麻とは

  • 2021年10月8日
  • 2021年10月8日

麻とは

 

名称(日本語/英語)

麻(日本語…あさ) / 英語名…hemp/flax/linen/ramie

カテゴリ

主資材

種類 大カテゴリ(天然繊維)

概要

(日本語名:麻・・・あさ/英語名・・・ hemp/flax/linen/ramie…)
元来日本では麻とは大麻(たいま/おおあさ/ヘンプ)のことを指しました。大麻は第二次世界大戦後にGHQによって規制される以前は米と並ぶ主要作物として栽培され広く利用されていました。ここでは大麻も含めて市場において一般的に麻と呼ばれている繊維について述べます。現在の日本では植物の茎や葉の繊維(靭皮繊維/葉脈繊維)を総称して麻と呼ぶことが多いですが、日本工業規格(JIS)では苧麻(ちょま/ラミー)と亜麻(あま/リネン)だけを麻と表記することが出来ます。苧麻と亜麻以外で麻と呼ばれている繊維には主に海外から輸入して利用されている大麻(たいま/ヘンプ)・マニラ麻(バショウ属の繊維)・サイザル麻(リュウゼツラン族の繊維)・黄麻/ジュート(シナノキ科ツナソ)・ケナフ(アオイ科フヨウ属)等があります。

麻の種類と概要(来歴・性質・特徴・用途など)

亜麻(あま/リネン/linen)

アマ(亜麻 学名:Linum usitatissimum)はアマ科の1年草で茎の繊維を利用する。アマは植物(繊維)の状態をflax(フラックス)、糸や布の状態ではリネン(linen)と呼んでいます。

生産地

コーカサス地方から中東原産。現在ではヨーロッパ地域を中心にロシア・カナダ・アメリカ・中国等で栽培されています。国内では明治時代に寒冷な気候の北海道で栽培が試みられ繊維原料として用いられるようになったが二次大戦後には化学繊維の普及に伴って減少、昭和40年代には栽培されなくなりました。平成13年から北海道当別町の「亜麻公社」と「亜麻生産組合」が協働で生産を再開しています。

繊維としてのはじまり

アマからは繊維の他に成熟した種子から亜麻仁油(アマニ油)が得られ、食用のほか油絵の具のバインダーや木製品の仕上げなどに用いられます。繊維としての利用は古く紀元前8000年頃のメソポタミア文明で亜麻の存在が確認され、エジプト文明の初期には亜麻の糸が紡がれていたことが判っています。

特徴・用途

繊維としての特徴は中空構造であるため通気性・保温性に富み夏涼しく冬暖かく、綿の4倍の吸水性があり発散性にも優れる。他の天然繊維と比べて丈夫で埃やゴミがつきにくく、さらっとした柔らかい風合いで肌触りが良いため衣類や肌着以外にもシーツ、枕カバー、タオル、テーブルクロス等にも使われ、これらの布製品を総称して「リネン」と呼ぶもとになりました。

苧麻(ちょま/からむし/まお/アオソ/ラミー/ramie)

苧麻(ちょま 学名:Boehmeria nivea var. nipononivea)はイラクサ科の多年草で南アジアから日本を含む東アジアに広く分布、東京近郊でも普通にみられます。日本国内でも繊維を採る植物として古くから栽培・利用されてきたため別名が多いのです。

生産地

苧麻を精製したものは苧(お)または青苧(あおそ)と呼ばれ、手つむぎされて上布や縮みなどの伝統織物(小地谷縮・近江丈夫・越後上布・宮古上布・八重山上布…等)として各地に伝わっています。現在市場に多く流通しているラミー(Ramie 学名:B.nivea var.candicans)は国内に自生している苧麻よりも大型の種類で中国・ブラジル・フィリピン・インドネシアなどで栽培されています。

特徴・用途

ラミーは天然繊維の中でも吸湿(汗)・速乾性に優れ、熱伝導率が大きく肌離れの良い風合いで高温多湿の日本の夏には欠かせない天然繊維です。また独特の上品な光沢があり天然繊維の中でも最も強い強度を持っていて、業務用のユニホームや新幹線の座席カバーにも使われています。

歴史

国内で最も古いものは福井県の縄文初期の遺跡から発見されています。また弥生時代の遺跡からは現在の技術でも再現の難しい高度な出土品も確認されている。正倉院の収蔵品からは皇族から庶民に至る幅広い利用があったことが判っています。日本書紀や万葉集をはじめ俳句や文学にも多くの記載や歌があることからも日本の文化との深いかかわりのある繊維です。

 庭に立つ 麻手(あさで) 刈り干し 布曝(さら)
     東女(あづまおみな)を 忘れたまふな   巻4521 常陸娘子

大麻(たいま/おおあさ/ヘンプ/hemp)

