ファッション、アパレル業界では聞くことが多い“検針”。
こちらでは検針とは何か、なぜ必要なのか、検針検品の課題問題などと合わせてお伝えしていきます。
こちらの記事では、
- 検針とは
- 検針の成り立ち
- 検針機について
- 検針の問題課題
などについてご説明しております。
検針とは
繊維業界、アパレル業界でいう“検針”とは縫製後の服や小物などに針や折れた針の一部が混入していないかを検査する工程です。
生地を針と糸を使って縫い合わせて縫製品を生産しますが針が製品に混入した状態で販売されることで購入した消費者がケガをすると
危ないですしクレームに繋がります。針は主に鉄を含んだ鋼など金属でつくられていますが、その金属を検知する機械に通して針が
まぎれ込んでいないかを検品しています。
この針が混入していないかの検品をする工程を”検針”とよんでいます。
日本国内で製造販売される縫製品は、販売される前に基本的にほぼ全てこの検針工程が実施されています。
検針とPL法
検針の工程が必須になったのにはPL法が定められたことが大きく影響しています。
PL法(製造物責任法)とは、消費者保護を目的として日本では1995年に制定されました。
製造物の欠陥によって生命、身体または他の財産に損害を被った場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができる法律です。
世界初のPL法は1979年にアメリカで制定された“統一製造物責任法(統一PL法)です。
この統一PL法をもとに各国で同様の法律が定められていますが、日本のPL法も統一PL法をベースにつくられています。
1995年にPL法が定められて、故意でなく過失でも被害が発生した場合に製造責任が問われるようになり、アパレル、ファッション業界では
針等の混入による消費者の怪我を避ける為、検針工程が必須とされるようになりました。
検針機
検針機は検針工程で使用する機械で針や折れた針の破片、ホッチキス針などを検出する機械です。
アパレルメーカーや製造する縫製工場などでは、製品を出荷する前に、製品の中に針や針の破片が紛れ込んでいないことを、
検針機を使って検査しています。
検針機は、医療現場では、患者の頭部に針やヘアピンがないことを確認するためにも使用されています。
検針機の仕組み
検針機が被検査物の中から針や金属を見つける方式には大きく分けて2つあります。
磁場を利用する磁気誘導方式と電磁場を利用する電磁誘導方式です。
磁気誘導方式の検針機は永久磁石の間の磁界の中を鉄片が移動する際にできる磁界の歪みを検出する方式です。
電磁誘導方式はコイルに電圧をかけてうまれる電磁場を利用し検出します。
鉄だけでなく磁石に吸い寄せられないアルミやステンレスなども検知可能です。
検針機の種類
アパレル業界で使用されている検針機にも用途や作業スペースの広さなどによって、いくつか種類がありますのでご紹介します。
ハンディタイプ
ハンディタイプは手持ちができる小さいサイズの検針機です。
本体がセンサーになっていて、製品に近づけることで針などの残存物ないかを検知する仕組みになっています。
小型で取扱いしやすいですが、センサーと検査物との距離によって感度が変化するので、作業する際の感度にばらつきが出てしまいます。
卓上タイプ
卓上タイプの検針機は、センサー付きのフラットな台の上に製品を置き、針などの残存物を検出します。
比較的小型で場所を取りませんが、検査物が台の面から離れるに従って感度は低下しますので、
ハンディタイプ同様ばらつきが出る可能性があります。
コンベアタイプ
トンネル状のセンサーの中をベルトコンベアに乗せたアパレル製品を通過させる構造になっている検針機です。
ベルトコンベアで自動に検針機に流せる為、大量に生産し大量に検針作業をする縫製工場などでは、
このコンベアタイプの検針機が使用されています。
X線検査装置
センサーで検知するのではなく、X線技術で目視で針などが混入していないかを検査する機械です。
製品自体、もしくは使用している付属が検針機に反応してしまうような場合はコンベアタイプの検針機では
検品が進められない為、X線検査装置が使用されます。
代表的な検針機メーカー
株式会社ハシマ
1956年設立のアパレル生産に関わる機械を中心に取り扱っている会社です。
検針機の他、プレス機や裁断機などもあり、海外を含めてハシマ製の機械が設備されている縫製工場はかなり多いです。
アジアを中心に海外拠点も多く、機械のメンテナンスやフォローもしっかりしています。
株式会社サンコウ電子研究所
特にハンディタイプの検針機のシェアが高いです。
また最初にアパレル付属の検針基準を決める際に、付属メーカー数社と基準を決めたのがサンコウ電子になります。
検針対応付属
アパレルの付属にはボタンやバックルやホックなど金属製のパーツが数多くあります。
これらの金属製の付属を針と間違えて検針機が検知しないような加工をした付属を“検針対応付属”といいます。
生産の過程で金属粉が付着しないように管理した製造ラインで生産した付属や、検針機に反応する磁場が溜まりづらい設計にした付属、
