物
鞄・ポーチ等の開き口、車の座席シート
魅力
目的に合わせてorデザインで選べる 豊富な展開
ファスナーの魅力は、使用する目的や好みのデザインに合わせて数えきれないほどの豊富な種類があることです。
よく知らないと「ファスナーなんてどれも同じじゃないの?」と思うかもしれませんが、ジーンズの洗い加工にも耐えられる丈夫なファスナー・生地からファスナーが見えないように使いたいときに適しているファスナー・柔らかい生地やファスナーを曲線状に縫製したいときに向いている伸縮性のあるファスナーなど、使用目的によってファスナーのエレメント(務歯)部分やテープ・スライダー部分に工夫を凝らしていて、目的によって選択することができます。
また、ファスナー自体のデザインも豊富で、エレメント(務歯)ひとつひとつに磨きをかけた高級感のあるファスナーや、1940-50年代のアメリカのヴィンテージファスナーのデザインを再現した味のあるデザインのファスナー、左右のエレメント(務歯)とテープが全て違う色になっている遊び心のあるファスナーなど、シンプルなデザインの衣類にファスナーをアクセントとして使うこともあるほど、単体でデザイン性のあるものもあります。
代表的なファスナーの種類
ファスナー(線ファスナー)は大きく分けて「金属ファスナー」「コイルファスナー」「ビスロンファスナー」の3種類あります。
※メーカーによって種類も違う為、本記事では日本で95%以上のシェアを誇るYKKのファスナーについて述べさせていただきます。
代表的なファスナーの種類3つ
- 金属ファスナー(メタルファスナー)
- コイルファスナー(樹脂ファスナー)
- ビスロンファスナー
それぞれの特徴と代表的なファスナーについて解説していきます。
1.金属ファスナー(メタルファスナー)
金属ファスナーとは、エレメント(務歯)が金属でできているファスナーです。ジーンズやパンツ、カジュアルなアウターなどに使用されます。
※YKKの金属ファスナーの商品一覧はこちら:
YKK公式サイト『メタルファスナー』一覧
代表的な金属ファスナー
代表的な金属ファスナーは4つ
-
メタルファスナー(スタンダード)
-
YZiP(ワイジップ)
-
EVERBRIGHT(エバーブライト)
-
EXCELLA(エクセラ)
それぞれの特徴は以下
メタルファスナー(スタンダード)
メタルファスナー(スタンダード)とは、一般的な金属ファスナーです。エレメントに合金、丹銅、洋白を使用しています。
YZiP(ワイジップ)
YZiPとは、ワンウォッシュなどの洗い加工に対応したジーンズ専用のファスナーです。メタルファスナー(スタンダード)よりもエレメントの厚みを増すことで丈夫にしています。
ジーンズのフロント部分によく使われているため、通常のポリエステルテープと、コットンとポリエステル交織のテープ(よりジーンズの見た目に近いテープ)の2種類があります。
エレメント部分をアルミ合金にした軽量タイプもあります。
EVERBRIGHT(エバーブライト)
EVERBRIGHT(エバーブライト)とは、エレメント部分を磨き、防錆処理と両面クリア塗装を施した、通常の金属ファスナーより耐食性に優れた(腐食しにくい)ファスナーです。磨きをかけているため手触りが良く、金属の持つ本来の輝き・光沢感が維持されます。
ウール素材の生地に金属ファスナーを使用すると、ウールの洗浄溶剤の残留塩素がファスナーの金属メッキと反応してファスナーが腐食してしまうことがありますが、「EVERBRIGHT」であれば、それを防ぐことができます。
EXCELLA(エクセラ)
EXCELLA(エクセラ)とは、エレメントの一つひとつに入念に磨きをかけた、高級感のあるファスナーです。
見た目も光沢があり美しいのですが、スライダーを動かす感覚が気持ちいいほどなめらかで、デザイン性と機能性を兼ね備えたファスナーです。
繊細なエレメントのシングルタイプ、重厚なエレメントのダブルタイプがある他、エレメントの色展開が豊富な点も魅力のひとつです。
2.コイルファスナー(樹脂ファスナー)
コイルファスナーとは、エレメントがポリエステルやナイロンを素材としたコイル状になっているファスナーです。
柔軟で加工もしやすいのが特徴で、衣類だけでなくポーチや鞄などにもよく使われています。
※YKKのコイルファスナーの商品一覧はこちら:
YKK公式サイト『コイルファスナー 』
代表的なコイルファスナー
代表的なコイルファスナーは7つ