大麻(たいま/おおあさ/ヘンプ/hemp)は中央アジア原産のクワ科の一年草。日本では苧麻とともに縄文期から利用されてきた繊維植物です。

繊維と薬物の大麻の複雑な関係

元来 麻とは大麻(おおあさ・たいま)のことを指し神道との関りも深く、伊勢神宮が全国の神社を通じて年始に配布するお神札を神宮大麻(じんぐうたいま)と呼んでいます。

また神様への捧げ物を意味する「幣帛(へいはく)」という言葉も幣(へい)は麻を帛(はく)は絹を指し、お祓いに用いられる幣(ぬさ)にも以前は大麻が使われていました。終戦後の1945年にGHQの指令に基づいて厚生省は「麻薬原料植物の栽培、麻薬の製造、輸入及輸出等禁止に関する厚生省令第四十六号」を交付。この時点では国内で従来から栽培されていた繊維型の農作物である大麻は薬物型のインド大麻とは無関係であるとして栽培を継続したが翌1946年京都府の大麻栽培農家2名を含む4人がGHQの命令違反で初めて検挙され「栽培の目的如何にかかわらず、また麻薬含有の多少を問はず、その栽培を禁止し、種子を含めて本植物を絶滅せよ」との命令が下されました。その後国を挙げた再三の折衝によって一定の制約下での大麻栽培が許可されるが化学繊維の普及などにより需要が減少ていきます。現在は神道・神事欠かせない大麻は精麻と呼ばれ栃木県の一部の許可を受けた農家によって厳重な管理の下で栽培されています。このように大麻には古くから人類にとって薬物・麻薬としての側面と繊維原料としての利用価値が複雑な背景をなしています。

歴史

エジプトや西洋では繊維としての亜麻(リネン)が古くから利用され、大麻の繊維としての利用は比較的歴史が浅いが日本での大麻の利用は縄文初期にまで遡ることが出来る。米国では1853年にドイツから移民したリーバイスの創業者リーバイ・ストラウス(Levi Strauss)が馬車の幌やテント用に取り扱っていた大麻製帆布生地で金鉱労働者の為の綾織生地のズボン(ジーン)を縫製したのがジーンズの始まり。後に麻の生地では股が擦れるという苦情が出てフランスから輸入したセルジュ・ド・ニーム(sarge de Nimes)「デニム・denim」を使うようになります。リーバイスデニムの始まりは綾織り大麻(ヘンプ)のズボンだったのです。

特徴

大麻は麻の中でも農薬や化学肥料に頼らず栽培出来るうえに、熱帯から比較的寒冷な地域まで栽培が可能で土壌を改良する働きを持つため環境保護やサスティナビリティの観点からも再び注目されています。主な生産国は中国・カナダに続き米国がフランス等のヨーロッパを抑えて第三位に生産量を増やしています。現在の日本では大麻を「麻」と表示することは出来ません。JIS規格によって植物繊維(指定外繊維)ヘンプ(hemp)と言う名称で流通しています。繊維としての性質は中空構造で吸湿・発散性が高く、麻の中でも抗菌性・消臭性に優れており、亜麻(リネン)やラミー(苧麻)と比べてシャリ感が強く繊維は太く短く硬い質感でネップやスラブを生じ易いです。

マニラ麻

マニラ麻(マニラアサ 学名:Musa textilis)はバショウ科バショウ属のバナナと同属の多年草で苗から約3年で樹高5~6mに達する。フィリピン原産でボルネオ島やスマトラ島等に広く分布しています。

生産地

19世紀頃からフィリピンのマニラ麻(アバカ)繊維はタバコ、砂糖と並ぶ三大輸出作物で現在も世界最大輸出国であるが、インドネシアや中米のコスタリカもアバカ(マニラ麻)の生産と輸出に力を入れています。

特徴・用途

マニラ麻は耐久性と水に浮く性質から船舶係留用のロープを始め織物や和紙の原料としても使われ、紙幣(日本銀行券)の原料にも使用されています。一方現在では有機的で環境への負荷の低い環境配慮型の原料としてテキスタイル・家具・インテリア・建築・コスメや自動車部品の強化素材としても注目されています。日本国内で重要無形文化財に指定されている芭蕉布(ばしょうふ)は同属のリュウキュウバショウ(琉球芭蕉 別名:イトバショウ 学名:Musa balbisiana)の繊維から手織りされる沖縄・奄美地方の特産品で軽くて薄くハリのある風合いは高温多湿の気候風土の中で着物や蚊帳等に広く利用されて来ました。

サイザル麻(サイザルアサ/アガベ/リュウゼツラン)