また検針機に反応しないメッキ処理をした付属などです。
しかしどんなに検針対応の加工をしたとしても、金属の体積が大きいものを検針機に反応しないようにするのは物理的に難しいので
注意が必要です。金属のボタンやバックルも小さいサイズは検針対応ですが、大きいサイズになると検針非対応になっている付属などが
たくさんあります。
なるべく検針対応の付属を使用して、検針工程がスムーズに進められるようにしましょう。
検針基準
検針ですが、検針機で検知できる鋼球のサイズで検針の基準やレベルが定められています。
コンベア式の検針機などはだいたいが感度調整が出来るようになっています。基準となるテストピースを検針機に通して感度レベルを
調整しますが、0.8~1.2mm直径の鋼球を検知できるレベルを一般的に“A感度検針”という最も厳しい検針基準とされています。
これはミシン針の先端が折れた折れ針の混入を検知できる基準として定められています。
そして1.5~2.5mm直径の鋼球を検知できるレベルを“B感度検針”と呼んでおり、ミシン針自体の混入をチェックできるぐらいの
レベルとなっています。
縫製工場での検針管理
縫製品から折れ針などが出てきたら大変です。
全品回収のリコールとなり、納入業者が取引停止になることもあり、とても大きな問題となってしまいます。
生産現場では針が混入しないようにさまざまなルールをつくり、防止策を講じています。
ミシン針が折れた際には
ミシン針が折れた際は、周囲数mの中での作業をすべて止めて、折れた針を徹底的に探します。
床からミシン本体の内部まで折れた針の先が見つかるまで探します。
そして周囲にある縫製中の製品は全て検針機にかけて針が混入していないかをチェックします。
針管理台帳
工場では針自体や折れた針を、針管理台帳を作成して、管理しています。
折れた針は全てのパーツを管理台帳に貼らなくてはならず、全て貼らないと新しいミシン針が支給されないルールになっている工場もあります。
針在庫管理台帳、針交換管理台帳、など更に細かく台帳をつくって管理しているところもあり、それだけ厳しく細かくチェックがされています。
検針機動作チェック
検針機の動作不良がないか定期的にチェックします。ベルトコンベアタイプの検針機の場合は、1日に複数回、感度チェック用のテストピースを流して検知に問題が無いか確認します。また検針機内で通す場所によって感度が違わないか、複数箇所を通してチェックします。
入念な検針検品
生産したアパレル製品は最終工程で必ず検針機にかけられます。2回以上検針機に通してダブルチェック、トリプルチェックを
するケースもあります。
また一度検針機を通した製品と未検針の製品がまざらないように製品が逆流しないような徹底した動線管理もされています。
検針検品の課題
付属の検針感度のバラつき
金属製のアパレル付属は、各メーカーや付属商社で検針対応品を定めて検針対応付属として販売しています。
しかし検針対応付属といっても、検針基準はそれぞれで異なり、統一されているわけではありません。
例えば、とあるメーカーの金属製Dカンは、コンベア式の検針機のセンサー部分を並列に5個並べた状態で通して、
鋼球換算値1.0mmφ感度の基準を通れば検針対応品としている、別のメーカーの金属製ボタンは1個だけ検針機に通し、
鋼球換算値1.5mmφ感度に通して反応しなければ検針対応品としていたり、それぞれでバラつきがあります。
製品の付属取り付け数量による検針機への反応
検針対応の付属でも、1着の服の中に1個だけでなく複数個取り付けることで、検針機に反応してしまうことがあります。
仕様によっても検針方法を柔軟に考えなければいけないこともあるので注意が必要です。
検針基準のあいまいさ
大手アパレルやスポーツアパレルは独自で品質基準をもうけていることが多く、検針に関してもそれぞれ基準をもうけて管理しています。
しかし、中小アパレルは検針基準をもうけていないことも多々あり、検針作業方法、検針基準自体を工場任せにされてしまうこともあります。
統一された基準がなく、各ブランドや作業場ごとに判断することがあいまいさに繋がったりしています。
検針機メーカーや種類による違い
検針機のメーカーファッション業界ではアパレルメーカー自社で工場をもって縫製生産していることは、
現状ではほとんどなく、外注の縫製工場や商社にOEM生産を依頼してつくっています。
その場合、その依頼先の工場にある検針機を使用して検針検品を行います。
しかし検針機のメーカーや種類、磁気誘導方式や電磁誘導方式などの方式の違いで微妙に反応度合いも変わってしまいます。
このようなことも検針基準を統一しきれない要因となってしまっています。
まとめ
ファッション、アパレル製品には検針検品は欠かせません。
大切なのは検針の目的や本質を理解して安全な製品づくりをしていくかということです。
工場でのミシン針の管理方法を理解したり検針対応の付属を使用したりし、スムーズな検針作業と安全な商品づくりをしていきましょう。