-
コイルファスナー(スタンダード)
-
CONCEAL(コンシール)
-
EFLON(エフロン)
-
SOFLEX(ソフレックス)
-
AquaGuard(アクアガード)
-
PRIFA(プリファ)
-
METALION(メタリオン)
それぞれの特徴は以下
コイルファスナー(スタンダード)
コイルファスナー(スタンダード)とは、最もスタンダードなタイプのコイルファスナーです。金属ファスナーやビスロンファスナーと比べて、柔軟性がある点が特徴です。
CONCEAL(コンシール)
CONCEAL(コンシール)ファスナーとは、エレメントと縫い目がテープの表にでないようになっているファスナーです。ワンピースの背中やスカートの脇など、ファスナーを目立たせたくないときに使います。また、ポケットに使うことで服全体のデザインを邪魔することなく機能性を付加することもできます。
EFLON(エフロン)
EFLON(エフロン)ファスナーとは、エレメントを直接テープに織り込んでいるファスナーです。通常のコイルファスナーよりも薄く、耐久性に優れています。
メンズ用パンツのフロントによく使われています。
SOFLEX(ソフレックス)
SOFLEX(ソフレックス)とは、テープにストレッチ素材を使用しエレメントに特殊な工夫を施すことにより、縦方向の伸縮を可能としたファスナーです。1kg荷重の時に約10%伸長します。しなやかでドレープ性にも優れるため、薄く柔らかい生地にも追従して自然なシルエットを表現できます。
AquaGuard(アクアガード)
AquaGuard(アクアガード)とは、テープの表面をポリウレタンのフィルムでラミネート加工することで簡易的な止水性を持たせたファスナーです。
「止水」という機能からレインウェアに使われていることが多い商品でしたが、テープの艶や、つや消しのさらっとした感じが人気となり、そのデザイン性の高さからカジュアルでも使われるようになっています。
PRIFA(プリファ)
PRIFA(プリファ)とは、お好みのデザインをインクジェットプリントができるファスナーです。スタンダードなコイルファスナーに加え、AquaGuard(アクアガード)にもプリントすることができます。ブランドロゴを入れて、ブルゾンのフロント等に使われることが多いです。
METALION(メタリオン)
METALION(メタリオン)とは、シルバーやゴールドなどの金属カラーをエレメント部分(コイル部分)で表現した、金属調のコイルファスナーです。
コイルファスナーの軽量さを維持しつつ、金属ファスナーが持っている重厚感や金属の輝きを兼ね備えています。
3.ビスロンファスナー
ビスロンファスナーとは、ポリアセタールやナイロン、ポリプロピレンなどの樹脂をテープに射出成型することでエレメントを形成しているファスナーです。
金属・コイルファスナーと比較してエレメントの見えている面積が大きく、おもちゃのようなポップな印象があります。
※YKKのビスロンファスナーの商品一覧はこちら:
YKK公式サイト「ビスロン® ファスナー」一覧
代表的なビスロンファスナー
代表的なビスロンファスナーは以下4つ
-
ビスロン(スタンダード)
-
AquaGuard ビスロン
-
PRIFA
-
METALUXE(メタルックス)
それぞれの特徴は以下
ビスロン(スタンダード)
ビスロン(スタンダード)とは、最もスタンダードなタイプのビスロンファスナーです。
樹脂製のため、同じサイズの金属ファスナーと比べて軽量なのが特徴です。
AquaGuard ビスロン
コイルファスナーで紹介した、AquaGuardのビスロン版です。
AquaGuard(アクアガード)とは、テープの表面をポリウレタンのフィルムでラミネート加工することで簡易的な止水性を持たせたファスナーです。
「止水」という機能からレインウェアに使われていることが多い商品でしたが、テープの艶や、つや消しのさらっとした感じが人気となり、そのデザイン性の高さからカジュアルでも使われるようになっています。
PRIFA(プリファ)
コイルファスナーで紹介した、PRIFAのビスロン版です。
PRIFA(プリファ)とは、お好みのデザインをインクジェットプリントができるファスナーです。ビスロンファスナーでもプリントすることができます。スタンダードなビスロンファスナーに加え、AquaGuard(アクアガード)にもプリントすることができます。ブランドロゴを入れて、ブルゾンのフロント等に使われることが多いです。