サイザル麻(サイザルアサ 学名: Agave sisalana)はキジカクシ科リュウゼツラン属の植物から採れる繊維です。

生産地

リュウゼツラン属(竜舌蘭 アガベ)はメキシコを中心に米国南西部及び中南米の熱帯地域に自生する208種が知られ、メキシコの蒸留酒テキーラの原料でもあります。様々な変種があり観賞用としても広く栽培されています。19世紀になるとアオノリュウゼツラン・エネケンなど葉から繊維を採ることができる品種がフロリダ・カリブ諸島・アフリカ各国・アジアなどに広がり繊維作物として栽培されるようになりました。サイザル麻の原料となるリュウゼツランは植物としては麻ではないがその繊維としての用途と、かつて輸出基地であったメキシコユカタン州の港町‟シサル“の名からSisal hemp(サイザル麻)と呼ばれております。

用途

繊維の用途としては履物帽子カーペットジオテキスタイルダーツボードや複合ガラス繊維・ゴム・セメント製品の繊維補強材等その利用範囲は非常に幅広い。古くはマヤ・アステカの時代から繊維を紐や布に加工して利用されていました。またこれらの植物から採れる繊維をピタ(pita)麻・アロー繊維と呼ぶ場合もあります。

黄麻(コウマ/ジュート/インド麻/ツナソ)

黄麻(コウマ/ジュート/インド麻/ツナソ 学名:Corchorus capsularis)はアオイ科ツナソ属の一年草。近縁種のタイワンツナソはモロヘイヤと呼ばれて日本でも野菜として栽培・流通しています。非常に栄養価が高く古代エジプトから食用され「野菜の王様」言われてインド・地中海沿岸でも古くから食されてきました。

生産地

黄麻は高温多湿で湿潤な環境を好み熱帯・亜熱帯で生育し、インド・バングラディシュが主な生産地です。

特徴・用途

繊維としてはツナソとシマツナソがジュートとして扱われます。ジュートは伸びが少なく寸法安定性に優れ、毛羽による保温性があるので主にカーペットの基布や畳表の縦糸として利用され、また独特の毛羽が火薬の抱合性を持つことから導火線にも用いられます。米や農作物、コーヒー豆を入れる袋や土嚢などに使われた南京袋(ドンゴロス)も以前はジュート製の物が多かったです。黄麻(ジュート)は光合成が盛んで二酸化炭素の吸収力が強く、土中のバクテリアによって完全に分解することから自然生態系内での再生産力が高く環境負荷の低い繊維としてパルプの代替えや緑化資材としての用途の開発も注目されています。

ケナフ(けなふ/洋麻/アンバリ麻/ボンベイ麻)

ケナフ(けなふ/洋麻/アンバリ麻/ボンベイ麻 学名:Hibiscus cannabinus)は西アフリカ原産のアオイ科フヨウ属の植物。外観は大麻に似ていてタチアオイ・綿のような花が特徴です。

生産地

インド・バングラディシュ・タイ・ヨーロッパ東南部・アフリカで古くから栽培され、現在はアジア・中国・南北アメリカ等で広く生産されています。

特徴・用途

繊維はジュートの代替え品として、近年はバイオプラスチックやプラスチックの複合物としての用途が開発され、軽量・耐摩擦強度が大きい・多孔質・弾性率が高いなどの特徴から自動車の軽量化や電子機器駆体筐体としての利用が増えてきています。日本でも木材パルプの代替え資源として一時移入されたことで全国に帰化がみられ外来種の安易な導入が在来の生物の及ぼす影響が懸念されています。

その他の麻(靭皮繊維・葉脈繊維)

パイナップル繊維(アナナス繊維)

パイナップルの葉脈からは白色から象牙色の510cmの細くて光沢と強度のある繊維が採れるます。フィリピンにはパイナップル繊維を使った‟ピーニャ“と呼ばれる伝統織物があり縦・緯にこの糸を使って手織りをしたピーニャは現地でも最高級の生地として扱われています。またパイナップル繊維とPLA(ポリ乳酸)・PU(ポリウレタン)を使ってイギリスのAnanas Anam社が開発したアニマルフリーのエコレザー「ピニャテックス」は高性能でサスティナブルな次世代エコレザーとして注目されております。

ヤシ繊維(ココナッツファイバー)

ヤシの実の殻から採れるヤシ繊維は硬くややくすんだ明るい茶色で摩擦に強く太陽光や温度変化への耐候性があり、ブラシ・フロアマット・マットレス・ロープ・網などに使われています。

ラフィア

ラフィアはマダガスカル島及びアフリカ大陸に自生するラフィアヤシの葉を乾燥させて使われます。軽量で柔軟性があり樹脂を含んだ繊維には防水性があり、経年による独特の艶が高級ブランドにも好まれ敷物や籠・バック・帽子などに使われる。また西アフリカの諸民族の間では仮面舞踏の衣装の材料として用いられてきました。