METALUXE(メタルックス)
METALUXE(メタルックス)とは、エレメント部分をメタル調の樹脂にした、メタルファスナーのような外観と樹脂の軽さを兼ね備えたファスナーです。通常のメタリックカラーのみでなく、カラフルな高輝度タイプ・より金属の見た目に近い光沢感が特徴の箔転写タイプなどバリエーションが豊富です。
代表的なファスナーメーカー
国内外のファスナーの代表的な資材メーカは以下
- 『YKK(ファスニング事業部)』ー日本
- 『朝日ファスナー』ー日本
- 『IDEAL FASTENER CORPORATION』ーアメリカ
- 『RIRI excellence in details』ースイス
- 『RACCAGNI CHIUSURE LAMPO』ーイタリア
国内
YKK(ファスニング事業部)
メーカー名 |
YKK(ファスニング事業部) |
---|---|
URL | https://www.ykk.co.jp/japanese/business/fastening.html |
YKKとは、日本のアパレルのうち95%のシェアを誇る最大手のファスナーメーカーです。
国内では富山県に工場があり、海外でも50か国以上に拠点があります。品質にも安心感があり、信頼性の高いメーカーとして人気です。
YKKファスニングサポート
YKKが運営する、YKKファスニングサポートサイトでは、ファスナーの商品一覧から、カタログ、その他よくあるご質問など、ファスナーに関することがまとめられています。特にカタログは、ファスナー発注の際に便利です。
朝日ファスナー
メーカー名 |
朝日ファスナー |
---|---|
URL | https://www.waldes.co.jp/ |
朝日ファスナーとは、「WALDES」で有名な日本のファスナーメーカーです。
1930-50年代のファスナーをリアルに復刻したヴィンテージ感溢れるデザインが特徴で、1本1本手作りでこだわりのファスナーを作っています。
海外
IDEAL FASTENER CORPORATION
メーカー名 |
IDEAL FASTENER CORPORATION |
---|---|
ファスナーブランド名 |
IDEAL(アイディール) |
国 |
アメリカ |
URL | https://www.idealfastener.com/ |
IDEAL社とは、1936年にアメリカのニューヨークで創業した老舗のファスナーメーカーです。YKKに次ぐ世界2位のシェアを持つメーカーで、世界各国で販売しています。ヴィンテージ調のスライダーが特徴で、豊富なデザインはもちろん、スライダー部分に「IDEAL」「USA」などと刻印されているのも魅力のひとつです。
RIRI excellence in details
メーカー名 |
RIRI excellence in details |
---|---|
ファスナーブランド名 |
riri(リリー) |
国 |
スイス |
URL |
ririとは、1936年にスイスのティチーノ州にて創業した高級ファスナーメーカーです。
エレメント部分が固めなつくりになっており、歯が外れたり欠けたりしにくいと言われています。スライダーのデザインにも特徴があり、「Kスライダー」と呼ばれる丸みのあるデザインのスライダーが人気です。
RACCAGNI CHIUSURE LAMPO
メーカー名 |
RACCAGNI CHIUSURE LAMPO |
---|---|
ファスナーブランド名 |
Raccagni(ラッカーニ) |
国 |
イタリア |
URL |
Raccagni(ラッカーニ)1983年にイタリアで創業した高級ファスナーメーカーです。
エレメントの美しいメッキの仕上げが特徴で、上品な輝きと高級感のあるカラーが人気です。ハイブランドでも幅広く採用されており、デザイナーからの人気も高いメーカーです。
ファスナーの選定ポイント
基本的な選定ポイントとして、《価格》《デザイン》《使用箇所》《製品の着用シーン》《生地との相性》について説明致します。
5つの基本的な選定ポイント
- 価格(作りたい服の上代とファスナーメーカー・種類とで)
- デザイン(作りたい服のイメージやデザインは?)
- 使用箇所(製品のどこに使用する?)
- 製品の着用シーン(どんなシーンで着用する?)
- 生地との相性(生地・生地の加工と相性が良い?)
選定ポイント1.価格
作りたい服の上代と相談しながらメーカー・種類を選定
ファスナーの価格によって、ファスナーメーカーや種類を選定することができます。
- 高級ブランドの為、上代の高いブランド向け
⇒朝日ファスナー・riri・Raccangni - 海外製の為運送費はかかるが、YKKと同等
⇒IDEAL - 低価格高品質、世界中に拠点があり中国など海外生産でも利便性が高い
⇒YKK
上記で紹介した資材メーカーごとの価格の違いですが、国内の朝日ファスナー、海外のriri、Raccagniは高級ブランドとなっており、上代(販売価格)の高いブランドでないとなかなか使えないファスナーとなっています。特に海外製のファスナーメーカーだと輸入の際に別途運送料がかかるため、より高くなってしまいます。IDEALファスナーの単価はYKKと同等なので、運送費はかかるもののriri、Raccagniよりは安く使うことができます。YKKは世界各国に拠点があるため、中国の縫製工場で製品を縫製する場合は、中国YKKでファスナーを生産して陸路で輸送するなど、運送費を抑える工夫をすることも可能です。
また、同じYKKの金属ファスナーでも、通常の金属ファスナーとエレメントに磨きをかけたエクセラファスナーを比較すると約6倍の値段になります。
作りたい服の上代と相談しながら選定する必要があります。
選定ポイント2.デザイン
作りたい服のイメージやデザインにより選定
ファスナーは豊富なデザインが特徴なので、作りたい服のデザインによっても選定することができます。
例えばYKKのコイルファスナーを製品のポケットに使用するとします。あまりファスナーを目立たせたくない場合は、通常のコイルファスナーの裏使い(エレメントを見えなくする仕様)やコンシールファスナー、軽くワンポイントにしたい場合はMETALIONの裏使いで金属調のエレメントを直線状にチラ見せさせる・AquaGuardのマットなテープで生地との質感の違いを楽しむこともできます。また、しっかりとファスナーを目立たせて製品のアクセントにしたい場合はPRIFAでブランドロゴをプリントしたファスナーを使うなど、同じYKKのコイルファスナーでも製品デザインのイメージによってファスナーの種類を選定していくことができます。
選定ポイント3.使用箇所
製品の使用部位により選定
製品のどの部分にファスナーを使うかによっても、ファスナーを選定していく必要があります。
例えば、スライダーのロック機能です。鞄に使うファスナーの場合はスライダーを引っ張ったときだけでなく、エレメント部分を手で引っ張ったときも開閉できたほうが便利であるため、スライダーのロック機能「ノンロック」を使うことが多いです。それに対してパンツのフロントファスナーは、歩いたり動いたりしているうちにファスナーが開いてしまっては大変なので、スライダーのロック機能「オートマチックロック」や「セミオートマチックロック」など、エレメントを引っ張ってもスライダーが上下しない仕組みのものを選定する必要があります。
選定ポイント4.製品の着用シーン
どんなシーンで着用するかで選定
製品をどんなシーンで着用するかも、ファスナー選定の重要なポイントになります。
着用してスポーツをすることを目的とした製品であれば、できる限り製品の重量を軽くしたいため、金属ファスナーよりも、コイルファスナー・ビスロンファスナーが使われます。運動をしている際に金属ファスナーのエレメント部分が当たると痛いという意味でも、スポーツ系の衣類に金属ファスナーは、あまり好まれません。
スポーツ製品でも、「デザイン的に金属のファスナーを使いたい!」という場合は、金属調のコイルファスナーMETALIONや、金属調ビスロンファスナーMETALUXEの箔転写タイプがおすすめです。
選定ポイント5. 生地との相性
生地・生地の加工により相性の良いファスナーを選定
ファスナーを選定する上で、「生地との相性」も重要なポイントとなっています。
生地毎の選定
例えばウール系の製品にファスナーを付ける場合です。ウールを漂白する際の塩素が残留しており、製品袋内で気化した残留塩素が金属メッキを腐食させる恐れがあるため、基本的に金属ファスナーの使用はお勧めしません。使用したい場合は、防錆処理と両面クリア塗装が施されている「EVERBRIGHT」という種類の金属ファスナーを使用するようにしてください。
また、ストレッチ生地のアウターや、ボアジャケット、ジャージ等の伸縮性のある生地には、テープとエレメントに伸縮性を付与したコイルファスナー「SOFLEX」がおすすめです。
生地の加工による選定
他にも、生地の加工によっても選定する必要があります。例えばジーンズのパンツを製品縫製後に洗い加工をする場合です。通常の金属ファスナーを洗い加工で軽石と一緒に洗うと、ファスナーが衝撃に耐えられず壊れてしまうことがあります。そのため洗い加工をする際は、エレメントの厚みを増して丈夫にしたYZiPという種類のファスナーに、専用のスライダー(GSN8など)を付けて使用することをおすすめしています。
資材発注時の注意とポイント
ファスナーの発注時の注意とポイントは2つ
-
発注内容に抜けが無いかチェック!