国内で古くから使われてきたその他の靭皮繊維・葉脈繊維

ここまでに述べた以外にも国内で古くから使われてきた植物の樹皮や靭皮を用いた繊維として、京都の丹後に伝わる藤の蔓の繊維から織られる「藤布」。静岡県掛川市に伝わる葛の繊維を用いた「葛布(くずふ・かっぷ)」。アイヌ民族に伝わるオヒョウ(ニレ科の落葉性高木)の樹皮を織った「アットゥシ織」などが知られている。また世界各地に伝わる有史以来の人間と植物繊維の関りにはまだまだ知らないことが多く繊維と人の関りへの興味は尽きません。

代表的な麻素材のテキスタイル

主に服地として使われる麻であるリネン・ラミー・ヘンプにはそれぞれの原料100%の素材や綿・ポリエステル・ウール等との混紡・交織素材があります。組織としては平織りやキャンバス系の生地が最も多いですが、綾織りやオックス・パナマ・サテンなど綿に準じた様々な組織や混用率の織物・編み物が流通しています。

取り扱い上の注意

麻は天然繊維であるため一般的にはシワになりやすく、洗濯による縮み、濃色では色落ちや摩擦での色移り、淡色では太陽光による黄変などに注意が必要です。麻繊維の種類や組織またアイテムによっても取り扱い方法が変わってくるのでメーカーの洗濯表示等を確認して下さい。

発注時の注意とポイント

植物の茎や葉の繊維を利用している麻製品はその種類や紡績方法などによってネップやスラブ等が多くみられる場合があります。これらのネップやスラブは天然繊維である麻に独特の表情や風合いを与えている特徴であり、メーカーではこれらのネップや糸フシによる傷を生地の欠点としてカウントしない場合があります。許容範囲や製品となった場合の修正の可否を予め素材メーカーに確認しておくことをお勧めします。天然素材であるため以下の注意点は植物性の繊維である綿に準じます。公的機関による生地試験データ等を参考にして用途に応じてアテンションをつけるなどの対応を検討してください。()内は検査項目

  • 摩擦による色落ち(乾摩擦及び湿摩擦堅牢度)

  • 日光や蛍光灯による変色(耐光堅牢度)

  • 洗濯による色落ち(洗濯堅牢度)

  • ドライクリーニングによる色落ち、変色(ドライクリーニング堅牢度)

  • 汗による色落ち、変色(汗堅牢度)

  • 洗濯による縮み、伸び(洗濯寸法変化率)

  • プレスによる縮み、伸び(プレス収縮率)

  • ドライクリーニングによる縮み、伸び(ドライ寸法変化率)

  • 生地の強度(引張り強さ・引裂強さ・破裂強さ・滑脱抵抗力等)

縫製工場へデリバリーする際のポイント

麻素材で起こりやすい品質のトラブルには中希/ちゅうき(反内の色ムラ)・ロット差(反による色差)・異原糸飛び込み・織キズ・ネップ・ムラ糸などがあります。特に糸のフシやムラによる生地の傷はどこまでが許容範囲なのか?製品となった後に修正が可能か等を縫製工場でもチェックしてもらい、問題がある場合には既定の範囲内なのか、生地や製品での修正が可能なのか、返品・交換が必要なのかを生地メーカー側に確認後に裁断・縫製を進めるのかを判断します。同じ色を複数反使用する場合には使用する原反が同じ加工ロットであるのかも予め確認します。また同じ加工(染色)ロットであっても反による染色差が起こる場合があるので縫製工場には反取り裁断・縫製をするように予め依頼しておくことをお勧めします。

代表的な麻メーカー

日本国内の麻メーカーについては日本麻紡績協会のホームページの「会員企業一覧」をご参照ください。

日本麻紡績協会のホームページ

まとめ

一言で「麻」と呼んでいる物にも色々な種類があり、原料・特性・用途も様々です。高温多湿の日本の夏に向いた苧麻(ラミー)や保温性も兼ね備え西欧を中心に古くから利用されてきた亜麻(リネン)。縄文時代の初期から使われ、かつての日本の主要作物で神道との関りも深い大麻。バナナの仲間のバショウから採れるマニラ麻や中米原産でテキーラの原料でもあるリュウゼツランの葉の繊維であるサイザル麻…等々。人類と植物から得られる繊維である麻との関係性と多様性を一言では表現することは出来ません。合成繊維が広く普及した現在でも環境保護やサステナビリティの観点からも麻の繊維としての重要性はさらに増して行くと思います。

参考文献

  • 「図解染色技術辞典」理工学社

  • 「歴史の真相と大麻の正体」内海聡著

  • 「世界史を変えた50の植物」ビル・ローズ著

参考URL

 

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