-
納期によって「工場手配」と「加工手配」を使い分ける
以下、それぞれの注意とポイントです。
発注時の注意とポイント1.発注内容に抜けが無いかチェック!
ファスナーは、ファスナーの種類やスライダーの種類、テープの色など組み合わせが多い分、発注の際に記載が必要な項目が抜けがちになります。
抜け部分の確認をしているうちに納期に間に合わなくなってしまう・・・ということがあると大変なので、ファスナー発注の際は、必要な項目に抜けがないかを必ず確認するようにしてください。
6つのチェック項目
以下6つの項目で、発注内容に抜けが無いかに加え、適正に選択しているか注意が必要です。
-
エレメントの大きさ
指定抜け、適正な大きさか確認
※使用用途・サイズ・生地との相性・デザイン性から選ぶ -
エレメントの種類
指定抜け、適正な種類か、発注コードに誤りがないか確認
※エレメントの種類、色・サイズにより、発注コードが変わる
-
製品区分(エンド部分)
指定抜け、製品区分に誤りがないか確認
※製品のどの部分に使うかで、選択する製品区分が決まる
-
スライダーの種類
指定抜け、指定したファスナーにスライダーが対応しているか確認
※スライダーとファスナーは自由に組み合わせられるわけではない -
テープカラー
指定抜け、色展開と納期を確認
※カラー展開は豊富だが、種類による色展開、納期が異なる
※サンプルは色の似寄りで、本発注で本命、と臨機応変な発注も大事
-
寸法
指定抜け、ファスナーの寸法が適正か確認
※卸会社や代理店では0.5cm単位で発注できる為
下記に各チェックポイントを述べさせていただきます。
項目1.エレメントの大きさ
1つ目は、エレメントの大きさです。理由は、使用用途・生地との相性・デザイン性により、どのエレメントサイズにするかを決める為です。
エレメントの大きさの種類はNO.3~NO.10まで6種類
ファスナーのエレメント(務歯)の大きさは、一般的にNO.3~NO.10まで6種類ほどあります。(ファスナーの種類によってサイズ展開が少ないものもあります)
※種類によっては、NO.3より小さいサイズや、NO.10より大きいサイズのファスナーもあります。
大きさの選び方
エレメントの大きさは、使用用途や生地との相性・デザイン性によって選びます。
例えば薄手の生地に金属ファスナーを使用したい場合は、あまりサイズが大きいと重みで生地に負荷がかかってしまうため、小さめサイズのファスナーを選択します。
逆に革製品などで生地が重いブルゾンなどはNo3などの小さいサイズのファスナーだと弱いので、No5以上のファスナーを使います。
また、ミリタリー系のカバンなどであえてファスナーを大きく目立たせたい場合は、エレメントのサイズが大きめのコイルファスナーを使ってワンポイントにすることもあります。
- 薄手生地x金属ファスナー
No.3等小さめサイズ - 革製品など、生地が重いブルゾンなど
No.5以上のファスナー - ミリタリー系などファスナーを目立たせたい
エレメントが大きめのコイルファスナーでワンポイントに
項目2.エレメントの種類
2つ目は、エレメントの種類です。理由は、エレメントの種類、色・サイズにより、発注コードが変わる為です。
エレメントの種類は「金属(メタル)」「コイル」「ビスロン」の3つ
ファスナーのエレメントには、大きく分けて「金属(メタル)」「コイル」「ビスロン」の3種類があります。その中でも特徴により何種類かに分かれており(上記「代表的なファスナーの種類」参照)、さらにもエレメントの色やサイズによって、発注の際のコードが変わってきます。
ファスナーの発注コードは総合カタログ『YKKファスニング専科』のサンプル帳が便利
YKKファスニング専科というサンプル帳に、ファスナーの種類毎にコードがまとめられている表があるので、発注の際はそちらを参考にしてください。
⇒YKK『カタログダウンロード』ページへ
※カタログページ最初の総合カタログ『YKKファスニング専科』でPDFをダウンロードできます。
項目3.製品区分(エンド部分)
3つ目は、製品区分の確認です。理由は、製品のどの部分に使うかで、選択する製品区分が決まる為です。
製品区分とは
製品区分とは、ファスナーが開いているときに、スライダー側にあるおさえ部分の種類によって分けられます。大きく分けて【止め(C)、開き(OR/OL)、逆開(MR/ML)】の3種類があり、これは製品のどの部分に使うファスナーかによって決まります。
製品区分の選び方
■止め(C)
例えばパンツのフロントファスナーや、ポケットファスナーのように、生地が左右に分離しない場合は「止め」
■開き(OR/OL)
ブルゾンのフロント等、左右に完全に分離させたいときは「開き」を使います。
■逆開(MR/ML)
そして、開きに2つスライダーを付けて、下からも開閉できるようにしたものが「逆開」です。逆開も、「開き」同様にブルゾンのフロント等に使われています。
開きの「右押し(OR)」と「左押し(OL)」
また、「開き」の中でも左側にスライダーが付いていて、右側から挿し込むタイプを「右挿し(OR)」、その逆を「左挿し(OL)」と言います。
■日本は右挿しが主流「開き(オープン)ください」で通じる
日本では基本的に右挿しが使われているため、「開き(オープン)ください」と言えば基本的に右挿しファスナーになります。
■左挿しの仕様事例
左挿しファスナーの使用事例としては、アームホールにファスナーが付いていて、腕部分の着脱ができる仕様のダウン等によく使われています。右挿し、左挿しをそれぞれの袖に使うことで元に戻す際に左右を間違えることを防げます。
項目4.スライダーの種類
4つ目は、スライダーの種類です。理由は、スライダーとファスナーは自由に組み合わせられるわけではない為です。
使えるスライダーは、ファスナーの種類により品番が決まっている
スライダーとは、ファスナーを開け閉めするための持ち手部分のことで、ファスナーの種類によって使える品番が決まっています。
確認ポイント1.スライダーが対応しているか!
発注の際は、使いたいファスナーの種類に使いたいスライダーが対応しているかどうか、確認をしておくと安心です。
■スライダーとファスナーの対応表は、YKKの「スライダーカタログ」が便利
どの品番がどの種類のファスナーに対応しているのかは、YKKのスライダーカタログに掲載されています。
⇒YKK『カタログダウンロード』ページへ
※カタログページ2番目の『スライダーカタログ』でPDFをダウンロードできます。
確認ポイント2.ロック機能の有無!
特に注意が必要なのは、スライダーのロック機能です。ロック機能とは、動いているうちにスライダーが重力で下がってきてしまわないように、スライダーの引手を引っ張ったときのみロックが外れる等の機能のことです。横向きにファスナーを使うショルダーバッグの開き口等はノンロックでも問題ありませんが、パンツやブルゾンのフロント等、動いているうちに下がってきては困る部分には、ロック機能が付いたファスナーを使う必要があります。
■ロック機能の有無の確認方法
ロック機能の有無の確認方法ですが、YKKのコードでは、スライダーの型番の2桁目がロック機能を表しており、2桁目がA、N、Sはロック機能があります。Fはロック機能が無いためオープン使いやフロント使いには不向きです。
項目5.テープカラー
5つ目は、「テープカラー」です。カラー展開の豊富さ、種類による色展開、納期を確認し発注するのがポイントとなります。
YKKファスナーのテープカラーは582色
YKKの場合、ファスナーのテープカラーは582色もの展開があります。
ファスナーにより色展開が少なかったり、色により納期がかかるものも
ファスナーの種類によっては色展開が少ないものや、色によっては納期が掛かるものもあります。サンプルでは使いたい色の似寄りで納期が早いものを使用し、量産では生地に合わせてズバリで発注する、など納期と相談してうまく使い分けているケースが多いです。
項目6. 寸法
最後は、ファスナーの寸法の確認です。
卸会社や代理店では0.5cm単位で指定可能
手芸屋さんに売っているファスナーの場合は ある程度決められた寸法でしか展開していませんが、付属屋やファスナーの代理店から購入する場合は、0.5cm単位で好きな寸法に指定することができます。
寸法方法(測り方に注意)
寸法の際は、測り方に注意しましょう。
手芸屋さんでは自分で長さを詰められる種類も!(詰め方の記事あり)
手芸屋さんに売っているファスナーの中には、自分で長さを詰められる(短くできる)種類もございます。ファスナーの加工方法(短くする方法)についてはこちらをご確認ください。
こんにちは。カジュアルファッションサポーターの吉澤(A)です。今回はファスナー加工についてご紹介いたします。動画付きで分…
発注時の注意とポイント2.納期によって「工場手配」と「加工手配」を使い分ける
「工場手配」「加工手配」の違い
項目 |
工場手配 | 加工手配 |
納期(比較的) | 遅い | 早い |
コスト(比較的) | 安い | 高い |
種類 | 自由に選べる | 色やスライダーの選択肢が限られる |
YKKのファスナーは基本的に富山にある工場で受注生産していますが、YKKと契約をしている代理店が決まったカラーの在庫を積んで、迅速に対応してくれることもあります。YKKの工場で一から生産をすることを「工場手配」、代理店の在庫から使い、加工場で寸法を加工する手配方法を「加工手配」と呼んでいます。サンプル等、色は似寄りでOK、とにかく急ぎで欲しい!という場合は「加工手配」を使うことが多いです。
「加工手配」の場合、長物を短くカットして作るため、「工場発注」よりも単価が高くなります。また、加工手配の場合は一度上止めを外して長さを短く調節する為、上止めが金属になりますのでご注意ください。(上止めを樹脂製にすることはできません)
- 工場手配:
YKKの工場で一から受注生産すること。
・メリット:単価が安い
・デメリット:納期がかかる - 加工手配:
代理店の在庫から使い、加工場で寸法を加工する手配方法。単価は工場手配より高い。
・メリット:サンプルやとにかく急ぎで欲しい!という場合
・デメリット:高額、色やスライダーの選択肢が限られる
早め早めの発注を!
YKKは日本の流通しているファスナーの大半を占める大きなメーカーなので、ロットの大きい発注が一気に入ってしまうなど、タイミングが悪いと納期が2か月かかってしまうこともあります。また、定番でない特殊な種類のファスナーは納期が掛かります。ファスナーはアパレル資材の中でも最も納期のかかる資材と言っても過言ではありません。余裕を持って発注をしておくと安心です。
縫製工場へデリバリーする際のポイント
ファスナーは多くの条件の組み合わせで複雑であるため、縫製工場にデリバリーする際には注意が必要です。また、縫製工場によっては、縫製する箇所や仕様によって、ファスナーの寸法や止めのタイプを変えたいという要望を言われることもあるので、発注前に縫製工場への確認が必要です。
縫製工場へデリバリーする際のポイントは3つ
-
どのファスナーをどの製品に使うのかを分かりやすく伝える!
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コンシールファスナーの寸法に注意!
-
ファスナーを圧着仕様で縫製するときは上止め・下止めの有無を確認!
-
ロスをみて発注!
以下それぞれのポイントの詳細です。
ポイント1.どのファスナーをどの製品に使うのかを分かりやすく伝える!
ファスナーは出荷時、英語と数字の組み合わせのコードで分類されています。そのコードを工場では理解しにくく、一度の出荷にファスナーを使う製品品番がいくつもあると、工場は誤って違うファスナーを使ってしまう事もあります。どのファスナーをどの製品品番に使うのか、分かりやすく表記しておくといいです。
ポイント2.コンシールファスナーの寸法に注意!
スカート脇などに使用し、表にファスナーが見えない仕様であるコンシールファスナーですが、発注の際は寸法に注意が必要です。コンシールファスナーは縫製上、必要な寸法(開き寸と言います)+上下に約2cmずつ(合計約4cm)の寸法で発注する必要があります。
この予備寸は工場によって違うので、縫製するのに+何cmが必要か、工場に確認をしてから発注をするようにしてください。
ポイント3.ファスナーを圧着仕様で縫製するときは上止め・下止めの有無を確認!
最近スポーツ系のアパレルでは、写真(写真貼る)のようにファスナーの上からホットメルトなどの圧着シートで縫い目を隠す、シームレスなデザインのポケットが人気です。
このような圧着シートと組み合わせてファスナーを縫製する際は、ファスナーの上止め・下止めの有無を工場に確認するようにしてください。工場の縫製方法によって違いますが「上止め・下止めを付けた方が縫製しやすい」という工場と、「上止め・下止め無し(TB-0)でスライダーがエレメントの中心にある(EL-TOJI)方が縫製しやすい」という工場があります。出荷を終えてから「このファスナーでは縫製できない」となると大変なので、事前に確認の上発注をすることをおすすめします。
ポイント4.ロスをみて発注!
ファスナーは他資材よりも納期が掛かるため、紛失やミスがあり量産で足りなくなってしまうと、1本生産するのにまた1か月以上かかってしまうこともあります。そのため、他の副資材以上に、ロスを考えて少し多めに発注しておくと安心です。
小売の際の注意とポイント
販売スタッフ・消費者等に必要なアナウンス
消費者の手に渡った後、消費者側が衣類のメンテナンスをする際に誤った方法をとってしまい、トラブルになるというケースが起こります。以下のケースに注意をしていただけるよう、事前アナウンスを行うのがポイントです。
主な《消費者》へのアナウンス
消費者へは、ドライクリーニングとアイロンの際の注意をすると良いでしょう。
1.ドライクリーニングに注意
コイルファスナーのうち、染色後のテープにエレメントを縫製している種類(メタリオン、コイルコンビネーションファスナー、透明コイルファスナー)は、ドライクリーニング時に高温乾燥を繰り返すと、ねじれが発生しやすくなります。ドライクリーニングを行う際は、必ずファスナーを閉じてください。
2.アイロンは当て布をして行う/スライダー部分は避ける
アイロンをする際は、必ずファスナーを閉じ、直接アイロンが当たらないように当て布をしてから行ってください。スライダー部分に圧力が加わると、引手破損や滑らかさに問題が起きることがあるため、避けてください。仕様上どうしてもアイロンが当たってしまう場合は、引手を正しい方向(開く方)に倒して行ってください。
おすすめ資材
環境にやさしいファスナー「GreenRise」
GreenRiseとは、従来のファスナーで使用する化石燃料のうち、30%を植物由来の材料に置き換えた、CO2の排出量を削減できるファスナーです。通常、ファスナーに使用しているポリエステルは、エチレングリコールとテレフタル酸で形成されています。
従来ならエチレングリコールもテレフタル酸も化石燃料から作るのですが、GreenRiseファスナーは2つのうち、エチレングリコールを、サトウキビから砂糖を作る時にうまれる副産物の廃糖蜜(はいとうみつ)から生成することで、ポリエステルの30%を植物由来の材料に置き換えています。
現在は5サイズのコイルファスナーのみの展開となります。
今回は、サスティナブルなYKKファスナー「GreenRise」「NATULON」のご紹介です。最近サスティナブルという言…
シャボン玉のように色が変わる?「AUROLITE(オーロライト)」
AUROLITE(オーロライト)とは、見る角度によってエレメントの色が変化する美しいファスナーです。これはシャボン玉が見る角度や光の当たり方によってレインボー色が変化するのと同じように、色(干渉色)の薄い被膜をエレメントにコーティングすることで色が変わって見えています。色展開も豊富で、色によってポップな演出ができるものもあれば、高級感が出るものもあります。かなり目立つので、製品のアクセントとしても使えます。
ちょっと目立ちすぎかな・・・という場合は、裏使いでライン状にチラ見せするのもおすすめですよ。
※参照:AUROLITE(YKK)
まとめ
組み合わせ次第でオリジナリティを出せるファスナー。知識を深めて魅力的な製品づくりを
ファスナーは組み合わせやコードが複雑で発注が難しい資材ではありますが、知れば知るほど面白く、とことんこだわることができるアイテムでもあります。逆によく分からないまま発注をしていると、間違ったものを頼んでしまい、すぐに正しいものを発注しても納期1-2か月かかってしまう⇒製品納期に間に合わない・・・と、大きな問題にもなり兼ねません。そうならないためにも正しい知識を身につけて、こだわりのファスナーを使うことができるようになれば、服作りがもっと楽しくなるのではないでしょうか。
参考文献